Dark & Light 〜5th.Chapter〜

 

 

 

―――何故、こんな言葉が出てしまったのだろう・・・

 

   しかし全く違和感を感じない。

   

いや、寧ろ自然と「そうしなければならない」ような気がした。

 

   心さえ落ち着いている。

 



寧ろ自分より驚いた表情で、目の前の少女は大きな金色の瞳をまん丸にし、絶句している。

 

固まったままのその少女の髪にそっと触れると、今度はスイッチが入ったように少女は全身で慌てふためきながら言った。

「な、な、何言ってるんだ、お前!!自分の言ったこと、判っているのか!?」

「あぁ・・・判っている。」

「わ、わ、私、変な悪魔なんだぞ!? お前が言った「昨日魔王を倒した凄い悪魔」かもしれないんだぞ!?」

 



彼女の驚きのほうが、正しい反応だろう。

話から言って、今目の前にいる彼女は、『魔王:ベルフェゴール』を簡単に倒した、という記憶が欠落している。

しかしながら、『アミュレット』の影に隠されたとてつもない妖気は、間違いなく『ベルフェゴールを倒した金髪の悪魔』のものだ。

『魔王』が出現する確率は、はっきり言って数%程度。つまり殆どの強力な悪魔は『異界』と『現世』を行き来するには、その巨大な妖気を通すだけの空間をつなげる為に、とてつもない力を消費するか、『異界』と『現世』と両方から強い力を合わせるしかない。

『現世』と『異界』が契約を交し、悪魔を引き寄せる儀式を『サバト』と呼ぶが、[『サバト』を行えるとしたら、強力な魔力を持つ者―――『エクソシスト』でなければ、普通の人間には出来ない。だが、現在『サバト』は『Z.A.F.T.』の戒律の中でも『禁忌中の禁忌』とされている。

となると『サバト』が行なわれた様子もないことからいって、あの『金髪の悪魔』はベルフェゴールより格段に強い魔力を秘めている―――と予測できる以上、『魔王』よりも遭遇する確率は0%に等しい。

それから考えれば、あの妖気と同じ気配を持つ目の前の彼女こそ、昨夜の『悪魔』と結論できる

 

だが、そんなとてつもない強力な悪魔を『使い魔』に―――ということは、契約を結んだアスランはその召還に莫大な魔力を吸い取られ、自身の命の保障は無い、といっても過言ではないだろう。

 

「そ、そんな私を『使い魔』なんて、間違えてお前食べちゃったりするかもしれないんだぞ!?」



     懸命に心配を訴える金の瞳―――

     邪悪さの欠片も無い、純粋な優しさだ。

 

そんな少女に対し、アスランは取り繕うようにして言った。

「君の心配は判った。だが、君が見つけて欲しい、という『キラ』という人物を俺は知らない。『キラ』の写真とか、身分の判別のつく物は持っているのか?」

「『しゃしん』・・・?・・・『しゃしん』って何だ?」

キョトンとしながら小首をかしげる少女。



・・・それはそうだろう・・・『異界に写真がある』なんて話は一つも聞いたことがない。



「『写真』というのは、『その人が写っている紙』みたいなものだ。」

アスランが説明すると、少女は小首を更に傾げながら、頭に「???」を浮かべている。

「『キラ』と判るものが無ければ、俺が例え『キラ』という人物に会ったとしても、判らないだろう?だとしたら、君が見つけるしか方法は無い。」

「でも・・・私って・・・」

「そう、君がもし昨日の『強い悪魔』だとしたら、今の君じゃない『君の中のもう一人の君』がそうしているのかもしれない。」

「・・・『もう一人の・・・私』・・・。」

考え込む少女に、アスランは宥めるように穏やかに言った。

「もし、その『もう一人の君』がまた『今の君』の知らないところで強い力を使ったら、君が悲しむだろう?もしそうなったら、それを抑制する力が必要になる。それに、君のことだ。『誰にも迷惑をかけず、一人で探す』にしたって、妖気が少しでも漏れている以上、『エクソシスト』に感づかれ、退魔の対象になるのは時間の問題だ。だから君が自由にこの世界で『キラ』を探すんだったら、『エクソシストの使い魔』になっていれば、誰もとがめはしない。」

