『CAGALLI』 ― 1st.Tradition.―
―――未だ、天と地と魔が分れたる以前・・・
その日、天界の『大神殿』の前には、各地から神々が集まり、『その時』を、今か今かと待ちわびていた。
『天使達』は、その大なる翼で、あちらこちらから、籠の中に、咲き誇った花を集め、『大神殿』の屋根に集い、笑顔で『その時』を待ちながら、『祝福の歌』を歌う。
「もう直ぐか? 『神王』の『御子様』の『ご誕生』は。」
「先ほど、『ヴィア』様が、神殿奥の『産所』に入られた・・・とか。」
「今、暫く・・・といったところか・・・。」
笑顔で話す神々―――
そして・・・
『大神殿』の奥―――『産所』では、一人の女神が、苦しみに耐えるようにして、激しく息を荒げていた。
「――――っ! あぁっ!」
「いま少し。いま少しですぞ!『ヴィア』様!」
立ち会う老齢の女神達が、産湯を運び、『ヴィア』の仰け反る身体を押さえる。
「はぁ、はぁ…んっ! あぁぁぁぁぁーーーっ!」
「今ですぞ!ヴィア様! 思い切り、いきみなされ!」
その言葉に促されたヴィアは、歯を食いしばり、残された力で、懸命にいきむ。
「くぅっ!! ――――っ!! あぁーーーーーっ!!」
その次の瞬間
「ンギャァ! オギャァ!」
『産所』の外にまで、もれ聞える、元気な赤子の声。
そして、立ち会う女神達が、驚きと感嘆の声をあげる。
「おぉ! …これはなんと、まぁ!…」
産所から、急ぎ『王の間』に駆け込んだ、若い女神が、その玉座に座る『神王』に、笑顔で喜びの声をあげた。
「『ユーレン』様! お生まれに! 『御子様』がお生まれになりました!」
「そうか。」
落ち着き払った、神々の王――『ユーレン』は、「お早く!」と促す、急ぎ足の女神の後を、威厳を保ちながら、ゆっくりと歩いていく。
「生まれたか。」
ユーレンが、産所に入ると、ヴィアに付き添っていた女神達が、一斉に礼をとる。
「男か? 女か?」
ユーレンが、ヴィアのベッドに近づくと、ヴィアが嬉しそうな微笑みを向ける。
「…あなた。」
ユーレンはヴィアに穏やかな目を向けると、「良く頑張ったな…」と微笑みを浮かべる。
だが、『産湯』をつかわせた『我が子』を、女神達が連れ、ヴィアの横に寝かせると、ユーレンの顔つきが、一瞬にして変った。
「フギャァ! ンギャァ!」
「オギャァ! フギァッ!」
―――ヴィアの隣に寝かされた『我が子』は――――『2人』
「…なんとまぁ、2人して、私の事を苦しめてくださったのですよ。」
微笑みを溢れさせながら、『大母神――ヴィア』は、そっとその手を、愛しげに『御子達』にのばし、優しく、その柔らかな頬を撫ぜる。
だが、ユーレンは我が子に触れることなく、顔色を変え、付き添っていた一人の女神に伝えた。
「…『先見』の女神を、これへ呼べ。」
「? ユーレン様? 如何なさって―――」
「いいから早く呼んでまいれ!」
声を荒げるユーレンに弾かれたように、女神は慌てて『先見』の女神を呼んだ。
「…?…あなた…?」
我が子に触れもせず、表情も固いままのユーレンに、ヴィアはふと、不安を感じた。
* * *
やがてヴィアと、『御子達』のもとに、貫禄のある、老女神――『先見』の女神が現れた。
「…あなた…一体、何を…?」
「お前は黙っていろ!」
戸惑うヴィアに、厳しい言葉を浴びせると、ユーレンは『先見』の女神に尋ねた。
「…どうだ…『見えた』か?」
『先見』の女神は、水晶球を覗くと、しわがれ声で答えた。
「…『これ』をご覧あそばしませ…王よ…。」
『先見』の女神が、水晶球をユーレンに差し出すと、2人の子の内、1人からは『眩い光』が、身体から溢れかえっていた。
「この『男御子様』には、この『天界』に幸をもたらす、眩いばかりの『力』が溢れております。…しかし…こちらの『女御子様』には…」
「―――っ!」
ユーレンは絶句する。
もう1人の『女御子』の姿は―――『見えない』
いや、『見えない』のではなく、『黒き闇』に包まれていた。
「…これを、『何』と見る?」
ユーレンの言葉に、『先見』の女神は、ゆっくりと答える。
「…もうじき、『あの忌まわしい門』が開かれる時…その『影響』が、この『天界』に現れたのではないか…と。」
