Dark & Light 〜 14th.Chapter 〜

 

 

 

琥珀の液体が大理石の床に止め処もなく広がっていく。

だが、割れたティーカップの音も、琥珀の広がりも、普段のアスランの研ぎ澄まされた五感でさえ、それらに気づかないほど、ラクスの『真実』の言葉に支配されていた。

 

「・・・『アプリリウス』が・・・『ヘリオポリス』・・・。『カガリ』が・・・『メシア』・・・。」

焦点の定まらない翡翠の瞳が震える。

300年以上昔には『メシア』と呼ばれた彼女。それがあの恐ろしいほどの強力な力を持つ『Dark』――『ルーシエ』を自身の身に宿している。

しかもカガリは『自分はDarkである』と知っていながらも、その『Darkの正体』を知らない。

神にも近いといわれた『巫女』がどうして『Dark』となり、あのような辺境の排街で眠りについていたのだろう・・・。

 

アスランの様子を察して、ラクスは瞳を伏せると、そっと話し出した。

「・・・貴方には、全て本当のことをお話しなければなりませんね。」

アスランの瞳がラクスを捉えると、ラクスは一度ゆっくり頷き、遠くに視線を置くとゆっくりと語りだした。

 

 

「今から300年以上昔の話です―――」

 

 

   

     ここ『アプリリウス』が今のような形の街になる遥か以前、まだ『Z.A.F.T.』も存在し得なかった、遠い過去のこと―――

 

     その頃、国々はまだまとまりを見せず、いくつかの民族が小さな集落を作っていました。

     そしてその集落は次第に街となり、統制を取る必要が出てくるほどの、大規模な街を作り上げていきました。

     出来上がった大都市―――それを人々は『ポリス』と呼び、5つ在った都市の内、この大陸の中で最も大きな都市となった場所が『ヘリオポリス』という名を持ちま
     した。

 

     ですが『ポリス』を維持するにあたって、当然ながら集団としての約束事、いわゆる『法律』と言うものがなければ、これら都市はいつか崩れさるものです。

     そこである都市では『王』となるものが。またある都市では『代表』を選び、そのものを中心とした規律が作られていきました。

     それらの中で、ここ『ヘリオポリス』は『ある特別な力を持つもの』が統治することになりました。

     『その特別な力』は、統制と正義を与えたる『Light』の声を聴き、それを都市の人々に伝え、それにより、民衆を導く者。

   

  

      人々はそれを『巫女』と呼びました。

   

  その『ヘリオポリス』で初めて『Light』の言葉を伝える事ができた、その方こそ『カガリ・ユラ・アスハ様』でした。

     お優しく、無垢で、明るく、汚れを知らぬカガリ様は『ヘリオポリス』に住む全ての人々から愛され、憧れ、慕われました。

     カガリ様は物心つくかつかない頃から『Light』の声を聴き、皆にそれを広め、この『ヘリオポリス』は他の追随を許さぬほどの幸せに包まれた平和な都市となり
     ました。

   

  ですが、あるとき、カガリ様はとても恐ろしい『Light』からの声を聴いたのです。

 

     ―――「この『ヘリオポリス』に災厄きたり。その災厄、全ての都市を焼き払い、かの地に生れし者どもの命、全て奪わんとするものなり。」―――

 

     その人々が憧れて止まない、美しい金色の瞳が、真摯にも悲しい未来を告げたのです。

     人々は苦しみ、苦悩し、何とかこの災厄を逃れる手立ては無いかをカガリ様、ひいては『Light』の方々に救いを求めました。

     ですが、どんな方法も見つかりません。

     何故なら、その災厄となる存在は『Dark』の中で、最強のSランクの魔神であり『Dark』を統べる王『ルシファー』だったからなのです。

   

  『ルシファー』の狙いは「全ての『Light』の抹殺。」

     そしてこの我らが住まうこの世界は、『Light』の世界に向うホンの通過点。

     しかし、『ルシファー』はその圧倒的な魔力によって、その妖気に触れただけでも全てのものを滅ぼしてしまえるのです。

     そんな強力な『Dark』の王を、誰が倒すことが出来ましょうか?