アスランの説明に、少女はコクンと頷く。

「だから『俺の使い魔』ということにしておけば、誰も君を見ても不信に思わないし、万が一『もう一人の君』が現れたら、俺が全力をかけてそれを抑えてみせる。」

「お前・・・どうしてそんなに私のことを・・・そこまで考えてくれるんだ? 私、お前に何もしてやってないのに。ううん、寧ろ私がその『恐ろしい悪魔』なら、お前を殺してしまうかも―――」



「君は俺を殺そうとはしないよ・・・。」

「え?」

 



     何故だろう・・・?

     そんな保障はどこにもない。

     あの『とてつもない悪魔』が目の前の少女ならば、確かに自分は常に死神の鎌を首に突きつけられている状態だ。

     

     でも、あの時あの『金髪の悪魔』は自分を殺そうとはしなかった。

     それ以上に自分の窮地を救い、挙句その後を少女に任せ、命さえ助けてくれた。

 



     不思議とそれが大きな確信になっていた。

 



恐々と見上げる少女に、アスランは言った。

「『もう一人の君』は魔王から俺を、そして『今の君』は傷ついた俺を助けてくれた。その恩義に報いたいんだ。どうしても。だから・・・」

アスランはそっと手を少女の目の前に差し出した。

 



「一緒に行こう・・・『キラ』を探す旅に・・・。」

 

 

 









*        *        *

 

 

 









<・・・そうか。いや、助かったよ。しかし君からなかなか連絡が無かったので、流石に私も心配になってね。「まさか君が・・・」とは思っていたのだが。>

 

『メンデル』から数10km離れた小さな町。

そこでアスランは少女―――『カガリ』を連れ、『Z.A.F.T.』本部の神官デュランダルへ、戦闘報告を兼ねた電話連絡をしていた。

 

「すいません。少し力を使いすぎたらしく、『メンデル』で休息を取っていたのですが、『メンデル』では電話も不通になっておりまして―――」

<仕方の無い事情だ。気にすることは無い。寧ろ戦闘続きだった君を安易に頼り過ぎてしまった我々の落度だ。申し訳なかったね。・・・それにしても『ベルフェゴール』が出てくるとは・・・。言っておいてなんだが、君が行かなかったら、サイもミリアリアも無事ではすまなかっただろうね。>

「―――! サイとミリアリアは無事だったんですね!?」

<あぁ・・・君に逃げるように言われ、『メンデル』に避難した後、戦闘の様子がなくなったことを確認に行ったら君の姿がなかったので、もう本部に単身戻ったのかと、2人とも戻ってきたよ。君がまだ戻っていないことを知って、気に病んでいたが・・・2人にも私から君の無事を伝えておこう。>

「ありがとうございます。」

サイとミリアリアの無事を聞いて、アスランはホッと胸を撫で下ろした。

<それで・・・『幽鬼:グーラー』の大量発生の件は―――>

「はい、ベルフェゴールが自分の手駒に使っていた様子です。」

<うむ。『オードリー』の『大量発生』に関しては、今回のように首謀者となる『Dark』の影はなかったようだが、もう一度洗いなおす必要がありそうだな。といっても、『オードリー』の場合、大量発生の責任の一端は『シンの判断ミスによるもの』との報告が上がり、本人も大変反省しているようだよ。>

あのシンのことだ・・・きっと「何で俺が・・・」とふてくされながら報告書を書いている姿を想像し、アスランは思わず笑みが零れた。

だが、次にはアスランは居住まいを正した。

アスランには伝えなければならない重要なことがある。

改めて呼吸を整えると、電話の向こうのデュランダルに話し出した。

「デュランダル様・・・」

<ん?何かね?>

 

