東日本大震災         目次へ

ある中学校である。
偏差値の高い進学校である。
山野哲也はその中学にトップの成績で合格した。
佐藤京子もトップの成績で合格した。
哲也はガリ勉ではなかった。
哲也は将来は東大に入って官僚になったり大企業に入って出世したいという上昇志向はなかった。
基本的に哲也はニヒリストだった。
ただ勉強で人に負けるのが嫌いで小学校でも全科目トップでなければ気がすまなかったかのである。
哲也は小学校の時一刻も時間を無駄にしない主義の子供だった。
こんな子供はめずらしい。
だが1000人に一人くらいはいるものである。
哲也はくだらない漫画やテレビアニメやスマホゲームなどは一切しなかった。
そういうことをしている同級生を見るとバカにしか見えなかった。
だからといって哲也に将来の夢があったわけではない。
何事にも負けず嫌いだったから勉強に打ち込んでいただけのことである。

そうして哲也は都内でも有数の進学校に首席で合格したのである。
佐藤京子も女子では首席で入った。
京子はとても可愛らしい容貌だった。
「山野哲也くん。よろしく」
と入学して数日すると京子の方から哲也に接近してきた。
その笑顔から京子が哲也に好感をもっていて友達になりたがっていることを哲也は直感ですぐに感じとった。
「クッキー作ってみたの。よかったら食べてくれない?」
などと言って京子はクッキーのたくさん入った袋を哲也に渡した。
しかも周りに人のいない時に。
他の男子生徒には渡さず哲也だけに渡していたことからも京子が哲也と友達になりたがっていることは明らかだった。
京子のクッキーは美味かった。
・・・・・・・・・・
一方、哲也の方はどうかといえば。
哲也は京子にそれほど好感をもってはいなかった。
それは哲也は女とつき合うこともナンセンスだと思っていたからである。
それは京子に限らずどんなに美しい美形の女に対しても同様だった。
女と無駄話をして時間を無駄に過ごすより勉強したり読書したりすることに時間を使う方が有意義だと思っていたのである。
ただ哲也は京子は嫌いではなかったし京子のような頭のいい生徒となら知性的な有意義な会話が出来るし友達はもっていた方が何かと有利であるから哲也は京子と友達になった。
そういう理由で哲也は京子と友達になったので二人の付き合いは学校にいる時だけにした。
京子が「今度の日曜ディズニーランドに行かない?」とメールを送ってきても「用があるから行けない」と素っ気ない返信メールを送った。
哲也にとってはディズニーランドで一日遊んで一日を無駄に過ごすより勉強することの方が有意義だったからである。
哲也にとっては「遊ぶ」という行為は貴重な人生の時間を無駄に過ごすことと思われた。
しかしやっぱり考え直して「若い時の経験は貴重だ」と思って行くことにした。
実際に人間の活動というものを見ることは人間観察の社会研究になる。
なので哲也は京子とディズニーランドに行った。
・・・・・・・・・
学校では休み時間には一緒に勉強した。
お互いに勉強でわからないことを教え合うのはもの凄く有意義だった。
哲也がそういう自分に親しげな態度をしているので京子は哲也が自分に好感をもってくれているのだと思っていた。
・・・・・・・・・
しかし哲也に困ったことが起こり出した。
それは人間である以上免れられない思春期の第二次性徴が哲也に起こり出したことである。
哲也は陰毛が生え出し髭が生え出し声変わりし出し金玉やおちんちんが大きくなりだした。
そして女子生徒も日ごとに胸がふくらみ出した。
それが人間の成長であることはもちろん哲也は知っていた。
そういう外見的なことだけなら哲也にとって何ら問題はなかった。
哲也にとって困ったことは内面的精神的なことである。
女が同級生も大人もやたらと綺麗に見え出した。
性欲も小学生の頃からあったがそれはエッチなこと以外の他の色々な事。勉強や遊びと等価なことであり、どっちか面白い方を選べばすむことだった。
しかし今の哲也の性欲は違った。
毎日毎日いつもいつも女の裸のことばかりが頭に浮かんでしまってそれは自分の意志で止めることが出来なかった。
京子と一緒にいる時も京子の胸のふくらみが気になってしまって、また京子にエッチなことをしたくて仕方がなくなり、またそんなことばかりを考えてしまう自分に嫌悪が起こったり顔が赤面したり手が震えたりして京子と会話が出来なくなってしまった。
「哲也くん。どうしたの?何だかこの頃変よ」
と京子に言われても、
「い、いや。別に。なんでもないよ」
と哲也はあやふやな返事をするしかなかった。
・・・・・・・・・
家に帰って「さあ。勉強しよう」と思っても女のことばかりエッチなことばかりが頭に浮かんで勉強が手につかなくなってしまった。
いつまで経っても性欲はおさまらないので哲也はあきらめて一時、勉強を中止しベッドに寝転がった。
そしてパソコンのインターネットを開いてエッチなサイトを見た。
裸の女の画像やエッチな無料動画をおちんちんをしごきながら見た。
見ることによって少しは性欲の精神的な重圧が解消された。
哲也は小学校4年の時から保健・体育の授業で性教育の授業を受けた。
哲也は学究熱心だったのでセックスという行為や人間がセックスによって生まれることは知っていた。
しかし知識は官能の欲求の解決には何の役にも立たない。
哲也は孤高の人なので、他人の陰口しかしない同級生を、はなからバカにしていたので彼らとは口を聞かなかった。
なので同級生がマスとかカルピスとか言ってもマスターベーションの仕方を知らなかった。
なので哲也はインターネットを開いてエッチなサイトを見てそれによって多少性欲が満足されてから勉強にとりかかるようになった。
見たい物を見ないでいると欲求不満はますます高じてしまう。
見ることによって多少は欲求不満は解決する。
・・・・・・・・・・
学校で京子と話していてもどうしても京子の胸のふくらみが気になってしまう。
哲也が京子と友達になっておいたのは正解だった。
京子の方でも思春期の第二次性徴によって日に日に胸がふくらみ女らしい体つきになっていき、哲也を異性として意識し恥らうようになっていく態度がありありと見えた。
