『CAGALLI』 ― 6th.Tradition.―

 

 

 

『オノゴロ村』の方から漂う『瘴気』に、アスランは必死に『ジャスティス』を駆る。

 

カガリは、その大きな金の瞳を不安そうに見開かせ、バスケットを抱えながら、もう片方の手でその湧き上がってくる『解からない不安』を押さえようとしているのか、アスランのシャツを<ギュッ>と握りながら、その小さな肩を震わせている。

 

アスランは、更にカガリを、無意識に『安心させる』様に、力強く肩を抱き締め、引き寄せる。

 



と―――

 



<ヒーヒヒンッ!>

 

「どうした!? 『ジャスティス』!」

アスランが、愛馬に懸命に拍車をかけ、走りを促すが、『ジャスティス』の足は動かないまま・・・いや、それ以上に後ろに後ず去っている。

 

(―――動物の方が、『瘴気』に敏感だ・・・だが『ジャスティス』は、僅かな『瘴気』くらいでは、ここまで脅えたりしない・・・)

 

アスランは、顔色を変える。

 

(つまり、『ジャスティス』でさえも脅えるほど、『瘴気』が濃くなっている―――ということか・・・)

 




アスランは、『ジャスティス』から飛び降りると、カガリに言った。

「ここから先は、俺一人で行く。カガリは『ジャスティス』とここにいるんだ。」

だが、カガリは首を振る。

「ダメだ! 私も行く!」

アスランは何とかカガリを説得しようと、声を荒げる。

「ダメだ!…君には判らないだろうが、『瘴気』がどんどん濃くなっている。『瘴気』は魔族が放つ、毒性の霧のようなものだ。俺のような『魔導騎士』や、『耐性のある人間』でなければ、あっという間に『肺』が腐り落ちる。そんな危険な中に、君を連れて行くわけには行かない!」

 

しかしカガリは、その金の瞳から涙を溢れさせながら、更に強く首を振って、アスランに懇願する。

「だって! あの中には・・・村の中に、マーナが!・・・マリューもムゥ兄も、アフメドも、ラクスも、マードックも・・・みんな! みんな、私の大事な『家族』がいるんだ! だから私も、皆が無事か、怪我してないか、知りたいんだ!」

 

その懸命な瞳に、アスランは『己の役目』を振り返る。

 


(―――…そう。・・・これは『カガリ』が何らかの、魔族を遠ざけるような『力』を持っていないか・・・それを確かめる為の『実験』だったんだ・・・。ならば、俺は―――)

 



アスランは俯きながら、その手で作った握りこぶしに<ギュッ>と、力を込める。

 




―――『実験』・・・『国の為』の・・・

 

   

   そうして『何も知らない無垢な少女』の『力』を試そうとした。

   きっと『カガリ』が村に戻れば、『その答え』が出るはず。

   それは同時に、『魔族』に『カガリ』のその身を(さら)させる、という危険が伴う事。

 







―――でも・・・『今』は・・・

 

   



   『愛する人』を―――『守りたい』!

 









そう決心すると、アスランはカガリの肩をつかみ、強く言い放った。

「ともかく、俺が様子を見てくる! カガリにはどんな状況か、後で必ず知らせにくるから!」

その必死な翡翠の瞳に、カガリはオズオズと頷く。

それを見たアスランは、優しい表情で頷き返すと、一人『オノゴロ村』に向かって、走り出した。

 

 




*         *         *

 

 




村はずれの公園―――いつもカガリと『薬草』の勉強をしたところ。

だが、そこには既に魔族が、その姿を見せ、銀の甲冑をつけた騎士と戦っていた。

「大丈夫か!?」

「陛下!」

魔族にとどめをさした騎士が、息も荒く振り返りながら、アスランに礼をとった。

「今はいい。・・・それより『村の中』はどうなっている!?」

アスランの激しい問いに、騎士は息を切らしながら答える。

「・・・始めは『ジュール隊』が村の中心を、押さえにかかっておりましたが、魔族の数が一向に減らず、『エルスマン隊』が援軍に来て、『村の中』を共に戦っております。」

 



