Dark & Light 〜6th Chapter〜
市場からの叫び声にアスランとカガリが振り向くと、既に街の上空に自然現象とはとても言い難い、怪しい妖気を隠すこともなく放ちながら黒雲が広がり始めた。
そして見上げる2人の上空で黒雲が渦を巻き始めると、そこからやがて小動物のような小さなモノがワラワラと地上めがけて降りてくる。
「あれは・・・『邪鬼:インプ』―――!」
アスランが蒼白の表情で言う。
―――『邪鬼:インプ』
大きさはせいぜい7〜80cm。小さい体の外観は人のそれにあらず、小鬼のようで薄蒼い皮膚に頭には小さな角と鋭い爪、赤い目は吊り上り、細く尖った両耳、そして背に
はこうもりのような翼をはためかせている。
人間界では比較的見かけやすく、災いにしても家畜や畑を荒らす等、困ったいたずらを仕掛け、迷惑な代物だ。
しかし、それ以上に困ったことに、この『インプ』は稀に『人間』の・・・しかも『子どもの魂』を捕食する為、やはり見かけた以上は一匹たりとも残しておくわけにはいかな
い。
「しかし・・・。」
アスランの表情が厳しくなる。
『Dランク以下』の悪魔である『インプ』は、一匹では退治するにはBクラスでも事足りる。しかし、この黒雲の渦から現れる『インプ』の数は『メンデル』の『グーラー』を髣髴させることに、アスランは冷静に直ぐに行動に移した。
「皆さん!落ち着いて!早く教会へ!」
アスランの声に悲鳴をあげて逃げまどっていた街の人々の動きが一瞬止まる。が、
「何言ってるんだ!この街に『教会』はないんだ!だったら街の外に逃げるしかないだろう!」
恐怖の張り付いた表情のまま叫ぶ男にアスランは苦渋を浮かべる。
(『教会』がない!?・・・なら、どうすれば・・・)
すると隣で街の様子をキョロキョロ見ていたカガリが、アスランの腕を引っ張る。
「アスラン!あそこ!」
カガリの指差す先には劇場らしい、大きな建物があった。
(!! あそこなら!)
アスランは咄嗟に護符と聖刀を取り出し、聖衣のマントを羽織ると、更に声をあげた。
「皆さん、落ち着いて!あそこの劇場に入って!!」
だが人々はアスランの言葉に耳を貸そうとしない。
「大丈夫です!俺は『Z.A.F.T.』から派遣された『エクソシスト』です!今、悪魔を鎮めますから!」
「・・・『Z.A.F.T.』だと・・・?」
アスランの横を走りぬけようとしていた一人の男が足を止め、苦々しく顔をアスランに向けた。
「誰が『教団』なんぞ信じるものか! アレだってお前達が連れてきたんじゃないのか!? 『救い』ではなく『大災』を呼び込む隠匿者が!!」
冷たい言葉を浴びせ掛け、我先にと街から外に出ようとする人々を目にしながら、アスランはただ立ち尽くす。
思考が止まる―――
(・・・『大災』を呼び込む・・・!?『教団』が!?)
そんなアスランの正気を取り戻したのはカガリの声。
「皆!大丈夫だ!!アスランは私がいた街を・・・私を悪魔から守ってくれたんだ!!だから信じてくれ!!お願いだ。誰も死なせないって約束、私も絶対守るから!!」
金の瞳に涙を滲ませ、必死に叫びつづけるカガリ。
「カガリ・・・。」
そんなカガリを見た人々の中から声があがった。
「みんな、お聞き!この子達は悪い子じゃないよ!どうせ今街の外に逃げたって、相手は羽が生えているんだ。だったらどこまででも追いかけてくるに決まってるさ!ならこの子達に賭けてみようじゃないか!!」
声の主は―――あの『果物屋』の夫人。
「そうだ。こんなに澄んだ目をした子は、私も長い間人を撮りつづけていてそうはいなかった。信じる価値は充分にある。」
あのカガリがビックリして大騒ぎをした『写真屋』の主人。
「大丈夫!約束する!絶対・・・絶対守るから!!」