哲也はスキンシップを装って京子の肩に触れたり、頭を撫でるという口実でそっと髪を撫でたりした。
胸や太腿も触りたかったが京子がどう反応するかこわくて出来なかった。
小学校の時、女子生徒にスカートめくりとかエッチなことをする男子生徒は先生に厳しく注意されていたのを見ていたこともあるし、女の子も本気で嫌がっていたのを見ているので女の子は男にエッチなことをされるのは嫌なのだろうと思っていた。
しかしインターネットのエッチな動画では女はエッチなことをされて喜んでいる人もいるので女の心理が哲也にはわからなかった。
女にもエッチなことをするのが好きな女とエッチなことをするのが嫌いな女がいるのだろうと哲也は思った。
勉強が好きな人間と勉強が嫌いな人間がいるように。
京子はエッチなことをするのが好きな方の女なのかエッチなことをするのが嫌いな方の女なのか哲也にはわからなかった。
しかし真面目で勉強熱心な女はエッチなことは嫌いな方の女だと哲也は考えた。
しかし京子は肉づきがよく京子と話しているとどうしても性欲が高じてしまった。
ある日の夜のことである。
哲也は夢を見た。
それはこんな夢だった。
学校が終わって放課後近くの公園の芝生に座って哲也は京子と数学の勉強を教え合っている。
哲也はそっと京子の肩や背中を撫でた。
そしてそっと京子の太腿を触った。
「あっ。哲也くん。そこは触らないで」
と京子が慇懃に断った。
しかし哲也は性欲をおさえることが出来ず京子を押し倒し「いやっ。いやっ」と嫌がる京子を無視してセーラー服を無理矢理脱がしブラジャーもパンティーも脱がして丸裸にして京子の胸を揉み京子の股間を触った。
おちんちんから何かオシッコとは違う液体が出た。
最高の快感だった。
その時ガバッと哲也は目を覚ました。
夜中の3時だった。
「ああ。夢だったのか。しかしいい夢だったな。気持ちよかったな」
と哲也は快感の余韻に浸った。
しかしパンツの中がなにか変な感じがした。
パンツの中に手を入れてみると濡れていた。
哲也は電気をつけパンツを脱いだ。
パンツは濡れていた。
匂いを嗅いでみるとなんだか変なしかしちょっぴり蠱惑的な今まで嗅いだことのない匂いがした。
「これが精液なんだな」
と哲也は人生で初めてのことに驚いた。
・・・・・・・
翌日学校で京子と会った。
「哲也くん。おはよう」
と京子は屈託のない笑顔で哲也に挨拶した。
「や、やあ。おはよう」
と哲也も挨拶した。
その日の昼休み。
哲也は京子と校庭のベンチに隣り合わせに座って数学の勉強を教え合った。
昨日の夢と重なって京子を校庭ではなく誰もいない公園でいきなり押し倒したら京子はどう反応するだろうかと哲也は冷静に考えてみたがわからなかった。
昨日の夢では京子を無理矢理、裸にして胸や股間を触ったところで目が覚めてしまったのでその後京子が「ひどいわ。哲也くん。もう絶交するわ」と泣きながら言うのか「あんまり乱暴なことはやめてね」と寛容的で穏便なことを言うのかはわからなかったからだ。
しかし哲也は京子と話していてもそれほど性欲にさいなまされなかった。
それは昨日射精して金玉に溜まりに溜まっていた精液が無くなっていたからである。
しかし思春期の男の性欲は激しく一回射精しても金玉では精液があとからあとからどんどん量産される。
なので京子と話しているうちにまた哲也は京子にエッチなことをしてみたいという欲求が起こってきた。
その日の夜も哲也はインターネットのエッチな動画や裸の女の画像をハアハア興奮しながら見た。
・・・・・・・・・・
それから数日後のことである。
その日から体育教師が代わって男のきびしい先生になった。
それまではそんなに厳しい先生ではなかった。
新しい体育教師は名前を増岡修三といって元陸上競技選手でオリンピックにまで出たほどのバリバリの熱血漢でやたら「世界。世界」という言葉を連発するスパルタ教師だった。
それまでは体育は軟式テニスやサッカーやソフトボールなど生徒の好きなものを適当にやっていたが、この熱血教師は「お前たちは基礎体力が全然ない。そんなことで世界に通用するか?」とわけのわからないことを言って怒鳴った。
それで初日に生徒は全員フルマラソンの半分のハーフマラソンと腕立て伏せ300回とスクワット300回をやらされた。
生徒達は体育の授業でクタクタに疲れてしまった。
・・・・・・・・・・
その日の放課後。
「京子ちゃん。疲れちゃったね」
と哲也が言うと
「ええ。クタクタだわ。明日から筋肉痛がジーンと起こってくるわよ」
と京子が言った。
「筋肉痛だと勉強に集中できないな」
と哲也が言った。
「そうね。困ったわね」
と京子が言った。
哲也はあることを閃いた。
「ねえ。京子ちゃん。僕の家に寄っていかない?」
と哲也が聞いた。
「ええ。いいわよ」
と京子は用件も聞かずに受け入れた。
なので二人は一緒に哲也の家に入った。
以前にも哲也は京子を勉強で自分の家によんだことがあった。
二人は哲也の家に入った。
「お母さんは?」
京子が聞いた。
「お母さんはパートで働いているよ」
と哲也が答えた。
二人は哲也の部屋に入った。
「ねえ。京子ちゃん。今日は疲れたね」
「ええ」
「ほっといたら明日からジワーと筋肉痛が起こってくるよ」
「そうね。心配ね」
「じゃあ二人でマッサージしない?」
哲也が聞いた。
「いいわよ」
京子は屈託なく賛同した。
「じゃあ最初に京子ちゃんが僕をマッサージして。その後僕が京子ちゃんをマッサージするよ」
哲也が言った。
「わかったわ」
京子が言った。
それで哲也はベッドの上に乗りうつ伏せになった。
「京子ちゃん。やって」
哲也が頼んだ。
「はい」
京子はうつ伏せの哲也のふくらはぎから太腿、背中へと哲也の体を揉んでいった。
「ああ。気持ちいい」
哲也はマッサージされながら満足げに言った。
実際京子のマッサージは上手かった。
「京子ちゃん。ありがとう」
「どういたしまして」
京子は少し得意げに言った。
「京子ちゃん」
「なあに?」