 

 

     ・・・いえ・・・ただ『一人だけ』いらっしゃったのです。

 

   


     ―――「私のこの身体と魂で、『ルシファー』の魂を封印する!」

 

  

     『Light』の声を聴き、自分にそれだけの力があると知らされた、カガリ様。

     カガリ様だけが、『ルシファー』を抑える力を持つ、たった一人の『人間』だったのです。

 

 

「・・・カガリが・・・自分を犠牲にして・・・.そんな!たった一人にすべてを負わせるなんて!!」

アスランの悲痛な叫び。

ラクスは空色の瞳を伏せたまま、話を続けた。

 

     

     当然反対するものもおりました。

     「カガリ様を失っては『ヘリオポリス』を統治するものがいなくなる。それはあってはならない!」

     「だったら、黙って『ルシファー』に焼かれるのを待つしかないじゃないか!」

 

     皆、ひたすらこの『ヘリオポリス』を守る術を探しておりました。

     しかし、その中で、断固カガリ様を守ろうと、必死に戦う少年がおりました。

 

     ―――「カガリは僕が守る!だって、カガリは僕のたった一人の―――!」

 




「・・・そう。その方こそ、カガリ様のたった一人の兄妹・・・『キラ様』でした。」

「!?『キラ』が、カガリと『兄妹』!?」

アスランの驚きが更に増す。

目を見開きラクスを見据えると、ラクスはティーカップを両手で包みながら、話しつづけた。

 

「えぇ。カガリ様とキラ様は『本当の兄妹』なのです。ですが―――」

 

 

     カガリ様は物心がつき、『Light』のお告げを聴く力に目覚めてから、カガリ様は『巫女』としてお世話をする者以外の外界の者に直接触れることを許されな
     くなりました。

 

  そう・・・今の私のように・・・

 

     カガリ様は汚れから、そしてカガリ様の力を狙う『Dark』から身を守る為、たった一人で、このような広い間に隔離されていたのです。

     そのため、キラ様はカガリ様を『双子の妹』と知っていながらも、カガリ様はその事実を知ることなく、『ヘリオポリス』の柱として、一人部屋に篭られ、神託を受け
     る日々を過ごしていたのです。

     『Light』のお告げがありましたとき、カガリ様は部屋から出られ、その口で皆に『Light』の声を伝えておりましたが、その時キラ様と対面する機会はあっ
     ても、キラ様はカガリ様に兄妹として会うことは許されません。

   

   誰よりも大事にカガリ様のことを考えていらっしゃって・・・

     でも、事実を伝えられない悔しさと悲しみで・・・

     一人悲しげな笑顔で、キラ様は耐えていらっしゃいました。

 

     ―――「僕には・・・なんでカガリみたいな力が無かったんだろう・・・」

 

     キラ様の声は、カガリ様に届くことは在りませんでした。

 

   


     そしてそんなキラ様の苦悩を他所に、『ルシファー降臨』の予言の日は近づきました。

     『ヘリオポリス』の人々は、最後まで・・・そう、特にキラ様は懸命にカガリ様に身を投げ出さないよう進言し続けてきました。

     ですが、カガリ様はそんな彼らに一言、優しい笑顔でおっしゃったのです。

 

     ―――「私一人の命で、大勢の人々の命が救われるなら、いいじゃないか。私は・・・焼け爛れた、誰もいない大地を見ることは死ぬより辛い。だから―――」

 

 

     そして・・・予言の日、カガリ様の『ルシファー封印の儀式』は執り行われました。

     足には足かせ、手は後ろでに結ばれて・・・

     『ルシファー』が出現する、と言われた断崖絶壁の先に立ち・・・

 

     邪悪で巨大な妖気が吹き上がった瞬間―――

 

 

     カガリ様は―――その中に自ら飛び降りました・・・。

 

 

「それが・・・あの『オノゴロ教会』のレリーフ・・・」

 

―――断崖絶壁に立つカガリ。

手を足を縛られ、逃げる事を許されず

たった一人で・・・『ルシファー』を封印する為に『生贄』となった。

 

(そうか・・・それがあの『レリーフの真実』だったのか・・・)

 

あのレリーフはカガリの後姿しか捉えていない。

地下で見た羊皮紙のカガリは微笑んでいた。

レリーフの中のカガリは・・・どんな表情をしていたのだろう。

 

「カガリ様が飛び込んだ後、激しい魔と光の爆発が続き、その衝撃は『ヘリオポリス』内にまで広がしました。ですが、それが収まると・・・崖の下には白い巫女装束のカガリ様が横たわっておりましたが、カガリ様は意識を取り戻すことは在りませんでした。」

 