既に村の中心の方から、『人ならざるもの』の声がここまで聴こえてくる。

 



その騎士の答えに頷くと、アスランは『村の中心』に向かって走り出した。

 

 




*        *        *

 

 




マーナ・・・バルトフェルド・・・ムゥ兄・・・マリュー・・・マードック・・・アフメド・・・ラクス・・・ダコスタ・・・)

カガリは村に向かって、跪き、両手を握りながら『祈り』を捧げていた。

 

が、

 

(―――っ!! ダメだ! 皆が苦しんでいるのに、私だけこんな処で、何も出来ずにいるなんて!)

 




ふと、バスケットの中の『薬草』を見る。

 

(―――! 『薬草(これ)』で、少しでも皆を助けられれば―――!!)

 

カガリはバスケットを抱えると、村に向かって走り始めた・・・。

 

 




*         *         *

 

 




「はぁ…はぁ…『我が
3界のめぐみ、受けし者、その清き水の力を』・・・『ブリザード』!」

銀の髪を振り乱しながら、呪文を唱えると、その騎士の周りに、無数の『氷の刃』が出来、それが魔族のはらわたに突き刺さる。



<ギャァァァァーーー・・・!>

<グァァァァァーーー・・・!>

 

<ボトリ>と落ちた魔族が灰になると、銀の髪の騎士は、剣を地面に突き刺し、片膝をつきながら、「はぁ、はぁ・・・」と荒い息をつく。




そこに―――




「『イザーク』!」

銀髪の騎士に、濃紺の髪の青年が、走り寄る。

「はぁ…はぁ…アスラン・・・何時戻った。貴様・・・」

「今しがた、だ。それより、この『惨状』はどういうことだ!? こんなに村中が『魔族』で溢れかえっているなんて・・・」

アスランが、立ち上がろうとするイザークに肩を貸しながら尋ねる。

「・・・貴様らが、村をたって、暫くたったころだ・・・」

 




―――急に村に『瘴気』が立ち込め始めた。

   だが、この村で、『瘴気』が漂うのは初めてなのか、全く村人達は気に求めていなかった。

   「早く、皆、村の『教会』に批難しろ!」

 

   そう怒鳴った俺に、村人達は、何が起きたのか判らない――という顔をするだけだった。

   だが―――それから数分もしないうちに、『魔族』が現れ―――

   パニックになる村人を、懸命に誘導しながら、『教会』に逃げ込ませ、『結界』を張った。

 

   何時もの『魔族』程度なら、俺の隊だけで、充分なはず―――

 

   ―――だが・・・

 

   減るどころか、まるで『シャンパンの栓』を開けたように、次から次へと『魔族』が溢れかえり・・・

   俺は『エルスマン隊』に応援要請をした。

   だが、ディアッカ達の加勢があっても、まるで状況は変わらない。

   酷くなる一方だ。

   




「もう『結界札』も限界だろう・・・騎士たちも『体力』『魔力』とも落ちている。」

イザークの言葉に、アスランは尚も尋ねる。

「ディアッカは?」

「今、『教会』の周りの魔族どもを倒しながら、『結界』を強めているはずだ。」

 



その報告をしている間に、イザークの傍に、長い黒髪を束ねた『女性騎士』が駆け寄った。

「ジュール隊長! 『教会』の『結界札』は『エルスマン隊長』が強化してくださっております!ですが、逃げ遅れ、家屋に閉じ込められた村人の家の『結界札』は、もう持ちこたえられません!」