「京子ちゃんも疲れるでしょう。背中や肩は僕の背中にまたがって体重を乗せてやって」
哲也が言った。
「わかったわ」
京子は哲也の尻の上にまたがって両手で背中や肩を指圧した。
「ああ。気持ちいい」
哲也はほんわかとした口調で言った。
実際京子のマッサージは気持ちよかった。
しかしマッサージ以上に気持ちのいいことがあった。
それは。
京子はセーラー服姿なので哲也にまたぐことによって京子のパンティーに覆われた尻が哲也の尻に触れているので京子の柔らかい尻の感触が気持ちよかったのである。
京子の尻を触ったことなど一度もない。
触ることなど出来ようはずがない。
人間の体は全ての部位に触覚がある。
もちろん尻にもある。
一番触覚の多い所は手だから一般的に「触る」というと「手で触る」ことを意味するが尻にも触覚はあるのである。
手ほど敏感ではないが。
しかし哲也は尻と尻が触れ合っていることに性的な快感を感じていた。
京子は哲也をマッサージし続けた。
京子は真面目でそれに哲也を好いているのでいつまでもマッサージを続ける。
哲也が「もういい」と言うまで続けるだろう。
なので十分マッサージを受けてマッサージと京子の尻の感触を十分に堪能した頃合いに哲也は、
「京子ちゃん。ありがとう。もういいよ」
と言った。
「どういたしまして」
そう言って京子はベッドから降りた。
「じゃあ今度は僕が京子ちゃんをマッサージするよ。さあベッドの上にうつ伏せに乗って」
哲也がそう言うと京子は、
「はい」
と素直に返事してベッドに乗ってうつ伏せになった。
今度は哲也が京子のマッサージを始めた。
ふくらはぎを念入りに揉み始めた。
「ああ。気持ちいいわ。哲也くん」
京子は目をつぶってリラックスしきって哲也に身を任せきっている。
哲也は京子のふくらはぎを念入りに揉んだ。
そしてその次には京子の腕を念入りに揉んだ。
もちろん哲也は人体のツボなど知らないが京子の体を隈なく指圧した。
じっくり時間をかけて。
すると。
クークーと京子の寝息が聞こえてきた。
京子は今日の体育のハードなトレーニングに加えてその後休みもなく一時間もかけて哲也を精一杯マッサージしたので疲れ切っていて寝てしまったのである。
頬の筋肉が完全に緩んでいることからまずタヌキ寝入りではなく本当に寝てしまったのだと哲也は確信した。
これは最初からの哲也の計算だった。
哲也は京子が起きないよう細心の注意を払ってそっと京子のスカートをめくってみた。
白いパンティーに覆われた大きな柔らかそうな尻が丸見えた。
哲也は激しく興奮した。
ネットの画像では何度も見ているが、現実の女のパンティーを目の前で見るのは初めてなので無理はない。
パンティーのクロッチ部分に哲也は興奮させられた。
哲也は京子が起きないよう気をつけながらそっとパンティーの上から京子の尻を触ったり撫でたりした。
そしてスマートフォンで京子のパンティー姿を撮った。
パンティーを降ろしてみたかったがそんなことをしたら京子が起きてしまいそうなのでさすがにそれは出来なかった。
その代りパンティーの縁からそっと中に少し指を入れてみた。
哲也は激しい興奮でびんびんに勃起していた。
そして尻だけではなく尻に続く太腿も念入りに触った。
太腿ならマッサージする所だから問題はなかった。
哲也は京子の尻を触りながら太腿をマッサージした。
そして哲也はさっき京子がしたように京子の尻の上に馬乗りなった。
そして京子の背中や肩を指圧した。
京子は泥のように疲れているのだろう。
そしてマッサージが京子の体に心地いい刺激を与えているのだろう。
哲也が力を入れて京子の体を指圧しても京子はビクとも言わなかった。
クークー寝息を立てているだけである。
しかし哲也はうつ伏せの京子にまたがって尻を乗せている。
哲也はびんびんに勃起している。
なので哲也はそっと勃起した股間を京子の尻にくっつけた。
お互い服を着ていてるが性器と性器をくっつけたことに哲也は激しく興奮した。
しかし京子が起きてしまうのは命取りなのでほんの触れるだけにとどめた。
京子のセーラー服からはブラジャーの紐が透けて見えた。
それも哲也を興奮させた。
哲也は一心に京子をマッサージしたが京子は寝息を立てているだけで起きないので哲也はそっと体を倒して京子の背中に自分の体をピタリとくっつけてみた。
これは男が女を背後から抱きしめている図である。
ほんの僅かな時間だったが哲也は最高の酩酊を感じた。
そして哲也はベッドから降りた。
もう十分京子の体を触る快感を堪能したからだ。
哲也は京子の頬っぺたを指で触れてみた。
しかし京子は起きない。
なので哲也はベッドの傍から京子の頬っぺたにそっとキスした。
それでも京子は起きない。
哲也は非常に慎重に一瞬だけ京子の唇に自分の唇を触れさせた。
幸い京子は起きなかった。
・・・・・・・・
もう空が暗くなっていた。
哲也の携帯がピピッと鳴った。
メールの着信音だった。
哲也は受信メールを開いた。
母親からだった。
「哲也君。今仕事が終わりました。これから帰ります。母」
と書かれてあった。
別に京子と家にいるところを見られても困ることはないが、やはり今日のことは母親にも気づかれたくなかった。
母親が不在中に思春期の男と女が二人きりというのはやはり母親に猜疑心を起こさせる。
それで哲也は寝息を立てて熟睡している京子を揺さぶった。
「京子ちゃん。起きて。マッサージもう終わりにしよう」
と声を掛けながら。
京子は体育の授業の疲れと哲也のマッサージの心地よさから熟睡していて揺さぶってもなかなか起きなかった。
哲也は揺さぶる強さと声を大きくした。
それでやっと京子も目を覚ました。
ポカンとした寝ぼけまなこで。
「あっ。哲也くん。マッサージありがとう。気持ちよくて眠っちゃった」
そう言って京子は大きく伸びをした。
「疲れがとれたわ。これで筋肉痛にならないですむわ」
京子はニコッと笑って言った。
「京子ちゃん。もう遅くなったから家に帰った方がいいよ」
哲也が言った。
「わかったわ。哲也くん。今日はありがとう。じゃあ私帰るわ」
京子が言った。
「僕の方こそありがとう」
哲也も礼を言った。
