Dark & Light 〜16th.Chapter〜

 

 

 

<カツン、カツン、カツン・・・>

古びた石畳の階段を駆け下りる硬質な音だけが、細い階段の狭い空間に響き渡る。

(・・・一体どのくらいの深さがあるんだ?・・・)

僅かながら息を上げながら、アスランはふと思う。

デュランダルを追って台座の裏にある「封印の間」へ続く階段を駆け下りながら、もう23分は軽く過ぎただろう。



―――「デュランダルを止めてください!」



巫女ラクスの叫びに答え、懸命に後を追ったがデュランダルの後姿どころか気配さえ感じられない。

多分ラクスは自分なら、デュランダルの後を追って間に合うだろう、と踏んだのだろう。

でなければ、デュランダルの力に遠く及ばない自分に任せるということはしないはずだ。「力」でデュランダルを止めるなら、ラクス自身が向かった方が一番適切は方法だ。

(折角のラクス様の思いを無駄にすることは出来ない!)

懸命に追い縋ろうとするアスランは、懸命に走りを早めた。

 

地下深くに降りているはずだが、地下独特の澱んだ空気はなく、代わりに言い知れない威圧感の様なものがアスランの歩みを本能的に止めようとしている。

(・・・ぐっ!・・・なんて魔力なんだ・・・)

進めば進むほど、その力はアスランを押し返すように強くなっていく。明らかにデュランダルの放つものとは違う、その強大な力に、アスランは進む先に『彼』がいることを感じた。

 


「・・・『キラ』・・・」

 


カガリが懸命に探そうとした『兄』。

カガリの苦しみを少しでも軽くしようと、カガリのその体に宿ってしまった恐ろしいほどの力を引き受けて。

挙句、ついにはその力に飲み込まれてしまった『彼』

 

不思議なことに強大な力に圧倒されながらも、アスランは何故か恐怖を感じなかった。

多分『ルーシエ』のお陰だろう。

『彼』の放つ圧倒的な力は『ルーシエ』のそれによく似ている。

ただ『ルーシエ』の力は言い換えれば、何故か『爽快感』とでもいうのだろうか・・・色に例えたら『明るい』のだ。だが今『彼』が放っている力は重々しい・・・『どす黒い』感覚を覚える。

 

とても「同じ力を2つに分けて封印された」とは感じられないのだ。

 

「それに・・・」

アスランは胸の奥にわだかまるものをそっと取り出してみる。

 

―――『会いたい』のだ―――

 

アスラン自身が『キラ』という人物に。

自分が切ない想いを抱くカガリが300年以上も「会いたい」と願い続けた人を。

そしてカガリをその身を挺して必死に守ろうとした人を。

「会って確かめたい」のだ。

 

―――自分が『キラ』に代わり、『カガリ』を守るにふさわしい男であるか、を―――

 

 

 










やがてほんのりとした明るさがあることを翡翠の瞳が捉えた。

「あそこが・・・『封印の間』か・・・」

たどり着く先を得て、アスランは更に足を速めた。

そして階段が終わると共に、その眩しさにアスランは額に手をかざして、目が慣れるのを待った。

「・・・ここは・・・」

目が慣れるのを待ってアスランが手をどけると、その瞳は不思議な光景をとらえた。

地下とは思えないほどの広い空間。

明かりはないのに、部屋全体が淡い水色に包まれている。おそらくラクスの力で、部屋の壁や天井が光を放つようにしているのだろう。

 

そして部屋の中央には2つの『石棺』―――

一つは既に蓋が開き、中は空になっている。これが300年前カガリを納めていた棺だろう。

そしてもう一つの石棺は、強固な鎖が幾重にも巻きつき、更にその上に護符が何十・・・いや何百と貼られている。

石棺の蓋はぴったりと閉じているが、その隙間から黒紫の魔力が煙の様に滲み出でている。

その前に、アスランに背を向けたまま黒衣に身を包んだ黒髪の長い男が一人立っていた。

「・・・デュランダル様・・・」

翡翠の瞳を細めてアスランはその背中に呟く。

彼の悲しみは、叶わぬ想いを抱いてしまった自分には痛いほどよく判る。だからといってこの世界を葬るような禁忌は止めなければならない。

「・・・どうかお止め下さい。ここでサバトを起こし、『キラ』を目覚めさせてはデュランダル様の大切なタリア様のお命まで奪われてしまいます。それではデュランダル様の願いが叶うどころではありません。どうか―――」

