Dark & Light 〜The 2nd.Chapter〜

 

 

 





<パリン・・・>

 

いとも簡単に砕け散った結界の欠片が、ガラスの破片のようにキラキラと舞って、レイの目の前で散っていった。

「グゥッ!」

魔法を砕かれた反応で身体ごと吹き飛ばされるレイ。

「レイッ!」

思わず仲間の安否に声をあげたシンの耳に、村の奥から恐ろしい怒鳴り声が聴こえた。

「貴様らぁっ!!揃いも揃って、それでも『Aクラス』かぁっ!?」

振り向いて目を見開くルナマリアの目に映ったのは

「あれは・・・」

ゆっくりと3人の元へ歩みを進める影。

 



黒い装束。それと相対するような眩しさを放つ、サラリとした銀の髪。そして圧倒的な威圧感を放つ氷の瞳に、3人はおろか『オードリー』達までが<ギ・・・ギ・・・>と気圧されている。



青年はおもむろに右手を上げると、手のひらを天と平行に掲げてみせた。

「来いっ!『デュエル』!!」

青年の声が響くと、青年の手のひらの上に、赤い魔方陣が広がっていく。

「・・・うそ・・・呪文もなしに魔方陣が描けるなんて・・・」

ルナマリアが目を見開いたまま、あっけにとられる。

やがて魔方陣が広がりきると、何もない空間がひずみ、グニャリとゆがむ。そしてゆがみがやがて大きな丸い円を描くようにして黒い空間を広げていく。

そこから『何か』が飛び出してきた。




『ギャァッ!!』

大きな鳴き声とともに、現れた『それ』は一見すると『鷹』か『鷲』のように見える。

しかし、その身を包む羽は『蒼い』・・・いや、翼を広げた瞬間『限りなく透明』な氷のような羽が集まり、まるで深い湖に溜まった澄んだ水のごとく、『蒼さ』を湛えた色。

広げた翼は1.5mはあるだろう。くちばしは鋭く、瞳の色は青年と同じ『アイス・ブルー』。

 


―――『凶鳥:フレスベルグ』

 

   悪魔の中でも『凶鳥』と呼ばれる種類で、文字通り『鳥』のような姿をしてる。

   『凶鳥』は「災いを運んでくる」といわれ、『凶鳥』がやってきた村や町はことごとくその命さえ奪われた。

   その『凶鳥』のなかでも最も強い、とされているのが『フレスベルグ』

   『氷の魔鳥』とも言われ、一羽ばたきで村の総てが凍りつく・・・というほどの強い魔力を秘めている。

 

 


「行け、『デュエル』!」

青年が指差すと、『デュエル』と呼ばれた『フレスベルグ』は『ギャァ!』と一声鳴いたかと思うと、群れなす『オードリー』に向かって、その大きな翼を一羽ばたきする。すると

<ギィ・・・ギ・・・>

たちまち『オードリー』の群れは足から凍りつき、欲望のまま垂らしていたよだれさえもそのまま凍り始め、一分も経たないうちに、その殆どが4mはあろうかという『オードリー』の全身を凍てつかせた。

「おい、そこのお前ら。死にたくなかったら耳でもふさいでおけ。」

優越に余裕たっぷりの声で青年が言うと、呆然と成り行きを見送っていたシン・ルナマリア・レイが「はっ」と我に返り、慌てて耳をふさぐ。

「やれ。」

3人の様子をみた青年が一声かけると、『デュエル』は一度大きくはばたき、鋭いくちばしを開いた。

<キィィーーーーーーーーーーーーーーン・・・・・・>

「うわっ!」

「耳・・・痛っ!」

耳を抑えても尚、鼓膜の奥が悲鳴をあげている。

『デュエル』の『超音波』―――人に聴こえるか聴こえないかの波長だが、慣れない耐性のないものであれば、確実に鼓膜は破れ、脳の神経系統にまで影響を及ぼすことになるだろう。

そして次の瞬間

<バキン・・・ガシャン、ガシャン、ガシャン!>

あれだけいた『オードリー』の群の身体は、ひとつ残らず超音波で砕け散り、風に舞って砂のように消えていった。

 


「・・・すごい・・・」

「あれだけいたのに・・・」

 