こうして京子は哲也の家を出た。
・・・・・・・・・
哲也は呆然と夢心地に浸っていた。
女の体を心ゆくまで触ったのは生まれて初めてなので無理もない。
一瞬だか軽くキスもしたのである。
京子が帰った後ベッドの上には京子の髪の毛が数本あった。
それも哲也は興奮した。
しかし神経質で疑り深い哲也には一つの心配があった。
それは哲也が京子をマッサージしていた時、本当に京子は眠っていたのかということである。
外見からは明らかに眠っているように見えた。
寝息も立てていたし頬の筋肉も弛緩していた。
しかし本当に寝ていたのかどうかは京子本人にしかわからないのだ。
哲也がしたことは京子の了解を得ないで京子の体を触ったことであり、女の同意を得ないで勝手に女の体を触ることは、いくら自分に好意を持ってくれている仲の良い友達関係とはいえ、よくない行為なのだ。
しかも哲也は京子が疲れ切っているからきっと眠ってしまうだろうから、その間に京子の体を触ってやろうと計画していたのだ。
もちろん哲也はよくない事をしたことに罪悪感を感じていたが。
もしかすると京子は寝ている間にエッチなことをされたと気づいたり疑ったりするかもしれない。
それによって京子が哲也を嫌いになったり遠ざかったりするのではないかという不安が哲也にはあった。
京子はカンがいい。
しかし今まで京子とつき合ってきて京子は真面目で明るく小細工をするようなことは一度もしたことがない。
寝たふりをして哲也の人格を試すようなことをするとはとても思えなかった。
ともかく。
京子が本当に寝ていたのかどうかは京子本人だけにしかわからないのだから、そのことはいくら考えても結論は出ないのだから哲也はそのことを考えるのはやめた。
しかし京子の素直な性格からしてまず京子は本当に寝ていたのだと信じることにした。
もうそれ以上疑うことはやめた。
そうするとぐっと肩の荷が降りた。
そして哲也は京子の体の感触を思い出して何度もその快感を牛のように反芻した。
・・・・・・・・
その時。
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴った。
「ただいまー」
哲也の母親が帰ってきた。
哲也は急いで階下に降りた。
「おかえりなさい」
と哲也は言った。
「すぐに夕ご飯を用意するわ。お腹減っているでしょう?」
母親はそう言ってキッチンに向かった。
哲也はすぐにまた二階の自分の部屋にもどって京子との快感を反芻した。
しかしすぐに、
「哲也くん。ご飯ができたわよ」
と母親に呼ばれた。
ので階下に降りて食卓についた。
その晩の夕ご飯はカレーライスだった。
哲也は半年前から母親と二人暮らしである。
哲也の父親は大阪の会社に出向していていないのである。
今日の体育の授業の激しい運動で疲れ切ったが、その疲れは京子の精一杯のマッサージによって無くなっていてさらに初めて女の体を触った快感で、哲也は食欲旺盛の状態だったのでかきこむように食べおかわりを母親に求めた。
「哲也くん。なんだか随分嬉しそうね。何かいいことでもあったの?」
母親が聞いた。
「いや。別に」
哲也は笑顔で首を振った。
「さっき家の近くで京子ちゃんを見かけたわよ。家に寄ったの?」
母親が聞いた。
哲也はドキリとした。
「いいや。寄ってないよ」
哲也は焦って言った。
「そう。随分遅い時間だったけれど何をしていたのかしら?」
母親が独り言のように言った。
「さあ。わからないね」
哲也は内心焦りながら首を傾げて言った。
哲也はカレーライスを特盛りで二杯食べた。
「ごちそうさま」
哲也は手を合わせて頭を下げた。
そして二階の自室に入った。
あぶないあぶないと哲也は胸をほっと撫で下ろした。
母親は職場からの帰り道で家の近くで京子を見かけたのだ。
もし母親が京子に「こんばんは」と声を掛けて京子が「今哲也君とマッサージしてました」などと言っていたらちょっとやっかいだった。
京子は正直で隠しごとなどしないで何でも話すからだ。
しかし母親の態度から母親は夜目に京子を見かけただけで、声はかけず会話しなかったようだ。
そのことに哲也はほっと胸を撫で下ろした。
・・・・・・・
その時ピピッとスマートフォンの着信音が鳴った。
京子からのメールだった。
それにはこう書かれてあった。
「哲也くん。マッサージ気持ちよかわった。ありがとう。おかげで筋肉痛にならなくてすみそうだわ。京子」
哲也はそれを見てほっとした。
単純な文章だが文章からも京子はマッサージの最中に寝てしまったように感じられたからだ。
哲也は寝ている間に京子の体を触ったがマッサージもしっかりやったのだ。
なので哲也は京子はマッサージの気持ち良さに寝てしまって悪戯には気づかなかったのだと確信した。
「僕も気持ちよかったよ。ありがとう。お休みなさい。哲也」
と書いて哲也は返信メールを京子に送った。
哲也は返信メールで「また体育の授業の後はマッサージし合いませんか?」と書きたかったがマッサージしたすぐ後に京子にそれを提案すると京子に疲れをとる目的以外の下心を見抜かれるかもしれないと思ったのでそれは書かなかいことにした。
また次の体育の授業が終わって疲れている時に「ねえ。またマッサージしない?」と聞けばその方が自然で下心を疑われないだろうと哲也は思った。
・・・・・・・・・・
哲也はその夜布団に入ってもなかなか眠れなかった。
というか眠らずに京子の体を触ったことを何度も思い出して反芻して快感を味わった。
スマートフォンで撮った京子のパンティーの写真を見ながら。
また京子が帰った後ベッドの上には京子の髪の毛が数本あった。
それを見ながら。
哲也は今まで女の体を触ったことがなく写真や動画でしか女の体を見たことがない。
哲也は動画より写真の方が好きだった。
写真をじっと見ていると写真では女は動かないから、あたかも彫刻を見ているような気分になり女の体は大理石のように硬いもののように錯覚してしまっていた。
しかし今日京子の体を触って女の体は柔らかいものであるということを実感した。
哲也は京子の尻や寝姿の写真を見ながら、そして今日のことを思い出しながらおちんちんを揉んでみた。