「不思議だと思わないかね。」

「は・・・?」

デュランダルは振り向かないまま、そっと石棺を愛しげに触れながらアスランに問いかける。

「この中に入っている人物・・・。私たちと何かわらぬ人間が、この世界を滅ぼすほどの力を持っているなんて・・・。」

デュランダルは目を細め、触れていた手をギュッと握り締める。

「『彼』がどれほどの力を持っているかはわからない。だが『FAITH』 ということは『巫女』の力まで達してはいない。つまり『神官』あるいは『Sクラス』程度の力ということになる。だったら私でも扱うことが出来る可能性が高い、ということではないかね。」

「・・・デュランダル・・・様・・・?」

デュランダルは振り返るとアスランに微笑んで見せ、高らかに歌うように言い放つ。

「だったら私がこの力を受け止めよう!そしてこの世界の歪んだ秩序を正す!そして世界は生まれ変わるのだ!」

そう言うと、デュランダルは懐から水晶球を取り出した。その中は透明ではなく、石棺から漏れ出す黒紫と同じ色で染まっている。

(!!あれは―――)

アスランの瞳が見開かれるのを見届けると、デュランダルは何時もエクソシスト達を助けてくれたときと同じ、あの穏やかな声で語りかけた。

「そう・・・これは各地でサバトを行い、君たちが葬った大量発生した『Dark』から集めた『人の魂』を封じたものだ。

弱い『Dark』を強い『Dark』が喰らい、更にそれをもっと強い『Dark』が喰らい・・・こうしてサバトにより召喚されたAランクやSランクの『Dark』に蓄積された魂を『彼』に捧げることにより、『彼』は広大な力を得て目覚める!」

デュランダルは石棺に向かうと水晶球を天に向ける。

「さぁ、この地に出で、集いし『Dark』よ!更にその身を捧げ、魂を我に集めよ!」

すると水晶球の上方、封印の間の天井に黒紫色の魔方陣が大きく描き出される。

「いけません!貴方ならご存知でしょう、『キラ』はその『Dark』の魔力を封印しきれず、その体も心も『Dark』に飲み込まれた、ということを!貴方ももし意識すら飲み込まれてしまったら、秩序を正すどころか破壊のみとなってしまいます!」

アスランの懸命の声も既にデュランダルには届かないのか、振り向く気配すらない。

(だったら、止めるしかない!)

アスランは覚悟を決め、両手をデュランダルに向ける。

「『逆巻きし怒りよ、その力解き放たれんことを!『エレクトリカル・ファイガ』!!』」

両手の先に小さな炎が灯ると、それはたちまち業火となって巻き上がり、デュランダルに向かって紅蓮の炎が放たれる。だが―――

<パシッ>

猛火はデュランダルを飲み込んだかと思うと、あっという間に打ち消され、デュランダルは火傷どころか髪の毛一本まで元のままだった。

「やはり、結界がはってあるのか。だった『一切なる魔を清めたまえ!『ホーリーアロー』っ!!』」

今度は銀色に輝く矢がアスランの手から放たれる。

<パキン―――>

結界に突き刺さることもなく、聖なる矢はそのまま地に落ち消滅した。

(やはり・・・俺の力ではサバトを防ぐどころかデュランダル様の心を動かすことも出来ないのか・・・)

アスランは自分の力の限界に唇を噛んだ。

 

 

 

 

                              *        *        *









一方―――

「行け!フレスベルグ、『フレイルブリザード』!」

氷の様な青味を帯びた鳥が、羽ばたきと共に幾千もの氷の刃を打ち込んでいく。

『ギャァァァーーーー・・・・・・』

凍ったAランクのDarkが砕け散るのを見送って、イザークが荒い息と共に片膝をつく。

「はぁ・・・はぁ・・・」

「お疲れさん。はぁ・・・はぁ・・・もう閉店か、イザーク」

「はぁ・・・何を言うかっ、ディアッカ!貴様こそ息が上がってるぞ!」

「はぁ・・・はぁ・・・確かにな・・・終わりが見えない、ということは、俺らかDarkのどっちかが倒れるまで試合終了のゴングは鳴らないってことだろうぜ。」

皮肉交じりにディアッカが答えると、イザークは立ち上がった。

「ふん!この程度で終了されては、俺たちの修行にもならんわっ!」

「へいへい、相変わらずの強気で・・・」

ディアッカもドゥンの背中を撫ぜると、呼吸を整える。

 

