うらしま太郎2              もどる

ある浜辺の村に、うらしま太郎、という青年がいました。
うらしま太郎、は、幼少の時、(お伽話)、の、「浦島太郎」、の、話を読んで、その話が、いたく、気に入ってしまって、何度も、読み返しました。
うらしま太郎、は、毎日、浜辺へ行っては、
「竜宮城へ連れて行ってくれる亀は、いないかなあ」
と、時の経つのも、忘れ、日が暮れるまで、海を眺めていました。
(本当に、海の中には、竜宮城があって、きれいな、乙姫さま、が、いるのだろうか?)
(竜宮城、って、どれほど素晴らしい所なんだろうなー?)
(乙姫さま、って、どれほど、奇麗なんだろう?)
と、うらしま太郎、は、海を見ながら、考えていました。
その思いは、うらしま太郎、が、成長して、若者になっても、かわることは、ありませんでした。
子供の頃に、ギリシア神話のトロイヤの話に、感動して、大人になり、考古学者になって、本当に、発掘活動をして、ギリシア神話のトロイヤの遺跡、を、発掘した、ハインリヒ・シュリーマンのように、無邪気な子供の頃、熱烈に憧れたものは、大人になっても、変わることがないのです。
それと、同じように、うらしま太郎、も、成長して、若者になっても、海の中には、竜宮城があって、きれいな乙姫さま、が、いることを信じていました。
うらしま太郎、は、毎日、仕事が終わると、浜辺に行って、その夢想に浸りながら、日が暮れるまで、海を見ていました。
(竜宮城、って、どれほど素晴らしい所なんだろうなー?)
(乙姫さま、って、どれほど、奇麗なんだろう?)
と、想像を楽しみながら。

ある日のことです。
うらしま太郎、は、仕事が終わって、いつものように、浜辺に、行きました。
すると、どうでしょう。
うらしま太郎、は、びっくりしました。
なぜなら、村の子供たちが、寄ってたかって、大きな亀を、いじめていたからです。
「やーい。やーい。ドン亀」
と、子供たちは、囃し立てて、棒で、巨大な亀を、叩いていました。
うらしま太郎、は、当然、子供たちを、注意しました。
「こらこら。君たち。そんな、可哀想なことを、するものじゃないよ」
と、うらしま太郎、は、子供たちを諌めました。
すると。
「うわー。逃げろー」
と、子供たちは、うらしま太郎、に、叱られて、蜘蛛の子を散らすように、逃げていきました。
「ああ。ありがとうございました。もう少しで、いじめ殺される所でした」
亀は、助けてもらった、お礼を言いました。
「あ、あの。お名前は?」
亀が聞きました。
「私は、うらしま太郎、と言います」
うらしま太郎、は、答えました。
「うらしま太郎さま。ぜひ、助けて下さった、お礼をしたいと思います。ぜひとも、私と一緒に、竜宮城へ、行ってもらえないでしょうか?私は、亀蔵と言って、竜宮城にいる、乙姫さまに、仕えている、乙姫さまの、家来なのです」
亀は、そう言いました。
「わかりました。有難うございます。私も、ぜひ、竜宮城に行って、乙姫さまに、会いたいです」
と、うらしま太郎、は、言いました。
「それでは、私の背中に、お乗りください」
亀に、促されて、うらしま太郎、は、大きな、亀の甲羅の背中に乗りました。
亀は、海の中に、入ると、スーイ、スーイ、と、泳ぎ出しました。
亀の背中に乗って、海上を走るのは、なかなか、快適でした。
水上バイクに、乗っているような気分です。
「うらしま太郎さま。竜宮城は、海の底にあります。これから、海の中に、潜ります。しかし、ご安心ください。龍神の、神通力によって、うらしま太郎さまは、海中に入って呼吸しなくても、大丈夫です」
亀は、そう言いました。
そして、亀は、海の中に、潜水していきました。
亀の言った通り、うらしま太郎、は、海中に入って、呼吸が出来なくなっても、苦しくならず、平気でした。
うらしま太郎、は、子供の頃に、憧れて続けていた、夢が、本当に、かなって、言葉に言い表せない、最高の喜びを感じていました。
海の中では、様々な魚が、泳いでいます。
やがて、きれいな、お城が見えてきました。
「うらしま太郎さま。あれが、竜宮城です」
亀が言いました。
「乙姫さまー。ただいま、帰りました」
竜宮城に着くと、亀は、大きな声で叫びました。
すると。
「はーい」
という、声が聞こえました。
そして、竜宮城の戸が、開きました。
そして、美しい女性が顔を現しました。
「お帰り。亀蔵」
と、美しい女性は、亀に言いました。
「乙姫さま。ただいま、帰りました」
亀が、言いました。
「あら。こちらの方は誰?」
乙姫が亀に聞きました。
「乙姫さま。この方は、うらしま太郎さま、といいます。この方は、私が、浜辺で、子供たちに、いじめられている所を、救ってくださったんです」
亀は、乙姫に、そう説明しました。
「そうだったのですか。うらしま太郎、さま。それは。それは。どうも、ありがとうございました。この亀は、亀蔵と言って、私の大切な家来です。ぜひとも、お礼をしたく思います。さあ、どうぞ、お上がり下さい」
そう言って、乙姫は、うらしま太郎に、恭しく、頭を下げました。
うらしま太郎、は、乙姫を見て、驚きました。
想像以上に、あまりにも、美しかったからです。
そして、感動しました。
なぜなら、乙姫の上半身は、人間と、同じですが、下半身は、人間と違って、足が無く、魚のような、尾ひれ、になっていたからです。
つまり人魚です。
