義母と少年              戻る

 純は内気な少年である。友達など一人もいない。純は学校が終わると、野っ原で遊び出す子供たちをそよに、一人自分の部屋へ入るのである。そして机の奥から一冊の本を出すのである。それはオールカラーの豪華版SM写真集だった。18禁の本なのになんで純がその本を持っているかというと、ある時、駅のトイレに入った時、紙袋が置いてあった。ので、中を開けてみるとその本が三冊あったのである。純は狂喜して喜んだ。純は書店に行く度、書店の隅の一角にあるSM写真集をうらやましそうに横目でチラッと眺めていたのである。
「ああ。ほしい。あの本がほしい」
純は心の中で羨望の言葉を繰り返した。純はその写真集が咽喉から手が出るほどほしかったのである。
その夢が叶ったのである。純は急いでパラパラッと、その本をめくってみた。美しい女が裸にされて、縛られて、さまざまな奇態な格好にされている。その写真集は純の期待通りのものだった。家に持ってかえって、じっくり見ようと思い、純は大切そうにその本をカバンの中にしまってトイレの水を流し、トイレを出た。

家に着くや純は大急ぎで階段を駆け上がり、部屋へ入り、カバンからその本をとりだした。30人もの美しい女性が一人六ページほど、裸にされて、さまざまな奇態な格好に縛られている。純は興奮のあまり鼻息を荒くしながら、時間のたつのも忘れ、食い入るように見た。それぞれの女性に個性があった。後ろ手に縛められて柱につなぎとめられ、悲しそうな顔で項垂れている女性。天井から手首を縛られて吊るされ、かろうじて足首を伸ばして爪先立ちして苦しい姿勢に眉を寄せて、泣きそうな表情で耐えている女性。畳の上に裸を後ろ手に縛められ、片足を天井に吊るされている女性。その他、皆、実にバリエーションにとんだ奇態な恥ずかしく、苦しいポーズに縛められている。純は興奮して鼻息を荒くしながら見つづけた。
「純さん。お食事が出来ましたよ」
母親が階下から呼んだ。純は本を引き出しの奥に入れ、階下に降りた。父親はいない。父親は三ヶ月前から会社の海外支社に一年間の出向になったのである。夕食はカレーライスだった。純は母親と向かい合わせに食卓についた。
「今日は純さんの好きなカレーライスにしました」
母親は微笑して、純の皿に御飯を大盛りによそって、カレーをたっぷりかけた。二人は、いつものように何も話さず黙って食べた。この母親は純の産みの親ではない。純の産みの母親は純が小学一年生の時に事故で死んでしまったのである。今の母親は、半年前に父親が再婚した女である。純はいまだにこの母親に心が開けない。他人感覚である。内気で人見知りの激しい純には、むしろそれは当然といってもいいだろう。再婚の母親は、はじめの頃、何とか純に心を開いてもらいたいと思い、精一杯純に尽くした。しかし純は心を開かない。優しく話しかけても、話し下手な純は緊張してしまうばかりで、疲れてしまっているのが見てとれた。これでは純がかわいそうだと思って京子は無理に話しかけるのを止め、自然に接し、純が心を開いてくれるのを気長に待とうと考えを変えたのである。

だから純と京子が二人で向き合って食事をしても、会話はほとんど無いのである。

今は純は、あの本のことで頭がいっぱいだった。早く食事を済ませて部屋に戻り、あの本をじっくり味わいたかったのである。急いで矢継ぎ早にカレーライスをかき込んでいるものだから、京子はクスッと笑った。
「純さん。そんなにあわてないで、もっとゆっくり召し上がったら」
だが純は京子の忠告など頭に止まらない。矢継ぎ早にカレーライスをかき込みつづける。カレーライスを食べおわると水をゴクゴク飲み、フーと一息ついた。京子はそんな純を見てクスッと笑った。京子は冷蔵庫から小皿を二つ持ってきて、それを食卓の上にのせた。
「はい。純さん。デザートのフルーツポンチです」
純は、あたかも飲み込むようにそれを一瞬で食べた。そして一目散に二階に駆け上がった。デザートを食べながら楽しく会話したいと思っていた京子は一人とり残されて、寂しそうな顔で自分のつくったフルーツポンチを食べた。

部屋に戻った純はすぐに引き出しを開けてベッドに乗り、本を開いた。本を開いた純の心臓はバクバクした。その夜、純は夜遅くまでその写真集を観賞した。

翌朝、机の上の目覚まし時計のけたたましい音で起きた純は、急いで机の引き出しを開けた。本はちゃんとあった。夢ではなかったのだ。純はほっと胸を撫で下ろし、写真集をパラパラッと見てから、再び蒲団をかぶって目をつぶった。大切なお守りのように本をひしっと抱きしめた。