まるでその一部始終を見てきたかのように、悲しげな表情を浮かべると、ラクスは一筋の涙を流し、言葉を紡ぐ。

「カガリ様は生前おっしゃっておりました。「私の体と魂で、『ルシファー』は封印する。そして私が告げた『あの槍』で私ごと貫け!そうすれば、私の体と共に、『ルシファー』も消滅する。」・・・と。」

 

「・・・『あの槍』?」

書庫でも出てこなかった『槍』という言葉にアスランが反応する。

ラクスは躊躇なく、はっきりと言った。

「『神殺しの槍』・・・『ロンギヌスの槍』のことですわ。」

「!『ロンギヌス』!?」

アスランはまたも驚愕する。

あの『オノゴロ教会』の禁断のレリーフ、ムゥが「自分の罪」と言ったあのレリーフの名前は『ロンギヌスの悲劇』―――

「カガリ様は『Light』からのお告げで、その槍の在り処を聴き、予め教えていたのです。ですが、ここで思いもよらない事態が起きてしまいました。」

 

     『ロンギヌスの槍』は、『Dark』や『Light』のような力を持たぬ人間に、最後の力として与えられた物でした。ですが、それを引き抜き、手に持つことが
     出来た人間は誰もいないのです。

     そう…それを持つことの出来るのは、カガリ様…いえ、それ以上の力を持つ…『メシア』となる者のみ。

     『カガリ様』という『メシア』を無くしたばかりのこの世界に、彼女と同等の力を持つ者など、他に簡単には生まれ出でることはありません。

     となれば、『ロンギヌスの槍』を使うことの出来る者―――『メシアの再来』をひたすら待ち続けるしかありません。

 



「そこで、カガリ様のお体を更に外側から封印しました。」

ラクスの口調が厳しさを増す。

「そのカガリ様の眠りの為の霊廟―――それこそが、この『アプリリウス教会』そのものです。」

「!!っ」

アスランは次々と明らかになる『Z.A.F.T.』の秘密に、ただ息を飲むしかなかった。

その様子をうかがいながら、ラクスは続けた。

 




      カガリ様をこの教会の力でもって、封印のお力を少しでもお助けしつつ、『ロンギヌスの槍』を使うことができる人間の出現を待っていたのです。

     ですが、そんな時間はあまり長く残っておりませんでした。

     眠りについて2〜3年後の事。眠られていたカガリ様の体が異変を起こし、もがき苦しむようになってしまったのです。

   

     そう・・・カガリ様のお体と精神力で押さえつけていた『ルシファー』の力が増し、カガリ様は必死にそれと戦っておられたのです。

     何とか『ロンギヌスの槍』を使いこなせる者が出なければ、このままではカガリ様の身体も心も飲みこみ、『ルシファー』が復活してしまう!

 

     その時

     

     ―――「いけません!キラ様!!」

     神官の絶叫が響く中、カガリ様の眠る地下深くの霊廟に飛び込んだ少年

     ―――「もう嫌だ!何でカガリだけがこんなに苦しまなきゃいけないの!?僕はこれ以上見たくない!!僕は『FAITH』だよね。カガリがそう任命したよね。
        「お前は私くらい力がある」って。だから他の『Dark』を退治する人とは別に、この称号作ったんでしょ?だったら僕らは双子だ!カガリと同じくらい
        力があるなら、僕がカガリの苦しみを半分貰う!」

     そういって、キラ様は単身カガリ様の霊廟へと降り、暫くして、その地下から聞こえてきた苦しみの声と妖気は嘘のように静まり返りかえりました。

 



「そう。この教会も『Z.A.F.T.』も、全てはカガリ様と、カガリ様から『ルシファー』の力の一部を取り込んだキラ様を封印する為に存在したのです。」

<ガタン!>と椅子から勢い良く立ち上がったアスラン。

「じゃぁ・・・じゃぁ何故カガリは・・・いえ、カガリ様は『メンデル』にいたのですか!?『キラ』は一体どうしてカガリをそんな辺境に連れて行って―――」

何もかもが、次第に自分が旅してきた道を准えている事が、アスラン自身にとっても受け入れがたい現実だった。

「ここまでお話して、「落ち着きなさい。」とはわたくしは貴方にいえません。けれど・・・。」

ラクスは哀願するような表情で、アスランを見返した。

「これからのいきさつを続けますので、どうぞお座りになってくださいな。」

 

アスランは焦燥した表情のまま、一度ゆっくりと呼吸しゆっくりと腰をおろすと、ラクスは改めて話し出した。

 

「カガリ様とキラ様が眠りについて200年近くたった頃の事です。」

 

