『CAGALLI』 ― 9th.Tradition.―

 

 

 

「えいっ!」

「やぁっ!!」

声と共に<カチーン>と鳴る、剣を交える音―――そこに

「そこ! まだ打ち込みが甘いぞ! 気を抜くな!」

上官らしい男の大きな声が、響き渡る。

 

 

―――ここは『カグヤ城』の裏庭

 

何百ヘクタールにも及ぶ、この広大な裏庭は、隣接する『兵舎』と共に、魔法を持たないが、国の治安を維持する『一般騎士団』と、魔導を持ち、魔族と戦う事を主にする『魔導騎士団』の演習上にもなっている。

 

 

その裏庭の、隅の方―――

 

『銀の甲冑』をつけた騎士が2人と、ただでさえ目立つ『黒い翼』に、更に付け加え、この場に似合わない『ワンピース』を着た少女が一人、自分より、遥に大きな『杖』を持ちながら、佇んでいた。

 

「これから始めるのは、『魔導騎士』の基本中の基本、『剣の扱い』と『魔術』の扱いだ。」

そう言い切る、サラリとした銀髪の騎士―――『イザーク』に、カガリは頷くと、カガリの前に、『ワインの空き瓶』を並べた『細長いテーブル』を用意した。

其処に、もう一人の女性の『魔導騎士』がテーブルの端に立つ。

「この『演習』は、『魔力のコントロール』と、それにより、目的の『魔族』だけ、いかに倒すか・・・というモノだ。 シホ。・・・始めてくれ。」

「はっ!」

『シホ』と呼ばれた、『女性騎士』は、テーブルの端に立ち、自分に向かって直列に並んだ、空瓶を見つめる。

『空瓶』は全部で『9本』―――だが、その真ん中―――つまり『前からも、後ろからも、数えて『5本目』の『空瓶』だけ、『コルク栓』が嵌められている』

「この瓶が『魔族』だと思え。」

イザークの声。

 

シホは腰につけていた『細身剣(レイピア)』を抜くと、ジッと瓶を見つめ、剣を顔の前に立てながら、やがてゆっくり目を閉じる。

 

そして、<カッ!>と大きく目を見開いた瞬間―――

「はぁっ!!」

シホは『細身剣(レイピア)』を前に突き出す。

その剣先が、一番端の空瓶に当たるか当たらないか・・・といったところで止められる。

 

すると―――

 

<パリーン>

 

空瓶の中央―――あの『コルク栓』をしてあった瓶だけが、音と共に砕け散った。

 

シホは剣をゆっくりと収めると、カガリとイザークに向かって、一礼する。

 

 

「わぁ! 凄いな、お前!! まるで『手品』みたいだ!」

大きな金の瞳を見開き、喜ぶカガリが拍手をする。

 

が、

 

「馬鹿者! 喜んでいる場合かっ! 次は『今の』を、『お前』がやるんだ!」

横からイザークが、大声で怒鳴る。

 

「えっ? 『アレ』を私がやるのか?」

キョトンとしながら答えるカガリに、イザークは眉間に皺をよせ、更に大声で答える。

「当たり前だ! 何の為に、お前をこの神聖なる『騎士』の演習場に呼んだと思っているんだ!!」

「そんなに大声で言うことないだろ? ・・・わかった! 今みたいに瓶を割ればいいんだな?」

 

カガリは『(ドル)(イド)』を手に、シホが改めてコルク栓をした、空瓶が用意されたテーブルの端に立ち、縦に並んだ空瓶を見つめる。

(確か・・・こんな風に・・・)

一旦目を閉じると、カガリは目を見開き、『(ドル)(イド)』を突き出した。

「はぁっ!」

だが、『(ドル)(イド)』が、一番手前の瓶に触れたかと思うと、


<ガシャン! ガシャン! ガシャン!――――>



テーブルに並んだ
9本の瓶は、瞬く間に全て砕け散った。

「馬鹿者!! 全部割ってどうする!? 少しは『魔力』の加減をしろ!」

怒鳴るイザークに向かって、カガリはむくれるように、言い返した。

「馬鹿馬鹿言うな! だって、しょうがないだろ!? 私、こんなの初めてやったんだから!」



まるで唸りあう犬のような
2人に、シホが冷静に声をかける。

「カガリ様。これは『魔力』を自由にコントロールする為の『訓練』でもあります。もう一度行ってください。」

そういいながら、シホが改めて、テーブルに空瓶を9本。そして真ん中1本だけにコルク栓を締める。

「コルク栓の付いた瓶だけを、頭の中で『イメージ』してください。魔法は何でも構いませんが、私は『雷』を『瓶の中で弾けさせる』よう、イメージしました。」

 

「あぁ。わかった。」

そう言ってカガリは集中する。



(あの瓶だけ・・・あの『コルク栓』の瓶・・・それに向かって、『雷』を―――!)



