『CAGALLI』 ― 8th.Tradition.―

 

 

 

――――『此処』は何処なんだろう・・・?

 

    着いた早々、びしょ濡れの私が連れて行かれたのは、『オノゴロ村』の外れの公園にある池の3倍位ありそうな、大きな『湯船』のある
       『浴室』・・・

    立ち込める水蒸気で、周りが良く見えなかったけど、『クサナギ』と『レセップス』と『エターナル』3つあわせた店が、まるまるスッポ
        リ入るくらい、あった気がする・・・

    

    オマケに、『湯船』から、あがった私を、いきなりいっぱいの『女の人達』が囲んで、私の身体・・・洗い出した。

    ―――「自分で出来る!」って言ったのに、聴こえなかったみたいに・・・

 

    『浴室』から出た私を、またも『女の人達』が囲んで、幾つもの柔らかいタオルで拭いて・・・

    
        着るものを着けられたら・・・ずっと、ずぅ〜〜〜っと、絨毯の敷き詰めた長い廊下を歩いて・・・

 

    案内されたのが・・・『此処』・・・

 

    『クサナギ』がまるまる入っちゃう位の大きな部屋・・・

 

    大きな『天蓋つきのベッド』と『暖炉』と、柔らかな『ソファー』・・・足首まで埋まりそうな『絨毯』・・・

    そして、今、座っている『椅子』は、多分、綿花を敷き詰め、そこにビロードがはられたもの・・・

    それから―――目の前には、大きな『姿身の鏡』・・・

 

   

    そういえば、小さい頃、マーナが眠りに着く前に、いろんな『童話』を聞かせてくれたっけ・・・

    


    ―――「貧しい貴族の娘が、優しい魔法使いに、魔法をかけてもらって、お城に着いたら、『王子様』と出会って・・・。でも『魔法は

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時まで』だから、途中で帰ろうとして・・・
                   脱げた『ガラスの靴』をそのままにして帰ったら、お城から使者が着て、その娘の足が『ガラスの靴』にピッタリで・・・娘は
             王子様と結婚して 幸せに暮らしました」―――って・・・

 

    「これ、本当にあるのか?」って、マーナに聞いたら「『夢物語』だからね」って・・・

 

   

 



    ―――そうだ! これも、皆、夢なんだ!

 

    だって、『黒い翼』を持った『人間じゃない私』を見ても、『女の人達』、驚かなかっただろ!? 気味悪がらずに、身体、洗ってくれ
       たじゃないか!

    

    だから・・・夢から覚めたら、いつも通り、マーナが「早く起きなさい!」って身体揺すられて・・・

   

    マーナと小さなテーブル囲んで、笑いながら、パンとミルクとムゥ兄のところで買った、取れたての果物食べて・・・

 

    それから、ダコスタが、青い顔して店に着て、何時もの薬、渡して・・・

 

    マードックがお酒やめないから、『お説教』して・・・

 

    あ、そうだ!薬、『配達』に行かなきゃ・・・!

 

    ―――早く起きて、夢から覚めなきゃ!

 



<パシン!パシン!>

 

    うん! ほっぺた痛かった! だからこうして目を開ければ何時もの通りだ! せーの!

 

「!―――――・・・。」

 



大きな鏡の前に映ったのは、『大きな黒い翼』が生え、『腕に不思議な模様』のある、『自分の姿』―――





「・・・『夢』じゃ・・・ないんだ・・・」

 



夕暮れになる前まで、当たり前だった世界・・・『皆と一緒に暮らしていた、村での世界』・・・





「でも・・・私が『壊しちゃった』・・・」

 





―――そして・・・近くで『不思議な優しい感情』をくれた、『あの人』が・・・『王様』

 









「・・・なぁ?・・・これって『夢』なんだろ?・・・『夢』じゃないのか!?・・・なぁ・・・」

 

 