カガリが最後と言わんばかりの声をあげると、互いに顔を見合わせた街の住人は頷きあい、アスランに申し出た。
「・・・すまんが・・・お願いできるか? 『エクソシスト』・・・。」
街の代表らしい老人が落ち着いた声でアスランとカガリを見つめる。
「アスラン・・・。」隣で、カガリが嬉しそうに顔を上げる。
こんな時なのに、その笑顔に救われるように清清しい気持ちでアスランは頷いた。
「わかりました。こちらこそ、宜しくお願いいたします。」
* * *
劇場―――というよりは、市民ホールとでも言ったところだろうか。それでも街の人々の殆どがそこに隠れられるほどの充分なスペースはあった。
アスランは護符と聖刀を取り出し、ホール全体を強固な結界で被った。これで『インプ』程度がホールに飛び込もうとしても弾き飛ばされるだろう。
だが・・・
「・・・アスラン・・・どうしたんだ?大丈夫か?」
護符を貼り付け、呪文を唱え終ったが、アスランの表情は依然として・・・いや、インプの出現時以上に厳しくなっていた。
恐る恐るカガリが声をかけたその時
「カガリはここで、みんなと一緒に待っていてくれ。」
アスランの冷徹な声が響く。
だが、カガリは一瞬目を見開くと、思いっきり顔を真横にブンブンと振った。
「だって、私はお前の『使い魔』なんだろ!?だったら私も一緒に―――」
「ダメだ!!」
厳しい声を荒げると、カガリの身が<ビクン>と振るえる。
「君はここにいて、みんなと祈っていてくれ。・・・悪魔が祈り・・・と言うのも変な言い方だが、俺は君を『キラの元に届ける』と約束したんだ。だから君を傷つける訳にはいかない。」
「でも―――」
尚も縋りつくカガリ。
その懸命な表情を見ると、何故か心がざわつく。
(相手は『Dark』なのに・・・俺は一体どうして・・・)
頭の中に浮かぶ靄を振り払いながら、アスランはそっとカガリの肩に手を置いていった。
「大丈夫。君が街の皆を説得してくれたんだ。俺だけじゃきっと無理だった。それだけでも君は充分『使い魔』の役目を果たしてくれたよ。」
そういいながら、自然と優しい微笑を浮かべると、アスランは踵を返す。
「アスラン!」
カガリの声を背に受けながら、アスランは胸に湧き上がる嫌な予感を抑えるようにして、ホールの外に出た。
案の定、『インプ』は外に数十匹・・・いや、三桁はいるであろう、その背の羽ばたきが騒音のように街じゅうに響いていた。
『アレ?ナンカ、キタ。』
『ヨウヤク、イッピキ、ミツケタ。』
『ダッタラハヤク、ツカマエナイト!』
アスランを見た『インプ』が一斉に『キャァーーーーーッ』と歓声を上げ、迫ってきた。
その数、ざっと2〜30匹―――
「『その者、我が命によりかの地へ』!『イレイサー』!!」
アスランが胸で韻をきり、右手を高々と挙げると、アスランの周りに光り輝く半径10数メートルはあろうかという魔方陣が現れ、インプ達を容赦なく消していく。
『ギャァーー・・・・・・』
一陣のインプの消え去った後、また数十匹がアスランを見つけ襲い掛かってくる。
だが、新たに韻を切ろうとしたその時だった。
「わぁ〜〜〜ん、ママぁーーーー!どこーーーー!?」
(―――!逃げ遅れた子供か!?)
アスランが声の主―――4、5歳ほどの女の子を見つけたとき、既にインプは狙いを少女に定めていた。
『キャッキャッキャ!イッピキ、ミツケ!』
『コドモダ!コドモトワカイオンナノ、ニクハ、ウマイゾ!』
インプの羽ばたきが一斉に少女へ向かう。
「やめろぉぉーーーーーーーーーーーーーっ!!」
強い魔法攻撃をすれば、少女の命さえ危うい。必死に手を考えながらも少女に向かって走るアスラン。
(――――っ! 間に合わないっ!!)
「キャァーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
悲鳴をあげ、少女が座り込んだ瞬間―――
<バシッ!、バシッ!>
「このぉーーーーーーーーーー!あっちに行けったらーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
アスランが目を見開くと、そこには先ほどまでホールにいたはずの、金髪の少女。
「!?カガリ!」
カガリは懸命に近くにあった鉄の棒を振り回し、インプをひたすら叩いていた。
『ギ・・・イッテェ―――!!』
滅茶苦茶なカガリの攻撃にインプがひるんだと見るや否や、カガリは少女の手を引き、結界の張られたホールに押し込んだ。
「よかった・・・間に合った。」
カガリが安堵の笑みを浮かべる。だがアスランはカガリを怒鳴りつけた。
「何をしているんだ、君は!あれほど結界の中にいろ、と言っただろう!」
だがカガリも負けてはいない。
「だって、ホールの中にいたら、女の人が悲鳴あげていたんだ!「ルシア、どこにいるの!?」って必死になって・・・。だから私が探しに来たんだ!それはいけないことか!? 皆を守りたい気持ちは私もアスランと同じだ!!」
また金の瞳に涙が滲む。アスランは小さくため息をつくが、今はカガリの小言をしている暇はない。
「・・・判った。その代わり、俺の言う事を聞くんだ。」
そういってアスランは着ていた修道服の黒いマントをカガリに着せる。
聖水にて清め、魔を払う銀糸を編みこんで作っている特別なマントは、対魔効果もあり、小さなインプ程度の悪魔ならば、簡単には傷つけられない。
『Dark』であるはずのカガリが身につければ、逆に聖気で焼け爛れてしまうはずなのだが、アミュレットを平然と身につけているカガリなのだ。聖衣を着ても影響はないだろうと、とっさに判断した。
案の定、カガリはマントを身に着けても、別段苦しむ様子は見せない。
「それを着て、傍を離れるな。いいな。」
その言葉にカガリは大きく頷くと、アスランと背中合わせに立って、インプの群れに向かった。
『ナンダー、イッピキフエタ。』
『オンナダ。ウマイゾキット。』
『デモ、ナンカヘンダゾ。ニンゲンノニオイガウスイ・・・。』
『アイツ、オレタチトオナジニオイスル・・・。』
インプどもがカガリを吟味する。その不快さにカガリは苛立ったが、アスランに抑えられた。
「落ち着け・・・インプのような低級レベルを相手にするな。」
「どういうことだよ・・・?」
「君にも言ったことがあっただろう? 『グーラー』の大量発生があったこと。その『後ろ』には『とんでもない奴がいた』ことも。」
アスランはインプを見ていない。見ているのはあの渦を巻いたままの黒雲の中心だった。
「・・・まさか・・・『上級悪魔』・・・?」
カガリが小さく問うと、アスランの頬に冷や汗が流れていた。
「あぁ・・・どうやら『おいでになられた』ようだ・・・。」
『全く・・・これだけいながら人間の一人も手に入れていないどころか、街の様子も変わっていない・・・お前達のレベルが知れるな。』
黒雲の中心から、やたら涼しげな声が響く。その渦の中心から炎の馬を走らせた一台の『馬車』が降りてくる。
『馬車』の御車台には『栗色の緩やかなウエーブの掛かった髪』と『尖った耳』。人間と変わらない、むしろ『丹精と言える顔立ち』、そして剥き出しの肉体には逞しい筋肉がつき、その体の周りを紅蓮の小さな竜が数匹取り囲んでいる―――
『ギ・・・『ティアマット』サマ!』
『『ティアマット』サマガ、コウリンサレタゾ!』
インプ達が慌てて礼をとる。
―――『邪竜:ティアマット』
ランクでは『魔王』よりは下がるものの、『邪竜』の最高ランクである『ティアマット』はベルフェゴールも遠く及ばない、上級悪魔だった。
「あ、アスラン・・・あれ・・・。」
カガリにも感じるのか、体が震えている。
「・・・やはり・・・『セリア』や『メンデル』の大量発生と同じか・・・。」
アスランは胸に抱きつづけた不安の的中を呪った。
『ほほぅ・・・これにおわしますは、人間界でも徳の高い『エクソシスト様』と、それに―――』
切れ長の瞳でティアマットはカガリを一瞥した。
『女の『小悪魔』か・・・大したレベルじゃなさそうだ。所詮は『エクソシスト』に力でねじ伏せられ従属させられた、哀れな同朋・・・。』
哀れみを含んだ声でティアマットはカガリを無視すると、アスランに対し余裕の笑みを浮かべた。
『『メンデル』で『ベルフェゴール』が『エクソシスト』に倒された・・・という話を聴いてね。ベルフェゴール程度のカスならありえなくもない話だが、せっかく繋がった地上界。ならば君の魔力をモノにして更なる高みへ望むのもいいだろう!』
ティアマットは一気に炎の馬を走らせると、真っ直ぐにアスランに向って走ってきた。
「危ない!カガリ!」