シンとルナマリアが唖然としていると、冷静さを取り戻したレイが立ち上がり、そっと呟いた。

「・・・流石は『氷の貴公子』・・・『Sクラス』エクソシストの『イザーク・ジュール』・・・。」

 



『イザーク・ジュール』・・・

対悪魔戦闘教団『Z.A.F.T.』の中でも強いとうたわれる『Aクラス』より、更に上位の『Sクラス』に位置する。

その冷徹さ、戦うときの隙の無さが髪や瞳の色と相まって『氷の貴公子』の異名を持っている。

 


「貴様ら『Aクラス』だろうが!全く『オードリー』の群れごときでこんなにてこずっているようならば、『Bクラス』格下げだっ!」

「すいませんっ!!」

慌てて頭を下げるルナマリアに、同じようにシンとレイも頭を下げる。

「全く・・・これしきのことで俺が呼ばれるなんて・・・お陰でせっかく早く仕事が片付いた意味が台無しだ!」

<バササッ>とイザークの元に戻ってきた『デュエル』を腕にとまらせ、イザークはその薄蒼い羽を撫ぜる。

 



『使い魔』―――高位の『エクソシスト』にもなると、自身の能力と魔力によって『Drak』―――人間で言う『悪魔』の類に入る者や『Light』―――『神』と呼ばれる類に入る者を、自分の部下として使役することが出来る者もいる。

当然『Drak』内にも『Light』内にも上下関係があり、力の弱い者は簡単に使役することもできる。

ただ、弱ければ当然戦闘の役には立たない。あえて『連絡便』のように使ったりするエクソシストもいるが。

そして『使い魔』を持つには

@     自分の魔力で異界―――『Dark』や『Light』が存在する世界へ『使い魔』が通れるだけの『穴』を開けなければならない。強い者ほどその妖気や聖気を放っているので、それすらも通り抜けられるような、莫大な大きさの『穴』が必要となる。

A     そして『異界』からやってきた『使い魔』の餌として、自分の魔力を与えなければならない。当然上位の『Dark』や『Light』になるほど、その量も多くなることは必然に喫す。足りなければエクソシスト自身が食われることになる。

 


イザークの『デュエル』は『凶鳥』・・・『Drak』の中でも中堅『Cクラス』の能力を持つため、使役するにはイザーク自身が相当の魔力をもっていること、つまり『強さの証明』にもなる。

更にイザーク曰く「『凶鳥』が飛ぶところに災いが来るなら、『災い』、つまりは『悪魔ども』の発見につながり、これ以上頼りになる奴はいない。」だそうだ。

 

「この俺に『デュエル』まで呼ばせるとはな。たかがこれきしの『オードリー』で苦労するとは、片腹痛いわっ!」

3人は言い訳することも出来ない。

上級エクソシストを呼ぶ、ということは相当強力な悪魔でも出ない限りありえないことである。

「でも・・・」

ルナマリアがふと呟く。

「私達がさっきまで戦っていた数に比べたら・・・イザーク様の攻撃を受けていた『オードリー』の数が少しすくない気がするんですけれど・・・。」

「何ぃ!?」

イザークの表情が苛立つ。

だが、

「そういえば・・・俺が結界を張る前までは40,50匹いた気がするのですが、ここで粉砕されたのは20匹前後・・・」

レイの言葉にイザークがこわばる。

「それは本当なのか!?」

3人は<ビクッ>と身体を震わせると、俯いた。

「だとしたら、それ以外の『オードリー』が逃げ出して、別の町や村を襲う危険が出てくるだろうが!何故それを早く言わん!!」

イザークが村の入り口の向こう―――『オードリー』の崩れた氷の向こうを見やったときだった。

 

<ザァーーーーーーーーーーーーーーーーー・・・>

 

「「「!?」」」

 

村の向こう・・・森の入り口に入ろうかというところから、とてつもなく莫大な『気』が飛んでくる。

「!?これは・・・何だ!?」

「こんな強い『魔力』・・・あんなに離れているのにこんなに強く感じるなんて・・・。」

シンとルナマリアの言葉を待たず、イザークが一気にその場所めがけて走り出した。

 

 

 

 





