Dark & Light 〜 13th.Chapter 〜
「なにぃ!? アスランが『捕まった』だとぉーーーっ!?」
<って、痛ってえ〜。充分聞こえてるから、んなデカイ声出すなよ。>
早朝の『ディオキア』の教会に、イザークの大声が響き渡った。
電話の相手はディアッカ。
昨夜遅くに起きた、アスランの『アプリリウス教会本部』での出来事は、あっという間に『Z.A.F.T.』関連の教会やエクソシスト達に伝わっていた。
「だから何で、アイツが捕まるような事したんだ!?あの忠誠心の塊の『堅物バカ』がまさか『Z.A.F.T.』を敵に回すようなこと、天地がひっくり返ったって、する訳ないだろうが!!」
<・・・だから落ち着けって。今さっき俺もアプリリウスに使いに出していたCクラスのエクソシストから聞いたばっかりなんだぜ。>
電話の向こうで<はぁ〜・・・>と、ディアッカのため息が聞こえる。
<何でもよ。『神官クラス』しか入ることの出来ない『なんたらの間』とかいう所があって、そこに入り込んで探し物していたらしい。>
「何だ、その『なんたらの間』って言うのは!?」
話の見えないイザークの苛立ちが募る。それを感じたのか、ことは早めに済まそうかと、ディアッカの話が続いた。
<俺もその辺り、全然話が読めないんだけどな。なんだかその『部屋』っていうのが、『Z.A.F.T.』の色々な極秘資料とかが入っているらしいんだぜ。お前だって聞いたことあるだろう?『Z.A.F.T.』における『戒律2条の17項』>
「あぁ、あの『『神聖の間』並びに『神官の間』、そしてこれらに順ずる『指定の間』には、神官以上の名がない限り、入室を禁ずる。』とかいう戒律だろう?」
<そう。俺たちが立ち入る事ができる本部の中は、散々っぱら『アカデミー』で説明を受けただろう?「この赤色をした部屋は入室可」。「緑色は神官以上の許しがなければ入れない部屋」。そして「いかなる理由があろうと入室を禁ずが黒い色」>
「・・・つまり、アスランはその『緑』だか『黒』の部屋に勝手に入ったってことか。」
<そーゆー事。>
ややうんざりしたディアッカの声とは逆に、イザークは疑問が頭の中をグルグルと巡り、軽い吐き気さえ覚えた。
(あのアスランが、そのことは知らない訳はないはず。一体アイツは何を考えて―――)
<お〜い、まだ話は終わっちゃいないぜ。>
電話の向こうが静かになったのを気にしてか、ディアッカがイザークの思考を断ち切った。
「何だ、まだ何かあるって言うのか!?」
<いちいち尖るなってーの! ともかくアスランが捕まった以上、どんな厳罰が待っているか分からないんだぜ? 最悪『極刑』・・・なんてのもあったとしたら、お前、ずっと 『ディオキア』の神父だぜ。>
(アスランが―――『極刑』!?そんな馬鹿な!?)
大きくアイスブルーの瞳を見開くイザーク。だが次の瞬間、次なる行動が言葉に出た。
「よし!今から俺は『アプリリウス』に向かう!」
<!?って、ちょっと待てよ、お前、何しに―――!?>
「アイツが教団のために不利な事をするはずがない。それにアイツはこれまでどれだけ功績を挙げてきたと思う?だったらデュランダル様に直訴し、今までのヤツの功績を汲み取って、温情してもらえないか言ってくるに決まっているだろうが!!」
またもや声のテンションが上がって、受話器の向こうのディアッカが、耳を塞ぐ。
だが、あの何時もアスランをライバル視し、そっけない態度を見せながらも、こうした危機にすぐさま動こうとするイザークの他人には滅多に見せない熱い友情に、ディアッカは思わず苦笑し、心の中で感謝の拍手を送った。
だが
<でもよ。お前のところって、今留守にして大丈夫なのか?>
「何がだ。週に一度のミサくらいで、やることなんて大したものもない。飽き飽きしていたわ!」
<ふ〜ん・・・羨ましいことで。>
ディアッカの一瞬皮肉を含んだ声に、イザークはカチンときて声を荒げた。
「何がだ!ミサに出れば、なんだか分からん女共が「ギャーギャー」寄ってくるし、ウチの使いのCクラスは口を開けば「アスランさん・・・」とため息ついて。お陰で『デュエル』の訓練も出来やしない。過酷な場所だぞ、ここはっ!!これのどこが「羨ましい」んだ!?」
<まぁまぁ「お疲れ様」、という事で。・・・ただお前のいるところでは『Darkの大量発生』は起きていないんなら、羨ましい、って言いたかったんだ。>
「何?・・・お前の『ボアズ』の近辺では多いのか?」
<ま・・・な・・・。それよりも気になってることがあってな。この前たまたまニコルとあったとき、こんな話をしてたんだけどな。>
イザークは黙って次の言葉を待った。
<何だか最近の『Darkの大量発生』の場所が、段々『アプリリウス本部』近づいてないか・・・ってさ。>