そう言って、鏡に映る自分に向かって、問い掛けると、やがて『少女』は椅子の上で、両足を両腕で包むようにして蹲り、顔を伏せた。

 

 

 






*         *         *

 

 

 






「カガリはどうしている?」

自室のシャワーを浴び、部屋着に着替えたアスランは、メイドに尋ねた。

「只今、湯浴みをされまして、用意されました『お部屋』の方におります。」

礼をとりながら報告するメイドに頷いた後、アスランは執事に向かって言った。

「ダイニングに、2人分の夕食を頼む。」

「かしこまりました。」

そう言って、やはり礼をとると、執事はアスランの私室からダイニングへと向かった。

 

「陛下・・・」

一人のメイドが、アスランに声をかけた。

「あの・・・カガリ・・・様ですが・・・その・・・『お食事』は『いらない』・・・と・・・」

 

アスランは表情を曇らせ、瞳を伏せる。

 

(無理もない・・・夕暮れまで、自分を普通の村娘と信じ、疑いもしなかった自分に突然起こりえた悲劇―――『人間ではない』と言うこと。・・・そして、彼女が愛した『村』に起こった出来事と、その愛する『家族』・・・『村人』から、追い出されたこと・・・

たった数時間で、これだけの天地がひっくり返るような出来事の応酬に、カガリの心は傷つき、疲れ果てているに違いない―――)

 

アスランは廊下に出ると、カガリのいる部屋へと足を運んだ。

だが、付き添ってきたメイドが、困惑した顔でアスランを止めようとする。

「何をするんだ。君は・・・。今、彼女には『心から支えてやれる人』が必要なんだ。『食事』に誘うのを、何故拒む?」

「ですが・・・陛下・・・その・・・」

はっきり言い出せないメイドに辟易すると、アスランはカガリのいる部屋をノックした。

「カガリ・・・夕食一緒にとろう?・・・食欲ないかもしれないが、せめてスープだけでも飲まないか? 部屋に運ぶように言っておくから。」

 

・・・だが、部屋からは、何の反応もない。

「・・・カガリ? 居るんだろ? 中に入っていいか?」

同じように反応がない部屋に、アスランはそっとドアを開けた。

 

「・・・アスラン・・・」

椅子の上に蹲り、まだ涙の残る金の瞳の少女を見つけ、アスランは柔らかな笑みで、近づこうとした。

 

・・・が、

 

翡翠の瞳に飛び込んだカガリの姿は、ショーツはつけているだろうが、その他はキャミソール1枚・・・しかも、豊かな胸とくびれた腰のラインまで、透けて見える姿のまま。

 

「――――っ!!////// す、すまないっ! ごめん! カガリ!!」

 

頬を真っ赤にして、慌ててアスランが部屋の外に飛び出ると、アスランはメイドに言った。

「どうして服を着せてやらないんだ! アレじゃ、部屋の外に連れて行けないだろう!!」

「しかし、陛下!・・・あの・・・彼女は、今はアレで、精一杯なんです・・・。」

「何故だ!?」

声を荒げるアスランに、メイドはオズオズと伝えた。

「あの『翼』があるので・・・普通にご用意した、お召し物が着られないのです。」

 



そう―――カガリはその背に生えた、大きな翼の為、普通に服が着られないのだ。

 



「はぁ・・・」



僅かにまだ、あの無垢の中に一瞬見えた、艶やかな魅惑の姿に頬を染めたまま、アスランはメイドに告げた。

「・・・確か、母上の残した衣装の中に、『背中の開いたドレス』があるはずだ・・・アレを頼む。」

メイドは静かに礼をとると、急ぎその場を離れた。

 

 






*         *         *

 

 






先にダイニングルームに来ていたアスランに、ようやくカガリの気配を感じた。

「お待たせいたしました。陛下。」

そう言って、つれて来たカガリの手を離し、執事が椅子を引くと―――

 

「―――――ぁ…///」

 