口に仕掛けたのは「『使い魔』を手にした」―――ということ。しかし、カガリに対し『使い魔』と言ったが、アスランは『使い魔にするための儀式』を執り行ってはいなかった。

 



―――――
「何でしないんだよ。だって『使い魔』にするなら『契約の儀式』しなきゃいけないじゃないか。」

 

 カガリの言う『契約の儀式』―――主となるエクソシストの血を『使い魔』となる悪魔に飲ませ、絶対服従を誓わせる。

 『血を飲ませる』ことで、主人が誰なのか判別し、更に主の魔力を糧とすることができるのだ。

 しかし、アスランはカガリに「契約の儀式」は行なわず、そのまま外へ連れ出した.

 「いいんだ。このままで。」

 「はぁ?」

 不信そうな表情のカガリに、アスランは穏やかに言った。

 

     「『使い魔』といっても君を使役するつもりはない。」

 



     (使役しない?・・・そうか・・・今の私じゃ妖気の欠片も少ししかないし、そんな強い力なんてどうやって発動させるのか思い出せてない。だとしたら・・・
      アスランの足手まといにしかならないだろうな・・・)

 


     カガリはそう納得した―――

 

 

 

『使い魔』を手にしたら、『教団本部』にそのことを知らせなくてはならない義務がある。だが『契約の儀式』を行なっていない以上、完全な『使い魔』ではないのだから、報告しない方がいいだろうとアスランは踏んだ。

その代わり、取り繕うようにして言葉を紡いだ。

「・・・実は『メンデル』で戦闘中、一人の少女を保護しまして・・・。」

<少女?>

「はい。それで彼女の故郷まで、彼女を送っていきたいので、暫く休みをいただけないものかと・・・」

<あぁ、それはお安い御用だ。働き詰に加え、君には無茶な依頼ばかりしてしまう・・・。少し旅行だと思ってゆっくりしてきたまえ。>

「ありがとうございます。」

思いのほかアッサリと出た許可に、アスランの心は僅かだが和らいだ。

しかし、当然次には『この質問』が出ることは免れない。

<それで?どこが故郷なのかね?その彼女は。>

アスランは暫く思案すると、思い切って言った。

「それが、彼女は記憶の大半をなくしておりまして・・・。『ベルフェゴール』との戦闘中に巻き込まれた為でしょうが、『メンデル』出身ではなく、どうやら故郷を探して旅を続けていたようです。」

<ふん・・・>



(・・・やはり怪しまれただろうか・・・。)


デュランダルからの返答が曖昧なのを察し、アスランはグッと息を飲んだ。



<そんな重病な彼女を連れまわして大丈夫なのかね?もし何だったら、我が『Z.A.F.T.』の保護施設で充分な回復を待ってからのほうが―――>

「いえ、身体には問題はないようです。」

慌ててアスランは断りを入れる。カガリが『Dark』―――しかも現段階の予想では『魔王クラス以上』の『悪魔』と考えられる。そんな彼女が教団本部に行ったら、どんな騒ぎになることだろう。

アスランは畳み掛けるようにデュランダルに告げた。

「故郷の場所は思い出せないようですが、いくつかの手がかりは持っているようです。それを元に行ってみようかと・・・。」

<・・・ふむ・・・まぁ、君がそういうなら大よそ問題はないのだろう。気をつけていきたまえ。>

「はい。・・・ところでデュランダル様に一つお伺いしたいことがあるのですが・・・。」

アスランは胸の奥によどむ一番の謎の為に、いちかばちかの賭けに出た。

「デュランダル様は『キラ』という人物をご存知ありませんか?」

<『キラ』!?・・・>

暫く沈黙が続いた。どうやらデュランダルも記憶を蘇らせているようだが。

<いや、聞いたことがないね。『教団』と関係ある人物なのかね?>

賭けに出たのは、あのカガリの下げている『アミュレット』があったからだ。あれは形こそ違え、『教団』と何らかの関わりがあると考えていいだろう。アスランとしても『キラ』という人物が『教団』に関わるものであれば、どんな人物なのか知りたいと思った。

 



―――カガリが・・・絶対的な信頼を寄せる者・・・

 

   





   (そんなに強いのか?・・・それとも優しいのか?)