* * *
<ピチョーン・・・ピチョーン・・・>
日の光の差し込まない部屋。
いや、部屋ではなく『牢獄』といった方が正解だろう。
硬い石作りの部屋には窓もなく、湿り気の多い、濁った空気で溢れている。そして天井からは、湿気が冷やされ水滴となって、アスランの足元に落ちている。
(・・・そうか・・・もうそろそろ朝か・・・)
いつもの習慣で、ほぼ起きる時間には自然と目が覚める。
アスランはゆっくりと、冷たく硬い石の床から上半身だけ起き上がった。
足には足かせ。そして両手は鎖で後ろ手に縛られたままの姿。
ものの6時間前までは多少狭くとも、清潔なシーツに包まれ、温かだったベッドにいたのが嘘の様だ。
―――「そこまでだ!アスラン・ザラ!!」
夢中になって封印された資料を貪り読んでいた矢先に、神官タリア・グラディスに拘束され、そのまま呪印を施した足かせと手錠をかけられ、この冷たい牢獄に押し込められた。
「明日、詮議を行います。このままここで大人しくしていらっしゃい。」
牢獄のドアの鍵を閉めると、タリアは表情を出さない声でアスランを見下ろし、そのままガーゴイルとゴーレムをつれて出て行った。
牢は地下にあるのか、日の光さえ入らない。
(さて、俺の身柄はどうなるのか・・・)
俯いていた顔を天井に向け、アスランはゆっくりと翡翠の瞳を見開く。
以前、同じ戒律を犯した『ムゥ・ラ・フラガ』によれば『お尻100叩き!』などといっていたが、アレは冗談だろう。
ただ、幾ら罪が重くとも、ムゥはこうして今も『Z.A.F.T.』 のエクソシストを行っている。
それは彼の功績を汲んでの事もあるだろうが、自分との大きな違いがある。
ムゥは部屋に入っただけだが、自分はその中の『秘密』を収めた書類に目を通してしまっている。
書類の中だけでなく、あの棚に詰まれた書籍の表題を見ただけでも、『Z.A.F.T.』の秘密を知りすぎた、という点で、はるかにアスランのほうが罪は重いだろう。
いざとなれば・・・この口を永遠に封じる事になるか・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
言葉も出ないまま、アスランは再び目を閉じた。
そこに浮かんだのは―――あの向日葵の様な無邪気な笑顔。
―――「アスラン!」
嬉しそうに満面の笑顔を見せる彼女。
一つ一つに驚き、興味を示し、怒ったり、泣いたり、素直に自分の心を見せてくれた彼女。
「・・・カガリ・・・。」
ようやく出た言葉。
ポーカーフェイスを保ち、自分の気持ちを凍らせて、感情を隠す事に慣れてしまった自分に、感情を取り戻してくれた彼女。
「・・・そうだよな。君はまだきっと頑張っているのに。俺が逃げたらいけないよな。」
再び見せた翡翠の色は、もう曇り一つなく、力強い焔が再び戻っていた。
「出なさい。アスラン・ザラ。」
<キィ・・・>とさび付いた鉄柵のドアが軋みの音とともに開くと、今度は衛兵を連れたタリアがアスランを促した。
「『我命じる。その戒め、食い在りし時、解き放たれん事を―――『リ・オール』。』
タリアの呪文に、足かせと手錠が外れる。だが
「規則なのよ。分かっているわね。」
両手を前に差し出させ、新しい手錠をかけ、その上に薄い布をかけて、タリアは歩き始めた。
タリアを先頭に、4人の衛兵に囲まれたアスランは、冷たい石畳の廊下を通り、階段を上がる。途端に
「―――っ!」
眩しい朝の光がアスランの全身を包み込む。
その光の中、アスランは長い廊下を通り、ホールへと差し掛かった。
幸いな事に、昨夜デュランダルが言ったとおり、ホールに人影は殆ど見当たらなかった。只、早朝礼拝に来たらしい、街の人々が目を見張るようにしてアスランの姿を目で追う。
そして数人のエクソシスト達の姿もあった。
「・・・ねぇ、あの人が『アスラン・ザラ』!?」
「昨日、戒律を犯して、投獄されたって、あの人!?」
「あの『赤の騎士』が、罪人なんて・・・」
視線を合わせないようにしている上囁きは小さくとも、アスランの耳には充分聞こえる。自分も本当の心を見せなかった故だろうか。彼らの本心は、興味と関心でいっぱいだろう。
だが、アスランを見送っていたエクソシスト達だけでなく、次の瞬間、アスラン自身も目を見開き、一瞬の驚きを隠せなかった。
「ここは・・・。」
一度、来たことがある。
普通のエクソシストでは、絶対に入ることを禁止されている―――『神聖の間』への入り口
つまり―――この先に待っているのは・・・
「早く行きますよ。アスラン・ザラ」
タリアの抑揚のない声の中にも、僅かに驚きが隠せないでいる。
つまり・・・
(ラクス様直々に詮議し、俺の処分を決めるのか?)