うらしま太郎、は、乙姫の体は、人間と同じ構造なのか、それとも、人魚なのか、の、どちらかは、どうしても、想像が出来ませんでした。
しかし、うらしま太郎、は、乙姫が、人魚であってくれたら、どれほど素晴らしいだろうか、と、思っていたのです。
「これは、これは、乙姫さま。お目にかかれて光栄です」
と、うらしま太郎、は、恭しく、深くお辞儀しました。
「さあ。どうぞ、お上がり下さい」
乙姫は、うらしま太郎、の、礼儀正しさ、に、喜んだのでしょう。
ニコッと、微笑んで、言いました。
「それでは、お邪魔いたします」
そう言って、うらしま太郎、は、竜宮城の中に、入りました。
竜宮城の中は、地上と同じように、海水ではなく、空気で満たされていました。
うらしま太郎、は、子供の時から、竜宮城は、空気で満たされている、と、思っていました。
いくらなんでも、海水の中で、長い月日を、乙姫と、仲睦まじく過ごす、というは、物理的に、ありえないように思われたからです。
「浦島さま。家来の、亀蔵を助けて下さってありがとうございました」
乙姫は、あらためて、うらしま太郎、に、礼を言いました。
「いえ。人間として当然のことをしたまでです」
うらしま太郎、は、謙虚に言いました。
「やっぱり、優しい方なんですね」
乙姫は、また、ニコッと、微笑みました。
「ところで、乙姫さま。つかぬ事をお聞きしたいのですが・・・」
「はい。何でしょうか?」
「乙姫さま、は、海の中を、自由に、何時間でも、泳ぎ続けることが出来るのですか?」
「ええ。出来ますわ」
「イルカのように、時々、空気を呼吸しなくてはならないんですか?」
「いいえ。呼吸しなくても、いつまでも、海の中を、泳ぐことが出来ます」
「では。今は、空気の中にいますが、時々、肌の乾燥をふせぐため、海に入らなくては、ならないのですか?」
うらしま太郎、が聞きました。
イルカの肌は乾燥に弱く、長時間水に触れていないと火傷に似た症状が発生して死んでしまうからです。
「いいえ。空気の中でも、何時間でも、生きていられますわ」
乙姫は、嬉しそうに答えました。
「では水陸両用なんですね」
うらしま太郎、が、聞きました。
「え、ええ。まあ、そうかも、しれませんわ」
乙姫は、照れくさそうな顔で答えました。
「それは、うらやましい。魚のように、水中で、自由に泳げて、しかも、陸でも、生きられるなんて・・・」
うらしま太郎、は、そう、言いました。
乙姫は、照れくさそうに、微笑みました。
「ところで、うらしま太郎、さん」
今度は、乙姫の方が、うらしま太郎、に、話しかけました。
「はい。何でしょうか?」
「私は、うらしま太郎、さんに、謝らなけばならないことがあります」
乙姫が真顔になりました。
「それは、何でしょうか?」
うらしま太郎、が、聞きました。
乙姫は、おもむろに、話し出しました。
「浦島さん。実を言うと、私は、海の中で、ひとりぼっち、で、さびしかったんです。それで、時々、人間界の、浜辺へ行って、人間を見ていました。人間は、友達と、仲良くしていて、うらやましかったんです。しかし。人間って、どういう動物なのか、わからなくて、それが、こわくて、人間に、話しかけることは、出来ませんでした。もしかすると、捕獲されて、動物園に入れられて、人間の、見世物にされて、しまうんでは、ないか、とも、心配しました。実際、人間は、イルカを、捕まえて、芸を仕込んで、人間の、ショーにしています。しかし、人間は、クジラの捕獲に反対したり、絶滅危惧種を保護したりして、動物愛護の精神も持っています。それで、私は、人間とは、どういう動物なのか、知りたくて、テストしてみたんです。私は、長いスカートを履いて、下半身がバレないようにして、村の子供たちに、亀をいじめて、欲しい、と、たのんだのです。そうしたら、あなたが、亀を助けて下さいました。私は、人間、って、優しい動物なのだと確信しました」
乙姫は、自信に満ちた口調で、キッパリと言いました。
「なるほど。そうだったのですか。でも、そんなことは、謝るに価しないことですよ。お礼を言うのは私の方です。私は、子供の時に、(浦島太郎)、のお伽話、を読んで、とても、感動して、それ以来、ずっと、竜宮城、や、乙姫さま、って、本当にいるのだろうか、と、疑問を持ち続けていました。本当に、いて、会えたら、素晴らしいな、って、思っていたのです。今、まさに、こうして、あなたと会えたのは、夢、実現です」
と、うらしま太郎、は、言いました。
「そう言って、もらえると、とても、嬉しいです」
乙姫は、顔を赤くして、照れくさそうに言いました。
「乙姫さま。は、想像以上に、美しくて、純粋な方だ」
うらしま太郎、は、最高に感動していました。
「では、今日は、手によりをかけて、美味しい料理を作りますので、召し上がって下さい。そして、うらしま太郎、さま、が、満足するまで、ここで、ごゆるりと、お過ごし下さい」
と、乙姫は、言いました。
「でも、あまり、長く居ると、私に、玉手箱を、渡すんでしょう。そして、私を、一気に、老人にしてしまうんでしょう?」
うらしま太郎、が、聞きました。
「そんなこと、絶対に、しませんわ。人間の作った、お伽話の、(浦島太郎)、の話のラストは、意地悪ですね。私が思うんですが、おそらく、あれは、あまり長い時間、遊んでばかりいると、後悔するよ、という、教訓だろうと思います」
乙姫は、少し、怒った顔で言いました。