     その頃には『Z.A.F.T.』は既に現在のような形を成し、『Dark』を鎮圧し、『Light』のお告げや守りによって、この地を守りつづけておりました。

     しかし、その中で一人のエクソシストが大罪を犯したのです。

 

     彼は―――『神官以上の力を持った・・・FAITH』

     全てのエクソシストの頂点に君臨し、その力は『Dark』どころか、人間にも畏怖を与えるほどの力と冷酷さを持った者

 

     彼の名は―――『ラウ・ル・クルーゼ』

 

「『ラウ・ル・クルーゼ』…」

アスランの呟きに、ラクスは<コクン>と頷く。

 

     彼は自分の力を過信し、やがて「最強とうたわれた『ルシファー』の力を手に入れ、その上で人間界おろか『Light』までも従えよう」と考えたのです。

     当然『Z.A.F.T.』はそんな危険な人物を放置しておくわけには行きません。

     そのため彼の野望の阻止するため、幾人ものエクソシストが彼に戦いを挑みました。

     ですが、最強とうたわれた『FAITH』―――かなう者はおりませんでした。

     人間同士の凄惨な争いの中、クルーゼはこの『アプリリウス教会』に眠るカガリ様を狙いました。

     カガリ様の中の・・・『ルシファー』を奪い、我が物にするために。

 

     その『ルシファー』を呼び出すために、彼は『禁忌中の禁忌』を犯しました。

 


「・・・『人の魂を大量に捧げ、その眠りを覚ます儀式』。つまり『サバト』・・・ですね。場所は・・・『メンデル』。」

アスランの言葉に、ラクスはまたもゆっくりと頷く。

 

     当初ここに攻め込もうとしていたクルーゼに、何とか防戦をしいていましたが、クルーゼの力はそれ以上でした。

     ですが、あと一歩でカガリ様を奪われそうになった時、事態は急変しました。

 

     ・・・そう・・・キラ様が目覚められたのです。

 

     キラ様はカガリ様を隠し守るべく、ここを離れ、メンデル近くに逃げ込みました。

     そこに追いついて『サバト』を行なったクルーゼでしたが、『ルシファー』の一部を取り込んだキラ様にかなうことなく、彼は逆にキラ様が人間でいられた時には
     触れることの事の出来なかった『ロンギヌスの槍』で一気に魔に取り入られたクルーゼを倒されました。

 

「そうか…あのレリーフの一番最後…」

 

オノゴロの教会のレリーフで、マスクをした男が、己が持っていた槍で刺されていた最後の場面。

あれがまさに、「キラに倒されたラウ・ル・クルーゼ」だったのだ。

 

 

「ですが、それが皆が見た、キラ様の最後の姿でした。」

「『キラ』の・・・最後・・・?」

アスランの言葉にラクスはゆっくりと立ち上がる。

そしてラクスがいつも座っている祭壇の椅子のところまで来ると、アスランに背を向けたまま、話し出した。

「キラ様は、自分の力ではクルーゼは倒せない、と確信したようです。そしてついにキラ様が取り込んだ『ルシファー』の一部に、自分の体を解放したのです。」

ラクスが背もたれに掛けた両手に力を込める。

「キラ様は確かに力はありましたが、カガリ様のように封印しつづけられるほどの力は無かったのです。ですから・・・キラ様の意識は・・・『ルシファー』の意識に・・・取り込まれました。」

「っ!」

「我々はカガリ様を取り戻そうとしましたが、既に意識が『ルシファー』に取り込まれたキラ様に、どこにカガリ様を封印したのか聞くことはおろか、キラ様の力の暴走を抑えるだけで手一杯でした。」

「・・・。」

「数百人というエクソシスト達を総動員し、ようやくキラ様を封印し、我々は閉じ込めました。そして今でも私を始め、神官達で封印の為の力を注ぎ込み続けなければ、再びキラ様は目覚めてしまうでしょう。」

「では・・・今、キラは・・・」

 

ラクスが祭壇で、一度<カツン>と床を鳴らす。

 

「キラ様は・・・この地下で今も封印されております。」

 

「…この地下に…キラが…」

ゴクリと喉を鳴らし、唾を飲み込むアスラン。

ふと自分の頬に、冷たい汗がゆっくりと流れ落ちていたことに、ようやく気がつく。

 

『巫女』ラクスが人前に姿を見せず、この教会の奥に居続けたのは、『キラを封じ続ける』為。

この場から動くことさえ許されないほどの力を持ってしなければならないキラの…いや、『ルシファー』の力。

あの『ルーシエ』が、『ルシファー』の半身だとしたら、ルーシエ一人でもあの恐ろしいほどの力を持っている以上、キラの身体に宿っている、もう半分のルシファーの力も想像をはるかに超えた力の持ち主だろう。

 

そんな2人を『封印』…いや、倒すことなど、今の『Z.A.F.T.』で出来る者はいるだろうか?