 







頭の中にくすぶる感情を抑えて、アスランも淡々と答えた。

「いえ・・・博識のデュランダル様のことですから、些細な関わりをもった一般の者でもご存知かと思いまして・・・。」

我ながら人を持ち上げ、おだてる手まで使うとは、情けない・・・。

<ハッハッハ。いくら私とて、そんなところまで覚えてはいないよ。あてにしてくれたのは嬉しいが。・・・そうだ。君が帰らないことは『ディオキア』に連絡済なのかね?>

「はい。」


 

デュランダルに連絡する前にかけた電話―――電話の向こうのメイリンの声は寂しさを懸命に隠しながら「気をつけて下さいね!」と気丈に励ましてくれた。



     (いつも世話ばかりかけるな。メイリンには。)



      受話器を置くとき少し胸が痛んだ。だがそれ以上に今はやるべきことがある。

 



「『ディオキア』には何時帰ることができるか判らないので、そこでデュランダル様から代行をお願いしたいのですが。」

<『代行』?君に代われる者がこの世に他にいるとでも?>

「はい。とても気の付く、徳の高い人物です。」

 

アスランはその名を告げると、可笑しそうに笑いながら受話器を置いた。

 

だが、受話器を置いた直後、アスランの耳に先ほどのデュランダルの声が蘇る。

 




―――<『キラ』!?・・・>

 




穏やかなる神官の僅かな動揺。



アスランにはそれが見逃せなかった。

 

 

 

 














「終わったよ。カガリ。」

振り向いて声を掛けると、電話ボックスの隣のベンチで足をプラプラ子どものように振っていたカガリが<ピョン!>と飛び降りた。

「なぁ・・・お前、熱とかないよな?」

そういいながらカガリはそっとアスランの額に手を当てる。

「いや・・・元気だが・・・。」

不思議そうな顔をするアスランに、カガリは真剣な眼差しで言った。

「だって、お前、一人でそこの変な箱に独り言言って。真剣になったり悲しそうだったり笑ったり・・・。何か悪い夢魔にでも取り憑かれたんじゃないだろうな?」

 

「・・・。」

 

暫く間が空くと、アスランは今度はお腹を抱えながら大笑いしだした。

 

「何だよ!人が心配しているのに!!そんなに可笑しいこといったかよ!?」

「いや、すまない・・・あまり経験がないんでね。」

そう。あの『写真』同様、悪魔のカガリは『電話』というものを知らないらしい。確かに電話を知らない者から見たら、よほどこっけいな姿に見えるだろう。

「ほら、こっちに来てごらん?」

まだ笑いが張り付いたままのアスランが、むくれるカガリを呼び、そっと受話器を耳に当てさせた。

すると―――

<ただ今、午後2時20分30秒をお知らせします>

「わぁっ!!」

カガリは慌てて受話器を外した。

「こ、こんな小さな箱の中に、ひ、ひ、人がいるぞ!!」

カガリの狼狽ぶりに笑いがこみ上げてきそうなのを必死に抑えながら、アスランはゆっくりと説明した。

「これは『電話』というんだ。」

「『でんわ』?」

「そう。これを使うと、遠くにいる人と話ができるんだ。」

「へぇ〜・・・凄いんだな〜『人間界』って。」

受話器に限らず、電話機本体を上から下から懸命に観察するカガリ。

そんな姿に、アスランはもっとカガリにいろんな物を見せて教えてやりたいと思った。

元々『お兄さんタイプ』で教えるのは得意だが、自分で調もせずベタベタと聞いてくる連中が疎ましく感じることのほうが多かった。

 

だが、今は違う。

 

