「残り十秒…」

ぎゅっと目を閉じ、同じくらい力が入った両手で、カガリは必死に携帯を握りしめる。

(あと、五秒、四、)

つい待ちきれずに薄目で画面をチラリ。

517日 2359

ゴシック文字の待ち受け画面の時刻は動かない。またぎゅっと目を閉じる。

(三、二、一!)

ゼロ!と来たところで思いっきり両目を開いて画面に食い入るものの

518日 000

のゴシック文字の内容が変わっただけ。メッセージの着信を告げる音もなし。

「はー…そりゃそうだよな…」

大戦が終結し、それでもまだあちこちに、小さい火種が燻ぶっている今、悠長にこんなことを待ってはいられない。

「…ただ一言が欲しいだけなんだけどな…」

それでもドレッサーの前に置かれている赤い指輪に、わずかな希望で願いを込めてみたのだが、ハウメア神は「己が役目を全うせよ」と、甘い考えを払拭させる気らしい。カガリはため息をつく。

「『覚悟』が誕生日プレゼントか…」

甘い考えは暫く封印しなければならない。こうして命がけで戦い、無事生き残ることができたのだ。そのことに感謝しつつ、与えられた役目を果たすだけだ。

「明日も早いし、もう寝るか。」

そう思いベッドに体を潜らせるが…目を閉じて意識が遠のくまで、携帯を抱いたままだった。

 

 

 

 

 

「姫様、姫様はいらっしゃいますか?」

翌朝、ドアをノックするマーナに、メイドの一人が声をかけた。

「カガリ様なら、もうお出かけになられましたが…」

「あらあらまぁまぁ!こんなにお早く??」

先ほど広間の大時計が午前5時の鐘を鳴らしたばかりだ。

「何でも「今日は「大事な日」だから、やっておきたいことがあるんだ。」とかおっしゃられて、全速力でお出かけになられましたよ。」

「一体どちらへ?」

「さぁ、それはわかりませんが…」

「全く姫様ときたら…今日は大事な日であらせられるのに。」

 

 

マーナがため息をついているその頃―――

「みんなー、来たぞー!」

大声を張り上げるカガリ。だがそこはただただ広く、早朝を告げる鳥のさえずり以外、返事はひとつも帰ってこない。

(それでも、私には聞こえるぞ。)

耳をすませば、風の囁きに混じって聞こえてくる。

―――「カガリ様、お誕生日おめでとうございます!」

「ありがとう。マユラ…」

―――「お忙しそうですけど、お身体、大事にしてくださいよ?」

「うん、わかった。ジュリ…」

―――「もう、カガリ様ってば、仕事にかこつけて、彼氏ちゃんと作りましたか??」

「む。余計なお世話だ、アサギ!」

そう言って、一つ一つ名前の刻まれた墓標の前に、摘んだばかりの花を添えていく。

無論、彼女らの体はそこには眠っていない。広い宇宙に抱かれて今も眠っている彼女たち。それでも、魂はここに帰ってきていると信じている。

一つ、また一つと、沢山の並び立つ前に供えれば、また声が聞こえてくる気がする。

―――「凄い、きれいですね、カガリ様。」

「うん、これな。大戦が終わった後、キラとラクスと、あとシンたちも植えてくれたんだ。」

―――「へぇ〜あれだけ塩被ったのに、よく咲かせましたね。」

「大変だったんだぞ。何度植えても枯れちゃって…でも、こうしてようやく第一号の花が咲いたんだ。お前たちに、一番最初に見せたくって。」

―――「そんな大事なお花なのに、私たちにくれてもいいんですか?」

「ううん、いいんだ。お前たちに一番最初に見せたかったんだ。」

―――「むしろ今日は、カガリ様が「もらう日」なのに。」

「いや、私はこの2回の大戦で、沢山の物をもらった。そりゃ苦しいこともあったけど、生まれてきて本当に良かったと思ってる。でなきゃお前たちと会えなかったしな。だから、今日は感謝の日なんだ。そうですよね、お父様。」

最後に立った墓前にも花を供えてカガリは祈る。

「こうしてまた誕生日が迎えられました。お父様、皆、私と出会ってくれてありがとう…」

すると

<ピリリリ…>

(――来た!)