アスランがカガリを突き飛ばし、自らも反対に倒れたその間を、ティアマットの馬車が通りすぎる。
「キャァーーーーッ!」
「グゥッ!」
その反動は互いに突き飛ばされただけの物ではなく、圧倒的なティアマットの周囲にまとう妖気で弾き飛ばされたのだ。
<バキバキバキッ!>
馬車は街の建物を簡単に破壊し、馬から飛び散った炎であっという間に燃え盛りだす。
「!ここでは被害が増えるばかりだ・・・」
アスランは意を決し、街の広場に向かって走り出した。
『逃しはしないぞ!エクソシスト!!』
ティアマットは馬車を操り、アスランの後を追い始める。
「アスラン!」
カガリが立ち上がり、懸命に後を追おうとするが
『ダメダヨ。』
『キミノチニクハ、オレタチノモノ。』
『キャッキャッキャッ!』
カガリの行く手をインプが塞いだ。
「ハァハァ・・・ここならまだ何とかいける・・・。」
街中ではあったものの、街の外まで逃げる時間はないアスランにとっては、まだ魔法を使っても被害が小さいと睨んだ広場へたどり着いた。
しかし、休む間も与えずティアマットは紅蓮の馬車で、街の建物を破壊し、アスランの頭上へ落としてかかる。
(何とか・・・あの馬車の暴走だけでも止めなければ・・・このままでは街が・・・)
聖剣を取り出し、身構えるアスランに、上空の馬車からティアマットは優美な笑みを浮かべた。
『聖剣・・・確かに我々にとっては厄介な存在だが、この私にはベルフェゴールのようには届かないぞ。さぁ、どうする?君の力とやらを見せてもらおうか!?』
言うや否や、ティアマットの両手に雷が集まると、それを槍のように伸ばし、一気にアスランめがけて投げつけた。
アスランは咄嗟に広場にあった噴水に手を向けると、一気に結界を張った。
「『我が命に従いて、この身にいかずちの守りを―――『ウィンディーネ』!!』
すると噴水の水がみるみる魔方陣の淵に沿い、アスランを包むようにして強固な結界を張った。
<バチッ!>
水は電気を通す。逆を言えば身の回りの水に電気を受け流すことによって、アスランは雷から身を守る衣としたのだった。
しかもそれだけではない。
「熱なる怒りに冷徹なる捌きを!!『セントランス』!」
今度はアスランの周りの水がその両手に集まると、ティアマットに向って氷の槍を弾き返した。しかもティアマットの雷さえもまとわせて。
だが、そこは『邪竜の最高位』。アッサリと槍の弾道を避けたティアマットは、不敵な笑みを浮かべた。
『ふん・・・そんなものか・・・人間の力、というものは。甚だ呆れた物だ。』
だが、アスランも負けてはいない。不敵な笑みをティアマットに向ける。
「さて、それはどうかな?」
『何!?』
ティアマットが背後の気配に気がついたときには遅かった。アスランの放った氷の槍がティアマットの背後から迫っていた。
『クッ!』
ティアマットは僅かの差でそれを避けきり、安堵してアスランに叫んだ。
『ハッハッハ!危ないところだったが所詮は人間の浅知恵・・・大した攻撃――――何っ!?』
アスランはフッと微笑む。
『ヒィーーーーヒヒンッ!!』
『何!?お、お前まさか、最初から―――!』
そう、アスランは最初からティアマットを狙ってはいなかったのだ。その『氷の槍』の貫く相手は―――『炎の馬車』
炎を纏った馬は、アスランの槍に串刺しにされ、暫くの間ティアマットを乗せたまま暴れていたが、やがて力尽き、地上にティアマットを叩き落すと崩れ落ち消えていった。
「・・・これで一対一・・・街の火事と破壊の心配だけでも無くなっただけ、俺には好都合だ。」
『この・・・こわっぱがぁぁーーーーーっ!!』
ティアマットも腰の妖剣を取り出すと、一気にアスランに切りつける。だが『エクソシスト』アカデミー時代からでも常に剣の訓練でもトップを走りつづけ、今だ連勝記録は破られていないアスランのこと。剣技は全くの互角だった。
「このぉぉーーーーっ!!」
『くたばれ!人間風情がぁぁぁーーーーーっ!!』
『聖剣vs妖剣』―――剣がぶつかり合うたびに、激しい力が弾けとび、石畳や壁にひびが入る。
一体どの位戦いつづけただろう・・・
インプの襲撃から始って、ゆうに数時間はたっている。
その間激しい攻防を続けていたアスランだったが、自分でも壁際に追い詰められていることに気がついていた。
街の人々を守る為に張ってある結界。
その結界に力を注ぎながらのティアマットとの戦いに、限界が近づいてきたのだった。
『ハァハァ・・・そろそろ止めが欲しくなったんじゃないのか?小僧。』
「・・・生憎だが、終止符を打つのは俺の方だ。」
『こしゃくな!その生意気な口、今すぐ塞いでやる!』
ティアマットが剣を大きく振りあげたとき、アスランはチャンスを逃さなかった。
攻撃が大きくなれば、相手の懐に飛び込む時間が大きくなる。ティアマットより小さいアスランには絶好のチャンスだ。
(もらった!)