その純粋すぎる金色の大きな瞳に、全てを写してやりたい

 


そして・・・

 


もっと見せてほしい

 




その溢れる太陽のような笑顔を―――

 

 

 






*        *        *

 

 

 






「魚、どうだい!?今日はデカイのがあがったよ!!」

「今朝とれたての新鮮な野菜はいかが!?」

 

電話ボックスでカガリが飽きるまで観察を続けた後、アスランとカガリは町の繁華街・・・市場へと足を入れた。

ここで今夜の食材を探す予定なのだ。

 

「うわぁ〜vv美味しそうなリンゴだな!」

「ウチは今朝もいできたばかりだよ!どうだい?お嬢さん、お一つ。」

「いいのか!?」

目をキラキラ輝かせたカガリが、出店の果物屋の夫人の勧めるままに、ツヤツヤとした真っ赤なリンゴを一つ掴む。そして

「いっただっきま〜〜すvv」

と大口を開けたところで

「はい、そこまで。」

後ろから冷静なアスランの声がカガリを制する。

「何だよ。だって今「どうぞ。」ってくれたんだぞ。」

「いいかい、カガリ。」

訝しげなカガリにそう言って、アスランは鞄の中から財布を取り出し、夫人の手に銀貨を落とす。すると夫人は更に笑顔が増し、アスランの手に紙袋にいっぱいに詰めたリンゴを手渡した。

カガリはリンゴを両手で持ったまま、その様子をじっと観察している。

夫人の「ありがとうございました!」と、威勢のいい挨拶に一礼し、アスランはカガリの傍に寄った。

「何でアスランのほうが、そんなにいっぱいもらえるんだよ!」

ちょっと膨れっ面のカガリを宥めるように、アスランが微笑んで銀貨を見せる。


「これは人間界で『通貨』というんだ。」

「・・・『つうか』・・・?」

「これで今のリンゴみたいに品物と交換するんだ。その品物の値にみ合った通貨を出せば、代わりにもらえるんだ。」

「へぇ〜・・・」

カガリ尚も感心しながら、アスランから手渡された銀貨をしげしげと見つめる。

「そうだ、カガリも少し持っているといい。・・・ほら。」

アスランがカガリに数枚の金貨と銀貨を握らせると、カガリがすまなさそうに視線を上げる。

「・・・いいのか?」

「いいよ。カガリが欲しい物があった時、それを使えばいい。」

アスランが微笑むと、カガリは何か思いついたようにアスランの手を引っ張った。

「お、おい、カガリ―――」

「なぁ、『アレ』見せてくれ!」

「『あれ』って!?」

カガリはアスランに振り返ると、満面の笑みで言った。

 


「『写真』!」

 

 

 

 

 



「はい、じゃぁこちらを見て。動かないで下さいね〜。」

暗幕の向こうから『カメラ』を動かしながら、カメラマンが声をかけると、カガリは思わず息を飲んだ。

「そんなに固まらなくって大丈夫だから。」

励ますアスランに

「お、おぅ!」

まるで病院の診察室に初めて入った子どものように、緊張しているカガリ。

そんなカガリがリラックスできるよう、軽く膝に置かれた手を握ってみた。

 

(・・・小さく・・・そして温かい・・・)

 

あの夜の『金髪の悪魔』を思い出す。



     
――――(あの『悪魔』はこんなに小さく温かだっただろうか・・・?)

