少女との競泳          もどる


「ふあーあ」
大きな欠伸をして、カバンから携帯電話を取り出して時刻を哲也は見た。12時10分だった。哲也は、不眠症だが、特に、最近の熱帯夜は、クーラーをかけっぱなしにしても、なかなか寝つけない。なんせ、夜も24度もある。遅寝遅起きの生活である。この頃、体調が良くなって、小説が書けるようになったので、毎日、図書館で小説を書いている。そのため、ちょっと運動不足ぎみになっている。しかも、マクドナルドで、期間限定で、マックフライポテトがLサイズで、150円で、期間限定のブルーベリーオレオが美味いので、つい注文して食べてしまう。そのため、少し腹回りに脂肪がついてきた。彼の適正体重は、62kgで、それが健康に一番いいので、それを保っているのだが、今は、おそらく、2kgくらい増えて、64kgくらいになっているだろう。だろう、というのは、彼は、神経質なので、体重計に、頻繁には乗らないようにしているのである。月に、2〜3回くらいしか、体重をチェックしないのである。彼は、図書館へ行って、小説を書こうか、それとも、プールへ行こうか、迷ったが、迷っている間に、20分、過ぎて、12時30分になっていた。
「よし。プールへ行こう」
と哲也は決断した。プールは午後一時からである。哲也がプールへ行くのは、泳ぐ楽しみのためではない。プールで一時間、休みなく、泳ぐのが、一番、手っ取り早い、健康法だからである。体調を良い状態に保たないと創作にも差し障りがある。幸い、今日は曇っている。皮膚の弱い彼にとっては、曇っている方が、日焼けしないので、ありがたいのである。
彼は、車を飛ばして、プールに行った。家からプールまで、20分くらいである。距離的には、近いが、信号が多く、GO−STOPなので、20分くらい、かかるのである。
哲也は、12時50分に、プールに着いた。
彼は駐車場に車を止め、400円のプールの入場チケットを買って、場内に入った。彼は、急いで、トランクスを履き、カバンは、コインロッカーに入れて、水泳キャップとゴーグルを持って、シャワーを浴び、屋外のプール場へ出た。時刻は、12時55分だった。手前が、子供用の大きなドーナッツ状のプールである。客は、それほど多くない。昨日の天気予報で、日本列島に台風が近づいており、今日は、午後から、雨が降るかもしれない、と聞いていたせいかもしれない。子供用のプールの奥が、一段高くなっており、そこが50mプールである。幸い、客は少ない。4〜5人しかいなかった。午前中は、12時20分までで、午後の一時まで40分の休憩がある。時計が、一時にピタリと合い、監視員がピーと、入水O.K.の笛を鳴らした。哲也は、一番にプールに入った。出来る事をやっても、バカバカしいと思っている彼ではあったが、それでも、美しいフォームのクロールで、一時間、続けて泳げることは、彼の自慢だった。
「泳ぎで、オレの右に出る者はいないな」
そんなことを思いながら、彼は、ゆったりと泳いでいた。数往復した後である。プールの真ん中の25mを過ぎた辺りで、彼の、ちょうど右側を、クロールで、ぐんぐん抜いていく泳者がいた。水玉模様のワンピースの水着である。彼女はプールの壁縁に着いて立ち止まった。彼も、プールの縁に着くと、立ち止まって、ゴーグルをはずし、彼を抜いた泳者を見た。中学一年生くらいの女の子だった。
「おにいさん。遅いですね」
少女は、あどけない顔で、ニコッと笑って言った。
「なあに。僕は、ゆっくり泳いでいるだけさ。速く泳ごうと思ったら、速く泳げるさ」
彼は、自信満々の口調で言った。
「本当かしら。速く泳げないものだから、負け惜しみ、を言ってるんじゃないかしら」
少女は、ガキのくせに、そんな、生意気なことを言った。
哲也は、カチンと頭にきた。少女は、続けて言った。
「私。三歳の時から、スイミングスクールに通ってて、競泳大会では一度も、誰にも負けたことがないわ。家には、競泳大会で優勝したトロフィーが、数えきれないくらいあるわ」
少女は、ガキのくせに、そんな生意気なことを言った。哲也は、少女の、うぬぼれの天狗の鼻を折ってやりたい衝動がムラムラと沸いてきた。
「じゃあ。僕も本気で泳ぐから、競争しようじゃないか」
哲也は強気の口調で言った。
「ええ。やりましょう」
少女は自信満々の口調で言った。
もう、やる前から、勝ったも同然という生意気な顔つきだった。
その時。ピーと、休憩を知らせる、監視員の笛がなった。どこの公共プールでも、そうだが、公共プールでは、50分の遊泳の後に、10分間の休憩時間をとっている。今は、ちょうど、1時50分だった。
「じゃあ、2時から、競争しよう」
「ええ」
そう言って、哲也と少女は、プールから上がった。
少女は、胸もペチャンコで、未発達の体は、色っぽさが、全くなかった。
「ちょっとトイレに行ってくる」
哲也はそう言って、更衣室へ行った。
そして、用を足すと、すぐに、50mプールにもどった。そして少女の隣りに座った。
「あら。よく戻ってきたわね。勝つ自信がないから、てっきり逃げ出したんだと思っていたわ」
少女は、そんな生意気なことを言った。
哲也は、怒り心頭に達していた。2時が待ち遠しくなった。
ピーと2時を知らせる監視員の笛が鳴った。
「よし。じゃあ、勝負しようじゃないか。容赦しないぞ」
「ええ」
そう言って、二人はプールに入った。
「大人と子供では、ハンデをつけなきゃ公平じゃないな。君。5mくらい前からスタートしなよ」
哲也が言った。
少女は、あっははは、と腹を抱えて笑った。
「そのハンデ、逆よ。カメとウサギの競争では、カメにハンデを、つけてあげるものじゃない。あなたが、5m前からスタートしなさいよ」
少女は、そんな生意気なことを言った。
カメ呼ばわりされて、哲也は、怒り心頭に達し、彼の総髪は逆立っていた。
「じゃあ、もしも、万が一にも僕が負けたら、そのやり方で、もう一度、勝負するよ。でも、最初の勝負は、僕の言ったようにやってくれ。もし僕が負けたら、君に5万円あげるよ」
