『CAGALLI』 ― 4th.Tradition.―
「・・・あらあら。・・・でも、その『お申し出』をお受けになったのは、カガリさんご自身の御意志でしょう?」
―――ここは、花屋『エターナル』の2階・・・
長く、美しい髪の、物腰も柔らかな少女が、カガリに『ティーカップ』を差し出しながら、優しく尋ねる。
「でもさぁ・・・ラクスぅ・・・」
差し出された『ティーカップ』を「ありがとう。」といって受け取りながら、カガリは『ラクス』と呼んだ、その長い髪の優しげな少女に向かって、困った表情を見せる。
『ラクス=クライン』―――花屋『エターナル』の看板娘にして、オノゴロ村でも、その美しさと優しさで、カガリと同じく人気を集める少女。
『カガリ』をその無邪気な明るさで『向日葵』に例えるなら、『ラクス』はその優美さから『百合』――と、村の誰もが2人を例える。
同い年の2人は仲がよく、カガリは余程の相談事があると、こうしてラクスを尋ねてくる。
「私はちゃんと『店があるから、村の外に遊びにはいけない』って、言ったんだ・・・その・・・アイツに・・・そうしたら、アイツ、いきなり『クサナギ』に来て、マーナに―――」
―――「申し訳ありませんが、明日、一日、カガリさんを、お借りできませんか? 薬草の事を、もっと勉強したいので。」
「マーナだったら、断ってくれると思ったのに・・・アイツの顔見たら、コロッと表情変えて―――」
―――「まぁまぁ! えぇ! どうぞ連れて行ってくださいな!」
「って、断るどころか、手放しで喜んで、私のこと、アイツに頼んでたんだぞ!・・・何時もは『早く店を手伝え!』って言うくせにさ。」
<ハァー・・・>と溜息を漏らすカガリに、ラクスは微笑みながら尋ねた。
「カガリさんは、お嫌なのですか? その、『アスラン』さんという方とご一緒なのは。」
「別に・・・『嫌』って言うわけじゃないんだけど・・・。」
(・・・何だろう?・・・この『気持ち』・・・)
クッションを抱えながら、呟くカガリに、ラクスは優しく告げた。
「カガリさん・・・悩んでいるのでしたら、まずは『やってみて』は如何ですか?」
「・・・ラクス・・・」
ラクスは笑顔を見せると、顔をあげたカガリに視線をあわせ、言った。
「何事も『体験』してみないと『わからないこと』もありますし・・・。もしかしたらカガリさんの知らなかった『ご自身』を、アスランさんが、もっと見せてくれるかも知れませんわ。」
「・・・うん・・・そうか・・・そうだよな・・・」
カガリが僅かに微笑みを見せ、答えると、ラクスは急に立ち上がり、<パチンッ>と手を合わせると、自分のことのように目を輝かせ、はしゃぎ、楽しげに言った。
「それでしたら、早速『デート』のお洋服を用意しなければなりませんわね!」
「はぁ?・・・で、『でぇと』・・・!?」
初めて聞く言葉に、カガリの頭が<?>で埋まると、ラクスは明るく答えた。
「『デート』とは、お互い想い合う男女が2人でお出かけして、お互いの絆を深める事ですわv」
ラクスの言葉にカガリは途端に顔を赤くし、ラクスを止めに入る。
「ま、ま、待てっ! わ、私は只、『薬草』のことを、教えに行くだけだから! 何時もの服で―――」
「あらあら。『デート』の時には、『オシャレ』をして、殿方を喜ばせる事は大切ですわよ。・・・私の着なくなったものでしたら、汚れても構いませんから♪」
「ちょ、ちょっと、だから! 私は―――!」
『エターナル』の2階では、少女2人の壮絶な(!?)戦いが始まっていた。
* * *
「イザーク・・・いるか?」
「はっ!」
『カグヤ』の城内―――濃紺の髪を振り向かせながら、アスランはイザークに言った。
「すまない。明日、俺はあの『オノゴロ村』が何故襲われないか、その『鍵』を握ると思われる人物を、村の外へ連れ出す。・・・済まないが、お前の部隊を『オノゴロ村』で、待機させていてくれ。」
「それは・・・どういう思考だ?」
納得のいかない表情のイザークに、アスランは告げた。
「もし、その『人物』が、『魔族』を遠ざける『秘密の力』を持っているとしたら、これは今後の『オーブ』の護りにとって、重要な手がかりになるはずだ。その為に・・・頼む。」
「・・・判った。」
一礼して、イザークが去った後、アスランは目を閉じる。
(・・・そう・・・これは『実験』だ・・・王として、この国を護る為の・・・)
瞼の奥に焼きついて離れない、金の髪と無垢な金の瞳―――
心の奥に溢れそうになる彼女への『想い』を、『国の為』という鎖で、懸命に『封印』する。
―――たとえ、その鎖が『外れてしまう』ということを、自ら判っていながら・・・
* * *
次の日の朝―――