その時

『グォォォーーーーーッ!』

一匹のDarkがイザークとディアッカの前に立ちふさがる。

「お客さん、やる気満々みたいだぜ。」

「では、期待に答えんといかんな。」

2人が手に力をこめたときだった。

 

『!?・・・ギ・・・ギヤァァ?---ッ!!』

「!?」

「何だ!?」

目の前のDarkがいきなり苦しみだしたかと思うと、喉を掻き毟りながら地面で悶絶するようにのた打ち回り、やがて

『ギャァァァァーーーーー・・・・・・』

忽然とその姿が砂の様に消え、黒紫の塊が上空へと吸い込まれるように消えていく。

「お、おいっ!見ろよイザーク!」

「言われんでも見ているわっ!・・・一体何なんだ・・・?」

呆然とその様を見送ったイザークとディアッカに背後から「おーい」と呼ぶ声が聞こえる。

「ニコルとAランクの小童どもか。」

「お前らの方はカタがついたのか?」

「それどころじゃありませんよ!」

2人に向かってニコルが声を上げる。

「僕たちが戦っていたDarkがいきなり消えちゃったんですよ!?」

「そうなんです。戦っていたらいきなり―――」

「苦しみだして、砂みたいに消えて、残った黒紫色の塊が飛んでいったんだろ?」

ニコルとルナマリアの話にディアッカが割り込む。

「知っていたんですか!?」

「いんや、俺たちも今見たばっかりだ。」

「一体どういうことなんだよ!? 判りゃしねぇ!!」

シンが頭を抱えて言うと、レイが話し出す。

「・・・俺たちのところだけじゃなく、街中のDarkが消えたようですね・・・」

レイに促され全員が辺りを見回すと、同じ様に戦っていたエクソシスト達が唖然と立ち尽くしている。そこにはDarkの影もなかった。

 

「一体何があったんでしょうか?」

ルナマリアの問いに、シンが「俺たちの力が強いって知って、きっと逃げたんだよ!」と意気揚々と言い張る。がそれをニコルが遮る。

「だとしたら・・・砂のような細かい粒子になって崩れ落ちたDarkの肉体はともかく、あの黒っぽい塊はどうして本部の方に飛んでいったんでしょうか?」

「何!?本部にだと!?」

「それ、ホンとかよ!」

イザークとディアッカが噛み付くと、ニコルが冷静に話す。

「僕や彼らが戦いの途中、時間は多少ずれがあるものの、崩れていく度黒い塊が飛んでいくものだから、僕が幾つかその飛んだ先を追ってみたんです。それぞれの方向の角度を割り出していくと、間違いなく本部に向かっているんです。」

ニコルの言葉に、一同は一斉に斜陽に包まれたアプリリウス教会に向かって振り返った。

 

 

 

 

                       *        *        *








「ようやく届いたようだね・・・極上の魂が・・・」

デュランダルが水晶球を掲げると、天に広がる魔方陣から黒紫色の塊が飛び込み、水晶球に吸い込まれていく。

もはや水晶球は完全に黒変しており、<ピシッ>小さなひびまで入りだした。

それに伴い、<ズズッ・・・ズズッ・・・>と石棺の蓋が開き始める。

「これが・・・『サバト』なのか・・・」

黒い塊は凝縮した人間の魂―――あの水晶球に中にはどれだけの魂があるのだろう。

守りきれなかった歯がゆさに、アスランは食いしばってデュランダルに攻撃を続けた。だがデュランダルは防御するどころかアスランの攻撃さえ気にも留めていない。

「・・・さぁ、準備は整った!」

デュランダルが歓喜の声を上げる。

「我の呼びかけが聞こえるか?『ルシファー』よ!ならばこの捧げし魂を喰らい、封印を破り、その身を現せ!」

「やめろぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」

アスランの願いをこめた叫びは<パリン>という水晶球の砕ける音にかき消された。

砕け散った中から現れた黒い塊が石棺の中に飛び込むと<ガチャン!ガチャン!>と鎖の切れる音と共に、護符が青白い炎に燃えつくされる。そして

<ギィ・・・ギィィィ・・・>

石棺の蓋が開かれ、そこから人の手らしきものが伸ばされる。

『・・・・・・・・。』

無言で石棺の中から立ち上がった『者』は、まとわりつく黒紫の煙を強い魔力で吹き飛ばした。

 

