Dark & Light 〜 12thChapter 〜

 

 

 

夕暮れの迫ったアプリリウス教会は思いのほか静かだった。

 

数ヶ月ぶりに首都アプリリウスに戻り、『ZAFT.』総本部であるこの大教会に戻ってきたアスランは、あまりの人気のなさに驚きを隠せなかった。

総本部とあって、昼夜問わず、ここは一般市民が祈りを捧げに来るだけでなく、全ての階級のエクソシストたちが情報交換や神官への報告を行うため、ひっきりなしに人が出入りしていることが常であった。

 

「・・・なんでこんなに・・・」

神官デュランダルに今までの経過を報告しようと、面会を申し出て待機していたアスランに『Cクラス』の少女が出迎えながら、そっと話し出した。

「実はここ数ヶ月、『Dark』の大量発生と進行が多く、どの階級に関わらず、殆どのエクソシストの皆様がその対魔にお出かけになられているのです。」

 

そういいながらデュランダルのいる『神官の間』に到着すると、デュランダルはいつもと変わらず穏やかな笑みでアスランを出迎えた。

「やぁ、アスラン。この度はご苦労だったね。」

 

 

相変わらず柔和で落ち着いた声の響き―――

これだけ『Dark』の大量発生や進行の問題が上がっているにも拘らず、この冷静さを保てるのは、やはり『神官』という職に就くだけの度量がある―――ということだろうか・・・?

 

 

「報告が遅くなって申し訳ありませんでした。アスラン・ザラ、只今戻りました。」

深々と例をとるアスランに、デュランダルは穏やかな声色を崩さないまま、声をかけた。

「いや、ご苦労だったね。しかし、いつも規則に則って報告義務を怠らなかった君が、先日の『メンデル』の報告から連絡がなかなか入らなかったものだから、まさか『Dark』にやられたのではないか、と心配していたんだよ。」

「申し訳ありません。なかなか連絡を取れるところが見当たらなかったので、つい・・・」

 

 

 

『カガリ』・・・いや、『ルーシエ』の特訓を受けるために、森や草原などの人気ない場所を選んでいたため、連絡をとる手段が無かった。

その事実を報告すればいいのだろうが、アスランは本能的にカガリのことをデュランダルに伏せようとした。

 

 

『カガリ』という言葉を発しようとしても、無意識に何故か言い知れない胸騒ぎが溢れ出し、アスランの口を塞いでしまう。

 

 

 

―――絶大なる神官、デュランダルに真っ先にこの事実を報告できないのは、何故だろう・・・?

 

 

 

 

「それで・・・君が先日保護したといった少女の故郷は見つかったのかな?」

今考えていた事を読み透かされたようなデュランダルの問いに、アスランは一瞬冷水を浴びたように<ビクン>!と揺らしたが、あくまで穏やかな微笑を浮かべるデュランダルの顔を真っ直ぐ見つめ、淡々と答えた。

「はい。どうも辺境地の『オノゴロ』の出身だったようで、今は街の人が彼女を保護してくれています。」

 

 

 

こうもアッサリ『でまかせ』が言えるようになったものだ。

嘘をつくことが出来ない―――いや、嘘をつくことは聖職に就くものとして恥ずべき行為だ、と信じて疑わなかった自分の変わりように、アスランは心の中で自嘲気味に笑った。

 

 

 

いや『嘘をつく』事は、全てが悪い行為ではない。

嘘をつくことで『Dark』である『カガリ』、そして彼女の中に眠る『ルーシエ』の存在を、守ることになったのではないか、と自分に言い聞かせた。

 

 

 

―――『メンデル』に向かってからほんの数ヶ月

   あの時の自分は、聖職を全うし、教団に誓う事だけが全てだと思っていた。

   規則に縛られ、でもそれが当たり前だと思っていた。

 

   でも彼女―――『カガリ』出会って、世界を巡って気がついた。

 

 

   「自分は、なんと狭い世界に縛られていたのだろう」

 

 