「えいっ!」



カガリが『
(ドル)(イド)』を打ち出す。

 

すると、


<ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン!>

 

今度は、『コルク栓の瓶』までが、砕け散った。

「よし! 今度はちゃんと『コルクの瓶』で止まったぞ!」

そういいながら、喜ぶカガリに、またも怒鳴り声が届いた。

「誰が『手前の瓶まで割れ』といった!? 割るのは『5本目だけ』だ! お前はこの演習の意味がわかっているのか!?」

そういうイザークに、負けず劣らずカガリも言い返す。

「だって『コルク栓の瓶』まで割ればいいんだろ!? ちゃんと少しは『力』抑えられたじゃないか!!」

それに対し、イザークは尚も声を上げる。

「お前はさっき俺が言ったことを聞いていなかったのか!? 『魔族だけを倒す』と言っただろうが!! この『コルク瓶』が『魔族』だとして、手前4本が『人間』だったら―――今の貴様の攻撃では、手前4人もただでは済まないことになるんだぞ!!」


「あ・・・」


カガリはようやく気が付いた。

 


―――あの『オノゴロ村』での『魔族の襲撃』の時・・・薄っすら覚えている。

   ただ闇雲に『(ドル)(イド)』を振り回し、魔族だけではなく、その周りを囲んでいた騎士達も、巻き込みかねたことを・・・。

 



「そうか! そうだよな! お前、賢いな!!」

今度は目を輝かせて、イザークを賞賛するカガリ。だが、かえって『基本ごとき』で、それもただの少女に褒められることに、イザークは逆に苛立った。

「馬鹿か、貴様は! 考えれば当然の事だろうが! もう一度やれっ!」

 

シホが再び並べた空瓶に向かうと、今度はカガリは得意そうに、イザークに言った。

「大丈夫だ! 今度はちゃんと『5本目』だけ倒すから!」

 

「そんなに直ぐに上手くいけたら、世話はいらんがな。」

そう言い捨てる、イザークとシホの目の前で、カガリは自信たっぷりの表情でテーブルの端に立つ。

 

と―――

 

<バサッ>

 

大きな翼を広げ、空に舞い上がると、カガリは空中から「えいっ!」と真ん中の瓶だけ、叩き割った。

 

「どうだ! ちゃんと5本目だけ割っただろ!?」

唖然としているイザークとシホの目の前に舞い降り、満面の笑みで言うカガリ。

だが、暫く固まっていたイザークは、拳を震わせると、広大な演習場の隅々まで届く様な大声で叫んだ。






「馬鹿者がぁ! そんな『反則技』があってたまるかぁぁぁぁーーーっ!」



人間の常識なら、全く考えつかない『空中からの攻撃』

それを容易くこの少女はやってのけた。



「何だよ! 『反則』って!! だって「『
5本目』だけ割ればいい」って言ったの、お前だぞ!?」

更に先程よりむくれながら言うカガリに、イザークは更にそれを畳み込むように怒鳴った。

「なら、戦闘が『密林』であったら、お前はどうするつもりだ! その『でっかい翼』が広げられるのか!?」



「ぁ・・・」

確かに、木々が込み入った所では、自由に空を舞う事は出来ないだろう。

 

「そうか! そうだよな! お前、本当に頭いいな!」

 

天然なのか、どうなのか・・・

この『無垢な少女』は心から賞賛しているのだろうが、イザークにとっては不愉快極まりなかったようだ。

「この程度の事が判らん方が、どうかしているわっ! もういいっ! 練習を続けていろ! 俺は団員どもの演習を見てくる。シホ! あとはお前に任せる!『短刀(ダガー)』の扱いも教えておけ!」

「はっ!」



礼をとるシホの横で、何故、あんなに苛立つのか、怪訝な表情のカガリ。だが閃いたように<ポン!>と手を叩くと、イザークの元へ走り酔った。



「おーい! お前ぇー!」

「『イザーク』だ! 『お前』などと呼ぶな! 失敬な!」

苛立つイザークに、カガリはポケットから、ハンカチに包んだ『赤い実』を取り出し、イザークに差し出す。

「何か、お前、イライラしてるから。・・・この前、ちょっと皆に見つからないようにして、散歩に出たとき見つけたんだが。・・・『これ』な! イライラ抑えてくれる―――」