『クサナギ』の前には『大きな人だかり』ができていた。
「何だ? この人だかりは!?」
マードックが頭を掻きながら、尋ねると、ダコスタが目を爛々と輝かせて言う。
「ビッグニュースですよ! 何と! あの『はねっかえり娘』のカガリちゃんが『デート』するんで、『おめかし』してるって言うんですよ!!」
「なんだって!? あの嬢ちゃんが!?」
思わず、声をあげたマードックの見つめる『クサナギ』の奥では、暴れる音と、女性数人の争う声が聞えてきた。
「いい加減におし! 折角ラクスちゃんが貸してくれたものを!」
「だって! 村の外に出るなら、アイツ、絶対馬で来ると思うし、これじゃまたがれないぞ! それに『薬草』採るんだから、何時もの服で充分―――!」
「ダメですわ! カガリさん! さぁ、諦めて準備してくださいな。『王子様』がもう直ぐお見えになりますわv」
ラクスの声が終わらないうちに、村の中に、馬のひずめの音が聞えてきた。
「お! 『王子様』が、ご到着だぜ! カガリちゃん!」
ムゥが飄々と声をあげる。
アスランは『クサナギ』に集まる人だかりの前で、不思議そうに声をかける。
「あの・・・何かあったんですか?」
その声にダコスタが笑いながら、答えた。
「見ていて下さいよ・・・ほら! 来た!」
ダコスタが指さした、その先に現れた人物の姿に、アスランをはじめ、村人達も息をのむ。
そこには―――
華奢な肩にキャミソール式の紐をくぐらせ、フリルの入った、膝上までの裾にレースのついた白い『ワンピース』
豊かな胸と相反する細い腰が浮き出るような、腰に巻かれ背中で結ばれた、白い大きな『リボン』
スラリと伸びた、細い足には白い『ミュール』
耳の辺りに伸びた髪を、纏め上げた淡いグリーンの『リボン』
それらを身に纏い、真っ赤な顔をしたカガリがそこに立っていた。
「可愛いよ! カガリちゃん!!」
「よく似合ってるわよ!」
「こんな、可愛い服を着るなんて・・・明日の『オノゴロ』は『雪』だぜ!」
ムゥやマリュー、マードックに合わせ、他の村人からあがる歓声に、更に顔を赤くしたカガリは、肩を震わせると、慌てて店に戻ろうとする。
「〜〜〜〜っ///! だ、だから言ったじゃないか! これじゃ、馬にだって乗れないし! 何時もの服に着替えて―――」
その瞬間
<フワッ・・・>
カガリの両脇に手が伸びてくると、そのままカガリの足が、地から離れる。
そして、カガリはその力強い腕に横抱きにされたまま、馬上に乗せられる。
「・・・こうすれば、スカート。大丈夫だろ?」
穏やかに聞える声の主に、カガリは振り向くと―――直ぐそこには、優しい眼差しの翡翠の瞳。
「ば、ば、ばかっ///!! こ、これじゃ落馬するかもしれないじゃないかっ!!」
耳まで真っ赤なカガリが慌てて言うと、アスランは
「大丈夫。・・・ちゃんと俺が支えてあげてるから・・・だからカガリも俺に掴まってて・・・」
視線を逸らしながら、<コクン>と頷くカガリ。
そこにマーナがバスケットを差し出しながら、声をかける。
「御口にあうか判りませんが、『サンドイッチ』作りましたので、お昼に召し上がってくださいな。」
「すいません。」
アスランの答えに、カガリがバスケットを受け取ると、今度は奥からムゥの声
「カガリ! ほら! 『デザート』だ! 持っていきな!」
そう言って、『リンゴ』を投げる。
「ありがとう。ムゥ兄!」
幾らか和らいだ表情で、カガリが答えると、今度はバルトフェルドが、コルク栓の瓶を差し出す。
「『ブレンド』――と言いたいところだが、カガリの『リクエスト』だ。『オレンジジュース』。持っていってくれ。」
恐る恐るカガリが受け取ると、後ろでダコスタが笑顔で大きく『マル』を出している。
どうやら、心配したコーヒーの『ブレンド』ではなさそうで、カガリも安堵の表情を浮かべる。
「じゃぁ、行ってきます。」
アスランの声に、村人から明るい声が掛かる。
「気をつけてね。」
「楽しんでらっしゃい!」
アスランは愛馬『ジャスティス』に、拍車をかける。
<ヒーヒヒンッ!>
「うわぁっ!」
バスケットを抱えながら、馬上で驚いたカガリは、反射的にアスランの胸に倒れこむようにして、アスランの胸元のシャツを、<ギュッ>と握り締める。
アスランはカガリを安心させるように、その華奢な肩をしっかりと抱き、ジャスティスを走らせた。
その2人の『後姿』を、ハンマーを握ったまま、<ボォ〜・・・>と気が抜けたように、見続けていた、アフメドが哀愁に帯びた声で呟く。
「カガリ・・・何で、あんなヤツに!・・・アイツだって薬草のことなら『マーナさん』に聞けばいいじゃないか!!」