待ち望んでいたメールの着信音。慌てて画面を開けば―――

『姫様!一体どこにおいでです!?お早く戻られませんと、朝の閣議に間に合いませんよ』

「マーナか…」

がっかりするけど、どこか嬉しい。こうして心配してくれる人がいてくれるのだから。

「私が生まれてこなければ、出会うこともなかった縁だ。ありがとうな、マーナ。」

カガリは笑ってメールを閉じる。

「もっとゆっくり話したかったけど、生きている以上、私も役目を果たさないといけません。なので戻ります。」

父はなにも告げない。

だが黙ってきっと背中を見守ってくれている。そしてきっとこう言ってくれているはず。

 

―――「生まれて来てくれてありがとう。お前の父で、本当に良かった」―――と

 

 

 

 

誕生日であっても、個人的なことにかまわず、仕事だけはこれでもか!と言わんばかりに山積している。

バタバタと閣議や予算折衝、更に各国首脳との通信会談に書類への採決…

こなしている間に、あっという間に日が西に暮れかけていた。

「カガリ様、そろそろお時間です。ご自宅にお戻りになられては。」

秘書がわざわざ声をかけに来てくれるが、カガリの手にはペンが収まったままだ。

「これだけやっておかないと。でないと明日はもっと大変になるじゃないか。」

「ですが、本日はどうかお戻りになられますように、とお館のほうからご連絡がありまして。」

「アスハ家から?」

この状況で戻るのは気が引けるが、アスハ家のほうからわざわざ戻らせるように内閣府に進言してくるなど、余程のことがなければあり得ない。

「…わかった。10分で支度する。」

「かしこまりました。」

恭しく礼を取る秘書にサインしたての書類を渡す。秘書がドアの向こうに消えると、慌ててカガリは携帯を取り出す。画面にはメールの着信の嵐。

「うわっ!すっかりチェック忘れてた! えっと、これはミナからで、こっちは…あ、ミリアリアから。え!ラミアス艦長からも!?」

私用のアドレスだけでも今日中に返せる程度の数ではない。しかし、これも生まれてきたからこそ、出会えた人の数。こうして自分という存在を認めてくれる人達がいることに感謝しかない。

しかし、一番見たい名前は見つからない。

メールの名前をスクロールする指が無意識に早くなる。

「えっと、アイツから…アイツの名前は…」

最後の差出人の後は、どんなに指を動かしても、画面はただそれ以上の名前を告げてはくれなかった。

「なし、か…」

期待するなと、昨夜も今朝も散々自分に言い聞かせたのに、どこかにまだ期待している自分が恨めしい。

少し項垂れて、カガリは首長服のブレザーを脱いだ。

 

 

車が玄関につくと、いつも通り、マーナをはじめ、メイドたちが出迎える。にしても

「…いやに、今日は多い気がするんだが…」

「お帰りなさいませ、姫様。」

マーナに続き、迎えが全員頭を垂れる。

「どうしたんだ?こんなに仰々しく。」

「それは―――こちらをご覧ください。」

そう言ってマーナが手を取り、広間に出向けば

「うわぁ…」

広いダイニングに、いつもぽつんと用意されていたカガリの食事。ところがまるでパーティのように華やかな料理や飲み物、飾りが添えられている。

「どうしたんだよ?こんなに贅沢に。」

「今日は姫様の誕生日でいらっしゃいますから。」

「でも、いつも言ってるだろう?こんな盛大にしなくていいって。」

「わかっております。でも、これは私たちの気持ちですから。」

「姫様が私たちオーブの…いえ、地球のために頑張ってくださっていること。そして…亡くなった国民をも忘れずにいてくれること。「カガリ様」だからなんです。カガリ様でなければ、きっとこんな風に感謝することなんてなかったと思います。ですから私たちにもお祝いさせてください。貴女が生まれて来てくれたことに…」

「みんな…」

誕生日なんて個人的なことだと思う。

でも、生まれてきたことを、こうして喜んでくれる人がいてくれる。

それだけで…本当に良かった。

「よし!じゃぁ、今日はみんなで食べて飲んで、楽しもう!」

カガリの声にわっと歓声が上がった。

 