まるでカガリの為にあつらえた様に、ピッタリと合うモスグリーンのドレスを纏い、漆黒の翼さえ、その美しさを演出するような姿に、アスランは言葉もなく、見惚れた。

 

カガリは頬を赤く染めたまま、<チョコン>とアスランの斜め隣の椅子の端に座る。



「よく似合ってるよ・・・カガリ・・・。」

微笑みながら、カガリを賞賛するアスラン。


だがカガリは、あまりご機嫌が向かないようだ。

「・・・借りてて言うのもなんだけどな。此処に来るまで、何回もドレスの裾、踏みそうになって、転びかけたぞ。」


「はい。『
6回』程。」


カガリの言葉に執事が添えると、アスランは思わず吹きだして笑った。



「〜〜〜〜〜っ!!悪かったな! どうせ私は、こんな生活した事がない、貧しい村娘なんだから!!」

むくれるカガリに、アスランはフッと安心感をもたらした。

「・・・よかった。少し『カガリ』らしくなってくれて・・・。」

 

キョトンとアスランを見つめるカガリ。

 

先ほどまで、蹲りながら、一人苦しんでいたのだろう。

 

(少しでも・・・カガリの笑顔を取り戻せたら・・・)

 

そうして、アスランは給仕に『スープ』を取り分けさせる。

「食欲なくっても、少しは食べないと・・・ほら・・・『アーン』。」

まるで、赤ちゃんに食事をさせるように、アスランがスープをスプーンですくい、カガリの口元に寄せる。

 

・・・と、

 

「〜〜〜〜っ!!そんなことされなくっても、一人で食べられる!!」

カガリは自分でスプーンをとると、スープに口をつけた。

「――――!! 美味しい!!」

たちまち零れる、満面の笑み―――

 

カガリの素直な表情が、まるで最高の調味料でもあるかのように、アスランも笑顔で、テーブルマナーを教えながら、食事を摂った。

 

 

(・・・初めてですな・・・あんな楽しそうに、陛下がお笑いになるとは・・・)

 

 

少し離れた処から、執事が温かく2人を見守った。

 

 






*        *       *

 

 






食事が終り、夜もふけてきた頃、アスランは、再びカガリの部屋の前を通りかかった。

 

(カガリ・・・眠れただろうか?・・・あの食事の時の笑顔・・・確かに笑っていたけれど、『心の底から』ではなかった気がする・・・)

 



『通りかかった』のは『口実』にすぎない―――それは己自身がよく知っている。

 

カガリの部屋は、ドアの隙間から、まだ光が零れていた。



アスランは一呼吸すると、緊張する手を落ち着かせながら、ドアをノックする。

「・・・カガリ、今通りかかったら、まだ部屋の明かりがついている様だが・・・まだ、起きてるのか・・・?」

「アスラン? ・・・うん・・・ちょっと・・・な・・・」

「あの・・・部屋に入って・・・いいか?」



頬を幾分か染め上げ、恐る恐る尋ねるアスランに、「・・・うん。」という小さな声が聴こえた。

アスランは、ドアを開ける。



と、其処には、メイド達が食事中、急ごしらえで背中を開けて作ったのだろう。夜着のカガリがベッドの端に座っていた。

 

「眠れない・・・か?」

「・・・まぁな・・・」

そう答えるカガリに、アスランはカガリに並んで座ると、労わるように小さな肩を、そっと抱き寄せ、ゆっくりと話し掛けた。

「今日は色んなことがありすぎて、疲れたろう? 一度に全てを背負わなくていいから・・・カガリが辛い時、苦しい時・・・俺に話してくれないか?」

金の瞳が、その優しい微笑みを映す。

「『オノゴロ村』の人達――に比べたら、俺なんかあまり役に立たないだろうけど・・・少しずつでも・・・君の心を癒したいんだ・・・」

カガリはその誠実な翡翠の瞳を見ると、可笑しそうに言った。

「そんなことない! アスランは私を助けてくれて・・・凄く感謝してるぞ! お前が心配するほど落ち込んではいないから! ・・・大丈夫だって! アスランのお陰で、私は元気だぞ! ・・・あ、その・・・確かに命を絶とうなんて思ったこともあったけど、お前に湖で助けてもらって、こんな姿でも、私を受け入れてくれる人がいるんだ!って思ったら、もう絶対過ちは犯さない! 折角生えたこの翼で、アスランの・・・オノゴロの皆や、この『オーブ』の役に立つ事があるんだったら、何でもやるから!」