「―――!!」

 

アスランは目を見開き、その姿を一秒たりとも見逃さなかった。



 

身長は自分よりやや小さいだろうか

しっかりした体躯

栗色の短い髪

そして

ゆっくり開かれた目は、紫色の慈悲深い瞳―――

 


あまりにもこの場に似つかわしくない優しげな微笑は、やはりどこかカガリに似ている

 


「・・・・・・『キ・・・ラ・・・』・・・・・・」

 

アスランはそれだけしか声がでなかった。

 

 

 






『・・・君が僕を起こしてくれたの?』

ゆっくりとした、荒げたこともなさそうな穏やかな声色で『彼』―――『キラ』…いや、最高位のDarkである『魔神:ルシファー』はデュランダルに向かってそういった。

アスラン同様、呆然としていたデュランダルは『ルシファー』の声で我に返り、『ルシファー』に負けじと劣らぬ穏やかな声で言った。

「そうだ・・・私が君を目覚めさせたのだよ。君がその体では充分な魔力が蓄積できないと思ってね。私の体を使ったほうが君のためにも良いのではないかと思うのだが・・・。どうだね?」

そういいながらデュランダルは『ルシファー』に触れる。『ルシファー』は一瞬目を細めたが、嬉しそうにデュランダルに話した。

『そう・・・なら嬉しいよ。正直この体って居心地悪いんだよね。』

「ならば商談成立、ということで。」

デュランダルは『ルシファー』の前で静止すると、『ルシファー』はそっとデュランダルの心臓の辺りに手を当てる。

「ダメだ!やっちゃいけない!!」

アスランの叫びを聞きながら、デュランダルは微笑を浮かべる。そして『ルシファー』の手に魔力が集中するとデュランダルの全身が黒い妖気に包まれる。

「ふ・・・ふははははは!これでこの世界は私の手で蹂躙される!!―――・・・っ?」

デュランダルの高らかな勝利宣言が途中で止まった。やがて

「・・・!? 何・・・が・・・っ・・・あ・・・うぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

デュランダルは『ルシファー』の手が触れているところ以外、全身でもがき、苦しみだす。

「デュランダル様ぁぁぁぁーーーーっ!!」

「あぁぁぁぁーーーーーーーー・・・・・・・・・・・」

アスランの絶叫の中、デュランダルの体は砂のように崩れ、消え去った。

 







<パリン・・・・・・>

力の元たる主が消えたと同時にデュランダルの周りに張られていた結界も消えた。

「デュランダル様・・・」

『ルシファー』の足元に駆け寄り、砂と化した亡骸をそっとすくい上げると、何処からか吹き込む微風によってアスランの手の中の砂は風に流され消えていった。

「クッ・・・くそぉぉーーーーーっ!」

湧き上がる慟哭と共に、激しく拳を床に打ち付ける。

(どうして・・・どうして止められなかったんだ!!)

その様子を不思議そうに眺めながら、『ルシファー』はそっと話し出した。

『残念だけど・・・その程度の力しか備えられない身体じゃ、何の役にも立たないよ。僕を受け入れるなんて無理だね。でも―――』

無邪気な微笑で『ルシファー』は言った。

『ここから出してくれたことには感謝するよ。』

その瞬間

『!』

『ルシファー』が慌てて後ろに下がる。

聖剣を作り出したアスランが下から『ルシファー』に斬り付けようとしたのだ。

『何するの?君には何もしていないじゃない。』

納得がいかないような表情でアスランに文句を言うと、アスランはこみ上げる怒りを抑えながら、『ルシファー』を睨みつけ言った。

「人の命を奪った罪は、その命であがなってもらう!『ホーリーランス』!!」

聖剣が光り輝き、あっという間に光の槍に変わると、アスランは距離を置いた『ルシファー』に向かって突き続ける。

だが、紙一重というよりワザとギリギリにかわしながら、『ルシファー』はアスランに話し出した。

『いい動きだね。戦いなれてる感じだ。ずっと長いこと眠っていたから準備運動には丁度いいかな?』

「お前は外に出さない!ここでもう一度封印する! カガリが・・・カガリがあんなに会いたがっていた『キラ』が・・・人の命を虫けらの様にしか感じないお前のようなやつに全てを奪われている姿を見たら・・・カガリが悲しむだけだ!」