「純さーん。朝御飯ができましたよ」
階下から京子の声がした。純は目を擦りながら階下に降り、顔を洗って歯を磨いた。食卓では京子がつつましく膝を揃え、純を待っていた。純は食卓についた。朝食は、トーストと目玉焼きとベーコンだった。純に早く心を開いてもらいたいと思っている京子は、この二人きりの食事の時が何とも言えず楽しかった。ちょうど一心に尽くしつづけ、いつか結ばれることに憧れている片想いの女が感じるくすぐったい快感に似ていた。「純さん」という呼び方も、恋人を呼んでいるようで、それも京子の心をくすぐった。

純は学校に出かけた。が、授業中もあの本の事が気になって授業など耳に入らなかった。

学校が終わると純は一目散に家へ帰った。家では京子が掃除していた。
「お帰りなさい。純さん。純さんの好きなフルーツ蜜豆をつくっておきましたよ」
京子は微笑して、掃除機のスイッチを切った。だが純は返事もしないで、急いで階段を上がって、自分の部屋へ入った。純とフルーツ蜜豆を食べながら会話を楽しみたいと思っていた京子は、一人とり残されて冷蔵庫から自分のつくったフルーツ蜜豆を取り出して、一人寂しそうに食べた。

が、幸福な日々はおうおうにして長くはつづかないものである。その日、純の父親が交通事故で死んでしまったとの訃報が入ったのである。まさに青天の霹靂であった。
葬式の日、京子は何度もハンカチで涙を拭いた。

こうして京子と純の二人きりの生活が始まった。今までは離れていたとはいえ実の父親がいたため、内気な純も再婚の母親の京子と何とかやっていけた。が、父親がいなくなってしまった今、純の京子に対する人見知りはいっそう激しくなった。

ある日の夕食の時(その日は御飯と味噌汁とカキフライとサラダだった)黙って黙々と食べている純に京子は顔を赤くして遠慮がちに話しかけた。
「・・・あ、あの。純さん。お父さんが死んでしまって、これから二人きりで生活していかなくてはならなくなってしまいましたが、仲良くやっていきましょうね」
純は答えず、黙ってカキフライにタルタルソースをつけて食べた。キャベツにはブルトックソースをかけて。トマトにはドレッシングをかけて。御飯にはのり玉のふりかけをかけて。食べおわると純は黙って部屋へ戻った。一人残された京子は、さびしそうに自分のつくったカキフライにタルタルソースをかけて食べた。

京子はいつも純が学校に行っている間に純の部屋を掃除していた。
ある時、コンパスが部屋の隅にあったので、仕舞っておこうと思って、そっと引き出しを開けた。マンガが一杯積んであった。京子はいけないと思いつつ、好奇心から、そっとそれを取り出した。すると引き出しの奥にカバーがかけてある本が三冊積んであった。京子はそれを取り出して、そっとその本をめくってみた。京子はびっくりした。それは、どぎついSM写真集だった。京子は、そっとページをめくってみた。京子は真っ赤になった。美しい女性が裸にされ、さまざまな恥ずかしい格好に縛められている。京子は興奮して心臓を高鳴らせながら、時のたつのも忘れ、写真の裸にされて緊縛された女性達を食い入るように見た。
「ああ。純さんに、こんな趣味があったなんて。でも考えてみれば当然の事だわ。性欲の芽が激しく噴き出す年頃だもの。でもSMとは」
京子はそっと本を元通り、引き出しの中にしまった。

その日以来、京子は純と顔を合わせると顔がほてってカタカタと手が震えてコップをこぼしたり、納豆にソースをかけたり、おかしな粗相をするようになった。つい純が自分をどう思っているか、気になってしまうのである。
「純さんは、私をどう思っているのかしら」