哲也はマスターベーションということはネットで検索して知っていた。
夢精でなくてもおちんちんをしごくことによって射精できるらしい。
学校でも「オレ。昨日マスかいちゃったよ」などと言う男子生徒の発言は聞いていた。
哲也も一度試してみたことがあったがダメだった。
勃起して性欲の興奮は高まるが精液は出なかった。
これはひとえにマスターベーションはもっと激しく力一杯しごかなければ射精しないというごく基本的なことを知らなかったからだけである。
他の男子生徒をバカにして友達がいないのでマスターベーションの基本を知らなかったのである。
それに哲也は包茎なのであまり強くしごくとおちんちんが痛くなるので激しくしごくことは出来なかった。
しかしエッチな動画を見て性欲が高まった時、勃起したおちんちんを揉んでいると気持ちがいいのでそれだけにとどまっていた。
哲也はその夜遅くまで京子の体を触ったことを何度も思い出して勃起したおちんちんを揉みながら反芻して性欲の快感を味わった。
その日の興奮が激しかったためその夜も哲也は夢精した。
・・・・・・・
翌日。
学校では生徒みんなが筋肉痛を訴えていた。
「太腿がジーンと痛くて昨日は勉強できなかったよ」
「私はふくらはぎがまだ痛いわ」
「私も」
「私もよ」
そんな会話をみなが脚をさすりながら言っていた。
「おはよう」
京子が元気に教室に入ってきて哲也の隣りにやって来た。
そして哲也の隣りに座った。
「哲也くん。昨日はありがとう。おかげで筋肉痛にならずにすんだわ」
京子はニコッと笑って哲也に言った。
「あ、ああ。僕もさ」
哲也は恥ずかしそうに顔を赤くして答えた。
「ねえねえ。京子。京子は筋肉痛じゃないの?どうしたの。何かしたの?」
京子の隣りにいた順子が訝しそうな顔で京子に聞いた。
「えっ」
と京子は一瞬答えるのをためらった。
そして哲也の顔を一瞬見た。
哲也の判断を求めるかのように。
哲也はうつむいて黙っている。
「い、いえ。何もしていないわ」
京子は顔を赤くして順子に言った。
哲也は内心ほっとした。
京子は正直で隠し事はしない性格だが、またお喋りでもなく余計なことは言わない性格でもあった。
京子は哲也の顔を一瞬見てなんとなく哲也の思いを察したのだろう。
また京子も昨日哲也と二人でマッサージしあったなどと他人に言うのは恥ずかしそうな様子も見えた。
思春期は体の発達と同時に異性に対する恥じらいが起こってくる時期でもある。
小学生の時は男女は互いに相手の性別を意識することはあまりないが中学生になると男は女を女は男を異性として意識して恥らうようになるのである。
もちろん京子にもその兆しが起こり始めているのを哲也は日頃からの京子の態度から感じとっていた。
哲也はほっとした。
昨日マッサージしあったことはクラスの他の生徒には知られたくなかったからだ。
昼休み。
哲也と京子は二人で校庭に出てベンチに腰かけた。
「ねえ。京子ちゃん」
「なあに?」
「昨日マッサージしあった事誰かに言った?」
「ううん。言ってないわ」
「お母さんにも?」
「うん。言ってないわ」
「どうして?」
「だって恥ずかしいもの」
京子は顔を赤くして言った。
それを聞いて哲也はほっと安心した。
「哲也くんは誰かに言った?」
今度は京子が聞き返した。
「僕も誰にも言ってないよ。人に知られるとちょっと恥ずかしいからね」
「そうだろうと思ったわ」
京子が言った。
京子はカンが良く相手の気持ちを推測する能力が高いのである。
「ねえ。京子ちゃん」
「なあに?」
「昨日マッサージしあった事は誰にも言わずに秘密にしない?」
「ええ。そうね。そうしましょう」
こうして哲也はいとも簡単にさりげない会話で自分の持っていきたい方向に京子を説得することに成功した。
哲也としては京子に「また今度の体育の時マッサージしようよ」と言いたかったのだが翌日にすぐそう言うのは恥ずかしく言えなかった。
また今度の体育の授業の後にさりげなく言おうと思った。
・・・・・・・・・
哲也は次の体育の授業が待ち遠しくなった。
明日が増岡修三の体育の授業だった。
生徒達は「あー。嫌だな。また筋肉痛に悩まされるよ」と愚痴を言っていた。
哲也も授業でのハードなトレーニングは嫌だったが、しかし哲也は密かに喜んでいた。
明日の体育の授業が終わったら放課後、京子に「ねえ。今日もマッサージしない?」と言おうと思っていたからである。
・・・・・・・・
しかしその日予想外のことが起こった。
熱血体育教師の増岡修三が他のクラスの体育の授業でハードなトレーニングを生徒に課して生徒の二人が疲労骨折を起こしてしまったのである。
負傷した生徒の母親はパワハラの行き過ぎたスパルタ教育と学校に抗議した。
学校としてはことなかれ主義なのでニュースにでもなったら学校の恥なので体育教師の増岡修三は責任問題が起こる前に依願退職ということで辞めさせられてしまった。
生徒達はみな「やった。これであいつのパワハラ授業がなくなる」と喜んだ。
しかし哲也はちょっと、いやかなり残念だった。
なぜなら体育の授業でハードな練習がなくなってしまったので京子にマッサージをしようという口実がなくなってしまったからだ。
・・・・・・・・・・
翌日は体育の授業はなかった。
・・・・・・・・・・
なので哲也は京子とマッサージする口実を失ってしまったのでマッサージは出来なかった。
唯一京子の方から「体育の授業はなくなったけれどマッサージ気持ちよかったからまたしない?」と言ってくるのを期待した。
しかし京子は言ってこなかった。
一回最高の快感を味わっておいてその後それが出来なくなることほど欲求不満になることはない。
欲求不満というより性欲の欲求が激しく高まった。
・・・・・・・・・
夏が近づいてきた。
特別授業で。
新しく来た体育教師は井村雅代という女のおばさんだった。
このおばさんは元シンクロナイズドスイミングの選手で引退した後はシンクロナイズドスイミングのコーチをしてきた人だった。
体育の授業は水泳が多くなった。
この中学では水泳の授業は男女一緒にやった。