そう言って敬礼する『女性騎士』にイザークは命令した。

「シホ。お前に、一個小隊を任せる。その者達と、魔族を押さえながら、その家々に更に強力な『結界札』を貼ってくれ。」

「判りました。」

そう言って再び敬礼する、『シホ=ハーフネンス』に、イザークは更に声をかける。

「・・・お前達も、既に『魔力』も限界だろう・・・だが、『魔導騎士』の名に恥じぬよう、全力で守れ!」

「はっ!」

そう言って、シホが去っていくと、アスランは、立ち上がるのもやっとなイザークの腰から、もう一本の剣を取り出した。

「何をする!? アスランッ!!」

「お前は少し下がって休め! 俺がこの場を死守する!」

「貴様ぁ! 銀の鎧もつけていないその身体で、魔族と戦えると思っているのか!?」

 



『銀の鎧』―――『銀』は古来より、『魔避け』の力があるとされ、生まれた赤子に『銀のスプーン』を使って、食べさせたり、大人になる女性に『銀の指輪』を送り、付けるようにする慣習が未だ残っている。

 

「今、動く事も侭ならない、お前に比べたらまだましだ。」

そう言ってイザークに微笑し、アスランは剣を振るい始めた。

 




―――そこへ

 



「大丈夫か!?お前! この『タンタルの実』は『滋養』に効くんだ。かじれば少しは体力が戻るから!」

 

イザークに話し掛ける『少女』の声―――

 

アスランは、ハッとして振り返る。

 





その姿は、紛れもなく―――『カガリ』

 





アスランは魔族を数匹、切り裂くと、慌ててカガリの元に駆け寄った。

「何故ここに来た!? 『来るな』と言っておいただろう!」

アスランの荒げる声に負けず、カガリは涙を溢れさせ、言い放った。

「私は『薬草屋』の娘だ! 戦場で傷ついた者がいれば、少しでもその場で治療できるなら、私でも少しは役に立つだろう!?」




懸命に懇願する『金の瞳』―――

アスランは<フゥ…>っと溜息を一つ付くと、カガリを胸に引き寄せ、そっと呟いた。

「・・・判った。でも、『危険な場所』に一人では行くな。俺の傍にいて。・・・『俺が君を守る』から・・・。」

カガリは<コクン>と頷くと、その場に倒れ負傷し、苦痛の悲鳴を上げる騎士達に、手際よく薬草を使い、治療を始める。

 




(・・・何だ? あの『少女』は、一体・・・。)

 

イザークは、不思議とカガリに与えられた『薬の実』を齧りながら思いだす。

 

『瘴気』にも耐性を持ち、負傷した騎士たちの傷を、あっという間に癒していく―――

 







―――『鍵』と思われる『人物』を連れ出す―――

 







昨夜、アスランが言った言葉―――

 






―――まさか、あの『少女』が、本当に、この村を『魔族から遠ざけていた』のか!?

 







そのイザークの思考を、<グァァァァーーーッ>と鳴き声を上げ、カガリに襲い掛かろうとする魔族の姿が打ち消す。

「おい! お前! 逃げろぉぉー―っ!」

 

その声に<ハッ>とするカガリ。

そして、翡翠の目を見開き、慌ててカガリを助けようとするアスラン。

「カガリィィィーーーーッ!!」

(―――間に合わないっ!)

 




その時―――

 




<ザシュッ!>

 

<グギャァァァァーーー・・・>

 

断末魔の声をあげて、魔族が灰になって消える・・・



そこには、片目に傷を持った、
30代程の男が、大きな太刀を持って、魔族に切りかかっていた。

「―――!? 貴方は!?」

アスランは驚愕の表情で、男を見上げる。

 

「!? 『バルトフェルド』・・・」

カガリは驚いて目を見開く。

 

バルトフェルドはアスランに向き直ると、太刀を振るいながら話し始めた。

「・・・こう見えても『俺』は、『元・魔導騎士』でね・・・。片目を『魔族』との戦闘で傷つけられ、引退したが・・・『君のお父上』には、随分世話になったものだ。」

バルトフェルドは、今度はカガリに向き直り、優しく微笑むと、大声で言った。

「ダコスタ!『レセップス』のテーブルと椅子を、全部どけて、負傷者を運び入れろ!」

 