「『チコリの実』なら、もう沢山だっ!!」

カガリが自分の耳を塞ぐ程の声をあげ、「フンッ!」と肩を怒らせながら、それでも『チコリの実』の入ったハンカチを奪い取ると、イザークは去っていった。

 



「・・・アイツ、『薬草』のこと、詳しいんだな・・・。」

耳栓を外し、感心しながらイザークの後姿を見送るカガリに、シホが声をかけた。

「さぁ、カガリ様。もう一度始めましょう。何事も『基本』です。・・・本当はもっと、時間をかけて行う物ですが、あいにく時間が限られておりますので、急ぎ習得を―――」

「なぁ・・・アイツ・・・いつも『あんな』なのか?」

「『ジュール』隊長ですか?」

「何かずっと、イライラしている感じだから・・・お前達も嫌じゃないのか?」

カガリの言葉に、シホは尊敬の念を込めて話し始めた。

「『ジュール』隊長は、ただ強いだけではなく、義にも厚い、尊敬すべきお方です。我々は皆、隊長の下で働ける事を誇りに思っております。」

その表情は曇りを感じない。



(魔族の横行で、疲れてるんだな・・・これだけ部下に信頼を寄せられているんだから、きっと、落ち着いた時間が過ごせれば、いいやつなんだろうな・・・)

 

「さぁ、カガリ様。もう一度始めましょう。」

「あぁ!」

 

カガリは密かに、今度はイザークに「滋養の摂れる『タンタルの実』を送ろう」と思った。

 




『イザーク』だけじゃない・・・

休む暇も無く、戦いに出ている騎士達皆に、少しでも何かしてあげたい。

 

 



―――今の自分に出来る、『アスランの大事な家族』への『恩返し』になるなら・・・。

 

 

 




*         *         *

 

 

 




「んじゃ、今度は『馬術』の訓練――な。」

そう言っているのは、『ディアッカ』。

「『馬術』って・・・私、飛んでいくから、別にいらないんだが・・・」



ワンピースに、下だけ『馬術用』のズボン―――という、なんとも奇妙な格好をしながら答えるカガリに、ディアッカは言った。

「その『飛ぶ』ってったって、やっぱり『体力』使うんじゃないの?」

「・・・まぁ・・・そういえば、そうだが・・・」

考え込むカガリに、ディアッカは、答えた。

「魔族が出るのは『オノゴロ』だけじゃない。この広い『オーブ』全体に出現するんだから、飛んでいった先で、もうヘタレたんじゃ、何の役にも立たないだろう?」

「・・・うん・・・」



ディアッカは合図をすると、一人の馬番が、一頭の馬を連れてきた。

「コイツの名前は『アカツキ』。正直言って、気が荒いのは、アンタそっくりだぜ。まぁ、頑張って乗りこなせれば―――」

「うわっ! あははっ! お前、嬉しいけど、そんなに摺り寄せるなよ!」

目を瞑りながら、人差し指を立てて、得意げに話すディアッカの言葉を遮るカガリの笑い声に、ディアッカが見ると、『アカツキ』は嬉しそうに、カガリの頬に、その顔を摺り寄せている。

 

(・・・ふ〜ん・・・あの『人見知り』の『アカツキ』が、簡単にねぇ・・・)

 

―――やはり、『翼をもつ者』は、何かあるのだろうか・・・?

 

そう思いながら、ディアッカは、馬具の着け方から、乗りこなすまで、カガリに付き添った。

 

 

 




*         *         *

 

 

 




「・・・やはり、『気になります』かな?」

執務室の窓から、カガリの様子を眺めていたアスランに、執事が『紅茶』を運びながら声をかけた。

「あぁ・・・」

戦いにカガリを連れ出す決心はした。だが、何かがまだ『彼女を危険に曝したくない』という気持ちが残っている。

 

―――それだけではなく・・・

 

「カガリ様なら、持ち前の明るさで、騎士団の皆様からも慕われているようですよ。」

執事が、アスランの心を見透かしたように言葉を紡ぐ。

「それとも・・・陛下ご自身で『お稽古』をつけたい・・・とでも?」

「―――!」

思わず『紅茶』が零れそうになる。

 