5万円という言葉が効いたのだろう。
「わかったわ。その約束、ちゃんと守ってね」
そう素直に言って、少女は、水の中を歩いて5mくらい、哲也の前に立った。そして、後ろの哲也に振り返った。
「このくらいでいい?」
少女が聞いた。
「ああ」
哲也は肯いた。
「ところで、君が負けた場合は、何をしてくれるの?」
「何をしてもいいわ」
少女は自信満々に言った。
「その約束も、ちゃんと守ってくれよ」
「ええ」
少女は、自信満々の口調で言った。その時。
「京子。がんばれー」
「負けるなよ。京子。絶対、勝てよ」
「京子が負けるはずがないさ」
プールのベンチに座っていた、三人の少年が、口々に少女を応援した。
「彼らは何物?」
哲也が少女に聞いた。
「私の学校の同級生の友達よ。みんな、私を崇拝しているの」
少女は誇らしげに言った。
「ふーん。すごいじゃない。アイドルなんだな」
「だって、スイミングスクールのコーチも、私は将来のオリンピックで金メダル確実だって言ってるんだもの」
「よし。じゃ、始めるぞ。用意」
哲也が言った。少女は、手を前に伸ばし、身構えた。
「スタート」
哲也の合図と共に、哲也と5m前の少女は、全力で泳ぎ出した。
少女は、さすが、スイミングスクール仕込みだけあって速い。しかし、哲也も本気になれば、速いのである。哲也は、全速力で、前を泳いでいる少女を追って、泳いだ。
哲也は、バシャバシャ音を立てて、泳ぐクロールを、美しくないと思っているので、ゆっくりしか泳がないのであって、本気で泳げば速いのである。第一、大人と子供では、リーチが違う。水泳もボクシングと同様に、リーチが長い方が圧倒的に有利なのである。哲也は、どんどん少女に近づいた。
そして、25mを超して30mくらいの時点で、少女のバタ足の足をつかまえた。
「ふふ。つーかまえた」
少女は、「あっ」と叫んで、逃げようとした。
しかし、5mのハンデをつけて、スタートして、追いつかれた時点で、もう、勝負あり、である。哲也は、ポケットからハサミを取り出して、生意気な少女のワンピースの競泳用水着をジョキジョキ切っていった。さっき、ロッカーに行った時、カバンからハサミをポケットに入れて戻ってきたのである。
「や、やめてー」
少女は叫んだか、哲也は、容赦しない。
負けたら何をしてもいい、と言ったので、少女に文句を言う権利はない。のである。
哲也は少女から、水着を引っ剥がした。
二人は、泳ぎながら、ゴールの縁についた。
少女は丸裸である。
少女の顔は泣き出しそうだった。
「どう。やっぱり僕の方が速いってこと、わかっただろ」
哲也は自信満々の口調で言った。
「はい」
少女はコクンと肯いた。
少女は、丸裸なので、プールから出ることが出来ないで困惑している。
「ふふ。恥ずかしいだろう。ちょっと、待ってて」
そう言って哲也は、急いでプールから上がった。そして、ベンチの上のバッグを持ってきた。
「ほら。どうせ、こうなるだろうと思ってたから、さっき、売店に行った時、水着を買ってきておいたんだ」
そう言って哲也は、ブルーの競泳用のワンピースの水着をカバンから取り出した。
「ほら。プールから上がって、水着を着なよ」
哲也に言われて少女は、プールから丸裸のまま、上がった。
少女の胸は、まだ盛り上がっておらず。陰部には、まだ毛が生えていなかった。そのため、女の恥部の割れ目が、くっきりと見えた。
「うわー。すげー。京子のマンコ、見ちゃったよ」
ビーチサイドにいた、彼女の同級生の男たちが、声を大に、驚嘆の叫びを上げた。
「み、見ないで。見ちゃイヤ」
彼女は、あわてて、彼らに背中を向けた。
「うわー。すげー。京子の尻の割れ目、見ちゃったよ」
同級生の男たちが、声を大に、驚嘆の叫びを上げた。
「ほらよ。着なよ」
そう言って哲也は、彼女に、新品の水着を渡した。
彼女は、急いで、水着に足を潜らせて、水着を身につけた。
少女は、その場にクナクナと座り込んでしまった。
彼女は、半べそをかいていた。
「ごめんね。いじわるした、お詫びとして、勝ったけど、これをあげるよ」
そう言って哲也は、少女に5万円、渡した。
少女は、それを、受けとった。
「まあ、世の中、上には上がある、ということが、これで、わかっただろ」
哲也は、そんな説教じみたことを少女に言った。
「はい」
少女は言葉には、謙虚さが籠っていた。
少女は後ろを振り向き、
「木田君。山田君。大杉君。今日の事、他人に言わないでね」
と切なそうな口調で言った。それは哀願にも近かった。
「ああ。言わないよ。でも、京子の裸、目に焼きついてしまって、たぶん一生、忘れないだろうな」
三人の同級生は、そんな告白をした。
少女は、わーん、と泣き出した。



哲也は、家に帰ると、シャワーを浴びた。そして急いで、図書館へ行った。そして、今日のことを、正確に、小説に書いた。なので、この小説はノンフィクションである。
哲也は女子中学生が好きだった。しかし、それは、あくまで制服を着ている女子中学生が好きなのである。心はまだ子供なのに、制服を着ているアンバランスさが好きだった。女子高生になると、太腿が太くなって、性格もスレッカラされてくるので、哲也は女子高生には興味がなかった。しかし、女子中学生は、体つきが、まだ華奢で、性格も、高校生のようにスレッカラされていない子供っぽさを残しているのが好きだった。靴も、運動靴なのが、子供っぽくて好きだった。そして、哲也は、女の水泳選手の姿が嫌いだった。女の魅力は、総々とした、髪の毛にある。濡れたり、水泳キャップで総々とした髪が、見えなくなってしまうのが嫌いだった。そして、哲也は、肉体では、女子中学生の肉体が好きではなかった。彼は、あくまで、膨らんだ胸と、むっちりした尻と、くれびれたウェストと、スラリとした脚の曲線美のある大人の女の肉体が好きだった。そして、哲也は女子中学生は、素直で礼儀正しいから好きなのであって、生意気な女子中学生は嫌いなのである。