『レセップス』の中から、ダコスタの「はい!」という声が聴こえる。

 

「カガリ。この中で『治療』を頼む。」

「・・・バルトフェルド・・・」

カガリは大きく頷くと、懸命に負傷した兵士の肩を担ぎ、『レセップス』に連れて行く。

 




「うわぁぁぁーーー!」

<ガシャーン>

「キャァァーーーーッ!」

 

カガリの耳に届く、村人達の悲鳴・・・ガラスの割れる音・・・

それを耐えるようにして、魔族の咆哮の中を、懸命に負傷兵を運び入れ、『薬草』で手当てをする。

 

それをアスランと、バルトフェルドが援護する。

 

だが―――

 

<グワァァァァァ!>

<ウォォォォォーーッ!>

<キシャァーーーーーッ!>

 

魔族の咆哮が、一斉に餌として『弱りきった騎士』の『魂』と『肉体』を求め、襲い掛かる。

 

「うぉぉぉぉーーーっ!」

アスランが剣に『魔法の炎』をかけ、一匹の魔族を仕留めた―――その瞬間―――

『死角』にいた『魔族』が大きな口を開けて、アスランに迫る。

 

<グアァァァァァーーーッ!>

(―――しまった!)

 

「陛下ぁぁぁぁーーーっ!」

バルトフェルドが声を上げる。

 






(―――『これまで』・・・か・・・)

 




アスランが、<ギュッ>と目を閉じた、その時―――!

 







『アスランッ! ダメだ!! 死ぬなぁーーーっ!!』

 







金髪の少女の声に、魔族の動きが止まる。

そして少女の周りから、ワンピースのフリルの入ったスカートの裾を巻き上げるようにして、凄まじい風が起きると<グォォォーーーーッ!!>という咆哮とともに、魔族達が威圧される。

 



次の瞬間・・・アスランの翡翠の瞳に『映ったもの』―――それは・・・

 



意識のなくなった『少女』が<フワリ>と手足をダラリと弛緩させたまま、その身体が仰向けに浮かび上がる。

そして、その少女の周りに、『黒い霧』が集まりだす。

辛うじて見定められる、『少女』から<パリーン・・・>という音とともに、その両腕の白い肌に、幾何学的な『模様』が浮かび上がる。

更に『少女』の『身体の中心』から、音もなく『大きな、まがまがしい『杖』が現れる。

 



「・・・『カガリ』・・・?」

 



アスランが、その翡翠の瞳を見開き、無意識に声をかけると、次の瞬間

 

<バサッ―――>

 

その小さな背中から現れた『黒い大きな翼』

 



騎士達も、『魔族』もまるで『少女』に『時を止められた』様に動かない―――いや、『動けない』

 

『少女』は<フッ・・・>と目を開く

だが、その瞳は、何時もの無邪気で無垢なものではなく、何物も見切ったような、冴え渡る眼光。

 

『少女』はその『黒い翼』を大きく広げて羽ばたき、自分にまとわり付く『黒い霧』を払いのけ、姿勢を正すと、己の身体から沸き出た『(ドル)(イド)』を手にとり、辺りを見回す。

 



<グルルルル・・・ウギャッ!>

様子を伺っていた『魔族』の一匹が、『少女』に襲い掛かると、『少女』は格下の相手に呆れるように、表情一つ変えず、『(ドル)(イド)』を振り下ろす。その途端―――

<ギャァァァァーーー・・・>

「うわぁぁぁっ!」

『魔族』は微塵に砕かれ、灰になり、地面が揺れ、割れる衝撃に、騎士達も巻き込まれる。

 

<グォォォーーーーッ>

<ギャァァァァーーッ>

 