「ハァハァ・・・」

一行がその場所にたどり着くまで、ゆうに10分以上は走っただろう。村から2kmほど離れた森に程近い場所に出来た広場。そこに『オードリー』の群れの姿が見られた。

「―――っ!?」

だがそこで一同が息を飲んだのは、あまりにも『大きく強大な魔方陣』

その半径数十メートルはあろうかという魔方陣の真中で、呪文を唱える影が一つ

 


「・・・『我が前方に『ミカエル』、我が後方に『ラファエル』、・・・』

 


聴こえてくるのは、これだけの魔に囲まれながらも全く動じることのない、落ち着き払った静かなる声。

 

『オードリー』達は魔法に掛けられたように、その魔方陣の中に列も乱さず進んでいく。

その数30匹以上。

その『オードリー』達総てを包むほどの魔方陣が光を放つと、蒼い光を放つ髪を巻き上げ、魔力が一気に上がる。

「我が名に従いて、その物たちをかの地へ!」

叫ぶような声に魔方陣が光り輝くと、<ギャァーーーーーーー・・・・・・>という断末魔の悲鳴とともに、『オードリー』の群れは「最初からそこに存在などしていなかった」かのように一つ残らず消え去った。

 

まだ光に包まれたままの青年の姿が、やがて徐々に明らかになっていく。

黒装束と首に掛けられたアミュレットは紛れも無く『Z.A.F.T.』の証。

光をまとった姿からやがて見えてくる、端整な顔立ちと優美な立ち振る舞い。

あれだけの魔力を放っておきながら、息の一つも乱れていない。

 


「あ・・・あんなでっかい魔方陣をたった一人で・・・」

「それに、あれだけいた『オードリー』が一瞬で消されるなんて・・・」

一行はただただその荘厳な姿に圧倒されるだけだった。

 



総てが終わってその青年が肩で一つ軽く息を整えると、一行に向き直る。

それを見たイザークがいきなり金切り声を上げた。

「貴様ぁぁぁーーっ!!アスラン!!なんでお前がここにいるんだ!!」

「!?『アスラン』って!?・・・あの・・・」

「『アスラン・・・ザラ』!?」

「『暁の・・・騎士』・・・」

改めてアスランを見つめる3人とは別に、イザークはアスランに駆け寄り、その襟首をつかんでいった。

「こいつら3人の後始末を頼まれたのは、この俺だぞ!?なのになんで貴様までここにいる!?」

だがアスランはイザークの剣幕に顧みることなく、淡々と言った。

「俺もデュランダル様から命を受けてここに来たんだ。」

「何ぃ!?」

「イザークが来ているとは聞いていなかった。・・・でもあんな村の近くであんな戦いをしていたら、村人が何時巻き込まれるか判らない危険があるだろう? だから『魔力を妖気』に変えて村はずれにおびき寄せて、一気に消しただけだ。」

「ふ、ふんっ!俺だってそんなことぐらい判っているわっ!!」

涼しい顔のアスランと激高が収まらないイザーク。

「・・・なんて力なの・・・」

「だ、だいたい自分の魔力を妖気に変えるなんて・・・それもあんなでかい妖気・・・」

「これが・・・『Sクラス』・・・『エクソシスト』の最高位能力者の力・・・。」

 


3
人のため息と、イザークの怒鳴り声は、暫く新雪の残る森の入り口に響いていた。

 

 

 

*        *        *

 

 

 

「おつかれさまでした。皆さん。」

ひときわ大きな白亜の教会の重厚な扉が開くとともに、白装束の少女が出迎えた。

 

アスランとイザーク、そしてシン、レイ、ルナマリアは首都『アプリリウス』にある『Z.A.F.T.』総本部に帰還した。

『セリア』の『オードリー討伐』を命じられていたのはシン、レイ、ルナマリアの3人なので、あえてアスランやイザークが赴く必要はないのだが、今回『Sクラス』が2人も出向いたことで、詳しい状況説明が必要になったのだった。

 

 

 

「お疲れ〜。いや〜ご災難で。」

ロビーで一息ついていたアスランとイザークに、そうからかうように面白そうに声を掛けてきたのは、アスランやイザークと同じ『Sクラス』の『エクソシスト』―――『ディアッカ・エルスマン』