『・・・『カガリ』・・・?・・・あぁ、あの子か。僕を封印しようとして結局出来損ねた子だ。』

可笑しそうに笑う『ルシファー』に、アスランの激高は加速した。

「笑うな!この世界を救うために未来も・・・身体も・・・自分の全てを捨てて捧げてくれたカガリを侮辱することは許さない!!」

アスランの槍が『ルシファー』を襲う。

『っ!・・・』

急に『ルシファー』が真顔になる。そしてその手でそっと自分の頬に触れると―――浸みるような痛みを感じた。

((この男・・・攻撃力とスピードが上がっている・・・))

目の前で槍を振るう男は気がついていないようだ。

((・・・このまま遊び続けているのは危険だな・・・だったら早いところ片付けなければ・・・))

『ルシファー』は手を天にかざすと、そこに空間のひずみが生まれた。

『出て来い。この男を魂ごと食い尽くせ。』

途端に歪からワラワラと『Dark』が『ギャァッ』と声を上げながらアスランに襲い掛かってきた。

「!『その穢れし影を癒し、新たな道を照らす光となれ!『エレクトリカル・サンダー』!!』」

アスランの手から放たれたイカヅチの刃が、『ルシファー』に召喚された『Dark』達に突き刺さる。

『ギャァァーー・・・・・・』

『Dark』達は悲鳴を上げながら、光に飲み込まれ消え去る。

『・・・思った以上に強いんだね。だったらこの子達はどうかな?』

『ルシファー』が再び歪を作りDarkを呼び寄せる。今度は歪が更に大きく広がり、上級のDarkを呼び寄せたことがアスランでも感じられた。

『ふぅ・・・ここが地上界か・・・ん?あ、あなた様は・・・』

『挨拶はいいよ。この男の相手を頼む。僕は地上に出るよ。『成し得なかったこと』をやらなきゃいけないし。』

そういい捨てて、『ルシファー』は外へ通じるアスランが降りてきた階段へと向かう。

「待て!行かせるわけにはいか―――」

アスランがその行く手を阻もうとするが、Darkがその前に立ちふさがった。

『俺はマーラ。他でもない我らが王の頼みだ、貴様には死んでもらう。』

人と変わらぬ姿に甲冑を身に着けたAクラスの『魔王:マーラ』。伝説にもなっているその力はアスランでさえも戦慄を覚えた。

『さぁ、楽しませてもらおうか!』

マーラは弄ぶように攻撃を仕掛けてくる。逃げながら隙をうかがうアスランだったが、『ルシファー』を追わなければいけないという思いがアスランから集中力を奪う。

(何とか一瞬でもいい―――マーラが隙を作ればその拍子にすり抜けて、『ルシファー』を追える!)

アスランはマーラを壁際に誘い込むと、壁に向かって魔力を放った。

「『エレクトリカル・サンダー』!」

『はっはっは。ついに疲れたか!何処を狙って―――・・・ん!?』

アスランの攻撃で壁に亀裂が走ると、<ゴゴゴゴ・・・>という音と共に壁が崩れ、マーラの身体ごと瓦礫の山に沈めた。

(これで少しの間は動けない。今のうちにキラを―――)

直ぐに身を翻したアスラン。だが次の瞬間、瓦礫の山から閃光が走り、アスランの体ごと瓦礫を吹き飛ばした。

『グオッ! 貴様・・・この私に傷を付けた以上、その命簡単には奪わない。少しずつ苦しんで悶え死ぬがいい!!』

マーラの向こうでは『ルシファー』が階段にたどり着こうとしている。

『ここから外にいけるのか・・・』

(間に合わないのか!?)

その時―――

『!?』

何かを察した『ルシファー』が階段から離れると

「行け!デュエル!『フロスティック・アロー』!」

『ギャァ!』

階段の奥から聞き覚えのある声が聞こえると、氷の刃が『ルシファー』目掛けて飛び込んできた。

「イザーク!」

思わず声を上げるアスランに「俺たちもいるぜ!」とディアッカが飄々と答える。

そこにはニコル、シン、ルナマリア、レイ・・・そして他のエクソシスト達が一堂に会していた。

「マーラのことは俺たちに任せろ。お前はそいつを何とかしろ!」

ぶっきらぼうなイザークの言葉に、思わずアスランは笑みが漏れた。

仲間―――頼りになる仲間がいると思うだけで、何て心が軽くなるのだろう

「気をつけろ、マーラは強い。」

「ふん、言われんでも判るわっ!」

すれ違い様イザークが口角を少し上げてアスランを見ると、アスランは強く頷き、『ルシファー』の元へと向かった。

 

