『CAGALLI』 ― 2nd.Tradition.―
今日もまた、『オノゴロ村』には、金色の髪を靡かせた少女の、元気な声が響いていた。
「よぉ! 嬢ちゃん!」
「あ! マードックのオッサン! 身体の調子はどうだ?」
金髪の少女――カガリに声をかけたのは、自分が営む『修理屋』の店先で、『荷馬車』の修理をしていたマードック。
「お陰さまでな! 昨日は助かったぜ。やっぱり嬢ちゃんの薬は、一番良く効くぜ!」
「『薬』・・・じゃなくて『説教』の方か? どっちにしろ、おっさんも若くはないんだから、ウチの薬が効いている間に『禁酒』しろよ! それ以上飲みすぎると、身体に毒だし、薬が効かなくなったら、あとは『説教』しかウチにはないぞ!」
「ははは! やっぱり嬢ちゃんには、敵わないな!」
「ガハハ!」と大きな声で笑うマードックに、少し怒った表情の後、一緒に笑うカガリに、一人の少年が、頬を紅潮させ、近づいてきた。
「あ、あ、あ、あの・・・か、か、カガリっ!!///」
「?・・・何だ?どうした? アフメド。」
「っこ、こ、こ、これっ!///」
カガリに『アフメド』と呼ばれた、カガリと同い年頃の少年は、一枚の手紙をカガリに押し付けると、ろくに目も合わせず、耳まで真っ赤にして、慌ててマードックの『修理屋』の店奥に走り去った。
カガリは「キョトン」としながら、頭に「?」の字を浮かべると、歩きながらその手紙を読み始めた。
「何々…『カガリさん。今度、是非一緒に、『レセップス』でお茶でも如何ですか?』・・・って、これぐらいだったら、紙に書かないで、自分の口で言えば早いのに・・・。」
「判ってないね〜 カガリは。」
カガリがその声に振り向くと、丁度そこは『レセップス』のまん前。そこには片目に傷跡のある30代前半…といったところの男が、<やれやれ>といった表情で、カガリを見つめていた。
「なんだよ…バルトフェルド。何が「判ってないねぇ〜」だよ!」
むくれたカガリに、バルトフェルドは余裕たっぷりの表情で答える。
「いやいや・・・カガリは、年頃なんだから、もう少し『男の心理』ってものを知らなきゃいかん、と思ってな。…よければ俺が『レクチャー』してやってもいいが?」
そう言って笑うバルトフェルドに、<ジト〜…>っと、「冷ややかな視線」を送りながら、カガリは言った。
「何の『レクチャー』か知らんが…その前に、『お前』が『店の外にいる』ってことは、「そろそろ『例の時間』」・・・だな。」
「ほぉ・・・だが、今日は『自信作』だから、君の世話にはならんと思うがね。」
余裕たっぷりのバルトフェルドに、カガリは目を閉じると、大きく深呼吸して呟き始めた。
「いくぞ。・・・3・・・2・・・1・・・」
その瞬間―――
<バタン!>と店の扉が開くと、赤毛の若い男が、青い顔をし、口元を押さえながら、
「ふ、ふぃまふぇん!まふふぁー!(訳:す、すいません!マスター!)」
と言って、『クサナギ』に向かって、全速力で走っていった。
「あ〜ぁ・・・やっぱり『ブレンド』の『失敗作』かよ・・・。バルトフェルドの『何とかのレクチャー』の前に、私が『コーヒー』入れる『レクチャー』したほうが、まだ良いんじゃないか?」
走り去るダコスタの後姿を見送りながら、カガリは尚も続けた。
「『レセップス』に行くときは、私は絶対『コーヒー』飲まないからな! 『オレンジジュース』で勘弁してやる!」
そう笑うカガリに、バルトフェルドは尚も食い下がる。
「いやいや・・・じゃあ、カガリちゃん特製に、『ミックス・フルーツジュース』でも、『ブレンド』してやろうか?」
だが、カガリは『クサナギ』に向かって歩き出し、振り向きながら笑顔でバルトフェルドに言った。
「『ブレンド』は考えておくっ! とりあえず、『今日も『薬草』買ってくれて、毎度ありがとうございました!』」
そのまま<クルッ>と踵を返すと、カガリは『クサナギ』へと走り出す。
「・・・やれやれ・・・」