「そうですか。それを聞いて安心しました」
うらしま太郎、は、ほっと、胸を撫でおろしました。
その晩は、乙姫は、手によりをかけて、うらしま太郎、のために、豪勢な料理を作りました。
その料理とは。
キャビア。フォアグラ。サザエのつぼ焼き。鯛。鯖(さば)の塩焼き。カレイの煮付け。アジの塩焼き。サーモンムニエル。イワシのつみれ汁。さんまの塩焼き。サンマの蒲焼。アナゴの天ぷら。カツオのタタキ。鮭のホイル焼き。ブリの照り焼き。鯖の味噌煮。うなぎの蒲焼き。鱈のムニエル。ナステーキ。辛子明太子。鮭のちゃんちゃん焼き。ふぐ刺し。
などです。
全部、魚料理でした。
乙姫は、海の中で、暮らしているので、それも、無理はありません。
それでも、うらしま太郎、は、「美味しい。美味しい」、と言って、乙姫の作った魚料理を食べました。
「お味はいかが?」
という、乙姫の少し自慢げな質問に対し、うらしま太郎、は、
「最高の美味です」
と、答えました。
乙姫は、ニッコリ笑って、
「そうでしょう。魚には、必須脂肪酸の、EPA、や、DHA、が、たっぷり含まれていますから、中性脂肪やコレステロールを下げ、血管や血液の、働きを向上させますから、健康にも、とても、いいのですよ」
と言いました。
うらしま太郎、は、「最高の美味です」、とは、言ったものの、本心では、「温かい、ご飯や、肉、や、野菜も、欲しいものだな」、と思っていました。
しかし、乙姫を失望させたくないので、それは、言わず、「美味しい。美味しい」、と、だけ言いながら、食べました。
しかし、さすがに、ふぐ刺し、だけは、大丈夫かな、と心配しながら、食べました。
ふぐ、には、テトロドトキシンという猛毒が含まれていますから、ふぐ調理師免許を持っていないと、調理できません。
しかし、乙姫は、海や魚のことは、詳しく知っているから、大丈夫だろう、と思って食べました。
乙姫は、全裸ではなく、ピンク色の、ブラジャーを着けていました。
「乙姫さま。そのブラジャーは、どうしたのですか?」
うらしま太郎、が、聞きました。
「ああ。これね。これは、夏、海水浴場に、近づいてみたら、海に、浮かんでいたので、持ってきたのです。人間って、こういう洒落た物を着けるのかと、思って、興味本位で、着けてみたら、結構、着け心地がいいですね」
と、ニコッと、笑って言いました。
食後。
乙姫は、鯛、や、ヒラメ、を、大勢、呼びました。
「さあ。あなた達。うらしま太郎、さま、の、おもてなし、です。踊りなさい」
乙姫は、命じました。
乙姫は、魚と話が出来るのです。
「はい。乙姫さま。わかりました」
そう言って、鯛、や、ヒラメ、は、優美な踊りを、うらしま太郎、に披露しました。
その夜は、うらしま太郎、は、乙姫と、巨大な、真珠貝の、中の、フカフカの、ベットで、手をつないで寝ました。
もちろん、乙姫とセックスすることは、出来ません。
なにせ、乙姫は、下半身が、魚なのですから。
しかし、そういう物理的な理由も、ありますが、うらしま太郎、は、ジェントルマンシップを持っていたので、というか、ストイックなので、いきなり、抱きつく、という趣のないことは、したくなかったのです。
こうして、うらしま太郎、は、竜宮城、で、乙姫と、一緒に、楽しく暮らしました。
しかし、竜宮城、には、テレビも、パソコンも、何もなく、だんだん、うらしま太郎、は、退屈になってきました。
その上、料理は、毎日、魚料理ばかりです。
乙姫は、うらしま太郎、に、陸の人間のことを、さかんに聞きたがるので、うらしま太郎、は、乙姫に、人間の生活のことを、詳しく説明してやりました。
テレビ、や、パソコン、や、車、や、新幹線、や、飛行機、があること。
スポーツ、があり、ファッション、があり、食べ物は、魚料理だけではなく、ビーフステーキ、や、甘いスイーツ、があること。
など、何でも話してやりました。
乙姫も、海の中だけの、生活に、飽きていたのでしょう。
「ステキ。私も、陸の生活をしてみたいわ」
と、言いました。
「じゃあ。陸に上がって、僕の家で、少し、暮らしてみないかい?」
うらしま太郎、が、提案しました。
「でも。私。足が無いから、陸で、生活できるかしら?それに、人に見られたら、どうしようかしら?」
乙姫が言いました。
「大丈夫だよ。ロングスカートを履いていれば、尾ひれ、は、隠せるよ。それと、移動は、車椅子を使えば、出来るよ」
うらしま太郎、が、言いました。
乙姫は、しばし、俯いて、考えていましたが、パッ、っと、顔を上げました。
「わかったわ。それじゃあ、うらしま太郎、さん、の家に、行ってみるわ」
乙姫が言いました。
「じゃあ、行こう」
うらしま太郎、が、言いました。
こうして、乙姫は、陸に上がることになりました。
乙姫は、うらしま太郎、と、手をつないで、竜宮城、を出て、深海の中を、スイスイと、陸を目指して、泳いでいきました。
そして、乙姫は、うらしま太郎、の、村の浜辺へ浮上しました。
早朝だったので、人は、いませんでした。
うらしま太郎、は、乙姫に、
「ちょっと。待ってて。家に行って、車をもってくるから。それまで、岩陰に隠れていて」
と、言って、家にもどりました。
うらしま太郎、は、急いで、家にもどると、すぐに、車に乗って、浜辺へ向かいました。
浜辺へ着くと、うらしま太郎、は、岩陰に身を潜めている、乙姫を抱きかかえて、車の助手席に乗せました。
車に乗せてしまえば、もう、安全です。