平成26年8月8日(金)



本音と建前

吉田美津子は、一人っ子である。
美津子には、父親しかいない。
美津子の、母親は、美津子を産んだ直後、産褥熱、で死んでしまった。
そのため、美津子は、もの心が、ついてからは、父親の、吉田修一に、育てられた。
父親は、優しく、美津子を愛して、育てたので、美津子は、父親が大好きだった。
美津子は、ファザコンと言っても、間違いではない。
しかし、幼稚園に入って、皆、父親と母親がいるのに、美津子は、父親しか、いないので、友達が、母親のことを、話すと、美津子は、寂しかった。
それで、美津子も、母親を欲しい、と、思うようになった。
父親と娘だけ、という、関係に、美津子は、不満を感じてはいなかったが、他の子には、皆、父親と母親がいるので、その劣等感で、母親が欲しいと思ったのである。
もちろん、美津子は、テレビは、セーラームーンや、秘密のアッコちゃん、などの、女の子向けの、アニメ番組を見たかった。
美津子の父親の、吉田修一は、ある証券会社、(N証券)、に勤める、エコノミスト(経済評論家)だった。
母親がいる家庭だと、母親は、結構、娘に合わせて、一緒に、アニメ番組を見て、娘と一緒に、楽しむのだが、美津子の父親は、仕事一筋の、固い男だったので、会社から帰ってきたり、また、休日も、テレビは、ニュース番組や、政治討論会の番組しか、見なかった。
母親がいると、母親は、結構、娘のことを、考えて、絵本やマンガを買ってきてくれるのだが、美津子の父親は、仕事一筋の、固い男だったので、大手新聞、各社と、経済雑誌しか、買ってこなかった。
日曜日は、美津子の父親は、政治・経済、の討論会の、番組しか、見なかった。
美津子は、優しい父親が好きだったので、父親と、一緒に、父親の見ている、政治・経済、の討論会の、番組を、父親にじゃれつきながら見た。
美津子が五歳になった、誕生日のことである。
父親が、プレゼントとして、「さあ。美津子。面白い本を買ってきてやったぞ」、と言って、ワクワク嬉しがっている、美津子が、父からの、プレゼントの袋を開けた時、それが、絵本ではなく、カールマルクスの、「資本論」、だったのを、見た時は、美津子は、さすがに、うわべは、「ありがとう。パパ」、と、満面の笑顔で、感謝の言葉を言ったものの、内心では、「ウゲー」、と、げんなりしていた。
美津子の父親は、子供の気持ちを察することの出来ない、鈍い男だったので、娘の美津子に、政治の話をしてやった。
まだ、幼稚園の子供は、政治や経済など、に関心などない。
妻がいたら、妻と、政治の話を交わすことも出来るのだが、修一には、妻がいない。
なので、娘の、美津子が、妻の役にされた、のである。
修一は、娘に、色々と、政治の解説をしてやった。
それが、娘に対する思い遣りだと思っていた。
自分は、興味があって、面白くても、娘は、そんなものには、まだ、興味は無く、娘は、歳、相応の、セーラームーンや、秘密のアッコちゃん、などの、女の子向けの、アニメ番組を見たかったのだが、父親は、自分の興味のあることは、他人も興味を持っているものだと、思っていた。
つまり、父親の修一は、相手の求めているものは、何か、ということを、察する能力に欠けていたのである。
これを、医学的に、アスペルガー症候群という。
しかし、娘は、父親が好きだったので、父親の、話しを、わからないまま、聞いた。
それで、政治のことは、わからないまま、日本や、外国の総理大臣や、大統領の、名前や顔を、自然と、覚えることになった。
ある時、娘が、父親に聞いた。
「ねえ。おとうさん。日本と中国は仲が悪いのに、どうして、安部首相と習近平は、仲良く、手をつないでいるの?」
娘は、父親に、そんな、素朴な質問をした。
父親はそれに対して、こう答えた。
「それは、本音と建て前が違うからさ。お前だって、健太くんが好きなのに、好きって言えないだろう」
そう父親は、説明した。
娘は、幼稚園で、同じ組の、健太が、好きだった。
しかし、恥ずかしくて、健太に、「好きです」、とは、言えなかった。
そのことを、娘は、どうしたら、いいのか、わからず、以前に、食事の時に、父親に話したのである。
「お父さん。本音と建て前が、違うって、いけないことなの?」
娘が父親に聞いた。
「そりゃー。当然、悪いことさ。政治家なんて、全員、本音と建て前が違うんだ。だから、日本の政治は、良くならないんだ」
と、父親は、言った。
「そうだったの。本音と建て前が、違うって、悪いことなのね」
と、娘は、ポツリと、呟いた。
「それは、当然そうさ。日本の政治家たちが、正直になったら、日本は、今より、はるかに、良い国になるんだ」
と、父親は、言った。
それで、娘は、その翌日、幼稚園に行った時、勇気を出して、健太に、「好きです」、と言った。
健太は、喜んで、「僕も、美津子ちゃんが好きさ」、と言った。
娘は嬉しかった。
それ以来、美津子と健太は親友になった。
父親に言われたように、何事でも、正直に、言うことが、大切だと、美津子は思った。
ある時、家に、父親の修一の、会社の同僚の、山本、が来た。
山本は、吉田と、大学時代の友人で、卒業後も、同期で、N証券、に入社した。
彼は、以前にも、来たことがあったので、吉田の娘の美津子は、知っていた。
「やあ。美津子ちゃん。久しぶり」
と、同僚の山本は、挨拶した。
「こんにちは。山本さん。お久しぶりです」
と、美津子は、礼儀正しく挨拶した。
美津子は、山本に、お茶と、お菓子を、盆に乗せて、
「はい。どうぞ」、
と言って出した。
と言っても、お菓子は、おやつ用の、クッキー、で、お茶は、冷蔵庫の中の、麦茶を、コップに注いで出しただけだが。
しかし、山本は、
「いやー。どうも、有難う」
と、礼を言った。
そして、美津子は、居間を出て行った。
山本と、父親の、二人は、色々と話した。
「お前も、男手一人で、娘を育てるのは、たいへんだろう。再婚したら、どうだ?」
と、聞いた。