   彼女との出会いがなければ、一生このまま世界を知らずに、狭い中で自己満足しながら人生を終えていたのではないだろうか・・・。

 

 

 

 

「そうか。ならば君も安心しただろう。まぁ、君だけでなく『ディオキア』の街の者も君が戻ってくると判れば、彼らも安心するだろう。」

そういって卒の無い笑みで話すデュランダル。彼もきっとアスランの留守を預かっているイザークから、散々アスランを呼び戻すよう進言を受けていたに違いない。

「ありがとうございます。直ぐにでも『ディオキア』に戻ろうと思うのですが・・・」

「ん?どうしたね?アスラン。」

あくまで『真意』を悟られないよう、嘗てのポーカーフェイスを通し、アスランは涼やかな声で言った。

「もう時間が遅くなってしまいました。『ディオキア』へ向かう汽車の最終が出てしまったと思いますので、できれば一晩、こちらでご厄介になりたいのですが。」

「あぁ。それは構わんよ。寧ろ今はご覧のとおり「もぬけの殻」な状態でね。君にいてもらったほうが、何かあったときに頼りになる。」

「ありがとうございます。」

 

 

デュランダルの瞳に、嘗ての『忠誠に厚く、優秀なアスラン・ザラ』の装いを焼き付けるようにして、アスランは『神官の間』を後にした。

 

 

 

 

 

 

*       *        *

 

 

 

 

 

 

<カラーン・・・カラーン・・・>

 

深夜0時を告げる教会の鐘が、街に響き渡る。

案内されていた休息室のベッドの中にいたアスランは、そっと目を開き、修道服に身を包むと、そっと周囲に気配を悟られないようにし、長い廊下をロビーに向かって歩き始めた。

 

ものの2分もしないうちに、廊下は広いロビーへと繋がっている。

 

―――「『秘密の書庫』への道が隠されているのは、ロビーにおいてある『マントルピース』の後ろが隠し扉になっていて、そこから入り込めるようになっている。一件見たわけ
    じゃわからんが、『封印解除の呪文』を唱えれば、自然と壁に入り口ができる。」

 

先日『オノゴロ』の教会で出会った、ムゥが教えてくれた『秘密の書庫』への道

そこにいけば、神官以上のものが隠し通しているらしい、『ポリス』の謎が解ける可能性が高い。

 

 

(そうすれば・・・『カガリ』の事も、きっと―――)

 

 

―――『Dark』でもなく『Light』でもなく、ただ『自分の世界を広げてくれた、一人の愛する少女のため』に

 

 

家族を・・・ジャスティスを失ってから、無くしていたと思った「人としてのあるがままの自然な感情」

 

嘗ての自分では考えられない違反行為をあえて進もうとするアスラン。

だが不思議とそんな自分が誇らしいと思う。

 

 

 

 

 

『Dark』の大量発生で、エクソシスト達が出払っているというのは幸運だった。

人気の無いロビーの奥、まだ暖を取る時期ではないため、ところどころに煤を残したままの状態で、マントルピースはあった。

只、ムゥの言うとおり、ここでマントルピースの壁を叩いても、音の変化すらない。

「『封印解除の呪文』か。」

アスランはそっとその石壁に手を触れると、そっと目を閉じながら静かに呪文を唱えた。

「『我、この地に忠誠誓いし者。抗う意識に安寧を―――『アンテ』!』

その次の瞬間、マントルピースの石壁が小さな振動を繰り返すと、次第に石壁の一部が青味を帯びた光に包まれ、やがてそれが消えると、ぽっかりと奥へと進む、石畳の道が現れた。

「フラガ先輩の言っていたのは、ここの事か。」

改めてムゥに感謝すると共に、『ポリス』の謎が解けたら、できればムゥの為に、『ロンギヌスの悲劇』の真相も調べたいと思った。

 

 

 