京子の官能の悩みは日増しに激しくなっていった。夫に性の喜びを教えられて、それに目覚めたとたんに捨てられてしまったようなものである。その夫に対する想いが今度は純に移ってしまったのである。純には、まぎれもなく夫の血が流れている。そもそも顔からして、ぱっちりした瞳、引き締まった顎。きりっと引き締まった唇。それらに亡き夫の面影がはっきりと現われている。
「ああ。純さん。写真なんかじゃなく、私でよければ、私を性欲の対象にして」
京子の純に対する想いはどんどん激しくなっていった。
純が学校に出かけた後、京子は洗濯に出された純のパンツや靴下を持って、純の部屋へ行き、服を全部脱いで丸裸になって、純のパンツに鼻を当て匂いをかぎながら、
「ああ。純さん」
と切ない喘ぎ声を出した。そして額縁に入った純の写真を畳の上に立てて、犬のように四つん這いになって、すぼまった尻の穴を純の写真の方に向け、
「ああ。純さん。見て。京子のみじめな姿をとっくり見て」
と叫ぶのだった。

京子の部屋は純のとなりである。京子は夜も純の写真を枕元において、それを見ながら純のパンツを握りしめて寝るようになった。時々、パンツを鼻に当てては匂いをかいだ。

京子の悪戯はどんどん激しくなっていった。TバックやTフロントなどのエロチックな下着を買ってきて、その上にスケスケのネグリジチェを着て寝たり、昼間、パンティーだけでベッドに布団もかけずに横たえるようになった。戸を少し、わざと開いておいた。純に見られることを願って。

京子は姿見の鏡を壁に立て、戸の隙間から京子の体が全部、見えるようにした。
ある時、それは日曜の午後だった。京子は白のパンティーとブラジャーだけの姿でベッドの上に横たえていた。トントントンと純が階段を昇ってくる音がした。バタンとドアが閉まる音がした。京子はさびしく残念に思った。が、しばし時間がたっても全く物音がしない。ベッドに寝たのなら、寝返りをうつ時の衣擦れや、ベッドが軋む音が聞こえるはずだがそれもない。部屋に全く人のいる気配が感じられない。もしや、と思って京子はそっとほんのわずか、薄目を開けて、一瞬チラッと鏡を見た。京子は吃驚した。心臓が破裂するかと思うほど。純が戸の隙間から京子をじっと見つめていたのである。

京子は、純がいない間に、居間で裸になって、自縛するようになっていた。
京子はSMショップで、色々なSMグッズを買うようになった。その中に、手錠があったので、京子は買った。縄では、すぐ解けるので、拘束感がなく、より強い刺激を求めて、京子は手錠を買った。それは、手錠を数字ロックでつなげたもので、何とか自分で解ける拘束具だった。京子は、前で手錠をしてみて、暗証番号で、解く事ができた。京子は、だんだん強い刺激を求めるようになり、背中で手錠をしてみた。ぎりぎり余裕があって、背中で手鍵をしても、自分で数字の所をいじって、解くことが出来た。京子は、興奮して、純がいない時、裸になって、後ろ手に手錠をするようになった。

ある時、いつものように、裸になって背中で手錠して被虐の妄想に耽っていた。居間の柱を背にして両手を柱の後ろに廻して手錠をした。ちょうど柱に縛りつけられた、みじめな姿になるために。目の前には純の秘蔵のSM写真集が広げられている。そろそろ純が帰ってくる時間になったので京子は手錠を解こうと、数字ロック錠を回した。が、はずれない。京子はあせった。数字はあっているのに、はずれない。何が原因か、わからないが、故障してしまったらしい。京子はあせった。が、どうしてもはずれない。時間はどんどん過ぎていく。
こんな所を純に見つかったら、大変である。
ともかく早く、何とか、はずさねば。
あせっているところに純が、帰ってきた。
「ああっ」
京子は、絶望の声を上げた。純は、裸で、後ろ手の京子の姿を見て驚いている。
裸の京子の前には、純の秘蔵のSM写真集が置かれている。純は真っ赤になった、
「ご、ごめんなさい。純さん。純さんの大切な本を勝手に持ち出してしまって」
京子は顔を真っ赤にして謝った。純は京子の前に散らかっているSM写真集を急いで拾うと、一目散に二階に駆け上がった。
夜になった。純がそっと、二階から降りてきて、戸の陰から、京子の方を時々、チラッ、チラッ、と眺めている。

それに気づいた京子は、純に声をかけた。
「純さん。ごめんなさい。夕御飯がつくれなくなってしまって。机の中にお財布がありますから、今日は、外食で許して下さい。純さんの好きなものを何でも召し上がってきて下さい」
純は言われたとおり、財布を持って家を出た。
純は直ぐに戻ってきた。コンビニで買った寿司を持っている。純は食卓について、寿司を食べ始めた。時々、視線がチラッ、チラッ、と京子の方へ行く。京子の腹がグーと鳴った。純は、ためらいがちにモジモジしていたが、寿司を持って、裸の京子の所へ行った。そして、寿司に醤油皿につけて、そっと京子の口に持って行った。
「ああ。純さん。私にも食べさせてくださるのね。ありがとう」
京子は、そう言って、口を大きく開けた。純は京子の大きく開いた口の中に寿司をそっと入れた。京子は、モグモグ噛んで、飲み込んだ。
「ああ。純さん。ありがとう。こんな変な事になってしまったけど、純さんが私に親切にしてくれたのは、はじめてだわ。私、幸せです」
純は黙って、寿司を全部、京子に食べさせた。