「まあ、そう思う時もあるけどな。しかし、相手がいないからな」
と、父親は、言った。
「会社の、京子は、お前のことが、好きそうだぞ」
と、友達は、言った。
「ええっ。本当か?」
父親は、驚いて聞いた。
「ああ。以前、会社の帰りに、飲み会で、京子に、お前のことを、どう、思う、と、聞いたら、彼女は、顔を赤らめていたぞ。まず、間違いなく、彼女は、お前が好きなんだ」
と、友達は、言った。
「それは、本当か?」
父親は、聞き返した。
「ああ。本当さ。ところで、お前は、京子のことを、どう思っているんだ?」
と、友達が聞いた。
「ま、まあ。嫌いじゃないよ。でも、オレは、子持ちだし。とても、告白する勇気なんてないよ」
と、父親は、言った。
「京子さん、だって、子持ちじゃないか。お前と、京子さん、が、結婚するのが、一番、いいんじゃないか?」
と、友人は、言った。
京子、は、父親の会社、(N証券)、の同僚で、京子とは、同期入社だった。
京子は、入社して、二年後に、大学時代の友人と、結婚した。
そして、健太、という男の子を生んだ。
しかし、京子の夫は、健太、が、生まれた、一年後に、交通事故で死んでしまったのである。
娘の美津子と、京子の息子の、健太は、同年齢で、同じ、幼稚園の、同じクラスだった。
「ともかく、オレは、子持ちだし、夜、遅くまで、仕事で、忙しいだろう。それに、夜中に、いびき、も、かくし・・・。だから、結婚しても、幸せな家庭を築くことは、できないと思うんだ」
と、父親は、言った。
友達は、ニヤリと笑った。
「それは、建て前だろう。お前は、憶病な性格だ。本音は、お前は、京子さんが、好きだけれど、京子さんに、プロポーズして、断られたら、恥ずかしいから、言い出せない、だけなんだろう」
と、友達は言った。
図星だった。
「ま、まあ。そうだけどな」
と、父親は、照れくさそうに言った。
「京子さんは、お前と、結婚したがっているんだよ」
と、友達が言った。
「どうして、そんなことが、わかるんだ?」
と、父親は、間髪を入れず、聞き返した。
「この前の日曜日、たまたま、妻と、ショッピングモールの中の、ファミリーレストランに入ったら、健太君を連れた、京子さんに、出会ったんだ。それで、京子さんに、お前のことを、どう思っているか、聞いてみたんだ。京子さんは、答えられなかったけれど、顔を赤くしていたぞ」
と、友達は言った。
「それは、本当か?」
と、父親は目を輝かせて言った。
「ああ。本当さ」
と、友達は言った。
それから、色々と雑談して、友達は、帰っていった。
「京子さんに、好きです、結婚して下さい、と、ちゃんと言うんだぞ」
と、友達は、ふざけ半分に言い残して。
「ああ。わかったよ」
と、父親は、相手の冗談に、冗談で、答えた。
それを、美津子は、こっそりと聞いていた。
翌日、会社で、京子が、異様に嬉しそうな顔で、吉田に挨拶した。
「おはようございます。吉田さん。お昼に、お話して頂けませんか?」
と、聞いてきた。
修一には、何の用だか、さっぱり、わからなかった。
昼になって、二人は、会社から出て、近くのファミリーレストランに入った。
そして、昼食も兼ねて、カレーライスを、注文した。
「あ、あの。京子さん。ご用は何でしようか?」
修一が聞いた。
京子は、ニッコリ、微笑んだ。そして、
「あ、あの。メール、ありがとうございました。嬉しいです」
と、修一に言ってきた。
修一は、びっくりした。
「あ、あの。何のことでしょうか?」
修一は、聞き返した。
「あ、あの。昨日、送って下さったメールのことです」
と、京子は、顔を赤くして、言った。
それでも、修一には、何のことだか、わからない。
「とぼけないで下さい。修一さんは、昨日、私に、メールを送って下さったじゃないですか」
そう言って、京子は、自分の携帯電話の、受信メールボックスを開けた。
「ちょっと、見せて下さい」
そう言って、修一は、京子の、携帯電話のメールを見た。
そこには、修一から、京子への、メールがあった。
修一も、京子も、同じ職場なので、仕事の打ち合わせ上、携帯番号と、メールアドレスは、登録してあった。
修一から、京子への、メールには、こう書かれてあった。
「好きです。京子さん。結婚して下さい」
修一は、吃驚した。
そして、急いで、自分の、ポケットから、自分の、携帯電話を取り出して、開けてみた。
そして、送信メールボックスを開けてみた。
そこには、修一から、京子への、送信メールがあった。
そして、それには、こう書かれてあった。
「好きです。京子さん。結婚して下さい」
と。
修一は、顔が真っ赤になった。
(誰がこんなイタズラを・・・・)
と、思ったが、すぐに、その容疑者が、頭に浮かんだ。
「あ、あの。修一さん。結婚式は、いつに、なさいますか?」
京子は、モジモジしながら、小娘のように、頬を上気させて、聞いた。
「えっ。いえ。それは・・・」
と、修一は、曖昧な返答をした。
その日、修一は、頭が混乱して、仕事が手につかなかった。
(メールを送ったのは、美津子だ。それ以外にいない)
と、修一は、確信していた。
修一は、今日、家に帰ったら、愛してはいるが、とんでもない悪戯をした、娘の、美津子を、うんと、叱ろうと思った。
仕事が終わって、修一は、家に帰った。
「お帰りなさい。お父さん」
娘は、無邪気に、言った。
父親は、娘をじっと見た。
「美津子。おまえ。パパのメールをいじらなかったか?」
そう父親は聞いた。
「うん。いじったよ。京子さんの、アドレスに、好きです、って書いて送ったよ」
と、娘は、無邪気な顔で言った。
「どうして、勝手に、そんなことをしたんだ。パパの携帯を勝手に、いじるなんて、悪いことだと、そんなことも、わからないのか?パパは、恥ずかしくて仕方がなかったぞ」
と、父親は、言った。
「だって。お父さんは、京子さんが好きなんでしょう。人間は、本音と建て前を使い分けないで、自分の気持ちを、正直に、言うことが大切なんでしょう?」
娘は、キョトンとした、顔で言った。