石畳の廊下はかなり奥まで続いているようだった。

アスランは手に光の魔球を集めると、それを頼りに奥へと進みだした。

日の光を一切浴びていない石畳は湿り気とどことなくカビ臭さを含んでいた。だがそれはムゥが言った、次の地点『水路』が近い所為だろう。

そのまま石畳を進んでいくと、急に階段が現れ、そのまま進んでみると、案の定『水路』がチョロチョロと北から南に向かって流れていた。

水路の両脇には人一人通れるほどの通路があり、アスランは水路の左側に立った。

「ここから左手に折れて・・・3番目の『ガス灯』を・・・」

ガス灯は石壁から細い棒が延び、その先に上向きに火が灯る仕組みになっていた。普段、ここを使うものなら魔術で灯し、道なりを明るく照らせるに違いない。だが、ムゥの一件があってから、ここにも侵入のトラップがかけられている可能性は十分にある。

手元の光球を頼りに進んでいくと、そこには指定のあった『3番目のガス灯』。

無事に開く事を祈りながら、アスランはその支えになっている棒を思いっきり引いた。

すると

<ギ・・・ギギギ・・・>

長い間使われていなかった扉が開くような鈍い音を立てて、ガス灯の直ぐ隣の壁の一部が横にスライドした。

「・・・これが『秘密の書庫』への道・・・」

翡翠の瞳を大きく見開いたアスランは、驚きを隠せなかった表情を引き締め、ゆっくりとその先へと歩みだす。

この先にはムゥの助言どおりなら、『ガーゴイル』と『ゴーレム』が門番をしているはずだ。

人一人が通るのがやっとなこの狭さは、嘗て「巫女:ラクス」のいる『神聖の間』に通じたあの廊下を思い出させる。

そして5分も歩いただろうか。<シン・・・>と静まり返ったままの廊下の奥で、アスランの目が僅かな光を捉えた。

(―――!しまった!)

アスランは全力で走り、奥へと向かう。

 

そう。嘗てムゥが侵入した時は、『ガーゴイル』も『ゴーレム』も『秘密の書庫』の扉を開こうとした時に目覚める仕組みになっていたのだろう。

だが今回は更に厳重を要し、この通路に入った時点で『守護獣』達が目覚めるように封印を変えていた可能性が高い。

 

鈍かった光が段々強くなってくる。

そして、入り口と思われる場所にたどり着いた時

「―――!? っ!」

光は今まで暗闇の中を通ってきたアスランの目には、眩し過ぎるほどの強さを放ち、そこから石壁のレリーフのようになっていた『守護獣』達が具現化を始めていた。

「くっ!」

あまりの眩しさに薄目を開きながら、アスランは瞬時に魔力を発動した。

ここで『守護獣』に見つかっては、背中を押してくれたムゥにも申し訳が立たない!

「『その者らに安らぎと、安息の導きを―――『スリプル』!」

<ギギギ・・・ギ・・・>

<ギャァ!ギャ・・・ギ・・・ァ・・・>

壁のレリーフが半分具現化し、実体を外に現していた『守護獣』達は、懸命にアスランの魔法に抵抗する。

「・・・っ!流石は厳重な守りを必要とする部屋の番人・・・だが、俺はどうしてもそこに行かなければ行けないんだ!頼む!―――『スリーピンガー』!!」

アスランの必死の願いはその魔力に力を与えた。

<ギ・・・ィ・・・>

守護獣たちは半分身を壁から乗り出したまま、再び石化していた。

アスランはホッと一息の安息をつくと、その目の前にある、黒い扉と向き合った。

 

 

まるで『モノリス』のように取っ手もドアノブすらない、只の『黒い鉄で出来たような重厚な板』

アスランが目に力を宿してみると、案の定、紫色に輝く、細かいリボンの様な『呪印』が施されている。

だがアスランは冷静にその扉に手を触れると、『封印呪文』のパスワードを解くように解析し、最後の呪文を唱えた。

 

「『ここに永遠の眠りを誓いし者よ。暗き闇を撃ち払い、今こそその目覚めを促さん!―――『レディア』!』」

 