男は水泳の授業はずっとつづけて泳がされた。
女子生徒はハイレグ水着を着せられてシンクロナイズドスイミングの練習をさせられた。
「あなた達は将来の日本シンクロの星になるのよ」
というのが彼女の女子生徒たちに対する口癖だった。
で女子はハイレグ水着でシンクロナイズドスイミングをやらされた。
かなり厳しかった。
しかしそれは女子だけだったので男子は別に困らなかった。
女子生徒たちはハイレグ水着を男子生徒に見られるのが恥ずかしそうだった。
男子生徒たちの視線がチラッチラッと女子生徒たちに向かった。
もちろん男子生徒たちの視線は女子の股間の盛り上がりの部分に集中した。
女子生徒たちは恥ずかしがっていたが隠そうとする行為はますます恥ずかしくなってしまうので女子生徒たちは手のやり場に困った。
スマートフォンで時々女子生徒を写真に撮る男子生徒もいた。
哲也も京子のハイレグ水着姿を見た。
京子は哲也の視線に気づくと恥ずかしそうに顔を赤らめた。
クラスでは京子が一番可愛かったので男子生徒たちの視線は京子に集中した。
翌日。
男子生徒たちは「あー。昨日女子の水着の写真見ながらオナニーしちゃったよ」などと言う者もいた。
哲也もクラスの男子生徒から京子の水着姿の写真をもらった。
哲也は京子のパンティーの写真はもっているが水着によるプロポーションの美しさはそれ以上に美しくまた興奮させられた。
・・・・・・・・・・・
学校からの帰り道。
哲也と京子は一緒に帰るのが習慣だったが、ある時、哲也が「京子ちゃんの水着姿かわいいね」と言うと京子は顔を赤くして「いやだわ。恥ずかしいわ」と言った。
京子も思春期の恥じらいがあるのだなと哲也はあらためて感じさせられた。
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クラスでは男子生徒の誰と女子生徒の誰がつきあっているとかキスしたなどという噂も流れるようになった。
女子生徒はお洒落する生徒が出てきた。
一人がピアスをつけたりマニキュアをつけたりと、お洒落するようになるとそれは他の女子生徒にも広まった。
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ある保健体育の授業のことである。
その時は性教育を担任教師が教えた。
女の性器を書いた図を見せ、これがクリトリス、これが膣などと言ってその構造や機能を説明したり女の生理のことや男の性器のことセックスや妊娠する原理などを詳しく説明した。
女子生徒たちはキャーキャー騒ぎ声を上げていたが男子生徒たちは興味津々に聞き入っていた。
この時は勉強嫌いな男子生徒も目を皿のようにして授業を聞いた。
担任教師は、
「君たちは思春期だから異性に関心があるだろう。女子も初潮をむかえている者も多いだろう。しかし安易に性行為をすると妊娠する危険がある。しかし君たちにはまだ親となる経済力は無い。だから最低でも高校を卒業して大人として親から自立して結婚するまで性行為は我慢しなさい。友達としてつき合う分にはいいが君たちにはキスもペッティングもまだ早い。決してしてはいけないよ」
と厳しく注意した。
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7月になった。
レジャープールが開館した。
7月の最初の日曜日のことである。
哲也は前日の夜、京子に「明日。豊島園に行かない?」と書いたメールを京子に送った。
京子からは「わかったわ。行くわ」という返信メールが来た。
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翌日の日曜日。
哲也は朝早く家を出て京子の家に行った。
ピンポーン。
「はーい」
チャイムを押すと家の中でパタパタと玄関に向かう足音が聞こえた。
玄関が開いた。
京子の母親が出た。
「こんにちは」
哲也は挨拶した。
「あら。哲也くん。こんにちは。どうぞ中へ入って」
京子の母親が言った。
哲也は京子の家にあがった。
哲也は居間に通されてソファーに座った。
「京子ー。哲也くんが来たわよ。降りてきなさい」
母親は階段の所から二階に向かって大きな声で京子を呼んだ。
しばしして京子が降りてきた。
「おはよう。京子ちゃん」
「おはよう。哲也くん」
一緒に大学生くらいの女性が降りてきた。
初めて見る女性である。
「こんにちは。じゃなくはじめまして。哲也君。君のことは妹から聞いています」
「は、はじめまして」
哲也はあせって挨拶した。
同時に哲也は驚いた。
京子に姉がいるとは聞かされていなかったからだ。
京子の誠実な性格からして姉がいるなら言っているはずだ。
哲也は疑問に思った。
「私。大坂の私立の中学から大学まである一貫校に行っているの。父親が大阪だからね。それで学校の寮で生活しているの。夏休みでこっちに帰ってきたの」
そう京子の姉は説明した。
「あっ。言い忘れたけど名前は冴子っていいます。大学一年生です。よろしく」
姉は早口でまくし立てた。
「よ、よろしく」
哲也はあらためて挨拶した。
姉の冴子はアカぬけた感じの女性だった。
哲也は首を傾げた。
京子はお喋りではなく余計なことまでは言わないが姉がいるなら「姉がいます」と言う方が普通である。
たとえ兄弟姉妹の有無について聞かれなくても。
哲也は今までに京子の兄弟姉妹について聞いたことがあったかどうか思い出そうとしてみた。
だが聞いたことがあったかどうだかは思い出せなかった。
しかし姉がいるのなら京子の真面目な性格からして「姉がいます」と言ってもおかしくないはずだ。
その方が普通のはずだ。
なぜ今まで京子は言わなかったのか哲也にはその理由がわからなかった。
「京子ちゃん。今日さあ。豊島園に行こう」
哲也はそのことは後まわしにしてとりあえず豊島園に行くことを催促した。
「え、ええ。私も行きたいけれど・・・」
と言って京子はその続きを言わなかった。
言葉を濁した。
京子は何だか行きたがらなさそうな顔つきをしている。
哲也はその理由を考えてみた。
水着姿を見られるのが恥ずかしいのだろうか?