「高みの見物とは・・・全く、いいご身分だな。」

ディアッカのからかいに不機嫌にイザークが答えると、ディアッカが言い訳がましく口を開いた。

「まぁそんなこと言われたってね。俺もどっちかって言うと『炎』とか『大地』系の魔術専門だし。『バスター』も『炎系』だから『オードリー』大勢さん相手じゃ、ご遠慮するってもんさ。」

そういってディアッカは『バスター』―――『神獣:ドゥン』の頭を撫ぜる。

ディアッカの使い魔である『神獣:ドゥン』は見かけは虎のようだが、首周りと四肢に白い毛をまとっているのが特徴だ。

イザークの使い魔『デュエル』は『Drak』の部類に入るため、聖気が立ち込める『Z.A.F.T.』教会の中では存在できない。召還したとしたら、イザークの魔力も体力も莫大な量を一気に持っていかれて、それこそイザークの命に関わる。

だが『バスター』は『神獣』=聖気を好む『Light』の部類に属する為、教会内でもディアッカに負担を掛けず、自由にしていられる。

「ふん!あの場に『オードリー』どもが全部いれば、『デュエル』と俺だけで何とかできた。まさかアスランの横槍が入っているとは思わなくてな!」

腕を組みぶっきらぼうに答えるイザークに、アスランは静かに肩をすくませ、その場を離れようとしたその時

(・・・ぁ・・・)

いきなり目の前が白く濁った。

「って、おい!大丈夫か、アスラン!」

声を掛けたのはディアッカ。気がつけば自分が倒れこみそうになったところを、『バスター』が下に回りこんでアスランを支えていた。

「あ・・・あぁ・・・大丈夫だ・・・。」

「本当に平気かよ・・・。顔色悪いぜ。」

「ふん!あんだけどでかい魔力を使ったんだ。少しは休め!」

ぶっきらぼうだが、気遣いは忘れない。そんなイザークとディアッカにアスランは感謝した。

 

「確かにお前の魔力使うのもいいけど、『使い魔』っていると結構楽だぜ。お前なら結構強い『使い魔』くらい使役できるんじゃないか?」

ふとディアッカが声を掛ける。だがアスランは静かに首を横に振った。

「・・・嫌なんだ・・・」

「え!?」

「・・・自分の・・・代わりに辛い目に合わせるのは、もう見たくない・・・」

静かに答えるアスランに、顔を見合わせてため息をつくイザークとディアッカ。

(本当にこいつは穏やかそうな顔して、その実めちゃくちゃ頑固なんだよな・・・)

そんなアスランに苦笑するディアッカの背後から、女性の声が聴こえた。

『Z.A.F.T.』本部に仕える『Cクラス』の少女だ。

 

「申し訳ありません。『アスラン・ザラ様』。」

片膝をついて礼をとる少女が言った。

「『ラクス様』より、直接のお話があるとのことで、お招きになっております。」

「『ラクス様』が?・・・俺に・・・?」

「はい。どうぞこちらに・・・」

 

 

『Z.A.F.T.』教団のTOPに君臨する巫女『ラクス』からの勅命

 

いつもは代理や『エクソシスト』を管理する長『神官デュランダル』からで、直接『ラクス』からの命など受けたことがない。

 

 

ことの重要性を察知したアスランに、イザークとディアッカが真剣な面持ちで頷くと、アスランもその瞳にいつもの冷静さをとりもどして、少女の後についていった。

 

 

 

・・・to  be  Continued.

 

 

 

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>いよいよ『エクソシスト』の戦いがメインの話しに突入です。

 それにしてもかずりん様の描かれるイザーク様のカッコいいことといったら!!特に『デュエル』の美しさにもう惚れ惚れしてしまいます!!

 (ちなみにイザーク様の台詞「来いっ!『デュエル』!」の部分の台詞を「来いっ!『デネブ』!」に換えると侑斗by『電王』な気分が味わえます:笑)

 ちょっと赤服3人組には厳しかったですが、彼らは本当は強いのですのであしからず。

 

 さて、ついに登場…この物語内に君臨する『ラクス』様からの新たな勅命とは何か!?

 

 …それは次回のお楽しみ、ということで♪