 

 

<へぇ…そんなことがあったんだ>

「うん。今まで忙しいばかりで回りなんて見る余裕なかったから、すごく嬉しかった。」

<僕も。まだ新しい環境に慣れてないから、それだけで精一杯で。>

「お前にはラクスがいるだろう。」

そう言って笑うカガリ。

誕生日―――今まで希望せずともパーティは開かれていたから、そこまで執着はなかった。

でも、今は「忘れてはならない日」と決めている。

自分の誕生日だからじゃない。

大事な、片割れの誕生日だからだ。

 

『キラ・ヤマト』―――血を分けた唯一の家族。

 

沢山の友人知人からの祝いの言葉も嬉しいが、何より本当の家族として祝ってやりたい。

寧ろ姉である自分が、大事な弟を祝わなくてどうする!?

そう。大事な、大事な弟―――最初は男の子に間違えられ、無理やり救助カプセルにのせられて、砂漠で再会した時は妙にやさぐれていて、後はほぼほぼ泣きっぱなし。

何だか頼りなくって、危なっかしくって、放っておけない存在だ、と思っていたけれど。

多分それだけじゃない。本当に弟だから、支えてやりたいと思ったんだ。無意識に。

そして、この弟の存在をなくして、今の平和はきっと勝ち取れなかったに違いない。

だから、君が生まれて来てくれたことに心から感謝するよ、キラ。

母の胎内でともに命をはぐくまれたはずなのに、コーディネーターとナチュラルに分かれた二人。

凄く遠い存在に引き離されたようで、でも心はこうして今もつながることができる。

彼の笑顔と、モニターに映った自分の笑顔が重なる。

「それにしてもありがとうな、キラ。こんなに大きな薔薇の花束、久しぶりに見たぞ。」

カガリが大輪のオレンジ色の薔薇の花束を抱えて見せる。

先ほどメイドたちから言付かってきたものだ。

<ううん。誕生日プレゼントって言っても、カガリ何が欲しいかわからなくって。もしかしたら「お前が壊したルージュ返せ!」って言われるかと思ってビクビクしていたんだけど。>

「あー、そういや、そんなこともあったな。じゃあ来年はファクトリーでルージュ作ってプレゼントしてもらおうかな。」

<やめてよ。もう戦争はしたくないし。>

「「したくない」じゃないぞ。」

<え?>

カガリが得意げに笑う。

「私たちが「二度とさせない」。そうだろ?」

<うん、そうだね。>

キラも笑う。彼の笑顔なんて久しぶりだ。たった二人きりの血のつながった家族。彼が幸せでいてくれたら、それだけでも嬉しい。

「誕生日おめでとう。キラ。」

<「誕生日、おめでとう、カガリ」。君が生まれて来てくれて、本当に良かった。>

「私もだ。お前がいるっていうだけで、私ひとりじゃないんだ、って。凄く安心できる。」

そうしてカガリはバラの香りを楽しむ。鼻を近づけると、くすぐるような、淡い優しい香りがした。

「いい香りだ。」

<そのオレンジ色のバラはね、『絆』っていう意味なんだって。>

「『絆』か…」

<そう。ラクスが言っていたんだ。僕とカガリに一番似合う薔薇じゃないかって。>

 

絆―――確かにそうかもしれない。

他人として出会ったのに、何故か惹かれあった運命の糸。

恋人とは違う、何か例え難いこの関係は、その一言が一番しっくりくる。

 

<カガリもありがとうね。プレゼント。>

正直、カガリもキラの欲しいものがよくわからない。なので、悩みに悩んだ挙句、あるものを贈った。

<これ『僕たちが植えた花』なんだね。>

キラが画面越しに見せてくれたのは、『ハーバリウム』の撫子とその種。

「うん。地球はまだユニウスセブンの落下の津波で、潮被って土が痛んでいるところが多いし、核の汚染の残る土地もあるから、正直花を探すだけでも難しいんだ。それでもお前たちが「何度も花を植えるよ」って言ってくれただろ?だからあきらめず、何度もチャレンジして、ようやくここまで育ったから見せたくって。生花を贈れればよかったんだけど、まだ地球から送るにはマスドライバーが建設されている途中で、時間がかかるから、その間に枯れちゃいそうで。今はこれで精一杯なんだ。ごめんな。」