尚も複数で襲い掛かりだした『魔族』に、『少女』は大きく翼をはためかせると、そこから放たれた『黒い羽』一つ一つが、『魔族』にまるで『鋭いナイフ』の様に突き刺さり、他の羽も村の建物や地面に突き刺さる。

 



「・・・『消エロ』・・・」

 



低く冷徹な声とともに、『少女』が『
(ドル)(イド)』を向けると、

<ギャァァァァァーーーーッ!!>

『魔族』の体内から、『黒い羽』が燃え出し、火達磨になった『魔族』が悶え苦しみ、『結界札』を貼ってある家々に、まるで水を求めるようにして、掻き毟りながら灰となって消える・・・。

突き刺さった地面や、建物からも、容赦なく火の手が上がる。

 



だが『少女』はその様子を『無表情』のまま見つめ、<バサッ>と翼をはためかせ、何かを感じたかのように、『教会』の方へと向かう。

 

「カガリッ!!」

アスランは声をかけながら、『少女』の向かう先へ走り出す。

だが『少女』は、何も耳に入らない様に、『教会』へと、飛ぶ。

 



<グォーーーーーッ!>

<グワァーーーーーーッ!>

 

『教会』の結界を破り、『人間』という『餌』を求め群れていた魔族と、魔導騎士達の戦いは続いていた。

「くっそ〜! やってくれるじゃんか!」

息を切らすディアッカに、アスランが大声をあげる。

「ディアッカ!『エルスマン隊』! 直ぐにその場を離れろ!!」

「・・・!?『アスラン』・・・?」

ディアッカの目には、アスランと――そして上空に飛来する『黒い翼』の『少女』

 

「何だ!? あれも『魔族』なのか!?」

ディアッカが見上げるとアスランが大声を出す。




「伏せろぉぉーーーーーっ!」

 

反射的に身体を伏せた、その瞬間―――



『少女』が目を軽く閉じ、<スゥ・・・>と踊るように『
(ドル)(イド)』を振る。

 



と―――

 



<ギャァァァァーーーー・・・・>




あれだけの数と強さを見せ付けていた『魔族』が『少女』の持つ『
(ドル)(イド)』のたった一振りで、全て切り刻まれる。

 

「うわぁっ!! 何だ!?この『衝撃』は!?」

ディアッカが声をあげながら、身体を起す。

 




それだけではない。

強固な『結界札』を貼った『教会』―――『結界』すら破り、『教会』さえも切り崩す。

「キャァーーーッ!」

『教会』から慌てて逃げ出す村人―――

 

やがて<ガラン、ガラン>という音とともに、『教会』の『鐘』と天井が崩れ去った。

 

 





*        *         *

 

 





村に『魔族』の姿は無くなった―――

 

だが、負傷した騎士、そして村人・・・何より、皆が愛した村の家々が、店が・・・無残に『崩壊』している。

 

まだ立ち上がったままの『火の手』、割れた『地面』

 

村人は各々の家や店に向かって走ると、その痛手に泣き崩れる。

 




その状況を、上空から羽をはためかせ、『ボンヤリ』と『カガリ』は見つめた。

 

 

(―――人がいっぱい怪我してる・・・『薬草』・・・あげなきゃ・・・

 


「うっ・・・うぅっ・・・」

       

『マリュー』・・・『泣いてる』・・・『ムゥ兄』の肩に寄り添って・・・

    『ムゥ兄』が悲しそうに見てる・・・『燃えている』のは・・・大事な『揺り篭』・・・

    生まれてくる赤ちゃんに・・・って、『ムゥ兄』が一生懸命作っていたのに・・・

 




「ごめんなさい・・・あなた達・・・助けられなくて・・・」

 

    『ラクス』・・・バラバラになった『お花』・・・集めてる・・・

    綺麗な花・・・『ラクス』の大好きな『花』・・・

 




「・・・・・・・。」

 

    燃え上がっているお店・・・『レセップス』

    中から助け出された負傷兵と『バルトフェルド』が黙って、見上げてる・・・

    『バルトフェルド』が、大好きな『コーヒー』・・・無くなっちゃうよ・・・!