 

いや、もしそれが『自分』であったとしたら―――

 

――――「俺はルーシエを…カガリを倒せるのか…?」

 

あの愛くるしい笑顔を

そして幾度となくピンチから救い出してくれたルーシエを

教団の為に抹殺するなど、できるのか…?

 

 

その時―――

 

<ガタン!>

「キャッ!」

「っ!ラクス様っ!」

急に床が激しく波打ち、祭壇に飾られた花瓶や、テーブルのティーカップが<ガシャン!>と音を立てて、割れ落ちる。

「アスラン。」

「これは…地震か!?」

倒れそうになったラクスを庇い抱きながら、アスランは冷静に周りを伺う。

どこか遠くで<ゴゴゴゴ……>という地鳴りの様な音が響き、高い天井からパラパラと小さな木屑が落ちてくる。

「揺れが収まるのを待ちましょう。」

そう言いながらラクスを安心させようとしたアスラン。だが、ラクスの表情は青ざめ、小さな唇が震えている。

「…これは…『目覚めを促す』…『サバト』…」

「ラクス様!?」

 

そして

「ラクス様!お怪我は―――」

女性神官、タリアが慌ててラクスの元に駆け寄ってくる。

だが、ラクスは宙の一点に視線を向けたまま、空色の瞳を大きく見開き、悲鳴の様に叫び上げた。

「いけません!早く止めなければ!『キラ』が―――」

「ラクス様っ!」

タリアの呼びかけと同時に、<バタン!>と激しく重厚なドアが音を立てて開き、マリューが飛び込んでくる。

「申し上げます!今、このアプリリウスの街に異界への門が開き、魔王・破壊神と思われる『AクラスDark』が攻め込んでおります!」

「何ですって!?」

タリアの表情がたちまち強張る。

「応戦には?」

「今教会に残っているエクソシスト達を総動員させましたが、国内のあちこちで起きているDarkの大量発生に対応しており、今から呼び戻すにも、非常に厳しい状況です!」

マリューの悲痛な声に、アスランの腕の中のラクスが悲しげに呟く。

「そう…『この時』を狙っていたのですね…」

「!?ラクス様!?」

ラクスを見守る3人を前に、ラクスは必死に声を絞り出す。

「このところ続く、周辺地域での『Darkの大量発生』…それはきっとこのアプリリウスの教会から、並み居るエクソシスト達を遠ざける為。そして、この機を狙い、このアプリリウスで『サバト』を行い、『キラ様を目覚めさせる』…そして、その力を我が物にするのですね…」

ラクスはアスランの腕からゆっくりと立ち上がると、未だ揺れの収まらぬ床に立ち、真っ直ぐな澱みない視線を重厚なドアの向こうに向け、厳しい表情のまま凛とした声で叫んだ。

 

「出ていらっしゃい。『神官、デュランダル』。」

 

「「「!?」」」

アスラン、タリア、マリューが驚きに目を見開き、一斉にラクスを見やった後、直ぐにラクスの視線の方へ目を向ける。

 

 

「…ようやくお分かりになられたようですね。ラクス様。いえ『ラクス・クライン』。」

 

そこにはいかなる事態であっても冷静で、穏やかな表情を崩さぬ黒髪の神官が、いつもと変わらぬ声色で立っていた。

 

 

・・・to be Continue.

 

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>さぁ!いよいよクライマックスに向けて走り出しました!

 カガリとキラの関係。

 ロンギヌスの槍とラウ・ル・クルーゼの野望

 過去の出来事が幾つも明らかになった今、今度は現実にどデカイ緊急事態発生!

 ついに『Darkの大量発生』から始った、この物語の一連の流れの元凶、『デュランダル』の登場です!

 さて、彼はどうしてこのような事件を引き起こしたのか!?

 そして、この窮地にアスランはどう対処するのか!?

 そしてアスランとカガリの運命は、どうなるのか!?

 

 …すいません。いい加減長すぎましたm(__)m んでももうちょっと続きます^^