 

 

 

『君達もなかなかやるね。・・・でも僕も『成すべき事』のためには、幾らカガリの知り合いでも倒させてもらうよ。』

「『成すべき事』・・・この世界を破壊し、その先の天界へ向かうこと、か?」

『ルシファー』は軽く頷くと、両手の魔力を凝縮し、黒い光を放つ大剣を作り上げた。

『僕を・・・『私』をこのような目に合わせた『天界』へ・・・『私』を陥れた者共に、300年以上消えることのなかったこの怒りをぶつけるのだ!』

口調の変わった『ルシファー』は大剣をアスランに向かって振り下ろすと、アスランは聖剣を作り出し、『ルシファー』の剣を受け止める。

(くっ、重い!)

両手で剣を握るアスランだが、片手で振り下ろす『ルシファー』の剣に耐えるのがやっとだった。

(これが両腕で来たら・・・倒される!)

だが『ルシファー』は余裕を見せているのか、全く両手で踏み込もうとしない。

それどころか、時々俊敏な動きが鈍くなる時があり、それがアスランの力を休めることに繋がった。

(・・・まだ目覚めたばかりで思うように力が使えないのなら・・・倒すには今しかない!)

「うぉぉーーーーっ!!」

アスランは両腕に全身全霊の力をこめて、『ルシファー』に踏み込んだ。

『っ!人間ごときにそう簡単にさせるか!』

真っ直ぐに踏み込んでくるアスランに対し、『ルシファー』はその力を横から払った。

<カキーン>

「!しまった!」

アスランが握っていた聖剣はクルクルと中を回転すると、アスランの手が届かない地面に突き刺さり、そのまま光の粒子となって消えていった。

『はっはっは!ようやくこれで終わりだ!』

勝ち誇った表情でアスランの頭上に大剣を振りかざす『ルシファー』。

そして剣の起動は真っ直ぐアスランに振り落とされる―――

アスランはギュッと目を閉じる。

(このまま終わるのか!? デュランダル様を止めるどころか、この世界を滅ぼす力を開封し、それをただ見送ることしか出来ないなんて!)

瞼に移るのは、戦い続ける仲間―イザーク、ディアッカ、ニコル、シン、ルナマリア、レイ・・・






そして








―――「アスラン!」









どんなときも満面の笑顔を見せてくれた彼女―――

ずっと封印し続けていた、自分の中の『感情』をいとも簡単に引き出してくれた彼女―――

 





(その彼女の願いも叶えられないのか!?)

アスランの拳に力が篭る

 






(守りたい・・・守りたいんだ! 皆を・・・カガリを守る力が!!)

 








「カガリィィィーーーーーーーーーっ!」

アスランが天に向かって絶叫する―――

 

 





『・・・呼んだか?』










その時、耳に届いたのは、特徴のあるハスキーな声。

ずっと・・・ずっと聞きたかった懐かしい声。

空耳かと思ってアスランはソロソロと瞼を開く

「―――!」

翡翠の瞳がその姿を捉えて、言葉に詰まる。

 


 

   フワリと宙を舞う、膝まで届くほどの長い金髪

   長く伸びた鋭いと爪と耳

   美しい曲線を描く肢体

   その背に限りなく透明に近い12枚の羽

   そして―――鋭い切れ長の目に、何事も見通すような銀眼

 



優雅に宙を舞うようにして、アスランと『ルシファー』の間に割って入りながら片手で悠々と『ルシファー』の大剣を受け止め、物憂げな微笑を浮かべている。

 

 



「・・・・・・『ルーシエ』・・・・・・」

 

 

 

・・・to be Continued.

 

 
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>・・・お久しぶりの更新です。すっかり遅くなった分、自分でも以前のストーリー忘れてしまい、一話から読み直した始末です(アホ・・・)
 ついにアスランの前に現れた『キラ』=『ルシファー』。アスランとカガリの旅の到着点である『キラ』を目の前に、最後の戦いが始ります。
 『Dark』最高位の魔神を相手に、アスランと『ルーシエ』はどう戦うのか?そして、物語の結末は如何に!?
 
 次回いよいよ(てか、ようやく)最終回です!