うらしま太郎、は、車を飛ばして、家に向かいました。
家に着くと、うらしま太郎、は、乙姫を、抱きかかえて、家の中に入れました。
そして、自分の部屋のベッドに寝かせました。
「お兄ちゃん。お帰り。一週間も、どこへ行っていたの?」
うらしま太郎、の、妹の京子、が、やって来て、聞きました。
「いや。ちょっとね。へへへ・・・・」
と、うらしま太郎、は、頭を掻いて、言葉を濁しました。
翌朝になりました。
うらしま太郎、は、妹に、乙姫のことを、話そうか、話すまいか、迷いました。
しかし、うらしま太郎、の、妹は、優しく、口も軽くありません。
それでも、一応、妹に聞いてみました。
「ねえ。京子。京子は、人魚って、本当にいると、思う?」
「うーん。わからないな。でも、いたら素敵だわね」
京子は、兄同様、ロマンチックな性格でした。
「じゃあ、紹介するよ」
そう言って、うらしま太郎、は、自分の部屋から、乙姫を、連れてきました。
「初めまして。乙姫と申します」
乙姫は、恭しく、京子に、挨拶しました。
「うわー。人魚だ。人魚って、本当にいたのね」
京子は、目を白黒させて、驚きました。
「この方は、乙姫といって、海の底の竜宮城、に、住んでいるんだ。人間の世界の話をしてやったら、ぜひ、見たい、と言うから、連れてきてあげたんだ」
うらしま太郎、は、妹に、そう説明しました。
「ふーん。竜宮城、や、乙姫さま、って、本当にあったのね。あれは、お伽話の、作り事だとばかり思っていたわ」
妹が言いました。
「よろしくね。乙姫さん」
「よろしく。京子さん」
こうして、二人は、すぐに、仲良しになりました。
京子は、高校3年生です。
「京子。乙姫さま、のことは、秘密だそ。世間で、騒がれるからな」
うらしま太郎、が、言いました。
「もちろん、誰にも、喋らないわ」
口の堅い京子は、キッパリと、言いました。
京子は、乙姫を、自分の部屋に連れて行って、人間世界のことを、こと細かく、教えてやりました。
乙姫は、興味津々の顔つきで、聞いていました。
その日の、夕食は、ビーフステーキでした。
うらしま太郎、と、妹と、乙姫は、三人で、夕食を食べました。
温かい、ご飯と、みそ汁、と、デザートは、アップルパイ、でした。
「美味しいわ。こんな、美味しい、料理、生まれて初めて食べたわ」
乙姫は、嬉しそうに、言いました。
数日、京子は、学校から、帰ってくると、すぐに、乙姫と、トランプをしたり、将棋をしたりして、遊びました。
季節は、7月に、入りました。
村で、七夕祭りがある、ということで、乙姫は、ぜひとも、見てみたい、と、言いました。
「じゃあ。連れて行ってあげよう」
うらしま太郎、が、言いました。
京子が、乙姫に、浴衣を着せてやりました。
裾の長い、浴衣なので、尾ひれ、は、隠れて見えません。
「乙姫さま。似合うわよ」
と、京子が言うと、乙姫は、照れくさそうに、ニコッ、と、微笑みました。
うらしま太郎、は、ワゴン車に、車椅子を乗せて、乙姫と、妹を、乗せて、三人で、七夕祭り、に、行きました。
そして、七夕祭り、の、会場に行き、駐車場に、車を止め、車から、車椅子を、降ろして、乙姫を座らせました。
そして、人で、賑わっている、七夕祭り、の、会場を、車椅子を押して、回りました。
人々は、乙姫を、下半身の不自由な、障害者と思っています。
乙姫は、人間たちが、楽しそうに、和気藹々としている、のを、見て、うらやましく思いました。
そして、三人で、屋台の、わたあめ、を、買ったり、焼きそば、を、買ったりして、食べました。
「美味しいわ。美味しいわ。人間って、こんな、美味しい物を食べているのね」
と、乙姫は、ハフハフ、言いながら、焼きソバを食べました。
「ねえ。あれをやってみない?」
と、妹が、乙姫に言いました。
それは、金魚すくい、でした。
「面白そうね」
そう言って、乙姫は、金魚すくい、の、屋台に行きました。
そして、乙姫は、何と、300匹、は、いた金魚を、全部、すくってしまいました。
乙姫は、魚と、魚語で、会話が出来るので、
「金魚さん。すぐに、逃がしてあげるから、網に乗って」
と、言ったからです。
世の、全ての魚は、乙姫の、ことを、敬愛していますから、
「はい。わかりました」
と、言って、逃げることなく、乙姫に、すくわれたからです。
そして、遠くでは、ドカン、ドカン、と、花火、が、鳴り出しました。
「うわー。きれいね」
と、乙姫は、我を忘れて、花火を、見入っていました。
そうして、花火が、全部、打ち尽くされるまで、見てから、夜遅くに、三人は、家に帰りました。
乙姫は、
「人間も、泳ぎ、を、楽しむ、レジャープール、というものに、ぜひ、行ってみたいわ」
と、言い出しました。
うらしま太郎、は、
「仕方ないな。見てるだけだよ」
と言って、車で、大磯ロングビーチに、乙姫を、連れて行きました。
そして、長いスカートを履かせて、人魚であることを、バレないようにして、車椅子に乗せて、障害者を装って、大磯ロングビーチに、入りました。
乙姫は、人間たちが、プールで、楽しそうに、騒いでいるのを、見ているうちに、だんだん、人間と一緒に、泳ぎたい、気持ちが、高じていきました。
乙姫は、ついに、その気持ちを、抑えきれなくなって、スカートを、脱いで、流れるプールに、入りました。
乙姫は、何しろ、世界中の海を、自在に、泳ぎまわれるので、その泳力は、人間とは、くらべものに、なりません。