次の瞬間、アスランの目に映ったものは、<ピン!ピン!>と『呪印』に糸が切れ、<ゴゴゴゴ・・・>と地響きを上げながら、上に向かって開かれた扉の向こうに広がる、無数の書籍と巻物が積まれた棚や布をかけられた物がキチンと整理されて置かれた、何百ヘクタールにも見える広い部屋だった。

 

 

 

「・・・こんなに沢山あったのか・・・」

一歩室内に入ると、翡翠の瞳を見開き、アスランは感嘆のため息をついた。

正直、ここまで厳重な守りを要してまで封印された品々など、たかが知れた量だと思っていたのだから。

これだけの量が保管されている、という事は、逆を言えば「いかに『教団』が多く隠さねばならない秘密をもっていたか」という事にもなる。

忠誠を誓い、ひたすら『Z.A.F.T.』に尽くしてきた自分・・・

いや、自分だけではなく、イザーク、ディアッカ、ニコル、シン、ルナマリア、レイ、ムゥ、サイ、ミリアリア・・・数え切れないエクソシスト達が『教団』の為に『教団』を信じて戦ってきたのに、彼らにさえ教団本部はこの事実をひた隠くし続けてきた。それを思うと、この扉を開けられた喜びよりも、何故か裏切られた気持ちの方が大きくなる。

 

だがくよくよしている時間はない。

アスランは懸命に棚に並べられた本の背表紙を追った。

『禁術魔法による都市の被害状況一覧』、『レバスティノにおける禁断魔法の威力の解析』、『禁獣召喚における生贄の総数』・・・

一目見ただけで、心の中まで凍りつくような痛みを感じる。

 

「これだけ・・・犠牲を出していたのか・・・」

 

あくまで『Z.A.F.T.』は人を救済する『メシア』を崇拝し、その一方で人間に被害をもたらす『Dark』を対魔し続けてきた。

だが、その一方で同じように人間にも被害を与えてきていた事は、これらが全て物語っている。

しかし、これらの研究や成果を元に、今のエクソシストの働きやそれの基礎となるアカデミーでの授業が成り立っているのも過言とはいえないだろう。

 

アスランは大きく頭を振り、心を落ち着けた。

 

 

 

     そう、今は『教団』の真実を調べに来たわけではない。

 

 

     『ポリス』という言葉の意味と、それに繋がる『ヘリオポリス』の場所を探す事。

 

 

     そして『フラガ家』が、本当に過去に『サバト』を起こしたのか?という真実

 

 

 

アスランは光球を背表紙に向けて、陳列された棚の書籍を追った。

 

書籍はどれも古臭く、すっかり色褪せて、背表紙の読み取れないものもあった。

そして本の質も紙の書籍から、巻物、やがては羊皮紙に描かれたものまで至っている。いかに長い間、『Z.A.F.T.』が存在してきたか、わかる気がした。

しかも羊皮紙に書かれた物は、『古代ルーン文字』で普通のエクソシストでは解読できないだろう。

だがアスランは持ち前の知力で『教団』の書庫の書籍は全て網羅している。その中に『ルーン文字』について書かれたものも数点あり、自力でそれを解読し、読破した。

「ここまで過去のものでは、流石に『メンデル』の『ロンギヌスの悲劇』については書かれていないだろうな・・・。何せ『ルーン文字』が使われていたのは300年以上昔だし・・・。」

そう思ってアスランは棚に並べられていた羊皮紙を巻きなおして、それに背を向けようとしたそのときだった―――

 

 

「!?」

 

 

振り向き様に目に飛び込んだもの―――それは一枚の羊皮紙。

 

それはあの『聖クサナギ教会』のレリーフに描かれていた、両手両足を封じられ、崖の淵にたたずんでいた女性の姿を描いたものだ。

 

しかし、今度は『後姿』ではない。

たたずむ姿は完全に横顔を描き、あのレリーフ同様、長い髪をなびかせ、遠くを見つめながら淡く微笑んでいる。

その女性の姿は、今まさに自分が追いかけている人物そのもの。

そしてその下に書かれていた文字に、アスランは激しい驚きに一瞬息を呑み、冷静さを失った

 

 

 

『この地を救済し、その身で持って魔を封じた『巫女(メシア)』―――『カガリ・ユラ・アスハ』』

 

 

 

(何だって!?)