「ま、まいったなあ」
父親は何も言い返せなかった。
しかし。娘のおかけで、父親は、京子と再婚した。
こうして、修一と京子は、結婚して、京子は、住んでいたアパートを、出て、修一の家に、息子の健太と、移り住んだ。




平成30年11月11日(日)擱筆




イエス・キリスト物語

今から、2000年、前のことです。
ガリラヤのナザレの村に、マリアという、美しい娘がいました。
マリアは、ヨセフという大工を愛していて、二人は、結婚しました。
そして、二人は、ベツレヘムの馬小屋で、イエス・キリスト、という男の子を産みました。
キリストは、自分が、人類を救う、救世主である、運命を、知っていました。
なぜかというと、それは、旧約聖書の、イザヤ 7:14。イザヤ 9:6。イザヤ 11:1。イザヤ 53:1。エレミヤ 23:5。ミカ 5:1。ゼカリヤ 9:9、などで、預言者たち、が、述べているからです。
イエス・キリスト、は、すくすくと、成長していきました。
そして、ガリラヤの村々で、自分の思想を述べて回りました。
多くの人々が、イエス・キリスト、の、教えを、信じるようになりました。
イエス・キリストは、自分の誕生から、最後までを、書かせ、それを、福音書としようと考えました。
そこで、イエスは、福音書の記者として、マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネ、の、4人を選びました。
「さあ。お前たちは、私の、言葉と、行い、を、しっかり、書き記すのだぞ」
と、言いました。
4人の、弟子たちは、
「はい。わかりました」
と、言って、イエス・キリストの、言動を書き記しました。
しかし、イエスの弟子の中に、もう一人、イスカリオテのユダという者がいました。
この男も、熱心なイエスの、信者でした。
「主よ。私も、福音書の記者、と、させて下さい」
と、ユダは、言いました。
イエス・キリストは、微笑んで、
「よろしい。お前も、福音書の記者となれ」
と、言いました。
こうして、キリストは、最初は、福音書は、4人に、書かせる、予定でしたが、ユダが、さかんに、福音書の記者になることを、望むので、最初の予定を、変更して、ユダを加えた、5人に、イエス・キリストの、言動を、記録させる、こととしました。
ユダは、福音書を出版して、印税で、儲けるために、イエス・キリストに、福音書の記者になることを、申し出たのではありません。
ユダは、ジャーナリズムの精神が強く、純粋な思いで、ぜひとも、キリストの、言動を、書き記したい、と、思っていたのです。
ユダは、神経質な性格で、絶えず、肌身離さず、ノートとペンを持って、キリストの、全ての、言動を、余すところなく、全て、書き記そうとしました。
ある時、イエスは、ガラリヤ湖の北のカペナウムの、小高い山で、多くの群衆に向かって、自分の思想を語りました。
これは、「山上の垂訓」、と、呼ばれています。
そこで、イエスは口を開き、彼らに教えて言われました。
「こころの貧しい人たちは、さいわいである、天国は彼らのものである」
「悲しんでいる人たちは、さいわいである、彼らは慰められるであろう」
「柔和な人たちは、さいわいである、彼らは地を受けつぐであろう」
「義に飢えかわいている人たちは、さいわいである、彼らは飽き足りるようになるであろう」
「あわれみ深い人たちは、さいわいである、彼らはあわれみを受けるであろう」
「心の清い人たちは、さいわいである、彼らは神を見るであろう」
「平和をつくり出す人たちは、さいわいである、彼らは神の子と呼ばれるであろう」
「義のために迫害されてきた人たちは、さいわいである、天国は彼らのものである」
ユダは、感激しました。
「このお方こそ、この世を救って下さる、お方だ」
そう思って、ユダは、一字一句、もらさず、キリストの、言葉を書いていきました。
山上の垂訓が、終わると、イエス・キリストは、
「ちょっと・・・」
と、言って、森林に入って弟子たちから、離れました。
ユダは、キリストは、何を、なさっているのだろう、と、思い、そっと、キリストの後について行きました。
すると、キリストは、しゃがみ込んで、「うーん」、と、踏ん張って、野グソ、を、していました。
ユダは、急いで、ノートに、キリストの行動を書き記しました。
ユダは、
「そして、キリストは、その場を離れた。そして、野グソをなされた・・・」
と、書きました。
キリストは、ユダを見つけると、焦って、ユダに、
「や、やめろ。そんなことまで、書く必要はない」
と、キリストは、あわてて、制止しました。
すると、ユダは、
「そして、キリストは、お述べになった。そんなことまで、書く必要はない・・・と」
と、急いで書きました。
キリストは、焦って、手を振りました。
キリストは、すぐに、ユダの速記を止めたかったのですが、野グソの途中だったので、それは、出来ませんでした。
「ユダ。違うんだ。私の、思想と、関係のない、些細な日常の行為、発言、まで、福音書に書く必要はない、と、言っているんだ」
と、キリストは、言いました。
すると、ユダは、急いで、書きました。
「そして、キリストは、言われた。ユダ。違うんだ。私の、思想と、関係のない、些細な日常の行為、発言、まで、福音書に書く必要はない、と、言っているんだ。と」
キリストは、いい加減、頭にきて、
「やめろ、ユダ。そんなことを、書いたら、福音書が、格好悪くなってしまうではないか」
と、怒鳴りました。
すると、ユダは、急いで書きました。
「そして、キリストは、言われた。やめろ、ユダ。そんなことを、書いたら、福音書が、格好悪くなってしまうではないか。と」
キリストは、いい加減、頭にきて、
「やめろ。ユダ。書くのをやめないと、目をえぐるぞ」
と、言いました。
すると、ユダは、急いで書きました。
「そして、キリストは、言われた。やめろ。ユダ。書くのをやめないと、目をえぐるぞ、と」