客の間を、ぬって、スーイ、スーイ、と、目にも止まらぬ速さで、泳ぎました。
「うわー。何だ。ありゃ。人魚じゃねえか」
「うそだろー」
人々は、驚きました。
乙姫は、得意になって、泳ぎまわりました。
人間たちと、友達になりたかったのです。
うらしま太郎、は、心臓が止まるかと思うほど、びっくりしました。
乙姫が、うらしま太郎、の所にもどってくると、うらしま太郎、は、
「乙姫さま。だめじゃないですか。ちょっと、世間を騒がせますよ。すぐ、上がって下さい」
と、厳しく叱りました。
乙姫は、
「ごめんなさい」
と、ちょっと、悪戯っぽく、ペロリと舌を、出して、急いで、プールサイドに上がりました。
そして、うらしま太郎、は、乙姫に、急いで、スカートを履かせて、乙姫を、車椅子に乗せて、急いで、プール場、を、出ました。
そして、乙姫を車に乗せて、家に向かいました。
「乙姫さま。あまり、無茶なことは、しないで下さい」
うらしま太郎、は、厳しく、乙姫に注意しました。
「はい。つい。嬉しくなって。ごめんなさい」
そして、うらしま太郎、は、家に着きました。
しかし、乙姫は、しっかり、写真や、動画に、撮られていました。
You-Tube、に、乙姫の、動画が、アップされ、それは、一日のうちに、100万回、再生されました。
そして、夜のニースでも報道されました。
「今日。大磯ロングビーチに、突如、人魚があらわれました。幸い、人間に、危害を加えることなく、去っていきました。本当に、人魚なのか、どうかは、わからず、警察も行方を捜査していますが、見つかっていません。見つけた方は、すぐに、警察に連絡して下さい。これが、その動画です」
と、撮られた動画が、映し出されました。
翌日の新聞の第一面、も、乙姫の記事でした。
見出し、は、「人魚、現る」で、記事は、
「昨日。大磯ロングビーチに、突如、人魚があらわれました。幸い、人間に、危害を加えることなく、去っていきました。本当に、人魚なのか、どうか、わからず、警察も行方を捜査していますが、見つかっていません」
というようなものでした。
うらしま太郎、は、
「やれやれ。困ったものだ。世間を騒がせて」
と、困惑しました。
うらしま太郎、は、考え抜いた、あげく、乙姫の存在を、カミングアウトさせることに決めました。
うらしま太郎、は、まず世間を混乱させないため、乙姫の、ブログを、開設しました。
そして、乙姫の、メッセージ、や、乙姫の、写真、を、アップしました。
翌日。うらしま太郎、は、乙姫を、車に乗せて、東京海洋大学、に、連れて行きました。
さかなクン、に、紹介するのが、一番、いい、と思ったからです。
さかなクン、は、一見、子供っぽい、話し方をしている、タレントのように、思われていますが、日本一の魚類学者で、東京海洋大学名誉博士、で、東京海洋大学客員准教授、なのです。
その他。
東京海洋大学客員准教授(2006年)→名誉博士(2015年)
特定非営利活動法人自然のめぐみ教室海のめぐみ教室室長
お魚らいふコーディネーター
農林水産省 お魚大使
環境省「環のくらし応援団」メンバー
JF(全国漁業協同組合連合会)魚食普及委員
千葉県立安房博物館客員研究員
千葉県館山市「ふるさと親善大使」第一号
「よしもとおもしろ水族館」研究員(神奈川県横浜市中区、横浜中華街)
新潟おさかな大使(新潟県)
文部科学省・平成23年版科学技術白書表紙絵・デザインコンクール審査委員
日本ユネスコ国内委員会広報大使
明石たこ大使(明石市)
山陰海岸学習館ギョギョバイザー(鳥取県)
なぶら親善大使(静岡県御前崎市)
宮古島海の親善大使(沖縄県)
“渚の駅”たてやま名誉駅長(千葉県館山市)
小笠原諸島PR大使
などの、多くの、魚関係の役職を持っています。
乙姫は、さかなクン、を見ると、
「初めまして。乙姫と申します」
と、手を差し出しました。
さかなクン、も、さすがに、ギョギョギョ、と、驚きましたが、
「初めまして。宮澤正之、と、申します。でも、さかなクン、と、呼んで下さい」
と言って、乙姫と、握手しました。
さかなクン、は、乙姫に、色々なことを、聞きました。
そして、DNA検査をして、人間と同じであることを確認しました。
乙姫は、人間の進化の過程で、水中から陸に上がらず、魚類から、分かれて、進化していった、動物だろうと、さかなクン、は、言いました。
もっと、もっと、詳しく、調べたい、と、さかなクン、は、言い、乙姫も、それに、協力する、と言いました。
ある時、乙姫は、サングラスをかけ、長いスカートを履いて、オリンピックの日本代表選手が、練習する、東京辰巳国際水泳場、に、うらしま太郎、に、連れて行ってもらいました。
日本代表選手が、水泳の練習をしています。
乙姫は、しばし、見物していましたが、皆が、気持ちよさそうに、泳いでいるのを、見ているうちに、自分も、泳ぎたくなってきました。
(人間って、なんて、遅くしか、泳げないんだろう。私なら、あの数倍の速さで泳げるわ)
と、黙って見ていることが、出来なくなりました。
それで、代表選手が、泳いでいる、プールに、飛び込んで、スイスイと、水をかき分けて、泳ぎ出しました。
乙姫は、オリンピックの日本代表選手を、スイスイと、抜いて、泳ぎました。
それを見て、選手もコーチも、吃驚しました。
これなら、金メダル、確実です。
コーチは、前回の、リオオリンピックで優勝して、今回も、日本代表選手に、選ばれた、選手と、乙姫を競争させました。