アスランがティアマットの腹に聖剣を突き刺そうと懐に飛び込む―――!
『しまっ――――!』
ティアマットの表情が一変する
だがその時
『ギャッギャッギャッ!』
五月蝿いほどの羽音が広場を被い尽くし、小柄なインプがアスランの体を横から突き飛ばした。
「うわっ!」
剣ごと弾き飛ばされ、アスランは激しく身体を壁に打ち付ける。
『ティアマットサマ、ダイジョウブデスカ?』
『ティアマットサマ、ハヤクソイツ、クワセテクワセテ!』
ティアマットの周りで飛び交うインプ
(そうだ・・・こいつらのこと、すっかり忘れていた・・・―――!?そうだ、カガリは!?)
自分の今の状況より、カガリの姿が見えないことに、アスランは戦慄を覚えた。
――――「俺から離れるな」
そう言っておきながら、自分はこの群れの頭を潰そうと、あえてティアマットとの勝負にかけたのだ。
だが、その間、カガリは―――
『形勢逆転だな!よそ見する時間は無いぞ!』
目の前には妖剣を振り上げたティアマット―――!
『これで終わりだ!!』
(―――――っ!!)
たまらずアスランが目をつぶる。
だが
「アスラン!危ないっ!!」
横から飛び出してきた金色の髪を翻した少女が、アスランごと体を突き飛ばす。
<ガシャン!>
ティアマットの妖剣は、間一髪アスラン達を捕らえることが出来ずに地面に叩きつけられた。
「!?カガリ!!大丈夫だったのか!?」
「へっへ〜ん!これでも私は悪魔の端くれだぞ!インプなんかに負けるもんか!」
どこかで拾ったらしい棒切れを抱えて、余裕の笑顔を見せるカガリ。だがマントの下からみえるその服は無残にも切り裂かれ、腕や顔から血が滲んでいる。
(守ると約束したのに!一体俺は何をやっているんだ!?)
「・・・?アスラン・・・?」
突き飛ばされた衝撃でアスランを抱きしめる形になっていたカガリを、アスランは逆に強くカガリを抱きしめ返した。
『・・・なかなかいい光景じゃないか。羨ましいほどだよ。人間と小悪魔の禁断の愛の物語でも見ているようだ・・・。』
詩人のように自分の言葉にウットリと酔いしれながら、ティアマットは笑い出す。
つられてインプの群れも『ギャッギャッギャッ』と下卑た笑い声を上げる。
そんな野次に心を乱すことなく、アスランはそっとカガリに囁いた。
「君は一刻も早く此処から離れるんだ。」
「でも!―――」
必死のカガリにアスランも真顔で言い放つ。
「あの『ティアマット』はただの『邪竜』じゃない。かなり知恵の回る『策士』だ。その『ティアマット』が君を放っておくとは思えない。早く今のうちに――!」
<ゴォォォーーーーーーーーーーッ!!>
懸命にカガリを逃がそうとする矢先、既にティアマットはアスランの弱点をカガリだと見抜いていた。
『ハッハッハ!小悪魔に心を奪われたエクソシスト様と、役に立たない小悪魔の悲恋の話はなかなか心惹かれる物だが、物語はそこまでだ!行け!我が分身ども!』
<キシャァーーーーーーっ!!>
ティアマットの体にまとわりついていた紅蓮の竜達が一斉にアスランとカガリに向う。
「――――っ!!」
『そのまま美しく散れぇぇ!!』
<バァーーーーーーーーーーーーーーン!!>
激しい爆散が砂煙を巻き上げる。
「・・・アス・・・ラン・・・?」
とっさに今度は自分が突き飛ばされたような感覚と、上から覆い被さっているその人物に、そっとカガリは声を掛ける。だが、その目に映ったものは
「―――っ!?」
身体はボロボロに傷つき、顔・・・いや、頭を切ったのだろう、激しい鮮血がアスランの頬を流れカガリの顔に降り注ぐ。
「アスラン!?アスラァァーーーーーーン!!」
金の瞳にみるみる涙が溢れる。
だがアスランはその翡翠の瞳をゆっくりと開くと、優しい表情でカガリに微笑んだ。
「・・・よかっ・・・カガリ・・・ぶじ・・・」
その間も赤い雨がカガリに降り注ぐ。頬に・・・額に・・・そして唇に・・・
その瞬間だった
(――――!)