「…わかった…。」
そうすると、ユーレンはヴィアの隣に眠る、『男御子』を抱くと、ヴィアに背を向けた。
「あなた! その子を何処へ!?」
声を荒げるヴィアに、何も告げず、ユーレンはヴィアの産所を後にした。
ヴィア一人を残し、産所にいた女神達を呼び出すと、ユーレンはハッキリと言い放った。
「…生まれたのは、この『男御子』だけだ。…そしてヴィアは、『この子の誕生とともに、命を引き取った』…よいな?」
女神達は、ユーレンの言葉に慌てふためく。
「神王様!? それはどういう事でございますか!? ヴィア様は!もう一人の『女御子』様は―――」
言いかけた女神に、鋭い威圧感を持った視線を向けると、女神達は一斉に身をすくめ、ただ頷くしかなかった。
* * *
『大神殿』の前にて、『その時』を待ちわびていた神々の前に姿を現したユーレンは、『男御子』を高々と挙げると、皆に告げた。
「この『男御子』の名は――『キラ』! 眩いばかりの光を放ち、この『天界』に、多くの幸をもたらすであろう!」
ユーレンの言葉に、神々は、一斉に歓喜の声を挙げる。
上からは『天使達』が、先ほど摘んできた花を撒き、その『誕生』を祝う歌を歌い、祝福の宴が始った。
「…しかし、これで、天界も安泰だろう。…あの『御子』様には、強い『光』を感じる。」
「だが…おいたわしい…ヴィア様が、お命を落とされるとは…」
既に、ユーレンから、キラの誕生とともに、ヴィアの訃報を同時に聞かされ、神々は嬉しさの中にも、悲しみの声が募っていた。
「しかし、あのヴィア様が、お命をかけて、お産みあそばした『御子様』じゃ! 我らもヴィア様のために、『御子様』と『天界』のために、励まねばならぬな。」
神々はその言葉に、強く頷いた。
* * *
『大神殿』の中の『冷たい牢獄』―――
ヴィアと、もう一人の『女御子』は、その中にいた。
―――(何の祝福も受けられず…この子が一体、何をしたというのですか!?)
ヴィアが涙を零し、我が子の小さな頬に触れていると、やがて…
<カツン、カツン…>
『牢獄』の石廊下を歩んでくる音が聞えた。
牢獄の前に立っているのは―――夫である『ユーレン』
「あなた! どうしてこんな仕打ちを受けなければならないのですか!? 何の罪も無いこの子を!」
ヴィアが鉄格子の向こうから、ユーレンに問い掛けると、ユーレンは冷たく言い放った。
「…その子は、『闇』を映した…この『天界』に『双子』は『吉凶』を分けたる『禁忌』の証…。お前も知っているであろう…『千年に一度』の『忌まわしき日』が迫っている事を…。その子はその『闇』――悪しき者の『証』。…そして、その『禁忌』を生んだ、お前も同罪…。」
ユーレンは牢に入ると、赤子の腕を乱暴に掴み、呪文を唱えた。
「ギャァッ! オギャァッ!」
「あなた! 何をなさるのです!? おやめください!!」
その痛みに苦しむ我が子を守ろうとするヴィア。
だが、彼女もまた、同じく夫の手によって、力を封じられた。
* * *
<ピシャッ! ゴロゴロ・・・>
「まぁまぁ!なんて雷なんでしょう。」
買い物をしていたマーナが、思わず呟く。
「…あれは『神鳴』っていうらしいぜ。」
マーナの買った野菜や果物を、袋に詰めてやっていた、金髪の歳若い青年――ムゥが、ふと言葉を漏らす。
「何でも『天の神様』が、『お怒り』の時に、起きるんだとさ。…全く、いい迷惑だよな。…ほら! マーナさん。早く帰ったほうがいいぜ。」
「あらあら…ありがとね。」
ムゥから袋を受け取ると、マーナは急ぎ足で、『薬草』を扱う『自分の店』へと、駆け足で戻った。
<ゴロゴロゴロ……>
「まぁまぁ…何でしょう。この『オノゴロ村』には、今までだって、こんな激しい雷なんて、起こった事もないのにねぇ…」
マーナが呟きかけた、その瞬間―――
<―――『カッ!』―――>
「キャァッ!」
眩しいばかりの激しい落雷が、マーナの店の裏に落ちた。
マーナが震えながら、雷が去るのを待っていると、やがて空から雲の切れ間が、見え始めた。
(ふぅ…これなら大丈夫でしょうけど…そうそう! 裏の薬草は燃えていないかしら!?)