しかし、乙姫は、世界の海を、自在に泳ぎ回れるので、人間では、とても、かなうはずがありません。
日本代表選手の、数倍の速さで、世界新記録を出して、泳ぎました。
乙姫は、人間のDNAを持っているので、人間と、認めるしか、ありません。
なので、日本の水泳界は、乙姫の、オリンピック参加を求めました。
国際オリンピック委員会の、バッハ会長も、人間である限り、オリンピックの参加を拒否することは、出来ませんでした。
こうして、乙姫は、2020年の、東京オリンピックに、出場することが決まりました。
競泳だけではなく、シンクロナイズド・スイミング(アーティスティックスイミング)、も、水球も。
乙姫は、優しい心の持ち主なので、海の中や、海の上で、魚たちと一緒に、踊るのが好きだったので、踊りが上手く、アーティスティックスイミングの鬼コーチの、井村雅代、の指導も、必要ありませんでした。
水球も、乙姫は、物凄い、スピードで、泳げる上、何時間、水の中にいても、疲れることがありませんから、水球でも、日本代表選手に選ばれました。
そして、乙姫のおかげで、日本は、2020年の、東京オリンピックで、競泳、シンクロナイズド・スイミング(アーティスティックスイミング)、水球、で、全て、金メダルをとりました。
競泳では、乙姫は、世界新記録を、すべて、ぬりかえました。
こうして、乙姫は、日本のスーパースターになりました。
国民栄誉賞、も、当然、受賞しました。
乙姫は、容貌も、どんな、女優より、女子アナより、美しかったので、芸能界は、こぞって、彼女の、写真集、や、ポスター、や、カレンダー、のモデルになり、彫刻家たちは、彼女の像を、作りました。
CM出演の依頼も、無数に来ましたが、乙姫は、全部、引き受けました。
乙姫は、海の中にいた時は、魚たちと友達なので、いつも魚に歌って、魚を楽しませていたので、歌唱力も、凄く上手く、ミュージックステーションに、出演し、毎週連続、ベスト1となり、歌手としても、デビューしました。
CDは、世界、194カ国で、1000億枚、売れ、売り上げは、1000億ドルを超しました。
こうして、乙姫は、日本だけではなく、世界中のスーパースターになりました。
さらに、乙姫は、海、や、魚の、ことは、何でも知っているので、魚類学者として、さかなクン、の、いる、東京海洋大学の特任教授になりました。
翌日のことです。
うらしま太郎、が、乙姫と一緒に、朝ごはん、の時、ニュースを見ようと、テレビをつけました。
すると、テレビ画面には、超大型の、旅客船が、沈没しかかっている映像が、映し出されました。
乙姫は、おどろきました。
アナウンサーが、言いました。
「昨夜、午後9時、仁川港から、済州島へ向けて出港した、韓国の大型旅客船セウォル号が、今朝、8時49分頃、珍島の西方、巨次群島と孟骨群島との間の孟骨水道を、南東に向かって進んでいました。同船は、屏風島と観梅島の間あたりにさしかかった、辺りで、右(南西方向)に45度旋回したところ、急に傾き始めました。船には、修学旅行のための、安山市の檀園高校の二年生の生徒325人と、一般客108人、乗務員29人の計476人が乗船しており、車両150台あまりが積載されています。その後も、船は、どんどん、傾き、沈んでいっています。原因は、いつくか考えられますが、同船の積載量の上限987トンに対し、車、180台を載せていたための、法定積載量の3.6倍となる3,608トンの過積載であったこと。および、コンテナの固定方法に、固定装置が使用されておらず、ロープで縛っただけ、だっため、それが、横倒しになって、船のバランスを崩したものと考えられます。加えて出航前、船長は過積載をごまかすために、『船底に入っている海水』、すなわち、『バラスト』、を、法定基準値の4分の1程度にして、船体を浮上させていました。このことにより船の重心が高くなり、同船は、不安定になって、横倒しになったと考えられます。さらに、事故当時、船長は、船長室にいて、一等航海士が担当しなければいけないところを、入社して4ヶ月の未熟な三等航海士のパク・ハンギョル氏が、操舵していたことも、事故の原因と考えられます。船長は、事故後、船内の乗客に、(そのまま、動かないで下さい)、とアナウンスした上、船から、脱出してしまいました。これらは、セウォル号の、運航会社の、(清海鎮海運)、の、船舶事業に対する、経費削減のための、人的事故、と思われます。韓国の、海洋警察も、動き出しましたが、現場海域は海水が濁っており、視界は20―30センチメートルとほぼゼロの状態であり、さらに流れが急で漂流物も多く、捜索は難航しています。その上、情報が、十分、行き届いておらず、大型客船なので、船内の、どこに、何人、生存者が、いるのかも、把握できず、また、船は、もう、完全に、転覆している上、海洋警察のダイバーも、こういう事態は、経験したことがなく、想定外の事件なので、対処の方法が、分からず、困惑している、とのことです」
と、報道しました。
船が横転し、救助に、なすすべがなく、困惑している様子が、テレビ画面に映し出されています。
乙姫は、すぐに、日本の海上保安庁に電話しました。
「すぐに、ヘリコプターを、私の家、に、よこして下さい。人間の潜水士では、救出は、無理です。私が、全員、救出します」
と、乙姫は、強い語調で言いました。