アスランの身体に眠る全ての力が吸い取られるような感覚
目の前が暗転して、意識が遠のく。
あの時・・・ベルフェゴールと戦い続けた後、あの『金髪の悪魔』が近づいてきた後と同じような・・・。
「・・・・・・ぁ・・・・・・・」
カガリの顔をもう一度よく見ようとするアスランの頭に優しく細い腕が回り、そっと柔らかな胸に抱かれる。
(・・・なんで・・・こんな状況なのに・・・俺は・・・安らいだ気持ちに・・・)
その時、穏やかな―――そして聞き覚えのあるハスキーな声が、アスランの耳に届く。
『・・・ゆっくり休んでいろ・・・『主人』よ・・・』
その声を最後に、アスランの意識は不思議な安らぎの中に落ちていった。
『どうやら勝負があったようだな。美しい死に様にしてやれなかったのは残念だが。さぁ!お前たち、存分に死肉を食らうがいい!』
歌うように天に向かって声を上げるティアマットに、インプの群れが歓喜の声を上げる。
『ゴチソウダ!ゴチソウダ!』
『ティアマットサマ、バンザイ!』
立ち込める砂煙に向かって、インプが我を先にと近づいていく。
だが、その時だった――――
『!?―――ギャギャァーーーー・・・』
群れをなし近づいていたインプ達が、砂煙の向こうから現れたとてつもない力に吹く飛ばされる。
『!?な、何だ!?』
その様子にティアマットが目を見張る。
砂煙の向こう―――その影に女が一人立っていた。
膝まで届く長い金髪
長く伸びた爪
美しい曲線を帯びた肢体
女は長い爪で、自分の頬や唇についた鮮血を拭い、ペロッと舐めながらハスキーな声で囁いた。
『・・・『契約成立』だ・・・な・・・。』
砂煙ごとインプを吹き飛ばし、その姿を露にした女は、地面に伏したままのエクソシストに彼の黒いコートをかけてやると、微笑むようにして背後につぶやいた。
『後は任せろ。』
そういった瞬間、彼女の姿はティアマットとインプの前から<スッ>っと姿を消した。
『!?』
ティアマットが気がついたのは、一秒も満たない瞬時の間に、自分の横をとてつもない力が通り過ぎた姿。
『それ』は長い金の髪をなびかせ、花笑みを浮かべた切れ長の銀色の瞳で、ティアマットを見つめた。
ティアマットもその美しくも怜悧な姿に目を奪われ、その力に言葉も出ず、只懸命にその女の姿を追おうとした。
だが、その姿を最後まで追うことは出来なかった。
振り向こうとしたティアマットの首は胴体から離れ、激しい血しぶきを上げながら地面にゴトリと落ち、遅れて肢体が<ドォーン>と音を立てて、地面に崩れ落ちた。
『ギ・・・ティアマットサマ?』
『ティアマットサマガ、シンダ!?』
『ティアマットサマガ!ティアマットサマガ!!』
『・・・失せろ・・・』
ハスキーな声が響く。
それまで歓喜の声を上げていたインプの声が悲鳴に変わり、聞こえなくなるまで1分とかからなかった。
・・・to be
Continued.
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>ついに『Dark カガリ様』降臨です!
もう何も言わずに皆さん、かずりん様の描かれる、カガリ様をご覧下さい!
あの無邪気なカガリたんとは全く正反対をなす、圧倒的な強さ・美しさ・妖艶さ…。このイラストからヒシヒシと伝わるカガリ様に、Namiはすっかり酔いしれております!!
…さぁ、ひょんな偶然(!?)とはいえ、あの『強力なDark、カガリ様』を『正式な使い魔』にしてしまったアスランとの今後は一体どうなるのか!?
更にしつっこく続きます(笑)