苦笑を浮かべると、バルトフェルドは、その小さな背中を微笑みながら、見送った。
「ただいまー!」
青い顔の『ダコスタ』と入れ違いに、元気よく『クサナギ』に帰ってきたカガリは、薬壷の中の薬草を確かめる。
「『チコリの実』・・・『シスキルの葉』・・・は、まだ大丈夫だな。あとは・・・」
カガリは薬草の量を確かめると、同じ店の中で、お客を相手にしていたマーナに、声をかけた。
「マーナ! 『カラブの葉』が少ないから、今の内に、裏山の『森』へ行って、摘んでくる!」
「まぁまぁ。カガリ! 気をつけていくんだよ! 最近『魔物』が出てるって噂だし…。」
マーナの声に「だーい丈夫だって!」と答えながら、籠を下げ、カガリは店を飛び出した。
* * *
「――だからさー! 行こうよ! 本当に俺たちの『秘密基地』にしようぜ!」
「で、でもさ、トール・・・「森には、ま、『まもの』がでる」って、母さんが・・・」
「何、怖がってんだよー。カズイ。」
村の端―――森の入り口付近で、5,6歳位の少年少女が集まり、ワイワイと話していた。
「・・・大体、カズイは『怖がり過ぎ』るんだよ! この前も、自分の影見て『オバケだ―』って泣いたりしてさー。」
「もう止めろよ。トール。」
そう言って、先ほどから、『森の探検』をしたがる、やんちゃなトールに、年上のサイが注意を促す。
「でも、本当に『オバケ』がでるかもよ〜♪」
そう言って、カズイの顔を、悪戯っぽく覗き込む、女の子―――ミリアリア
益々及び腰のカズイに対して
「『森』に行くなら、私は『パス!』しておくわ。…だって『お洋服』汚れちゃうもん!」
そう言って、自慢の赤い髪を優雅に靡かせる―――フレイ
「じゃぁ、『決まり』な! フレイとカズイ以外は、俺が見つけた『秘密基地』に行こうぜ!」
「「「オォーッ!」」」
走り出した子供達に、フレイは「ふん!」と言って村に戻る。
「ま、待ってよ〜!!」
フレイと、別れた他の子供達の行く先々を、キョロキョロ首を振り、見比べていたカズイは、慌てて、サイ達の後を追った。
* * *
「な…なんか、薄暗いね…。」
「そりゃそうよ。だって『森』の中だもの。」
おっかなびっくりのカズイに、ミリアリアが呆れたように声をかける。
「でも、トール・・・その『秘密基地』にできるっていう『洞穴』、何処にあるんだ?」
サイの言葉に、得意げな顔をしたトールが鼻を擦りながら、自慢気に答えた。
「もうちょっとだって! いいか・・・ほら!見えてきた!」
トールの指さした先には、山肌に面した処にポッカリと空いた、直系3メートルほどの穴。
「な! 本当にあっただろ!?」
「すごーい!」
得意げなトールに、サイやミリアリア、カズイも目を光らせる。
「何かあったときはさ、ここに逃げ込めるし。」
「ねぇ!『宝箱』も此処に置きましょうよ!」
子供達の感嘆の声があがった、その時―――
<グルルルルル・・・>
「・・・ん? ・・・何か、今、動物の『唸り声』みたいなの、聞えなかったか?」
サイの声に、子供達のはしゃぐ声が、一瞬止まる。
<グルルル・・・>
唸り声とともに、<ズシン、ズシン>と、『洞穴』の奥から響く音―――
子供達は、恐る恐る『洞穴』の中を覗きこむ。
そこには――――
暗闇の中に光る、『赤い目玉』
そして、耳元まで裂けた様な『大きな口』
それら全ての姿が、『洞穴』の外の、明るみに出る。
「――――っ!!」
そこには巨大な『人に似た』身体に、3つの頭に一つずつの目、大きな牙を持った、耳元まで裂けたような口からヨダレをたらした、『異形の化物』
「お、お、お化けだぁぁぁぁ!」
「キャァァァァァーーーッ!」
「み、みんな! 早く逃げるんだ!」
サイが咄嗟に放った声に弾かれ、子供達は、一斉に村に向かって走り出した。
* * *
「・・・ん?」
裏山の森の中で、薬草を摘んでいたカガリに耳に、小さな女の子の悲鳴が飛び込んできた。
(・・・何かあったのかな・・・?)