やっと、キリストは、野グソを、出し切りました。
そして、
「お前は、ばか者だ」
と言って、キリストは、ユダの頭を殴りました。
ユダは、急いで、
「キリストは、お前は、ばか者だ。と言って、ユダの頭を、ぶん殴った」
と、書き記しました。
キリストは、いい加減、あきれて、
「もう、お前には、何を言っても、無駄なようだな。好きなようにするがよい」
と言いました。
すると、ユダは、急いで書きました。
「そして、キリストは、言われた。もう、お前には、何を言っても、無駄なようだな。好きなようにするがよい、と」
そう言って、イエスは、去って行っていきました。
その晩、ユダは、家に帰って考えました。
「キリストは、何も悪いことをしていない、私を殴り、目をえぐるぞ、とまで、言った。殴られて、私は、全治一カ月の怪我をおった。その上、キリストは、私の目をえぐるぞ、と、まで、脅した。はたして、キリストという人は、本当に良い人なのだろうか?これは、明らかに、傷害罪、脅迫罪だ」
という疑問が、ユダを悩ませたのです。
キリストは、私に、(好きなようにするがよい)、と言われた。
そこで、ユダは、警察署に行き、イエス・キリストに、暴行されたことを伝えました。
キリストに、殴られて、できた、たんこぶ、も、見せました。
警察官が、裁判所に言ったところ、裁判官は、
「それは、十分、傷害罪、および、脅迫罪、に、該当する」
と言って、キリストの、逮捕令状を出しました。
警察官たちは、逮捕令状を持って、キリストの所に行きました。
キリストは、ゲッセマネの園で、祈っていました。
「キリストよ。お前は、ユダに、暴行を加え、脅迫したな。お前を、傷害罪、および、脅迫罪で、逮捕する」
そう言って、警察官たちは、キリストに、逮捕令状を見せました。
逮捕令状には、
「イエス・キリスト。昨日、ユダに対し、暴行を加え、脅迫した。これは、刑法第204条の傷害罪。(人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する)、と、刑法第222条の脅迫罪。(生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する)、に該当する。よって、キリストを逮捕する」
と、書かれてありました。
こうして、イエス・キリストは、正式な裁判にかけられました。
第一審の、裁判員裁判が行われました。
裁判長は、ポンテオ・ピラト、でした。
「ユダは、お前に、殴られ、そして、目をえぐるぞ、と脅された、と言っているが、それは本当か?」
ポンテオ・ピラト、は、イエスに聞きました。
「はい。私は、何の罪もない、ユダに暴行を加え、そして、目をえぐるぞ、と脅しました。軽はずみな行為でした」
と、自らの罪を素直に認めました。
裁判員たちは、みな、
「キリストを十字架にかけろー」
と、叫びましだ。
こうして、キリストは、正式な裁判によって、ゴルゴタの丘で、十字架に磔にされて死にましだ。
福音書の記者の、マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネ、の4人は、困りました。
「まいったなあ。キリストは、この世の救い主なのに」
「キリストは、人間の罪を背負って、十字架にかけられるはずだったのに」
「これでは、キリスト教が、成り立たなくなってしまう」
「イエスが、ユダを、福音書の記者に、認めてしまったことが、間違いの原因なんだ」
「そうだな。イエスが、ユダを、福音書の記者に、認めていなければ、キリストは、人間の罪を背負って、十字架にかけられて、キリスト教は、人類を救う、偉大な宗教になれたはずだ」
4人は、どうしたら、いいか、相談しました。
イエス・キリストの降臨は、旧約聖書で、多くの、預言者たちに、預言されていましたから。
その一例を挙げると。
詩篇22篇。詩篇にはメシア詩篇と呼ばれる詩篇があるが、この詩篇もキリストの十字架を預言している。
十字架上のキリストの最後の7つの言葉に関連がある。イザヤ書7章14節。
キリストが処女から生まれることを預言。イザヤ書9章6節。
キリストの誕生の預言。イザヤ書11章1〜5節、10節。
キリストが「エッサイの根株」つまり、エッサイの系列、ダビデの子孫から生まれ、どのような者となるか、ということが預言されている。(エッサイはダビデの父)イザヤ書53章。
キリストの受難を預言した箇所。エレミヤ書23章5,6節。
バビロン捕囚の時代(BC.586〜)に、ダビデの子孫からキリストが生まれることを預言。ミカ書5章2節。
キリストが生まれる場所を預言。ゼカリヤ書9章9節。
キリストがロバの子に乗ってエルサレムに入城することを預言。
しかし、事実を、そのまま、福音書に書くと、旧約聖書の、預言者たちの、預言がはずれた、ということに、なってしまいます。
しかし、そんなことが、あっては、なりません。
マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネ、の4人は、これを、どうするか、相談しました。
そして、結論が出ました。
その結論とは。
「ユダの福音書は無かったこととする」
「ユダは、キリストを売った、裏切り者とする」
「イエスは、罪のないのに、人類の罪を背負って、十字架にかかった、こととする」
という結論です。
そのため、ユダを、秘密のうちに、「裏切り者」、として、その罪悪感から、自殺した、として、ユダの首を絞めて、殺しました。
殺した後、ユダは、自殺したように、見せかけるために、木に首吊りにしておきました。
そして、自分たちで、イエス・キリストの、生涯を、事実とは異なる、立派なものに、創作して、書き記しました。
それが、現在、普及している、キリストの福音書なのです。
しかし、その4人の、機知によって、キリスト教は、博愛の宗教として、全世界で広まりました。



平成30年11月14日(水)擱筆



カルヴァンの予定説