 

活き活きと話すカガリ。

アスランは、ふと安堵の笑みを浮かべると、カガリの髪を撫ぜ、立ち上がった。

 

「じゃぁ、もう、俺も寝るから。カガリも休んで。」

「・・・うん・・・」

だが、何か困ったような顔のカガリに、アスランは心配げに話し掛ける。

「どうした?・・・一人で寝るの・・・辛いか?」

カガリは頭を<ブンブン>と横に大きく振ると、オズオズと答えた。

「その・・・翼・・・なんだが・・・」

「?・・・翼がどうかしたか?」

「・・・私、仰向けでないと、眠れないんだ!」

そう恥かしげに答えるカガリ。・・・つまり『翼』があるので、上向きに眠れない訳だ。

 



(いろいろ不便な事も、多いんだな・・・)

 



思わず苦笑するアスランに、カガリはまたもむくれる。

「わ、悪かったな!/// たかが寝相の事ぐらいで、困ってるなんて・・・///」

 

何故か『愛くるしさ』さえ感じるアスランは、再びベッドの脇に戻ると、座ったままのカガリの頭を、そっと自分の足に『膝枕』をした。

「――///っ!! あ、アスラン!? あの―――」

「こうすれば、横向きだけど、翼、邪魔しないで、横になれるだろう?」

「・・・うん・・・」



そうしてカガリはそっと目を閉じる。

 

アスランはカガリの髪を梳き、優しく撫ぜながら、そっと眠りにつくのを見守った。

 

そう―――あの昼間の湖のほとりの草原で、抱き寄せたまま、そっと目を閉じた時のように・・・

 







(・・・いいよ・・・カガリ・・・このまま眠って・・・)

 

 






やがて<スースー・・・>と、規則正しい寝息が聞こえると、アスランはカガリを起さないように、そっと抱き上げ、横向きのままベッドに寝かせた。

 

アスランが上掛けをかけてやり、カガリに背を向けたその時―――

 

「・・・マーナ・・・」

 

ふと、カガリが寝言を呟く。

そして、閉じられた瞼から、一筋の涙が頬を伝い落ちる。

 

懸命に自分の目の前で見せた『笑顔』の裏で、どれ程の『苦しみ』『悲しみ』を隠しているのだろう・・・。

 

彼女への溢れる愛しさ・・・苦しみを取り除いてやれるくらいの男になりたい―――!



「安心して・・・俺が君を護るから・・・君の『苦しみ』や『悲しみ』から、俺が必ず救い出してあげるから・・・」

 




そう囁くと、アスランはカガリの涙をそっと拭い、頬に小さなキスを落とし、「お休み・・・」と言葉を残して、そっとドアを閉めた。

 

 






*         *         *

 

 






翌日から、アスランには『オーブ国王』としての様々な公務をこなす中、暇さえあれば、カガリを連れ、城内を案内して回った。ラクスのくれた『ワンピース』・・・幾つか用意された、同じような活動的な衣装を身につけ、カガリは、初めて目にする物ばかりに、触れ、聴き、その度に表情をコロコロと変え、驚き、喜び、楽しげな表情を素直に表した。

 

やがて『好奇心旺盛な、お転婆な少女』は、アスランが公務中のときにでも、一人で城内を回り、迷子になって困ったところを、メイドに助けられたり、時にはその『大きな翼』をはためかせ、城のてっぺんから、『カグヤ』の街を眺め、姿の見えなくなったカガリに、アスランが慌てふためき、城内中大騒ぎになる事もしばしばだった。