慌ててもう一度、その文面を追う。既に消えかけた文字があり、解読に難を要したが、アスランは貪るようにそれを読み続けた。

 

『ヘリオポリスに魔の降臨予言あり、魔の降臨、世界を焼きつきし、全ての生けるものの魂を喰らう。その予言、一人の少女の神託により、自らで持って魔を封印せしめん。その神々しき姿、まさに『メシア』なり。

(A.D.164)』

 

「「A.D.164って・・・今から300年以上前のことじゃないか・・・」

アスランの頬に冷や汗が伝う。

でも自分は確かに、今、このときに『カガリ』に出会っているのだ!

だとしたら、この羊皮紙に書かれた『カガリ』とあの『カガリ』との関係は一体―――

 

 

(落ち着け・・・状況を整理するんだ。)

そもそもこの『秘密の書庫』に入ろうと決心したのは『ポリス』の名前のつく都市を探したかったからだ。

だが、この羊皮紙の中にはその『ヘリオポリス』という名前まで書かれている。

しかも『カガリ』を『メシア』として―――

 

(俺の知っているカガリは『Dark』だ。しかも人間界の事などまるで知っちゃいない、世間知らずの―――)

そこまで思ってアスランはハッとする。

『写真』、『電話』、『通貨』・・・

アスランはカガリは魔界から来たものだとばかり思い込んでいた。

しかし、もしこの300年以上昔の『カガリ』が今の『カガリ』と同一人物だとしたら、確かに300年以上前には『写真』も『電話』も『通貨』も存在しなかっただろう。

そう考えると、今のカガリの言葉につじつまが合う。

 

「でも、どうやって300年以上も・・・」

 

そう考えてアスランの頭はもう一度、とある考えに及ぶ。

 

 

―――「「次にカガリが目がさめるときは、僕が起こしてあげるから、それまで眠って待っていて。」ってキラが言ったんだ!!」

 

 

「そうか!『キラ』だ!」

自分はまたも思い違いをしていた。

『キラ』はカガリを眠らせ旅に出た―――それはつい最近のことだとばかり思っていた。

だが史実は違う。

カガリがキラによって眠らされたのは、やはり300年以上前のことだったのではないだろうか。

カガリにとってはホンの数時間程度の出来事だったかもしれないが、実際は300年以上眠らされていたのではないだろうか。

「だとしたら・・・『キラ』はもう・・・」

おそらくこの世にはもういないだろう・・・。

その『キラ』を探し続けるカガリは、どんな思いをしているのだろう。

もし、事実を知ったら、カガリはどうなるのだろうか。

 

ふと羊皮紙から離れて、アスランは歩きながら考えを巡らす。

普通の人間だったら300年以上生きることは出来ない。

例え眠らせたとしても、完全に細胞や各組織の動きを止めない限りは成長を続け、次第に老化するはずだ。

だとしたら、カガリが300年以上生きているというのは・・・

 

 

「・・・『ルーシエ』。」

 

 

彼女がカガリの身体を『Dark』として維持させているとしたら話は合う。只、何故『キラ』は『ルーシエの宿ったカガリ』を眠らせる必要があったのだろうか?

もしかしたら眠りにつかせた後で、『ルーシエ』がカガリを利用した―――とも考えられるが、そうしたら何故『ルーシエ』まで共にカガリと眠っていたのか。

 

 

―――『・・・『お呼びが掛かった』と思って起きてみれば、こんな貧相な奴にたたき起こされたのか・・・お陰ですっかり『目がさめてしまった』ではないか・・・』

 

 

あの時、確かにルーシエは『目が覚めた』といった。

だとしたらやはり『ルーシエ』はカガリと共に『キラ』によって眠らされたと考える方が理にかなっているだろう。

 

只判らないのは・・・『キラ』が何故『カガリ』を眠らせたのか・・・

 

濃紺の前髪をかき上げ、アスランは本棚に寄りかかり、ジッと考える。

そしてふと向かい側の古い書籍の背表紙に、何気に目を映したとき

「!これは!?」

文字は掠れて読めないが、下のほうに描かれたマークは

 

―――カガリのつけていた『アミュレット』と同じ、『Zの文字を中心にして『羽』のようなもの』が両側についているあのマーク!