宗教改革は、15世紀に、ドイツで、マルチン・ルターに、よって、起こった。
当時、ヨーロッパでは、ローマ教皇が、絶対的な権力を持っていて、権力を持った人間が、すべて、そうであるように、ローマ教皇を頂点とする、教会は、腐敗、堕落していた。
教会は、「免罪符」、を買えば、罪が救われる、と、説いた。
そして、「免罪符」、を、人々に売った。
しかし、その実態は、教会の、金集め、だった。
これに、怒った、ドイツの神父、マルチン・ルターは、人間は、教会の発行する、「免罪符」、などを、買うことによって、救われるのではなく、ただ、神への信仰によって、救われる、という内容の、「95カ条の意見書」、を、ローマ教皇に訴えた。
しかし、ローマ教皇は、マルチン・ルターの意見を聞くどころか、彼を破門した。
それまで、聖書は、ラテン語で、書かれていて、一般の人は、聖書を読むことが、出来なく、そのため、盲目的に、ローマ教皇に従っていたが、ルターは、聖書をドイツ語に、翻訳した。
そのおかげで、人々は、聖書を読むことが、出来るようになった。
マルチン・ルターの思想に共感するものは、多く、とうとう、ルターの思想は、ドイツ国民の支持を得て、広まった。
さらに、フランスに、マルチン・ルターの影響を、受けた、ジャン・カルヴァン、という牧師で神学者がいた。
彼は、マルチン・ルターの教えを、正しい、と思ったのは、もちろんだか、さらに、ジャン・カルヴァン、は、さらに、この世の中、および、神の御心、に、ついて、考察した。
それまでは、キリスト教は、ローマ教皇に対する、絶対的な、服従だけだった。
ジャン・カルヴァン、は、人間の労働について、
「働くことは、金儲け、のための、悪しき行為ではなく、神から、与えられた使命を、なすことであり、良いことだ」
と、説いた。
そして。
神は、全知全能である以上、
「救われる人間と、救われない人間は、生まれた時から、神によって、決められている」
という、「予定説」、を説いた。
ある家庭です。
ニールスは、真面目な少年です。
彼は、父親、母親、の、言うことを、守り、学校の勉強を真面目にやり、毎週、日曜日は、教会に行く、理想的な神童でした。
ある時、ニールスは、学校の授業で、「カルヴァンの予定説」、の話を聞きました。
しかし、ニールスは、「カルヴァンの予定説」、の意味が、よくわかりませんでした。
それで、その日、家に帰って、母親に、「カルヴァンの予定説」、の意味を聞きました。
「お母さん。カルヴァンの予定説って、なあに?よく、わからないんだ。教えて」
「それはね。中世のローマ教皇の堕落によって、免罪符が、売られるようになり、ドイツで、マルチン・ルターという人が、宗教改革を、起こしたの。それは、知ってる?」
「うん。学校で、習ったよ」
「それでね。ルターは、人は、教皇の売る、免罪符を買うことによって、ではなく、ただ、聖書に書かれている、キリストの、教えに従うことによって、人間は、救われると、説いたのよ」
「うん。それも、学校で習って知ってるよ」
「それでね。ドイツでは、マルチン・ルターの教えが、広まったの。でもね。宗教改革者には、もう一人、強い主張を持った人がいるの」
「それは誰?」
「それは、ジャン・カルヴァンという人よ」
「そのカルヴァンという人は、どういうことを主張したの?」
「人間は、教皇の売る免罪符を買うことによってではなく、聖書に書かれている、キリストの、教えに従うことによってのみ、人間は、救われると、説いたの。その点は、マルチン・ルターと同じ考えなの」
「じゃあ、マルチン・ルターの教えと同じなんだね」
「そうよ。でもね。カルヴァンの教えには、ルターが主張しなかった教えが、二つあるの」
「その教え、というのは何?」
「一つは、働いて、お金を稼ぐことは、悪いことではなく、良いことだと、いう教えなの。それが、今の資本主義の元にもなっているの」
「ふーん。そうなの。それで、もう一つの教えは、何なの?」
「それはね。予定説といってね。人間は、生まれた時に、すでに、神に祝福されて、天国に行ける人と、神に祝福されずに、地獄に堕ちる人は、もうすでに決まっている、という教えなの。だって、神様は、全知全能でしょ」
「ふーん。そうなの。人は、生まれた時点で、天国に行ける人と、地獄に堕ちる人が、決まっているんだね?」
「そうよ」
「じゃあ。お母さん。僕は、天国に行ける人間なの?それとも地獄に堕ちる人間なの?どっちなの?」
と、ニールスは、真剣な眼差しで、母親に聞きました。
「それは。ニールスは、天国に行ける人間に決まっているわ。だって、ニールスは、真面目だし、いい子だし、日曜日は、かかさず教会に行っているじゃない。そんな、いい子が、どうして地獄に堕ちたりするの?」
そう言って、母親は、笑顔で、優しく、息子の頭を撫でました。
もちろん、母親の言う通り、ニールスは、毎週、日曜日には、教会に行っていましたが、それは、敬虔な信仰心からではなく、教会で、貰う、クッキーのお菓子と、友達とお喋りすることが、教会に行く目的でした。
なので、ニールスは、聖書にも、あんまり興味がなく、牧師の説教も、つまらなく、欠伸をして、別の事を考えていました。
「ふーん。そうなの。お母さん。嬉しいな。僕は天国に入れるんだね。よかったー。なんだか、すごく気分が楽になったよ」
「それは、よかったわね。私の可愛いニールス」
そう言って、母親は、笑顔で、優しく、息子の頭を撫でました。
ニールスは、しめしめと、思いました。
なぜなら、自分は、もうすでに、天国に行けることが決まっているのだからです。
自分が、これから、何をしても、どう生きても、天国に行けることが、出来るんだ、と思うと、ニールスは、嬉しくて嬉しくてたまらなくなりました。
その日から、ニールスは、したかったけれど、「してはならないこと」、なので、我慢していたことを、するようになりました。