確かに―――『心の奥』が、誰にもカガリに触れさせたくない気持ちで、溢れそうになっている。

 

アスランは一呼吸おくと、執事に2枚の『封書』を差し出した。

 

「これを・・・早急に頼む。」

「判りました。」

執事はそう言って、礼をとると、封書をもって、執務室を出た。

 

 

 




*         *         *

 

 

 



「それでは、昨日の続きです。」



まだ幼げな声が残る少年が、黒板に向かうと、カガリは黒板の真向かいに座った机に、頬杖をつきながら、少年―――『ニコル』の話を聞いた。

「『オーブ建国』までの歴史は、此処までです。今日からは、『魔導騎士団の歴史』と、『魔導とは何か』を合わせて説明します。」

 

ニコルの説明は、判りやすかった。だが、カガリは『オーブの魔導騎士』については、あの『オノゴロ村』の公園で、アスランから、何度か話は聞いている。

 

「なぁ・・・聞きたいことがあるんだけど・・・いいか?」

「はい。僕で判る事であれば。」

カガリの言葉に、ニコルは優しく微笑みながら返事をする。

「お前って・・・いいヤツだな。」

「はい?」

カガリの言葉にニコルは首をかしげる。

「イザークなんかは、聞くと直ぐ『馬鹿馬鹿』言うし・・・ディアッカは、「馬乗るときは『胸あて』つけないと、胸が揺れるぜ」とかエッチなこと言うし・・・」


カガリの不満に、クスクスとニコルが笑うと、とりなすようにニコルが言った。

「・・・2人のこと・・・お嫌いですか?」

だが、カガリは首を横に振った。

「いや、嫌いじゃない。・・・だって、みんな『自分の時間』削ってまで、私に色々教えてくれて・・・ありがたいと思っている。
それに―――」


カガリは一息つくと、ゆっくりと話し始めた。



「誰も私のこと『変な目』で見ないから・・・ちゃんと『一人の人間』として、見てくれるから・・・。でもニコルはその中でも『優しい』・・・いいヤツだなって、ふと思って・・・。あ!、ごめん!授業中に、変なこといって・・・。」

「いえ、嬉しいです。とっても。・・・それで、「聞きたいこと」というのは?」

「うん。お前達、魔法を使うとき、『3界の恵を受けし者』って言うだろ? あれ言わないと『魔法』使えないのかな・・って思って。」

カガリの素朴な疑問に、ニコルは「そうですね。」と説明を始める。

「カガリさんは『3界』って何のことだか、判りますか?」

「あ・・・いや、その・・・全然。」

「『3界』というのは、『天界』『魔界』そして、この『地上界』のことです。」

ニコルの話に、カガリは驚いて言う。

「な! えっ・・・じゃぁ、『魔界』も中に入っているのか? お前達が受けるその『恵み』の『力』に!?」

ニコルは黙って頷く。

「いいですか。カガリさん。・・・確かに『魔界』は、今、僕達が『討伐』している『魔族』が住む世界です。でも、その『魔界の力』があればこそ、『魔族』に対抗する力も得られるのです。例えば―――」

ニコルはカガリの目の前で、グラスに入った『水』を見せる。

「・・・この『水』は『地上界』に存在するものです。でも、力が無ければ、只の『水』にすぎませんが、こうして『魔界の力』を
 加えると―――」


ニコルが呪文を唱えると共に、グラスの水は、たちまち『氷の刃』に変った。



「―――!」



驚き顔のカガリの目の前で、『水』を『元の姿』に戻すと、ニコルは話を続けた。


「こうして、『魔界の力』によって、『地上界』の物は『武器』にもなるのです。『天界』に至っても同じです。『瘴気』を含んだ『傷』を癒すのは、只の『薬』では出来ません。」

「あぁ。それはアスランから聞いた。」

カガリの言葉にニコルは頷くと、更に説明を続けた。

「ですから、『天界の力』を借りることで、『魔族』と対照的な力を使うことも出来るのです。」

「ふ〜ん・・・」

頷きながら、カガリはふと、自分が『何者』なのか、考え込んでしまう。

 




―――「君は『魔族』なんかじゃない!」

 


         アスランはそういった。



          それは『薬草』ではなく、自身の持っている『治癒の力』が傷を消した―――といった。

でも、自分は『人間じゃない』事だけは確かだ。

 

『黒い翼』の生えた―――『異形の者』

 





―――「『私』は―――『何』なんだろ?」

 

 