 



そんな思考を巡らせていると、カガリはアスランが重ねた手のもう片方の手で、<ギュッ>とアスランのシャツの袖口を握っている。

 



――――(こんなに純粋で、愛らしいものが、この世にいるなんて―――)

 



アスランの心の中で、小さな小鳥が羽ばたくような、くすぐったい感情が現れる。

 


緊張のカガリと思わず緩んだ笑顔のアスランに「では行きます。」の声と共にフラッシュのまぶしい閃光が光った。

「うわぁぁーーーーーーーっ!!い、今の何だ!?雷が落ちたのか!?」

またも驚いて大声をあげるカガリに、慌ててアスランがそっと抱きすくめる。

「大丈夫。今のは『フラッシュ』っていって、綺麗に撮るためにたくものなんだ。悪い物じゃないよ。」

「ほ、ほんとか!?」

「あぁ、本当だ。」

「そ、そうか・・・ハァ・・・」

とたんにヘナヘナと傍に崩れ落ちるカガリにアスランは慌てる。

「どうした!?大丈夫か?カガリ!」

よく聴けばカガリの呼吸が荒い。・・・どうやら「動かないで」と言われて「息まで止めていた」らしい。

「全く・・・」

手のかかる世間知らずのお嬢さんに苦笑しながら、アスランはカガリの背中を撫でてやった。

 

 



暫くして『写真』が出来上がると、またも素っ頓狂なカガリの声―――

「な、わ、私が紙の中にいるぞ!?」

「だから、これが『写真』。・・・こうして『今、この時、この場所にいた俺達』が、年を取っても・・・死んでからも、その時のまま、ずっと残るんだ・・・。」

「ずっと・・・」

カガリは嬉しそうに『写真』を眺めている。

少し怖そうな表情のカガリと、微笑んでいるアスラン。

思わずアスランも見入る。

(俺って・・・こんな風に笑っている写真って、あっただろうか・・・?)

そんな思い出を紡いでいた時、ふとカガリが寂しそうに呟いた。

「お前の言うとおり、こんな『キラ』との写真があったら、お前に頼らずに皆に『キラ』のこと探せたのにな・・・もっと早く。」

その言葉が何故かアスランの心に、冷たい氷を投げ込まれたような感情を走らせる。

(何をこわばっているんだ、俺は?・・・カガリとは『キラ』の元に連れて行くという約束を果たすだけ―――ただ、それだけのはずなのに・・・)

 

自身の心の揺らぎに戸惑うアスランに、横から嬉しそうな声が上がった。

「でも、これで今度アスランと離れ離れになっても、絶対探し出せるな!」

「カガリ・・・」




     心の中に温かい物が流れ込んでいく―――

 

     


     ずっと・・・ずっと忘れかけていた・・・いや、捨てようとしていた感情が・・・

 




「お前が迷子になっても、絶対私がこれで見つけてやるからな!」

満面の笑顔のカガリに、自然と腕がのびる。

 

そっとその頬に触れかけたとの時

 

「キャァァーーーーーーーッ!!」

 

聴こえたのは先ほどの市場の果物売りの夫人の悲鳴

 

「あ、悪魔っ!悪魔がでたわよーーーーーっ!!」

 

アスランとカガリは我に返り、市場の方向を見る。

既に市場の上空は黒雲が被い、おびただしいほどの妖気が迫ってきていた。

 

 

 

・・・to  be  Continued.

 

 

 

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>確か深刻な話になるんじゃなかったのか?(苦笑)予告と大違いな「ラブラブデートv」っぷりに、書いてるこっちが背中痒くなりました(また・・・^^;

 なのにそれを見事にフォローしてくださる、かずりん様の素晴らしいイラスト!!
 もう、Namiのヘタレなアスカガシーンより、かずりん様の素敵すぎるイラストで、何百倍も癒されてしまうから不思議ですv

 カガリたんは多分そんな意識はないと思いますが、一体何なんでしょう・・・ザラは(-_-;) 無邪気なカガリたんにすっかりハート持っていかれてます(笑:流石は悪魔v)


 と、その前に。
 あの『電話ボックス』での『時報』ですが、多分アレって日本オリジナルですよね。海外で「時報サービス」やってるって、聞いたことないのですが・・・。
 そのあたりの突っ込みは、笑って見逃してやってくださいm(__)m

 

 そんなバリバリ『デート』状態から、事態は一変して急転直下の悪魔来襲に!

 アスランとカガリはこの窮地をどう乗り越えるのか!?―――は、次回へ続きます