ニールスは、女の子達の、スカートを、片っ端から、めくったり、落とし穴を、掘って、女の子を、落としたり、学校の給食に、唐辛子を入れたり、カバンの中に、カエルを入れておいたり、体育の授業の時、ジャージに着替えた、女子生徒の、制服を隠してしまったり、テストでの、カンニングしたり、学校を、さぼって、ゲームセンターで、遊んだり、消防署に、どこどこで、火事だー、と、ウソの電話をしたり、など、さんざん、悪戯をするようになりました。
ある日のことです。
ニールスは、同級生の、コレットに、ピクニックに行こうと、誘って、近くの、小山に登りました。
コレットは、ニールスのガールフレンドでした。
ニールスもコレットが、好きでしたし、コレットも、ニールスが好きでした。
二人は、将来は、結婚しようと、言い合っていました。
それは、本気、というよりは、まだ子供の遊び感覚ですが。
コレットは、「うん。いいわよ」、と嬉しそうに、快諾していました。
二人は、その日、いつもの、近くの小山に登りました。
小山に登って、二人は、コレットの持ってきた、サンドイッチを、食べました。
その後。
ニールスは、コレットに向かって、
「さあ。着ている服を脱ぎな」
と、言いました。
「えっ。どうしたの。ニールス君?」
コレットは、いきなり、そんなことを、言われて、たじろぎました。
ニールスは、以前から、コレットの裸を見たいと思っていたのです。
「・・・・」
コレットは、ニールスの豹変に、途方に暮れていました。
「一体、どうしたの。ニールス君。真面目な、ニールス君らしくないわよ」
と、コレットは言いました。
「いいから。脱ぐんだ。脱がないなら、僕が、脱がすぞ」
と、ニールスは、おどしました。
コレットは、どうしていいか、わからず、迷いました。
なので、ニールスは、コレットに、襲いかかりました。
「やめて。ニールス君。私。ニールス君が好きよ。でも、こんな、エッチなこと、しては、いけないって、学校の先生も、教会の牧師先生も、言ったじゃないの」
「ふん。そんなの、大丈夫だよ」
ニールスは、ふてぶてしい口調で言いました。
「悪いことを、すると、地獄に堕ちちゃうわよ」
コレットが言いました。
「ふん。大丈夫だよ。だって、お母さんが、カルヴァンの予定説、によって、僕は、地獄に堕ちないって、言ってくれたんだから」
そう言って、ニールスは、強引に、コレットの、スカートを、脱がし、パンツも、脱がしました。
コレットは、裸にされて、泣きました。
「ひどいわ。ニールス君。好きなニールス君が、こんな、乱暴なことをするなんて」
その後も、ニールスの、悪戯は、続きました。
ある日、学校の先生が、家庭訪問で、ニールスの家にやって来ました。
そして、先生は、最近、ニールスが、悪戯ばかりして、困っていることを、ニールスの母親に告げました。
母親は、驚きました。
(どうして、真面目なニールスが・・・)
母親は、信じられませんでした。
その日、ニールスが、帰ってきました。
「ニールス。この頃、学校で、いつも、悪戯しているって、先生から聞いたけれど、本当なの?」
母親は、ニールスに聞きました。
「・・・・」
ニールスは黙っていました。
「そんな、悪いことしたら、死んだら、地獄に堕ちちゃうわよ」
母親が言いました。
ニールスは、驚きました。
「お母さん。どうして、僕が地獄に落ちるの?だって、僕は、カルヴァンの予定説によって、天国に行けることが、保証されている人間なんでしょう?」
ニールスは、眉毛を寄せて、母親に聞きました。
母親は、困った顔をしました。
それで、苦しげに、話し出しました。
「それはね。カルヴァンの考えによれば。神様は、全知全能だから、天国に行ける人と、地獄に堕ちる人を、生まれた時にすでに、知っている、と、カルヴァンは、言うんだけれど。誰が天国に行ける人で、誰が地獄に堕ちる人かは、人間には、わからないの。それは、神様だけが、知っているの。人間には、それは、わからないの。だけど、ニールスは、真面目で、優しい、いい子、だから、つい、お母さんは、ニールスは、天国に行ける人間だと、言ってしまったの。だけど、本当は、私には、わからないの。でも、いいことをしている人は、天国に行けて、悪いことをしている人、たとえば、泥棒とか、強盗とか、安倍晋三とか、自民党議員とかのように、悪いことをしている人は、きっと地獄に堕ちると思うわ。だから、ニールスも、悪いことをしたら、地獄に堕ちちゃうかもしれないわよ」
母親は、言いました。
ニールスは、真っ青になりました。
「そんなー。お母さん。それなら、そうと、最初に、ちゃんと、言ってよー」
「ごめんなさい。ニールスは、いい子だから、つい、天国に入れる人間だと言ってしまったの」
そう言って、母親は、息子に謝りました。
「そ、そんなあ」
ニールスの顔が青ざめました。
急にニールスに、自分は、地獄に堕ちるかもしれない、という不安が起こってきました。
ニールスは、手を組んで、神様に祈りました。
「神様。ごめんなさい。もう、悪い事は、決してしません」
そして。
ニールスは、すぐに、コレットの所に、謝りに行きました。
「コレット。この前は、ごめんね。僕が悪かったよ。許して。お詫びに何でもするよ」
と、ニールスは、言いました。
「いいわよ。ニールス君。もう、これからは、エッチなことを、しないでくれれば」
コレットは、寛容な性格だったので、ニールスを許しました。
「ありがとう。コレット」
ニールスは、ペコペコと何度も、コレットに頭を下げて、謝りました。
そして、それ以後、ニールスは、悪戯をするのを、ピタッ、と、やめました。
そして、元の、真面目な、少年になりました。
ニールスは、教会で、洗礼も受けました。
ニールスは、悔い改めて、その後は、正直に生きました。
はたして、神様は、ニールスを許して、天国に入れてくれるでしょうか?
それは、誰も、わかりません。
なぜって。
誰が、天国に入れて、誰が、天国に入れない、か、は、人間には、わからず、神様だけにしか、わからないからです。



平成30年11月15日(木)擱筆