「あ、あの。純さん・・・」
京子は言いためらっている。
「あ、あの。純さん。洗面器を持ってきて下さいませんか」
京子は、言って真っ赤になった。純は風呂場から、洗面器を持ってきた。
「じゅ、純さん。お願いです。み、見ないでください」
言われて、純は居間を出た。純が見ていないのを確認すると、京子は急いで洗面器をまたいで腰を屈めた。すぐにジョロジョロと音が出始めた。

しばしして、純がためらいがちに、戻ってきた。
京子は、真っ赤な顔でうつむいている。京子の前の洗面器には、黄色がかった液体が並々と満たされている。純は、それをトイレに捨ててきた。
「あ、あの。じゅ、純さん。あ、ありがとうございます・・・」
京子は恥ずかしげに言った。
「あ、あの。じゅ、純さん。洗面器を持ってきていただけないでしょうか」
言われて純は洗面器を持ってきて、京子の前に置いた。

翌日。純がためらいがちに降りてきた。うつむいている京子の横の洗面器は、小水でいっぱいだった。純はそれを持って、トイレに捨ててきた。
純はトーストと紅茶を用意した。それができると、純はお盆にトーストと紅茶を載せて、京子の所へ持っていった。紅茶からは、湯気が出ている。純はトーストにバターと苺ジャムをつけて、紅茶には砂糖とミルクを入れて。
「ああ。純さん。ありがとう」
食べおわって、京子は恥ずかしそうに頬を好調させている。

「じゅ、純さん。もう、こんな醜態を晒してしまったので、正直に言います」
と言って、京子は語りだした。
「私、純さんと二人になってから。毎日、純さんに想いを寄せていました。ある日、純さんの机の中のSM写真集を見つけてしまって。純さんがいない時に黙ってこっそり、見ていました。ごめんなさい」
京子の目は涙で潤んでいた。純は黙って聞いていた。
「じゅ、純さん。純さんが私をどう思っているか、私にはわかりません。でも純さんが望むのであれば、こんな事にしてまったお詫びも兼ねて、私をうんといじめて下さい。私は純さんの言う事には、絶対服従する純様の忠実な奴隷になります」
純は黙って聞いている。京子は、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして声を震わせて言った。
「あ、あの。私の本心は、純さんに、いじめられたくてしかたがないんです」
その日、純は鍵屋に電話して、鍵屋が来て、京子の手錠は、解かれた。

それから数日後の光景。
丸裸の京子が、天井から吊るされ、足首を真っ直ぐ、伸ばした爪先立ちで、体をプルプル震わせている。京子の恥毛は、きれいに剃られている。そして、そこにはピンク色のハート型のワッペンが貼られていた。その前では、純が裸の京子をじっと見ている。
純は、そっと、ピクピク震えている京子の足首を濡れタオルで丁寧に拭いた。
「ああ。純様。ありがとうございます」
純は、そっと、京子の踵の形を鑑賞するように、眺めたり、触ったりしている。
「純様。画鋲を撒いて下さい」
言われて純は、京子の足元に画鋲を撒いた。もはや、京子は爪先立ちから、踵を降ろす事は出来ない。
「純様。棒で突いて下さい」
言われて純は京子の尻を棒で突いた。
「ああっ。いいっ」
京子は被虐の悲鳴を上げた。
「純様。体に洗濯バサミをつけて下さい」
言われて、純は黙って、京子の体に洗濯バサミをつけた。
「ああっ。いいっ」
「純様。幸せです。もっと、もっと京子をいじめて下さい」

こうして京子は純のSM写真集にある、色々なみじめなポーズで責められる事が、日課になった。純もだんだん、慣れてきて、京子をいたぶる事にためらいを感じなくなった。
京子が、風呂に入っている時に、京子の服や、バスタオルをとってしまって、京子が胸と恥部をおさえて困るのを楽しんだり、京子が寝ている間に、そっと裸にして、いたずらしたりと、するようになった。

二人は、楽しく幸せに暮らしている。