しかしあれは体育の授業で女子は普段はいつも制服姿なのにそれが水着姿を男子生徒たちに見られてしまうというギャップが恥ずかしいのである。
京子も少し恥ずかしそうだったがそれほど京子は神経質ではない。
それにレジャープールに仲のいい男女が一緒に行くことは普通のことで恥ずかしがる理由もないはずだと哲也は疑問に思った。
レジャープールでは老若男女みな水着姿になるのは当たり前のことで皆が水着姿だから恥ずかしくないはずだし、それを恥ずかしがっていたらレジャープールが成り立たなくなる。
「あのね。哲也くん。京子は今生理で体調が悪いの。でも自分からは言いにくいから言えないのよ」
姉の冴子が京子に代わって説明した。
なるほどと哲也は思った。
「哲也くん。よかったら私と行かない?」
冴子が元気に言った。
なるほどと哲也は納得した。
京子は思いやりがあるので「体調が悪いから行きたくないです」とは言えない性格である。
「はい。行きます」
と哲也は冴子の誘いに答えた。
「ごめんね。哲也くん」
冴子の隣りに座っていた京子が言った。
「いや。いいんだよ。ちょっと残念ではあるけど」
と哲也は言った。
「よし。じゃあ行こう」
姉の冴子が言った。
哲也と冴子は立ち上がった。
そして玄関を出た。
「じゃあ行ってきます」
そう二人は京子と京子の母親に言った。
冴子は家のガレージにあるマーチのドアを開けた。
「さあ。哲也くん。乗って」
そう言って冴子は助手席のドアを開いた。
「冴子さんが運転するんですか?」
「ええ。そうよ」
冴子はあっさりと言った。
哲也は意外に思いながら助手席に乗った。
京子の父親は大阪の支社に出向していることは京子から聞いて知っていた。
京子の母親は買い物で車に乗っている。
今時女が車の運転をしてもおかしくないが冴子は大学一年生である。
免許は取ってまだ間がないだろう。
と哲也は思った。
その哲也の不安を払拭するかのように、
「ふふふ。哲也くん。私高校三年生で18歳の誕生日を迎えるとすぐに教習所に通って免許を取ったの。だからもう一年以上運転しているから大丈夫よ」
と笑って言った。
冴子はエンジンを駆けた。
「哲也くん。どこに行く。豊島園?読売ランド?大磯ロングビーチ?」
冴子が聞いた。
「哲也くん。大磯ロングビーチに行かない?あそこはプールから海が見るし車ならすぐよ」
冴子が聞いた。
「え、ええ。そこでいいです」
哲也が答えた。
「じゃあ行くわよー」
そう言って冴子はアクセルペダルを踏んだ。
第三京浜を一直線に車は走った。
冴子はあか抜けていて真面目な京子とは対照的な性格だと思った。
京子とレジャープールに行けなかったのは残念だったが冴子と行けることになったのは哲也にとってドキドキハラハラだった。
哲也の本心をいうと京子より冴子と行けることの方が哲也にとっては嬉しかった。
というのは哲也はレジャープールに行くという口実で京子の水着姿を見たいと思っていたのだが何といっても中学1年生より大学1年生の方が大人の体だからだ。
京子に対する友情という思いより友情に名を借りた性欲が哲也の目的だった。
それにレジャープールに行けばビキニ姿の大人の女が見られるからだった。
一人ではレジャープールに入りにくい。
性欲の対象は女なら誰でもよかったのである。
女は男を恋愛の対象と見ているが男は女を性欲の対象と見ているのである。
しかしどうして京子の姉は大阪の一貫校に通っているのかはわからなかった。
何か複雑な事情があるのかもしれないと哲也は思った。
・・・・・・・
大磯ロングビーチに着いた。
7月の初めの日曜なので駐車場は車でいっぱいだった。
空は雲一つなく太陽がさんさんと照りつけている。
哲也と冴子は車を降りて入り口で入場券を買った。
冴子が「大人二人一日券」と言って哲也の分まで買って一枚を哲也に渡した。
もう場内ではウォータースライダーでキャーキャーはしゃぐ嬌声がことさら大きく聞こえていた。
二人はテラスハウスに入った。
そして男女別々の更衣室に別れた。
冴子がグラマラスな肉体をピンク色のビキニを身につけて出てきた。
哲也は瞬時に「うっ。セクシーだ」と感じて、おちんちんが瞬時に勃起した。
・・・・・・・・・・・
その日哲也は冴子と夏の一日をうんと楽しんだ。
昼過ぎに二人は食事を食べた。
二人ともヤキソバを食べた。
食事の後哲也は色々と疑問に思っていることを冴子に聞いてみた。
「冴子さん。冴子さんは大阪の中高一貫校を出たんですよね?」
「ええ。そうよ」
「それで付属の大学に進学したんですね?」
「ええ。そうよ」
「その学校には中学から入ったんですか。それとも高校から入ったんですか?」
哲也が聞いた。
「小学部からよ」
冴子が答えた。
「それじゃあ京子ちゃんが生まれて、2、3年して大阪の一貫校の小学部に入ったことになりますね」
「そうね。そういうことになるわね」
冴子は他人事のような口調で言った。
「じゃあ冴子さんは京子ちゃんとほとんど別れて暮らしてきたということになりますね」
「ええ。そうよ」
冴子はあっさり言った。
「どうして冴子さんは大阪の一貫校で育ったのですか?姉妹別々に過ごすというのは何だか不自然に思えますが何か特別な理由でもあったのですか?」
哲也が眉間に皺を寄せて聞いた。
「哲也くん。京子から私のこと聞いてない?」
冴子が聞いた。
「ええ。今日初めて京子さんにあなたという年の離れたお姉さんがいることを知りました」
「京子はお父さんのことは何か言った?」
「大阪の支社に出向になったと聞きました」
「いつからと言っていた?」
「それは言いませんでした。でも僕は何となく2、3年くらい前からじゃないかと勝手に思っていました。京子さんの口調から何となくそんな感じがしたんです」
「そうか。あの子の性格なら言わないのも無理はないわね」
冴子は視線を一瞬青空に向けため息まじりに言った。
「何か複雑な事情があるみたいですね?」
「聞きたい?」
「ええ。でも京子さんが聞かれたくないことだったとしたら無理に聞き出したいとは思いません」