「そう、焼きもち焼くなってんだ! アフメド。 仕方ないだろう。なんてったって相手は『白馬の王子様』なんだから!アレに『マーナ』が乗ったんじゃ、サマにならんだろうが! なんなら『白い馬』飼って、お前も対抗するか!?」
「ガハハ」と笑うマードックに対し、悲しみの表情とともに、アフメドは全身の力が抜ける。
と―――
<ガツンッ!>
「痛ぇっ!」
持っていたハンマーを足に落とす。
「痛ってー!! カガリィ〜!! 薬―――」
「はいよ。」
そういって薬を差し出したのは―――(ゴメンね)とウインクしたマーナだった。
* * *
一方――
初めての馬上の高さと、足の速さに驚き、カガリはアスランの胸にしがみついたまま、離れない。
そんな不安そうに震える彼女の肩を抱く手に、自然と力が入る。
―――心の奥底に鍵をかけて仕舞い込んだはずの『想い』・・・
湧き上がるのを押さえながら、村の入り口で、アスランは冷静に心を落ち着け、周りを見る。
そこでは木にもたれかかっていたイザークがいた。
アスランの『アイコンタクト』を受けると、イザークは黙って礼をとり、村の方へと立ち去った。
* * *
馬を走らせること、数十分―――
「カガリ・・・カガリ・・・ほら、前見てごらん。」
ギュッと目を瞑り、必死にバスケットを抱えていたカガリに、アスランの優しい囁きが聞える。
恐る恐る目を開けたカガリの目の前に、開けた風景―――
「うわぁ・・・」
そこには―――
『一面に広がる草原』
『雲ひとつない青空』
風を切ると、草花の香りが広がり、カガリの鼻をくすぐる。
柔らかな風が、金の髪を撫ぜる。
嬉しそうに今度は前にのめり込んだカガリ。
慌ててアスランはカガリの肩を、強く自分に引き戻す。
「カガリ! それ以上前に出ると、危ないぞ!」
「あ、あ・・・ゴメン・・・」
そう言って、また身体をアスランに預けるカガリ。
その温もりを感じながら、アスランの心はカガリ以上に高鳴っている。
やがて、空を映した大きな湖が、カガリとアスランの眼前に広がった。
* * *
「ここが『ハウメア湖』だよ。」
先に下りたアスランが、そう教えながら、カガリを下ろそうと、手を伸ばす。
カガリはアスランの伸ばした手に掴まりながら、そっとその身をアスランに託す。
馬上から滑り降りるような形で下りてきたカガリを、しっかりとその身体で受け止める。
―――柔らかな肌
華奢な肩
強く抱き締めたら、壊れそうな細い腰
そして・・・抱きとめた瞬間感じた、胸のふくらみと、アスランの鼻をくすぐる甘い香りの金の髪
それらに感じる愛おしさが、「また一つ」―――『心の奥の鎖』を切った・・・
「わぁ! 凄いぞ! アスラン!!」
ジャスティスを自由にさせたアスランの耳に、はしゃぐカガリの声が響き渡る。
カガリは『ミュール』を脱ぎ捨て、パシャパシャと湖に飛沫を上げながら、生き生きとした表情で、嬉しそうに、無邪気に水とたわむれる。
アスランはまたも、その少女の姿に目を奪われた。
(―――どこかで・・・『同じような物』を見た気がする・・・)
そうだ―――城の教会の天井画
『一人の生まれたままの姿の女神が、嬉しそうに水と戯れ、天使が慌てて服を着せようとしている』
確か題名は―――『Spotless−無垢−』
その名と同じ光景が、今、自分の前にある。
―――君は・・・『女神』・・・?
そう考えていたアスランに、<ビシャッ>と水しぶきがかかる。
「うわっ!」
「あはははは! ボ〜っとしているのが悪いんだぞ! アスラン!」
カガリの無邪気な笑顔と声。
「よし・・・待ってろよ!」
アスランも、シャツの袖とズボンの裾をまくり、カガリの後を追いかけた。
―――他の誰もいない――『2人だけの空間』
湖には、子供のようにはしゃぎ、笑う2人の声と、水音だけが広がっていた。
・・・to be Continued.
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>おぉ!『実力行使(?)』で、ついにアスラン陛下、「カガリたん『お持ち帰り!』」ですか!?
(『お持ち帰り』じゃなくて、『かっさらい』といった方が・・・^^;)
Namiは正直、『女の子』服って詳しく知らないんですよ(汗
殆ど姫と同じように身軽な『Tシャツにジーンズ』みたいな格好がメインなので・・・(^^ゞ
今回のカガリたんの衣装については、かずりん様と、珍しく(!?)「服装資料」について一緒に検討させて戴きました。
流石「かずりん様」!!Namiの不甲斐ない文章が、イラストで見事に引き立っております!!
たまには、可愛らしい格好のカガリたんもいいなぁvv(・・・と、イラストだけ、眺める人)
・・・それにしても『イチャイチャ・バカップル』状態・・・
書いてて背中が痒くなりました^^;