海上保安庁は、
「わかりました」
と、返事をしました。
すぐに、乙姫の家に、ババババッ、と、爆音が鳴って、乙姫の家の近くの公園に、海上保安庁の、ヘリコプターが、到着しました。
乙姫は、ヘリコプターに、乗り込み、ヘリコプターは、一路、セウォル号、の現場に、直行しました。
そして、ヘリコプターは、沈没しかかっている、セウォル号、の上に、着陸しました。
乙姫は、ヘリコプターから、降りると、すぐに、海中に、潜りました。
乙姫は、魚と、会話が出来るので、近くにいた、魚たちに、命じました。
「この近辺の、サメを、すぐに、探して、すぐに、ここに、来るよう、言いなさい」
乙姫は、そう、魚たちに、言いました。
「はい。わかりました」
魚たちは、そう言って、海の中を、四方八方へと散っていきました。
すぐに、大きな、サメたちが、100匹、ほど、やって来ました。
「この中に、高校生が、325人、閉じ込められています。船内に、入って、全員、救助しなさい」
乙姫は、サメたちに、命じました。
「はい。わかりました。乙姫さま」
そう言って、サメたちは、沈没しかかっている、船内に入っていきました。
サメたちは、海底の、沈没船を、寝床にしたり、遊んだりしているので、大型船の構造は、知っています。
乙姫も、そうです。
乙姫は、船内に入って、檀園高校の、生徒たち、を見つけると、彼らに言いました。
「これから、サメが、船内に入って、あなた達を、船の外に連れ出します。なので、怖がらず、しっかりと、サメにつかまっていて下さい。なので、一分間ほど、息を止めて、我慢して下さい」
と、言いました。
生徒たちは、
「はい。わかりました」
と、言いました。
サメ達が、とんどん、船内に、入って来ました。
生徒たちは、乙姫に、言われたように、サメに、しっかりと、つかまりました。
サメは、生徒たちが、手を放さない程度の、しかし可能な限り、速い速度で、生徒たちを、船内から、救出しました。
乙姫も、陣頭指揮を、とりながら、自分も、檀園高校の、生徒たちを、船内から、船の外へ、連れ出し、そして、海上へと、救出しました。
こうして、檀園高校の、生徒たちは、全員、無事に救出されました。
韓国政府、および、韓国国民は、涙を流して、乙姫に感謝しました。
そして、そのお礼、として、従軍慰安婦問題は、日本の主張通り、日韓合意を、不可逆的に、永久に、順守する、ことを、誓い、従軍慰安婦の像は、取っ払われて、かわりに、乙姫の像が、建てられました。
そして、韓国政府は、竹島は、日本の領土、であることを認めました。
日本政府も、乙姫に、警視総監賞と国民栄誉賞を送りました。
海上保安庁は、乙姫に、
「乙姫さま。大変、恐縮ですが、海上保安庁の顧問になって頂けないでしょうか?」
と、乙姫に、頼みました。
乙姫は、
「いいわよ」
の、一言で、これを、受諾しました。
その後。
海難事故が、起こると、海上保安庁は、乙姫に、すぐに、電話しました。
「乙姫さま。××の海域で、漁船が、転覆しまして、行方不明者が、おります。どうか、お力を貸して頂けないでしょうか?」
と、言われると、乙姫は、すぐに、ヘリコプターを要請し、海に潜って、魚たちに、命じ、行方不明者を探し出しました。
乙姫が、その度ごとに、警視総監賞、を受賞したのは、いうまでもありません。
ある晩のことです。
「乙姫さま。あなたも、出世しましたね」
うらしま太郎、が、言いました。
「これも、うらしま太郎、さん、の、おかげ、だわ」
乙姫が言いました。
「何を言うんです。乙姫さま、が、勇気を出して、陸に上がったから、こういう結果になったのですよ」
うらしま太郎、が、言いました。
「うらしま太郎、さん」
「はい。何ですか?」
「もう、乙姫さま。と、さま。を、つけるのは、やめて下さい」
「では、何と呼べばいいんでしょうか?」
「乙姫、と、呼び捨てにして下さい」
「はい。わかりました」
「うらしま太郎、さん。私は、あなたを愛しています」
「僕も、あなたを、愛しています」
うらしま太郎、は、そう言って、一呼吸、置いて。
乙姫の目をじっ、と、直視しました。
「乙姫さん。僕と結婚して下さい」
うらしま太郎、は、勇気を出して言いました。
「はい。私は、あなたが、そう言ってくれるのを、待っていました。私も、世界中で、愛しているのは、うらしま太郎、さま。あなた、です」
二人は、お互い、ガッシリと、抱き合いました。
乙姫は、当然、日本政府の、沖縄の辺野古の、埋め立て、には、反対していました。
沖縄の、エメラルドグリーンの美しい、海には、サンゴ礁も、あれば、カラフルな、亜熱帯の、魚も、たくさん、います。
乙姫にとって、美しい、沖縄の海が、埋め立てられることは、とても、耐えられることでは、ありませんでした。
乙姫は、時々、沖縄の、辺野古へ、行って、沖縄県民と、辺野古の、埋め立て、に、反対していました。
乙姫に、とって、世界中の海は、庭のようなものです。
なので、本土から、沖縄へは、かんたんに、泳いで行けます。
それに、海の中でも、生きていられるので、溺れる、ということも、ありません。
沖縄県知事の選挙が、近づてきた、ある日のことです。
乙姫は、沖縄県民と一緒に、辺野古の埋め立て、反対を訴えている、沖縄県知事選の、立候補者である、玉城デニー氏、を、応援するために、沖縄に、泳いで行きました。
その日は、日本政府が、強引に、辺野古の埋め立て、を、している時でした。