 

だが、カガリが傍にいるだけで・・・そして懸命に嬉しかった事、驚いた事等を話す毎に、アスランには自分に今まではなかった、新しい何かを、その『翼』が運んでくれるような感覚を覚えた。

 

 

 

 

―――このまま、ずっと『この安らかな時間』が過ぎてくれればいい・・・

 

   豊かな感情を見せてくれる、無垢な『君』を見つめて・・・

 

   自由に大空を舞う『君』を見上げて・・・

 

 

 

 

 

 

・・・だが、『限られた時間』は容赦なく、その幸せの時を刻む針を進めた。

 

そして、それは例外なく、アスランに苦渋の決断を迫った。

 

 

 





*         *         *

 

 

 





「ジュール隊長!只今、『マッケンジー』隊から『応援要請』の早馬がつきました!」

「何だとぉ!? 先ほど『アマルフィー』隊を応援に向かわせたばかりだろうが!」

イザークは従者の言葉に、爪を噛み、苛立ちながら指示を出した。

「『エルスマン』隊を応援に出せ! 魔族の侵入がそれでも防げないなら、複数人で『結界札』を作り、一時撤退させろ!」

「はっ!」

 


イザークは苛立ちを抑えられないまま、アスランの元へと、戦況報告に出向いた。



「・・・もう、これ以上は持ちこたえられないぞ!? アスラン!!」

「あぁ、判っている・・・」

「判っているなら、何故策を練らない!? お前にはこの状況が目に入っていないのか!?」

「『判っている!』と言っただろう!!」

イザークの言葉に、声を荒げ、執務の机を両手で叩きながら、アスランは<キッ>と顔を上げた。

 

一瞬、いつも冷静なアスランが、怒りを込めた翡翠の瞳でイザークを見やっていると、その勢いに押されたのか、イザークは礼をとり、執務室から立ち去った。

 

 

アスランは、椅子に力が抜けたように座り込むと、机に肘を突きながら、指を組んだ両手に額を乗せ、苦渋の表情を浮かべた。

 




―――今のままなら、間違いなく、『予言の日』に、この国は滅ぶだろう・・・

 

   この国の『王』としての責務は、どんな手段を使っても、この国を護らなければならない

 

   その為の・・・『最後の手段』―――

 

   金の無垢な瞳で、誰にでも等しく、明るい笑顔で『希望』をくれる、『黒翼』の少女・・・

 

   『彼女』の力があれば・・・あるいは・・・

 

   

   その為に、何度も『オノゴロ村』に向かい、その力を確かめた。

 

それゆえに、彼女に『残酷な仕打ち』をさせてしまった、彼女の愛する『村』の崩壊・・・

 

    



   ―――もう、自分でも判っている。

 

      『愛する人』を・・・『護りたい』という想い・・・

 

     



        だが、『国』を救うには・・・もう――――!

 

 



「クソッ!」

机を叩き、苦しみの表情を浮かべるアスラン。

 

其処に―――

「・・・アスラン。」

アスランは驚き、顔を上げる。

 

「カガリ・・・」

 

カガリは「よしよし。」と言いながら、アスランの頭を撫ぜた。

不思議とアスランは、その無垢な少女がいるだけで、今までの苦しみが、解けていくように感じた。

「なぁ・・・『判っている』って・・・この国を救う『手段』だろ?」

カガリがアスランに問う。

「・・・聴いていたのか・・・?」

「聴こえちゃったんだ。・・・廊下歩いてたら、この部屋の中から。」

カガリはアスランの翡翠の瞳を、穏やかに見返すと、アスランに聞いた。

「なぁ・・・その『手段』って・・・『私』のことだろ?」

「―――――っ!!」

アスランは驚き、椅子から立ち上がる。

「違う! カガリには、そんな危険なことはさせたりしない!」

驚愕するアスランに、カガリはゆっくりと窓辺から、外を眺め、話し出した。

「だって、お前、湖で私が死のうとしたとき、言ったじゃないか。「一緒にこの国を護ってくれないか?」って・・・。それに『私』の『力』を試す為に『オノゴロ村』から連れ出したんだ・・・って・・・。」