「あの・・・カガリさん?」

ニコルに覗き込まれて、ビックリして顔を赤らめ、翼まで<プルプル>震わせて慌てるカガリ。

「あっ!・・・わ、悪かったな!・・・その・・・折角忙しい中、教えてもらっていたとこなのに、ボォ〜っと考え込んじゃって・・・」

羽まで<シュン>とさせるカガリに、ニコルも表情を緩ませ、ふと、思う。

 

(・・・こんな、素直で、正直で・・・愛くるしいんですから、陛下がご好意を持たれるのも、判る気がしますね。)

 

ニコルは微笑んで話し出した。

「もし宜しければ、ですが・・・僕の『授業料』払うと思って、僕にも『薬草』の事、教えてもらえませんか? 戦場で負傷した兵士に、役にたつこともあると思うので。」

ニコルの真摯な瞳。

カガリは直ぐに、笑顔で答えた。

「よーし! 任せろ! 判っている事、全部教えてやるからな!」

「よろしくお願いします。」

ニコルはそう言って、お辞儀をする。

 

 

何故か立場が逆転している事に気が付き、2人は目をあわせると、可笑しそうに笑いあった。

 

 

 




*         *         *

 

 

 




「それでさ! そうしたらイザークのヤツ、直ぐ『馬鹿者!こうやるんだっ!』って怒ってさ!―――」

 

広いダイニングルームでの、夕食。

アスランはカガリが、今日、訓練であったことの報告を話すのに、優しく頷きながら聞いていた。

「でも・・・これが出来なくてさ・・・」

落ち込む表情のカガリに、

「じゃぁ、明日は『こうして』ごらん?」

と、軽く助言を与えると、「うん!」と見違えるように、明るい表情が向けられる。

 

 

その笑顔が―――温かく・・・愛しい・・・。

 

 

国政を預る身として、自身も疲れている中、愛しい彼女の笑顔と元気を分け与えてくれるような声が、不思議なほど、アスランの心を安らかにさせてくれる。

 

 

デザートの後のコーヒーが並べられる頃、急にダイニングが静かになった。



「・・・?・・・カガリ・・・?」



ふとカガリを見ると、先ほどまで元気に喋っていたはずが、ホンの一瞬にして、首を<コクリ、コクリ・・・>とさせ、眠りに落ちている。

 

(―――あれだけの訓練を、短期間で済まそうとしているんだ・・・相当疲れただろうに・・・)

 

 



―――「私も一緒に戦う!」

 

その言葉を曲げず、懸命に練習し、元気な顔を見せるカガリ。

 

 

アスランは給仕に、コーヒーを断ると、執事の申し出を断り、自らカガリを抱き上げ、カガリの私室に連れて行った。

 

 

少女はベッドに寝かされると、そのまま安らかな深い眠りに落ちていった。

 


(・・・俺の前では、元気な顔を見せてくれて・・・辛い事もあっただろうに・・・)

 


カガリの金の髪を優しく撫ぜる。

抱き上げた重さと温もりと、カガリの香りがまだ残る両腕―――

それさえも嬉しく愛しく感じる。

 


アスランはベッドから離れ、そのまま、静かに部屋を出ようとした、その時、

 

「・・・アスラン・・・」

 

呼ばれてハッとする。

振り返ってみれば、彼女は深い眠りの森の中。

 


(―――俺のこと・・・『夢』に・・・見てくれているのか・・・?)

 


思い上がりかもしれない。

でも、カガリの心に、『自分』がいることに、嬉しさがこみ上げてくる。

 


「お休み。カガリ。・・・いい夢を・・・。」

そう言って頬に優しく口づける。

 

 






―――願わくば・・・自分がいる、カガリの夢が、いい夢であるように・・・

 

 




*         *         *

 

 




翌朝―――

ダイニングで二人並んで、朝食を済ませると、アスランは紅茶を飲んでいるカガリに向かって言った。

「今日、俺は私用で出かけるけど・・・カガリ、何か困った事があったら、城の者に遠慮なく言ってくれ。」

 

ふと、顔を上げるカガリが、アスランに尋ねる。

「私はまた今日も、イザークに『馬鹿か!貴様は!』っていわれてると思うけど、大丈夫だから。」

 

あまりに『イザーク』のモノマネが似ていて、アスランが笑うと、カガリも笑いながら続けた。

「私用って・・・遠いのか? 今日帰ってこないのか?」

「いや、夕食にまでは間に合うと思うから・・・。でも、遅くなったら先に済ませていてくれ。」

「・・・うん。」

 

ちょっと寂しそうなカガリの横顔―――

 

(過剰意識だろうか・・・?)