 

アスランは慌ててその本を手にとって開く。

そこにも『ルーン文字』が躍っているが、その中に書かれた一行の文章に、アスランの目は釘づけにされた。

 

 

『歴代FAITH一覧』

 

 

『FAITH』・・・嘗て『Z.A.F.T.』では神官と同等・・・いや、それ以上の力を持つエクソシストとして存在した「Sランク」以上のエクソシスト。

だがアスランの知る限り、ここ暫くは空席のままだった。

夢中でページを捲ると、そこにはやはり写真のない、似顔絵を描いた『FAITH』のメンバーの紹介が羅列されている。

その一番最初の1ページ目、アスランはそこに刻まれた名に目を見開き、口からは自然とその言葉が溢れた。

 

 

「・・・『Z.A.F.T.』初代『FAITH』―――『キラ・ヤマト』(A.D.148〜A.D.167)」

 

 

そのキラを描いた似顔絵の首には、あのカガリの『アミュレット』が描かれていた。

 

「やっぱり、君たちは・・・」

そう呟きながら、力なく本を閉じようとした時、パラパラと捲れたページの中から、アスランの目にもう一つの『見知ったもの』が映った。

 

 

―――――そのページに描かれていた人物

 

 

そう、『仮面』をつけ、表情すら読み取れないその男の似顔絵

 

 

それはあの『ロンギヌスの悲劇』のレリーフ内に登場していた、あの男

 

 

 

「・・・『Z.A.F.T.』15代『FAITH』―――『ラウ・ル・クルーゼ』(C.E.14〜C.E.40)」

キラと違って、生い立ちや経歴、功績などが書かれているようだが、その文面は全てに線が引かれ、まるで「読むな!」と無言で告げているようだ。

 

「もしかして・・・この男がフラガ先輩の言っていた人物なのか・・・?」

 

塗りつぶされた線を透かすようにして、アスランがその文面を追いかけようとした、まさにその時だった

 

「そこまでだ!アスラン・ザラ!」

凛とした声が響き、薄暗かったアスランの光球を打ち消す眩しい光が部屋中を包み込む。

急な眩しさに、アスランが思わず目を細め、光を避けるようにして声のするほうを見ると、そこには『神官:タリア・グラディス』の姿。そして『守護獣』4匹が今にもアスランに飛び掛らんとする勢いで、唸り声を上げていた。

 

(しまった!トラップだったか!)

 

アスランは取り落とした『歴代FAITH一覧』の書物を、目に魔力をかけてみると、やはり部屋の入り口と同じように、全ての書籍に『呪印』が施されていた。

この『呪印』が無理矢理切れると、自動的に神官に知れるようになっているのだろう。

普段なら見極める事ができただろうが、カガリのことで慌ててしまい、冷静さを失っていた為、このトラップに気づくことができなかったのだ。

 

「これから詮議をする。大人しく私についていらっしゃい。」

 

冷たい響きを含んだその声に、アスランは両手を上げ、タリアの前に進み出た。

 

 

 

・・・to be Continue.

 


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>さぁ、いよいよ『カガリ』と『キラ』の真実が見えてきました!
 アスランにとっても大きな衝撃ですが、どうやってあの『Darkのカガリたん』と『メシア』とまで呼ばれた『巫女カガリたん』が結びつくのか!?
 
 いよいよ迫ってきましたクライマックス!
 
 ・・・あともうちょっとだけお付き合い下さいm(__)m (まだ続くんかい・・・(-△-;)