「・・・。」

アスランは、カガリに視線を向ける事が出来ず、俯くしかできなかった。

だが、カガリはアスランに『希望という光』を与えるような、満面の笑みでアスランに言った。

 

「私も『戦う』!」

 

アスランは慌ててカガリの声を制する。

「駄目だ! 君にそんなことさせたくないんだ! 俺は・・・君の事を・・・」

 

「・・・私も、アスランが好きだ。」

 

アスランは瞳を見開き、カガリを見つめる。


「アスランが、好きだから・・・アスランの大好きな『家族』・・・『この国』を護りたいんだ!・・・それに、『オーブ』を護るってことは、『オノゴロ村』も入っているだろう?・・・私もアスランと一緒に、『大事な家族』・・・護りたい・・・。」

「カガリ・・・」

翡翠の瞳が潤む。

「アスラン。私のこの『力』・・・正直、自分でもまだ怖いけど、もしアスランの役にたつなら・・・

 私の『力』が皆を護れるなら・・・私、頑張るから! 本当に幸せになるには、今の苦しみに立ち向かわなきゃいけないんだ!」

 




太陽のようなまぶしい笑顔―――『勇気』を・・・『希望』を・・・くれる『光』―――

 




アスランはカガリを強く抱き締める。

「俺も、カガリを愛している・・・でも、絶対、君は俺が護るから・・・神明に誓って。」

「・・・アスラン・・・」

 





見詰め合う翡翠の瞳と、金の瞳は、自然と惹かれあうように向き合い、ゆっくりと瞼を閉じながら、唇を重ねあったー――

 

 

 




*         *        *

 

 

 




「オイオイ・・・これ以上出撃命令が増えたら、俺ら、もう全てを守りきれないぜ!」

 

『城の一角』―――『会議の間』で、テーブルに足を<ドカッ>と乗せながら、ディアッカが呟いた。

「ディアッカ! その態度は失礼ですよ! 礼儀をわきまえて―――!」

ニコルが隣で囁くように、注意を促すが、ディアッカの態度は変わらない。

 

それだけではない―――

 

この『会議の間』に集まった『魔導騎士団、隊長クラス』の大隊長達は、その疲れの色を隠せないでいる。

 

そして<ギィ>というドアの開く音に、ゆっくりと大隊長達は、姿勢を但し、礼をとる。

 

「皆・・・疲れているところ、済まない。」

アスランが労いの言葉をかけると、待っていたかのように、大隊長の一人、『ラスティ=マッケンジー』が声を上げた。

「どういうことだ!? もう『オーブ国内中』に魔族が溢れ出している。・・・それも数週間前から『一気に』・・・だ! 魔族共を退治し、『結界札』を貼って回っても、どんどん『より強力』な魔族が攻めてくる。・・・幾ら『魔導騎士』が複数で獲りかかっても、魔族のレベルが高いうえ、『結界札』も、今までの『念』を込めたものじゃ、簡単に破られている!」

 

「こうして何人もの『魔導騎士』達が、複数で『結界札』を作っておりますが・・・もう、皆の体力も、魔力も、湧き出てくる『より強力な魔族』には、対抗し切れません・・・。」

ニコルが辛そうに呟く。

 

「大体、『予言書』の通りだとしても、何か、いきなりすぎじゃんか!? おかしいと思わねぇ?」

『ミゲル=アイマン』が、憔悴しきったように声を上げた。

 

「・・・確かに『予言書』には、次の『皆既日食』の時に、『魔界の扉』が開く―――とは言っているが・・・急に増え出すもんか!?」

ディアッカが、頭の後ろに手を当て、背筋をうんと逸らしながら言った。

 