山肌から、山道にカガリが降りていくと、森の奥から子供達が血相を変え、走ってきた。
「どうしたんだ!?お前ら!!」
「カガリィーーーーーッ!!」
子供達はようやく僅かな『安堵』が得られたように、<ギュッ>とカガリの服を掴む。
「お、『お化け』が―――っ!!」
トールが必死に説明する間もなく、カガリにも、そのモノが近づいてくる<ズシン!>という振動と、その全身の姿が目に入った。
「―――! あれは、『魔物』!?」
全身2メートルは越えるであろう、『異形の化物』が、明らかに『獲物』を狙って近づいてくる。
そして――――
<キシャァァァァッ!>
カガリが上を見上げると、巨大なコウモリの羽がついた、虎のような『魔物』が、もう一匹上空から、カガリ達を狙って急降下してくる。
カガリは子供達に叫んだ。
「いいか!お前ら! 絶対振り向くな! 前だけ見て、全力で走れ! さぁ行けっ!」
カガリの声に子供達は、泣きながら、懸命に走る。
カガリは、果敢にも、山道に落ちていた太い『棒切れ』を掴むと、必死に振り回した。
「あっちへ行けーーーーっ!」
闇雲に『棒切れ』を振り回すカガリ。
・・・だが、何故だか、一瞬『魔物』たちが、何か驚いたように、動きが鈍り、怯んだ。
その次の瞬間―――
「うわぁっ!」
逃げる途中で転んだカズイ―――それを見た、上空の『魔物』が、カズイめがけて、襲いかかろうとした。
「!? カズイーーッ!!」
カガリが『棒切れ』を投げ捨て、カズイの上から身を呈して覆い被さる。
「キャァァァーーーッ!」
ミリアリアの悲鳴。
「――――――っ!!」
カガリも<ギュッ>と目を閉じる。
だが、その時―――
<スパ――――ン・・・>
<グギャァァァァッ!>
何かが切られるような、鋭い刃物の音に続いて、『魔物』の悲鳴が轟く。
カガリが恐る恐る頭をあげると、そこには―――
銀色に鈍く光る『甲冑』
銀に輝く剣
そして―――風に靡く、肩口ほどに伸びた濃紺の髪
「今のうちに行け!」
その凛とした男の声に、カガリはカズイを立たせると、子供達に「早く行けっ!」と声を挙げる。
子供達は、一斉に、森の外へ逃げ延びた。
『甲冑』の男は、3つ首の『魔物』に容赦なく剣を振り下ろす。
<ギャァァァァッ!>
血飛沫をあげ、怯む『魔物』―――だがその隙に、空を飛んでいた、もう一匹の『魔物』が、男めがけて、鋭い爪を伸ばす。
「危ないっ!」
カガリは足元に転がっていた、先程の『棒切れ』を掴み、咄嗟にその『魔物』めがけて投げつけた。
<ギャッ!>
『棒切れ』はダイレクトに当たったものの、僅かに男の腕を爪が霞め、傷から鮮血が飛び散る。
「クッ!」
男は僅かに表情を歪ませたが、直ぐに剣を持ち直すと、目を瞑り、小さく『呪文』を唱え始めた。
『―――我が3界の恵みを受けし者、この刃に力を!』
男は剣を天に向け、叫んだ。
<トルネード!>
すると、男のマントがフワリと風に靡き始める・・・
だが、次にはその風が男を取り巻く、無数の『風の刃』となって、『魔物達』を切り刻んだ。
<ギャァァァァァーーーーーーー・・・・・・・>
<ドスン!>という音とともに、『魔物達』はその場に崩れ落ち、たちまち『灰』の様になって、消えていった。
男は剣を納めると、呆然とその様子を見ていたカガリに近づいて強い口調で言い放った。
「何故こんな処にいる! こんな人気のない中にいたら、『魔族』が現れるとは思わなかったのか!? ましてや子供まで連れて!!」
端正な顔立ちに、翡翠の瞳―――その瞳に怒りを映しながらいう、その男に、カガリは負けじと声を荒げる。
「私は、『薬草』を採りに来ていただけだ! そうしたら、子供達が『魔物』に襲われていて…大体、私は初めて『魔族』ってものを見たんだから、何が何だか判る訳ないだろう!?」
大きな金の瞳が、翡翠の瞳を睨み返す。
男は小さく溜息をつくと、甲冑を外し、先程『魔族』につけられた傷に手を向けて、呪文を唱える。
『我が身守りしものの加護を・・・<ヒール>』
鮮血が滲む、切り裂かれた傷は、みるみる塞がっていく。
だが、完全に血がとまる前に、その回復が止まった。
「――――っ!」
(・・・今朝から『魔族』との戦いが続いて…『魔力』が残っていない・・・か・・・)
そんな男の様子を見ると、カガリは放り出していた『薬草』の入った籠を持って、男の傍に行き、
ガーゼに『薬草』を詰め込んだ。
「・・・何するつもりだ・・・?」
男の言葉にカガリは手を休めず、『薬草』をガーゼに詰め込む作業を続けながら言った。
「これは『カラブの葉』っていって、『傷』によく効くんだ。」
そう言って、カガリは男の傷口に、『カラブの葉』のエキスが染み込んだ『ガーゼ』を当てようとする。
だが、男は
「よせ。・・・そんな事をしても、何の効果もない・・・。」