そう思い、マーナはいそいそと、裏の山に入っていった。
その時―――
「…オギャァ…ンギャァ…」
かすかに聞える、『赤子』らしき声…
(まぁまぁ…こんな処に、『赤子』などいる訳が―――)
そう思いながらも、マーナが声のほうに進んでいくと・・・
「―――――っ!! まぁまぁ! なんて事でしょう!」
見れば、歳若い女性と、その女性が大事に抱いている―――『赤子』が一人…
「もし! 大丈夫ですか!? もし!」
マーナが女性を抱き上げながら、声をかけると、女性は微かに聞える声で、マーナに言った。
「私は…『この子』を…守るためだけに…力を使って…もう力は残っていません…」
「何いってるんだい! 大丈夫! 私の家で休めば―――」
言いかけたマーナに、女性は首を振ると、儚げな微笑みで、マーナに言った。
「…この子は『悪しき者』ではありません・・・きっと・・・暗闇に光を灯す・・・『カガリ』・・・」
そう言ってマーナに『赤子』を手渡すと、安心した表情で、女性は息を引き取った。
「ちょいと! あんた! しっかりおし!」
女性は優しい笑みを残したまま、その身体が黄金色に輝く、霧のように、淡い光を放ちながら、天へと消えていった…。
(…これは…夢…?)
そう思うマーナの手には、先ほどまで泣いていた『赤子』が、無垢な表情で眠っていた・・・
* * *
―――それから、16年の年月が流れた…
「…あの〜…『ゼイオの葉』くれないかなぁ〜。」
「おい。また『二日酔い』か!? マードックのおっさん! いい加減にしないと、今度は私が『酒屋』に『手配書』回すぞ!」
「そんなこと言わないでくれよぉ〜。全く手厳しいなぁ。」
すまなそうに、しかし、笑いながら頭を下げる男――マードックに、一人の『少女』が一瞬の膨れっ面を見せると、笑いながら、薬草を取り出す。
「100グラム、『750アースダラー』な!」
ややハスキーな声が、元気に薬草を渡す。
「…相変わらず、忙しそうね。」
柔和な声の女性が、少女に声をかける。
「あ、マリュー! いらっしゃい! …てことは、またムゥ兄、怪我したのか?」
少女の呆れ声に、マリューも苦笑する。
「えぇ…全く、不器用なのに、「『赤ちゃんの揺り篭』は、俺が作る!」って言い張るから…。」
少女は笑いながら…しかし今度は優しい微笑みで、マリューのお腹を触る。
「…もう直ぐ会えるかな?」
「えぇ。あと2ヶ月くらいかしらね。」
「きっとお母さんに似て、美人だぞ! あ、でもムゥ兄みたいな、軽い性格にだけはなるなよ!」
そう言って、マリューのお腹を優しく摩る少女に、マリュー自身も笑い出す。
その時――――
「あ!」
少女は慌てて、店の中に戻る。
「マーナ! 私、薬草、配達に行く時間だから、店番代わってくれ!」
「まぁまぁ、なんです! もうちょっと、言葉に気をつけなさい!」
マーナの注意もなんのその。 元気に薬草の入った籠を持つと、あっという間に、店から少女は飛び出した。
「…元気ね。相変わらず。」
マリューがマーナに微笑む。
「本当に。…元気だけが「取柄」みたいな子だから。」
「でも―――」
少女の背を見送りながら、マリューが呟く。
「不思議だわ…「あの子」がいるだけで、この『オノゴロ』の村が、明るくて、穏やかで、優しくなっている気がするの…」
「お、『薬草』の配達だね。」
「気をつけてな! 転ぶんじゃないよ!」
「この前の薬草、とっても効いたよ。また、店に行くからね。」
少女が通り過ぎる度に、村人から明るい声が掛かる。
その声に少女は、大きな金の瞳で見つめ返し、頷きながら、手を振り、満面の笑みで答える。
―――風に靡く、『金の髪』
汚れを知らない、大きな無垢の『金の瞳』
柔らかな白い肌に、リンゴのような、赤みのさす頬
その無邪気な『笑顔』が、誰の心にも『一番の薬』で癒している事にも気付かない、明るく、美しい少女
―――その名は、『カガリ』―――
未だ、己の『宿命』を知らない、16歳の少女―――
・・・to be Continued.
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>さぁ!また何だか始まってしまいました! 恒例(!?)『Harf Moon』の『かずりん様』とのコラボ―――『もの凄いエセ』な『ファンタジー』SS・・・
その名も―――『CAGALLI』! 一発で、カガリ贔屓が良く判ります(笑)
オマケに『無印キャラ』しか出てこない!(笑:種Dファンの方、すいませんっ!!)
これから『カガリ』に、どんな『ドラマ』が待っているのか・・・?
・・・なんて大げさな事は気にせず、いつも通り、「かずりん様」の美しいイラストに、酔いしれてくださいませ〜v