「哲也くんは将来、京子と結婚するの?」
「ええ。したいと思っています」
「それじゃあ話すわ」
そう言って冴子は話し出した。
「私は京子の実の姉じゃないの。従姉妹の関係なの」
「ええっ。そうだったんですか」
「京子の今の父親は京子の実の父親じゃなくて、死んだ京子のお兄さんなの。私はお父さんの一人娘なの」
哲也は驚いた。
「京子の実の父親は死んだんですか。それはいつですか?」
「京子が小学校5年生の時だわ。だから二年前ね」
「そうだったんですか」
「京子には姉もいたの。でも二年前に父親と一緒に死んだの」
「ええっ。そうだったんですか。知らなかった」
「二年前というと、もしかして東日本大震災で死んだんですか?」
「ええ。そうよ」
「東日本大震災で京子は姉と父親を失ったの。家も。友達も全て」
「そうだったんですか」
哲也は驚いて目を皿のようにして冴子を見た。
「それでね。京子のお母さんは夫も家も失ってこれからどうして生きていこうかと途方に暮れていたの。その時私のお父さん、つまり京子のお父さんのお兄さんが、京子のお母さんに結婚を申し込んだの。私の実の母親も私を産んですぐに交通事故で死んでしまったの。だから私は父親と二人きりでずっと生きてきたの。私もお母さんという存在が欲しかったわ。友達がお母さんと仲良くしているのを見るとすごく羨ましかったわ。私の父も私がさびしいだろうと思って再婚を願っていたわ。でもなかなかいい相手がいなくて結婚できずに過ごしてきたの。血のつながりがない赤の他人が母親だとかえって母子関係がややこしくなることだってあるしね。そこで京子のお父さんが死んだ時、私の父と京子のお母さんはちょうど一人親同士だし赤の他人でもないし、それまで何回か会ったこともあるし、お互い親戚として好感をもっていたし、京子のお母さんは迷わず私の父親と結婚したの」
「そうだったんですか」
「それで。父親も会社から本社勤めになりそうな話が来たから大阪の家を売ってその金で東京に安い物件があったから買ったの。それが今の京子の家なの。私の父親は東京の本社勤めになったわ。それで私の父と京子と京子の母親は三人一緒に暮らすことになったの。私は大阪で寮生活だったから関係なかったわ。でも父が本社勤めになってから半年でまた会社の事情で大阪の支社に出向することになったの」
「そうだったんですか」
哲也は溜め息をついた。
「僕は京子ちゃんを無二の彼女と思ってつき合っています。京子ちゃんも僕を無二の友達と思ってくれています。でも京子ちゃんが心から笑った顔を僕は見ていません。ふっと黙り込んでしまう時もあります。彼女は何を悩んでいるんでしょうか?」
哲也が聞いた。
「それは京子があまりにも誠実な性格だからよ。京子は友達が多くて京子は友達との友情がとても厚かったの。京子にとって友達の喜びは自分の喜びであり友達の悲しみは自分の悲しみそのものだったの。京子の友達も京子のことを自分の兄弟姉妹のように思っていたわ。そこで東日本大震災が起こってしまったでしょ。学校は津波で全部流されてしまって京子のクラスの友達は全員死んでしまったわ。唯一無二の親友を京子は全員失ってしまったの。京子は毎日泣いて悲しんだわ。京子にとって友達はかけがえのない存在だったもの。京子が生き延びて友達が死んだのは単に京子が運が良く友達が運が悪かったからでしょ。そのことに京子は罪悪感を感じているのよ。友達が死んでしまったのに自分だけが幸せになるということに京子は悩まされているの。だから京子の潜在意識には生きることを楽しんではならないという気持ちがあるのよ」
哲也はそうだったのか、そういう理由だったのかと理解した。
しかし哲也には京子のような気持ちは頭ではわかっていても実感ではわからなかった。
「哲也くんは京子の気持ちわかる?」
冴子が聞いた。
「・・・・」
哲也は答えられなかった。
そういう経験をしたことがなかったからである。
哲也は子供の頃から無口で友達などいなかった。
なので友達(同級生)が死んでも悲しいと思ったことはなかった。
哲也が答えないで黙っているので冴子は哲也を慰めるように口を開いた。
「哲也くんはそういう気持ちわからないかもしれないわね。だって京子から聞いたけれど哲也くんは内向的な性格で一人で友達がいなくても一人で生きるタイプだものね。しかし京子は外交的な性格で友達と生きることが喜びだもの。引け目に思ったり気にする必要ないわよ」
哲也は冴子の思いやりを嬉しく思うと同時に(僕だってそんな冷たい人間じゃないよ)と反駁していた。
なぜなら哲也は京子を愛していて京子が幸せになってくるのなら自分は死んでも構わないと思っていたからである。
哲也にとって京子は自分の本当の友達だったからである。
そう思うと友達と共に生きている京子の悲しみがわかるような気がした。
・・・・・・・・・・
哲也はその後冴子とウォータースライダーをして夏の一日を楽しんだ。
しかし生きることを楽しむことに罪悪感を感じている京子のことを思うと京子が可哀想に思えてしまって冴子と遊んでいても楽しくはなかった。
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大磯ロングビーチが5時になって哲也は冴子の運転する車で家に送ってもらった。
・・・・・・・・
その夜。
京子からメールが来た。
それにはこう書かれてあった。
「今日お姉さんと大磯ロングビーチで楽しかった?」
哲也は、
「うん。とても楽しかったよ」
と書いて返信メールを送信した。
しかしそれは哲也の本心ではなかった。
哲也は京子の心の病が治まる日まで(それはいつになるかはわからないが)そっと京子を見守り続けようと思った。


2019年の8月頃に書いた作品を古いフォルダの中にたまたま見つけた。
あまりストーリーに一貫性がないので出さなかったのだろう。
しかし一応、読める小説になっているので少し手を入れて発表する。


2025年7月20日(日)擱筆