「大体、『魔界の扉』が何処にあるのかも判らない状態だ。其処に来て、更に強力な魔族の横行・・・これからどうする気だ!? アスラン!」

イザークがアスランに視線を向けると、腕を組んでいたアスランが、ゆっくりと話し出した。

 

「・・・イザーク、ディアッカ・・・。君達ならもう知っているだろう? ―――そう。あの数週間前の『オノゴロ村』での出来事を。」

イザークとディアッカは、ハッと息を飲む。

 

「あの出来事・・・つまり、今、お前が面倒を見ている、あの『黒羽の少女』の事か・・・?」

イザークの呟きに、アスランは頷く。

「彼女―――『カガリ』が『オノゴロ村』にいた時は、魔族の横行はあったが、こんな『強力で横暴』な魔族はそれまで『この国』に現れた事はなかった・・・。各隊も一団だけで、十分倒しきれた。・・・だが、彼女が『カグヤ』に来てから、急に魔族の動きが活発になった・・・。」

 

「・・・つまり、お前が以前言っていた、『鍵となる人物』・・・か?」

イザークの問いに、アスランは頷く。

 

「『予言書』が確かであれば、強力な魔族が出てきても不思議はない。だが明らかに、彼女が此処に来てから、被害が大きくなってきている。『つまり』―――だ。」

アスランは一呼吸置くと、大隊長達の前で告げた。

「彼女―――『カガリ』の力は、魔族に対抗する、唯一の『切り札(カード)』だ。彼女に協力を求め、『予言の日』までに、『魔界の扉』の場所の特定と、『カガリ』を『オーブ国軍の守護主』として、彼女を鍛えて欲しい・・・。」

 

「あんな、村娘を、『魔導騎士団』に入れるのか!?」

思わず声を荒げるイザークに、アスランは翡翠の瞳を真剣に向けると、キッパリといった。

「彼女は、俺、直属の扱いとする。・・・だが、俺には公務もある。彼女に『戦術』や『魔法の扱い』、この国の一般知識を『予言の日』までに、皆で交代で教えてやって欲しい。『彼女の力』がどんなものか・・・は、イザーク、ディアッカ。・・・君達は見ただろう?」

 

「・・・確かに・・・あの『力』は凄いもんだったな。」

ディアッカが思い返し、思わず身震いをする。

 

「『カガリ』はまだ『自分の力』に脅えている・・・。此処数週間、自由にさせて、緊張は解けたようだ。・・・だが、明らかに戦闘の経験は無いし、またあの『強力な力』が出たら・・・彼女は戦えない。・・・残された時間で、皆、彼女のことを、よろしく頼む。」

 

 

大隊長達は、唯一の救いを掴んだように、一斉に椅子から立ち上がり、アスランに礼をとった。

 

 

 

 

 

・・・to be Continued.

 

 

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>いよいよ始まりました!(笑)、アスラン&カガリの『一つ屋根の下』生活(笑:但し、他の人多数同居)

 いかな前向きなカガリでも、流石に一日でこれだけのことがあれば、ショックは大きいだろう・・・と、

 アスラン、『思いっきり甘やかし作戦(笑)』に出ました(^^ゞ

・・・でもスープを「アーンv」って・・・(-_-;)

アスランにNamiの欲望が乗り移っただけですので、全国のアスランファンの皆さん、石投げないで下さい(汗っ

 

そして―――やっぱり、かずりん様の描かれる「アスカガ甘甘」のシーンには、もうメロメロです!!

こんな風に「膝枕」しちゃった日にゃ、カガリより「アスランの方」が、悶々として眠れないんじゃ・・・(笑)

 

さて!いよいよ『戦い』への決意を確かめ合った、2人・・・

次回は、皆様から頂いた「リクエスト」による、「カガリ+他のキャラ」CPが目白押し!

・・・んでも、あまり期待しないで待っていてください^^;