処分は神官たち―――デュランダルやタリア、マリューが行うものとばかり思い込んでいた。
多分、ムゥの話で先入観が出来てしまっていたのだろう。
だが処分を下すだろう神官達の控える『神官の間』にではなく、あの細長く続く、光溢れた廊下にタリアは足を進める。
やがて<コンコン>とノックの音
「ラクス様、ご指示通り、『アスラン・ザラ』を連れてまいりました。」
タリアの声に、あの重厚な木の扉が<ギギギ・・・>と開くと、以前と変わらぬ、明るい白い部屋。
そこには栗色の髪の女性、マリュー・ラミアスが表情も固く、立っている。
その一番奥の御簾の向こうに、アスランの目が捕らえたのは、柔らかな、長い髪の華奢な女性のシルエット。
長い髪が優雅に振り向くと、そこにはあの時―――『メンデルへの派遣』を示した時と何変わらぬ穏やかな、この世の者をとりこにする表情のラクスが立っていた。
「ご苦労様でした。タリアさん。では、わたくしはこれからアスランとお話しいたしますので、マリューさんもご一緒に、少しお席を外していただけませんか?」
その言葉にタリアとマリューは目を見開き、慌てて叫ぶ。
「いけません。ラクス様!この者は戒律を違反しただけでなく、禁中の禁事に値する罪を犯したものですよ!」
「そうです!もしラクス様の御身に何かあっては―――」
「・・・お二方とも、どうぞお席を外してくださいませ。」
柔和な笑顔―――
そしてよどみのない言葉―――
だがそれはアスランも見たことがない、恐ろしいほどの威圧感を放っていた。
まるで・・・『ルーシエ』に対峙した時の様な・・・
「わ、わかりました。私たちは隣室に控えさせていただきます。」
「そうぞ、ラクス様、お気をつけて。」
チラリとアスランに厳しい視線を送ると、タリアとマリューは姿を消した。
「さぁ、これでご遠慮なさらずに、お話できますわね。」
<ね?>と小首をかしげ、微笑を絶やさない、『巫女:ラクス』
目を見開いたままのアスランの手を取り、そっとスペルを唱えると、用のなくなった手錠が<カチャン>と外れ、アスランの足元に落ちた。
(手錠まで外して・・・一体ラクス様は何を・・・?)
ラクスの真意はどこにあるのか分からない。でも何故自分はあの部屋に入って真実を探そうとしたか、それだけでも分かってもらいたかった。
それで処分を受けても構わない。
ただ、カガリのことだけはなんとしても守ってやりたい!
覚悟をきめたアスランが、ラクスと対峙する。
「ラクス様、俺―――」
「半年ぶり位でしょうかしら、アスラン。あなたに『メンデル』の鎮圧をお願いいたしましたのは。」
アスランの言葉を遮り、自ら紅茶を入れながら「ここへどうぞ。」と椅子を勧め、ラクスは自分も広いテーブルの椅子に腰掛けた。
言われるまま、アスランもラクスと向かいの椅子に腰掛ける。
「そこで『何があったか』は、デュランダル神官の方に報告しましたのね。」
「あ、はい。我々エクソシストを管理するのは、デュランダル様でしたので、いつもの通り、つい・・・」
「攻めているのではありませんわ。」
柔らかな視線を外し、ラクスはゆっくり目を閉じる。そして再び目を開くと、アスランに視線は向けず、その代わり、キッパリとした口調でアスランに言い放った。
「そこで、『どなたか』とお会いしたのではありませんか?」
「―――!!」
アスランは思わず息を呑む。
(どうして、ラクス様が、カガリのことを!?)