 

カガリは自分を「好きだ」と言ってくれた。

だが、まだカガリが自分に意識を持って『甘えてくれた事』はない。

 

その一つ一つの仕草の中に、カガリが自分に頼り、甘えてくれているのかを探るようにして、アスランは一人、思いを深めていった。

 

 




*         *         *

 

 




「いってらっしゃいませ。」

執事や騎士団が礼を取る中、城門が開き、アスランは『ジャスティス』を駆りながら、走り出して行った。

 

「さーて! 今日も『訓練』だな!」

そう言って、アスランを見送ったカガリは、背を伸ばす。

 

 

一体『どんな存在』なのか、判らない『自分』・・・

『魔族』でも『人間』でもない『自分』・・・

そんな自分を、それでも「愛している」と言ってくれた『アスラン』―――

 

 

少しでも、その『愛』を返したい・・・

 

 

カガリは自身への迷いを、アスランを助けたい一心で、振り払った。

 

 




*         *         *

 

 




「おーい!こっちだ! もう一つ、木材をよこせ!」

男達の声と、<トンカン>と釘を打ち付ける音が、村中に響く―――

 

其処に『ジャスティス』が走り入ってくると、村人は手を休め、一斉に礼をとる。

「いや、構わないでください。・・・それより、『資材』は足りているでしょうか?」

アスランの声に、マードックが答える。

「陛下のお気遣いのおかげで、ごらんの通り、順調に進んでおりますぜ。」

その声にアスランは頷くと、村人を労い、ジャスティスを連れ、『とある一件』の目の前にたった。

 

其処は―――復旧の終わった『クサナギ』

 

「時間通りですな。・・・陛下。」

そう言って、後ろから声をかけ、礼をとる―――『バルトフェルド』

 

「すまない。・・・貴方も店の修復があるのに、呼び出しの『手紙』をよこして・・・」

「いやいや。・・・ウチには『使いっ走りの居候』がおりますので・・・。」

 

「ハァックション!」

『レセップス』の中で、ダコスタがくしゃみをした。

 

 

「まぁまぁ! 遠いところを、こんなあばら家に、陛下御自らお越しになるなんて・・・。」

慌てて礼をとるマーナの肩に、優しく手を置くと、アスランはすまなそうに声をかけた。

「あの日の怪我で、『薬草』も必要なことが多いでしょうに、店を休ませてしまって・・・」

「いえいえ! とんでもございません!!」

マーナが更に恐縮すると、アスランは穏やかに、マーナに言った。

「カガリは元気ですよ。」

その言葉に、マーナの瞳に涙が浮ぶ。

「ありがとうございます。・・・さぁさ、こちらへ・・・」

 

『クサナギ』の奥に案内されると、小さなテーブルを囲んで、アスランは静かに2人に話し始めた。

「お二人に今日、お時間をいただいたのには、私自身、お二人に、直接お聞きしたい事があったからです。」

 

アスランは、一呼吸すると、顔をあげ、話し出した。

「実は・・・お察しのことと思いますが―――」

「『カガリ』ちゃんのこと―――違いますか?」

口を挟んだバルトフェルドに頷くと、アスランは真剣な翡翠の瞳を向け、マーナに向かって話し出した。

 

「彼女は・・・『何処』で・・・『どういう経緯』で、『貴女の元』に来たのですか?」

 

 

<キュッ>と両手を握り締め、小刻みに身体を振るわせるマーナ。

 

 

やがてマーナは、ゆっくりと、言葉を紡ぎだした。

 

 

 

 

・・・to be Continued.

 

 

===================================================

>さて、今回のお話は『カガリたん、頑張って訓練するぞ!』の巻(某サ○エさんの予告風に)でした(^^ゞ

 『CAGALLI』の連載が始まってから、結構「『イザカガ』見たいです!」とか、「『シホちゃん』との絡みがあったら是非書いて下さい!」とか、「『ニコル』が好きなので、『ニコカガ』!期待してます!」etc・・・のリクを戴いておりまして、それをこんな形で表現してみましたが・・・如何でしたでしょうか?(笑)

 お気に召していただければ、光栄です(^^ゞ

 

・・・さて、段々物語もスパート!

『カガリ』の出生が語られ、アスランは何を思うのでしょうか??

 

また、長々となりましたが、気長にお付き合いくだされれば幸せですv