だがカガリも負けてはいない。金の瞳は尚も強く、僅かに涙を湛えながら言った。
「いいから、やらせろよ! ・・・これじゃ、お前に『借り』の作りっぱなしじゃないか! 少しは返させろ!」
そう言って、無理やり男の傷口に『ガーゼ』をあてる。
すると・・・
「―――――っ!?」
男は目を見張った。
カガリが『ガーゼ』をあてたところから、みるみる傷口は塞がり、まるで傷一つさえ負っていなかったかのように、治った。
「ほら! 言っただろ! マーナにちゃんと習ったんだから! 『カラブの葉』は、どんな傷にも良く効くって!」
先程の涙を湛えた金の瞳は、今度は得意げになって、翡翠の瞳を覗きこんだ。
(・・・『魔族』につけられた『傷』は、『瘴気』を持っている為、それを除かなければいけない…ゆえに、只の『薬』では効かないはず!? なのに・・・何故この『少女』は――――)
カガリは、薬草を包んだ『ガーゼ』を、自分の服の袖を裂き、包帯代わりに男の腕に巻いた。
「よし! これでもう大丈夫だぞ!」
光を集めるような「笑顔」―――
一瞬、その光に目を奪われそうになりながら、男は話し出した。
「君・・・「『魔族』を初めて見た」と言っていたな。」
「あぁ。今が『生まれて初めて』だぞ。」
なんの曇りもなく答える少女―――だが、今度はその少女から、質問が飛び出した。
「なぁ、お前・・・『魔法』・・・使えるのか?」
男は何時の間にか、穏やかな空気に包まれたように、優しく語り始めた。
「あぁ・・・。」
「でも・・・こんな『鎧』着て・・・そして『魔法』も使って―――」
「俺は『魔導騎士』なんだ。」
「・・・? 『まどうきし』!?」
キョトンとした少女に、男は微笑んで答えた。
「まぁ言ってみれば、『魔族』と戦うには、只『剣』を振るうだけじゃ、駄目なんだ。・・・時折こうして『魔法』も使わないと、倒せない事もあるから。もっとも騎士全員が『魔法』を持てる訳じゃない。 『使える者』がこうして『魔族』と『魔法』で戦えるんだ。」
ふんふん、と頷きながら、少女は大きな金の瞳を輝かせて、尚も尋ねる。
「で、どうして、一人でこんな処にいるんだ? あ、『自由騎士』ってやつか?」
「あぁ・・・そんなところだな・・・。」
そう言って視線を逸らす男―――だが
「偉いな! お前!」
突然の少女の声に、男は驚いて目を見開く。
「だって、『魔法』って・・・良く判らないが、皆が持てる訳じゃなくて・・・だから、『魔族』と戦えるって人は少ないんだろ!? 普通は持っていても怖くて嫌がるぞ! でもお前は『皆を護る為』に戦うって、凄い大変な事やって・・・凄い事だぞ!」
目を輝かせる少女に、その翡翠の瞳を一瞬見開くと、穏やかに男も答える。
「君だって、『薬』で、こうして人の苦しみを、和らげているんだ。・・・君も凄いよ。」
男の言葉に、一瞬少女は頬を赤らめると、慌てて立ち上がった。
「早く、マーナのところへ帰らなきゃ! 子供たちも心配だし・・・。」
そう言って立ち去ろうとする少女に、男は慌てて声をかけた。
「なぁ! 本当に、君のいる村は、『魔族』に襲われた事はないんだな!?」
金の髪を翻し、少女は言った。
「うん! 一度も見たことないぞ!」
(・・・『まだ』?・・・『一度も』?・・・)
考え込む男に、少女は声をかけた。
「私は『カガリ』だ! お前は?」
「…『アスラン』。」
『カガリ』―――
そう名乗った少女は、アスランに手を振りながら、山道を村の方へ向かって行った。
(・・・これだけ『魔族』が横行しているのに、まだ『魔族』に襲われていない『村』・・・そして・・・あの時―――『魔族』が子供を襲おうとしたとき、あの娘が立ちはだかった瞬間、『魔族』が攻撃を躊躇・・・いや、『恐れた?』ようにみえたが・・・それに―――)
アスランは腕に巻かれた『布の切れ端』を摩りながら、更に考える。
(・・・『魔族』から受けた『傷』をたちどころに治してしまう・・・『力?』・・・)
その手当てされた傷の辺りは、痛みではなく、『治癒魔法』がかけられたときと同じように、温かかった。
アスランは、カガリの去った方を見つめたまま、思考をめぐらせる。
(・・・『カガリ』・・・『君』は・・・一体・・・)
・・・to be Continued.
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>・・・ってな訳で、ついに『運命の出会い』(!?:24話ですか?:笑)をした2人・・・。
まだまだ、お互いを「意識」する―――までには至りませんが、これからこの2人に、どんな運命が待ち受けるのか・・・。
それ以上に活躍してくれた『カズイ』!
ここまで『カズイ』を活躍させたSSって・・・多分ないだろう(^o^)
アスカガ2人の『出会いのキューピッド』になりでもしたら・・・『カズイ』君!アンタが『大賞』だよ(笑)