 




「手の空いてるモンは、消火を手伝えーっ!井戸からくみ上げて、早く桶まわすぞーっ」

 

    『マードック』・・・自分も怪我しているのに・・・

    いつも皆の事、先に考えて・・・

 




「お家がぁ・・・お家が燃えちゃったぁ! パパァ! ママァーーッ!」

       

    『フレイ・・・ミリアリア・・・サイ・・・トール・・・カズイ・・・』

    帰る『お家』・・・大事な『お家』・・・無くなっちゃったの?

    『思い出』がいっぱい詰まった、大事な『お家』・・・・・―――――)

 

 

何の感情も映さない『金の瞳』から、熱い雫が自然と溢れ、頬を伝って<ポツポツ>と落ちる・・・。

 

 



「『カガリッ!』」

 

カガリはその声に<ハッ>として、ようやく我を取り戻し、見下ろす。

そこには―――涙で顔をクシャクシャにした―――『マーナ』

 




(―――私! また『マーナ』を泣かせた!! どうして!? 何で!? 私は―――『私』は『何』なんだ!?)

 




ゆっくりと地に下りると、村人が皆、カガリに注目する。

 


手には『
(ドル)(イド)

両腕には見たことのない、『呪詛を施されたかのような模様』

 

そして―――背には『異形の翼』

 



「わ・・・私・・・」

そういいながら後ずさる、カガリ。

 

<カラーン・・・>

金属質な音をたてて、『(ドル)(イド)』が、カガリの手から、滑り落ちる。

すると、『(ドル)(イド)』は霧のように消え、カガリの身体に吸い込まれた。

 

 





「・・・『お前』がやったんだ・・・」

誰からとも無く挙がる声―――

「違う! カガリは『魔族』を退治して、この村を守って―――」

「『化け物』っ!」

アスランの言葉を遮るように、声が挙がる。

 



「そうよ・・・アンタが『お家』、燃やしちゃったのよ! アンタの・・・アンタの所為よ!!」

フレイが涙を流しながら、カガリに怒鳴り、石を投げつける。


「っ!」


石で傷ついたカガリの腕から、血が流れだす。

 



「やめろっ!」

アスランがカガリの前に、立ちふさがろうとするが、村人達はそれを阻むように、カガリに詰め寄る。

「・・・この『魔族』め・・・ずっと俺達を騙して、自分が離れた隙に、『仲間』に餌やろうとしてたのか!?」

「出て行け! 『魔族』! よくも私達の村をメチャクチャにして!!」

「消えろ!『魔族』!この村から出て行け!」

 

 



石が投げられる・・・壊れた建物の木片が投げられる―――

 

 



(あんなに優しかった・・・温かかった村を・・・メチャクチャにしたのは・・・『私』・・・『私』が、『魔族』だったから――――!!)

 

 





「嫌ぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 






カガリは耳を抑え、大きく首を振り、涙を流しながら、悲痛な表情と声を上げ、その『黒い翼』を広げ、宙に舞う。

 



「カガリーーーーーッ!」

アスランの伸ばした手は、カガリに触れることなく、空をきった。

 

 









カガリは追われるようにして、『瘴気』が無くなり、星が輝く漆黒の夜空の中へ消えていった。

 

 

 

 



・・・to be Continued.

 

 

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>ついに『真の姿』と『力』に目覚めたカガリ―――

 かずりん様の美しい『カガリの目覚め』のシーンに、ウットリですv

 このカットだけで、この『第6話』が『ギュギュッ』と詰め込まれていて、正に『美しい』の一言です!

 

しかし…あらぬ汚名に、傷心のカガリの明日はどうなってしまうのか!?

 急げ!アスラン!

 カガリを助けて、『男っぷり』を上げてくれ!!