だが、デュランダルから報告を聞いたのだろうと思い、アスランは落ち着きを取り戻し、ラクスに言った。
「はい。そこで俺はミリアリアとサイと共に、『幽鬼:グーラー』の大量発生を阻止したのですが、そこでまさか『魔王:ベルフェゴール』が現れるとは思わず・・・。何とか戦い退けようとしたのですが、力足りず・・・。
「・・・ご遠慮なく。続きをお話くださいな。」
言いよどむアスランに、穏やかな雰囲気を崩すことなく、ラクスは笑顔でアスランに話を促した。
「・・・そこで、助けてもらった少女は、『ある人物』を探していました。俺も助けてもらった礼に、彼女の尋ね人を探す旅に出ました。只、その旅の途中、彼女が人間ではなく『Dark』である事を知り・・・そして・・・偶然にも俺の『使役』となりました。」
アスランは言葉を切り、ラクスを伺うが、ラクスはその表情に何も変わることなく、視線で続きを促した。
だがアスランは、そこでラクスの奇妙さを感じた。
・・・まるで、自分にあった出来事を、全て見透かされていた、というように・・・
「彼女とはちょっとした行き違いで、逸れてしまったのですが、その逸れる前に、立ち寄った小さな教会で、彼女が知らない土地の名前を挙げたのです。」
アスランは一呼吸置くと、ゆっくりといった。
「・・・『ヘリオポリス』・・・と。」
その瞬間、ラクスの持つティーカップが一瞬揺れた。
「・・・そうでしたの・・・」
表情は変わらない。だが、明らかにラクスは何かを感じている。
アスランはそこである『賭け』にでた。
あの書庫で見た、『カガリ・ユラ・アスハ』と『ヘリオポリス』の事を。
「今、彼女はその『ある人物』を探して、今もどこかを旅しているはずです。でも彼女は『Dark』であったためか、この『現代』で一人旅するには厳しいです。もし何かあったら、彼女は自分でも知らない力を解放して、戦うでしょう。・・・そうしたら、その近辺の町も被害が及ぶ可能性があります。ですから俺は彼女が知っている『ヘリオポリス』を探すために、禁を犯し、あの書庫へ立ち入りました。・・・ですが、それ以上に俺にとって衝撃な事実を見つけてしまったのです。」
アスランは一呼吸置くと、ラクスに向かって言った。
「俺と共に旅をした少女の名は『カガリ』。そしてあの書庫にあった羊皮紙の肖像画に描かれた人物も『カガリ』・・・そう正式には『カガリ・ユラ・アスハ』。さらにその羊皮紙の説明には『カガリがメシア』・・・そしてそのカガリが救った街の名が『ヘリオポリス』。そして『カガリ』が探していたという『ある人物』の名は『キラ』。でも彼も300年以上前に『Z.A.F.T.』の初代『FAITH』として存在している!!・・・一体こんな偶然があるのでしょうか!?教えてください!ラクス様!!カガリは・・・彼女は一体・・・」
「・・・分かりました。あなたを『メンデル』に行かせた、わたくしの責任も果たさねばなりませんね。」
ティーカップをソーサーに戻し、ラクスは立ち上がると、少し悲しげな表情でアスランの前に歩み出た。
「あなたの知っていらっしゃる『カガリ』さん。・・・そう、その方は間違いなく、あなたの見た羊皮紙の方と同一人物です。」
「!?」
予測していたとはいえ、まさかその推理が本当に正しいとは・・・。
そんな驚きを隠せないアスランに、畳み掛けるようにラクスは言った。
「あなたがお会いした『カガリ』さん。そう『Darkのカガリ』さんは、今から300年以上昔、この地で『最高クラスのDark』をその身でもって封印したメシアであり、我ら『Z.A.F.T.』の『初代巫女』であらせられる『カガリ・ユラ・アスハ』様、その人です。」
「っ!!」
「そして、我らが巫女であり『メシア』であった『カガリ様』が救済した土地『ヘリオポリス』とは・・・」
ラクスは一呼吸おいて言い放った。
「この『アプリリウス』の事です。」
<ガシャーン・・・>
アスランの手から滑り落ちたティーカップが、床で砕け散る。
だがそんなことも耳に入らず、アスランは只呆然と、ラクスを見つめるばかりだった・・・。
・・・to be continued.
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>なななんと!カガリたんは300年以上昔に存在した、人物!しかも『メシア』とは!
更にそのカガリたんが探している場所、『ヘリオポリス』とは、今アスランがいるこの『アプリリウス』のことだったとは!!
次々に判る事実にアスランはどう受け止めるのか!?
・・・しかしもっと不思議なのは、「何故『ラクス様』はこのことを知っているのか?」そして「重要機密をアスランに平然と伝えるその真意はどこに!?」
まだまだ続く急展開。「いい加減にせい!#」と突っ込まれそうですが、今しばらくのお待ちを。