<ううん、今度はこっちでもこの花、育ててみるね。…ねぇ、カガリ。>

「ん?」

<僕たちは『SEEDを持つ者』なんだって。>

「『種を持つ者』? なんだそりゃ。」

<僕もよくわからなかったんだ。最初言われたときは。でも分かった気がする。こうして僕らが平和の種をあちこちに芽吹かせていけば、きっとずっと幸せになれるって。>

「それが、私たちの役目、か。」

<うん。だから、種を持つ者として生まれてきてよかった。最初は何で僕はコーディネーターで、カガリはナチュラル何だろうって思ったけど、きっとそういうことなんだって。>

「種…もっとたくさん咲かせような。」

<うん!>

 

そう、きっとそれが私たち、双子の役目。

両親がどう願いを込めて、私たちをコーディネーターとナチュラルに育てたのかわからない。

でも、二人で出した「二人の意味」

一緒に平和の種を蒔く

地球と、宇宙で

この答えに、きっと両親は頷いてくれるに違いない。

 

そう思って満足していた矢先、

<カガリ…ところで、アスランは?>

「―――っ!」

忘れてた…いや、忘れようとしていたけど、まさかここにきてキラからズバリ言われるとは。

「いや、アイツは今、カーペンタリアに飛んでもらっているんだ。戦後処理で。元ZAFTだし、あの辺の様子はよく知っているだろうから。」

<え、でもメッセージくらい届いたでしょ?>

「……」

我が弟ながら、見事に自分の期待を読み取ってくれた。双子ならではのテレパシーというかシンパシーみたいなのは、宇宙規模でもつながるんだろうか。

<…まさか、何も言ってこないわけ?>

眉を顰めるキラに、カガリは首を振る。

「いや、いいんだ。今アイツも忙しいだろうし、何しろ私が下した命令だから。元気にしてくれているだけでもありがたいことだ。」

<でも…寂しくない?カーペンタリアって殆ど時差ないじゃない。せめて一言くらいでも…>

「キラ。」

カガリはキラを制する。

二人が別れたことは、彼も間近で見ている分、痛いほどわかっているはず。だが流石のシンパシーで、キラはカガリの心を悟ってくれた。

<じゃあ僕が二人分お祝いするから!>

「というか、お前も祝われる立場なのに。」

苦笑するカガリに、キラは語る。

<出会ってくれてありがとう。僕は何度も君に救われた。ヘリオポリスで出会ったあの時から。だから生まれて来てくれてありがとう、カガリ。>

「私もだ。ヘリオポリスで助けてくれて。バナディーヤでも、オーブに着いても。そしてオーブと私たちのために、もう一度剣を取ってくれて…お前が生まれてくれたこと、本当にありがとう、キラ。」

モニター越しにコツンと額を触れ合わせる。

何故だろう。無機質なはずのモニターが、ほんのり温かかった。

 

 

通信を切ると、安心して気が抜けたのか、急に眠気が襲ってきた。

(今朝、早起きしたからな…)

先ほど、ささやかな祝いのワインの酔いも手伝って、頭がボウッとしてきた。

携帯の着信画面を見れば…<518日 2235

メールの着信の痕はない。

(これ以上、何を期待しているんだか。馬鹿だな、私も。)

自分から指輪を外したくせに、一日千秋の想いはどこかに残っている。

 

 

でもな、アスラン…

私、生まれてきた中で、お前という人間に会えたこと、一番感謝しているんだ。

だって、お前と出会わなかったら、きっとZAFTのこと許せなかった気がする。ZAFTであっても、コーディネーターであっても、人間はみな同じ。私と同じように悩んで苦しんで考えているお前がいてくれたから、私は戦争について考えることができた。

こうして今も平和に尽力することができるのは、お前と会えたことがきっかけだ。

だから、生まれてきて、お前に出会わせてくれて、私という人間を認めてくれたお前に感謝する。

 

「アスランに会えて…よかった…」

 

携帯に囁いても、返事は帰ってこない。

でも、それでいい。

この想いが、何時か伝わるときがあれば…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カガリ…」

(…ん?)

「遅くなってごめん。誕生日おめでとう…」

ぼんやりと目に浮かぶのは、ずっと待ち焦がれていた―――大事な人

(…あぁ…こんな夢まで見るなんて、私、本当にアスランに会いたかったんだな…)

夢の中の自分にまで呆れてしまう。だが、彼は申し訳なさそうな、ちょっと切なそうな顔をしながら、囁いてくれる。

「どうしても、君にこれを届けたくって」

(何か差し出してくれたけれど、よく見えない。夢じゃはっきりとは映らないもんなんだな。)

感嘆もなくジッと見上げれば、翡翠が今度は戸惑ったように見つめ返してくれる。

こうなったら遠慮なく不満をぶちかましてやる。どうせ私の夢だし、目の前に居るのは本人じゃないし。

「…なぁ、思いっきり遅刻だぞ?」

「すまない。あちこち探していたから…」

「ずっと…ずっと待っていたのに…」

そう言ってゴロリと寝返って彼に背を向ける。すると懇願するような、それでいてどこか甘えるような声が背に囁いてくる。

「ごめん。どうしたら許してくれる?」

だったら―――

「プレゼント追加。今すぐ。」

「そういわれても…今すぐ用意できるものは何もないけれど、何が欲しいんだ?」

「…キス…」

「え?」

「その…だから…お詫びのキスしろ!って言ってるんだ!///

「…いいのか?」

戸惑う声に、返事の代わりに今度は仰向けに寝返って、そのまま彼を見上げる。

夢の中で、言葉にしてみただけなのに、通じたのか。

アスランの顔が近づいて

目を閉じた瞬間

 

唇に フワリと温かな羽が落ちたような感覚

 

そっと目を開けたら、頬を赤くした彼がはにかんで笑っている。

(よかった…アスランが笑っていてくれて。それだけで一番のプレゼントだ…)

今の想いを言葉にできただろうか。

夢なのに、彼が分かったようにうなずいてくれて、そっと私の髪を撫ぜる感覚

 

安心して…また意識の底に、落ちて行った…

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ん…」

目覚めれば、そこはいつもと変わらぬベッドの中。

寝返ろうとして見たら

<コツン>

「痛っ…って、なんだ?携帯、何でこんなところに…――あ。」

そういや携帯抱いたまま寝ちゃったんだっけ。

着信画面を見れば

519日 642

なんのメールも届いていない。

 

でもなんだろう。昨日のような、待ち続ける寂しさがない。

いい夢でも見たからかな。

それに、薔薇とは違う、とってもいい香りがする。

 

そう思って起き上がってみると

「―――っ!これって…」

サイドテーブルの上には、大輪のカサブランカが一輪。

「アイツ…」

今の地球でこれだけの花を咲かせるのは難しい。一体どれだけ探したことか。

 

カサブランカ―――私の紋章

花言葉は『最大の祝福を君に』

 

「探し回っていないで、ただ一言、告げてくれるだけでよかったのに…」

それでも口元が緩む。

アイツがそんな簡単に照れる言葉を口にしない。

だから花に言葉を託して

 

「ありがとう。最高のプレゼントだ!―――そうだ、私も決めた!」

カガリは昨夜、キラから贈られた薔薇を活けた花瓶を持ち出す。

そして

「1,2,3…1011本!」

合わせて11本の薔薇を取り出すと、それを写真に収めて。

「アスランの携帯に―――送信っと。」

 

言葉は添えない。

それでも、カガリの想いはそこに込めた。

「私ももう、ただ待つのは止めだ。だから、気が付いたら返事よこせよ!」

カガリは携帯を放り投げると、ベッドの上で、ただ一輪のその花を抱いて笑った。

 

 

11本の薔薇の花束の言葉は―――『最愛』


そして、カガリの携帯の画面が、「着信」を告げた。



 


・・・Fin.