乙姫は、辺野古の海から、大声で、
「お願いです。辺野古の海を埋め立てないで下さい」
と、叫びました。
しかし、日本政府は、クレーンで、コンクリートブロックを、海中に、投入していました。
「お願いです。辺野古の海を埋め立てないで下さい」
乙姫は、体を張って、クレーンの、下から、叫びました。
その時、クレーンのロープが、切れて、乙姫の、体を直撃しました。
辺野古の埋め立て、を、反対していた、沖縄県民は、焦って、急いで、ボートを出して、乙姫を、救助しました。
意識はありませんでしたが、まだ、かすかに、脈と呼吸は、ありました。
沖縄県民の一人が、乙姫を車に、乗せて、フルスピードで、近くの、総合病院に、運びました。
しかし、乙姫は、DOA(来院時心肺停止)、で、医師たち、の、必死の、救命処置も、むなしく、死んでしまいました。
コンクリートブロックを、海に入れる、クレーンのロープの切れ方は、誰が、どう見ても、事故というより、故意の行為のように、見えました。
しかし、政府は、事故原因を調査する、と、言ったものの、事故原因は、明らかにしませんでした。
沖縄県民は、全員、泣いて悲しみました。
数日後。
沖縄県民、全員が集まって、乙姫の葬儀が行われました。
乙姫は、辺野古の埋め立て、反対を貫き通して、命を落とした、沖縄県の前知事の、翁長雄志の墓に、一緒に、葬られました。
うらしま太郎、は、三日三晩、泣いて悲しみました。
そして、うらしま太郎、は、乙姫の後を追うように、辺野古の海に、身投げして、死にました。




平成30年10月27日(金)擱筆




うらしま太郎3

昔々のことです。
いつの時代のことかは、わかりません。
平安時代かも、知れませんし、鎌倉時代かもしれません。
ともかく、現代、(平成30年)、から見ると、大昔の時代のことです。
日本に、ある、言い伝えの話がありました。
その、大まかな、あらすじ、を言うと。
・・・・・・・・
ある青年、(名前は、うらしま太郎、と言います)、が、浜辺を歩いていました。
すると、一匹の亀が、子供たち、に、いじめられていました。
青年は、子供たちに、「こらこら。亀をいじめてはいけないよ」、と、注意しました。
すると、子供たちは、逃げていきました。
すると、残された亀が、人語を話し出しました。
「うらしま太郎、さん。助けてくれて、有難うございました。お礼に、竜宮城にお連れしたい、と思います。きれいな乙姫さま、も、います」
と、言いました。
うらしま太郎、は、亀の背に乗って、海の中の竜宮城に、行きました。
そこには、綺麗な、乙姫さまがいて、乙姫さまは、亀を助けてくれたお礼に、うらしま太郎、に、ご馳走を出したり、魚の踊り、を見せたりして、最恵国待遇で、もてなしました。
うらしま太郎、は、長い期間、乙姫と、竜宮城で、楽しく暮らした後、宝物のたくさん入った玉手箱をもらって、亀の背に乗って、元の浜辺の村に帰りました。
・・・・・・・・・・・
と、いうものです。
その話は、(浦島太郎)、の話、と、言われて、後々まで、伝承されました。
(浦島太郎)、の、話が、本当なのか、それとも、作り話、なのかは、定かではありません。
そして時代が、100年、くらい、経ちました。
ある、浜辺の村に、うらしま太郎、と、いう名前の、青年がいました。
青年は、(浦島太郎)、の、話を、いたく、気に入っていました。
青年は、
(本当に、海の中に、竜宮城、や、乙姫さま、が、いたら、どんなに、素敵だろうな)
と、夢想しつづけていました。
ある日のことです。
うらしま太郎、が、浜辺を歩いていると、大きな亀が、いて、亀は、村の子供たち、に、いじめられていました。
うらしま太郎、は、(これは、言い伝えの、浦島太郎の話とそっくりだ)、と、驚きながら、子供たちに、
「こらこら。君たち。そんな、可哀想なことを、するものじゃないよ」
と、子供たちを叱りました。
すると。
「うわー。逃げろー」
と、子供たちは、蜘蛛の子を散らすように、逃げていきました。
「ああ。ありがとうございました。もう少しで、いじめ殺される所でした」
と、亀は、助けてもらった、お礼を言いました。
亀が、人語を話すので、うらしま太郎、は、
(やはり、浦島太郎の話は、作り話、ではなく、事実だったのだ)
と、感動しました。
「うらしま太郎さま。ぜひ、助けて下さった、お礼をしたいと思います。ぜひとも、私と一緒に、竜宮城へ、行ってもらえないでしょうか?私は、亀蔵と言って、竜宮城にいる、乙姫さまに、仕えている、乙姫さまの、家来なのです」
亀は、そう言いました。
「わかりました。有難うございます。私も、ぜひ、竜宮城に行って、乙姫さまに、会いたいです」
と、うらしま太郎、は、言いました。
「それでは、私の背中に、お乗りください」
亀に、促されて、うらしま太郎、は、大きな、亀の甲羅の背中に乗りました。
亀は、海の中に、入ると、スーイ、スーイ、と、泳ぎ出しました。
亀の背中に乗って、海上を走るのは、なかなか、快適でした。
水上バイクに、乗っているような気分です。
「うらしま太郎さま。竜宮城は、海の底にあります。これから、海の中に、潜ります。しかし、ご安心ください。龍神(海の神)の、神通力によって、うらしま太郎さまは、海中に入って呼吸しなくても、大丈夫です」
亀は、そう言いました。
そして、亀は、海の中に、潜水していきました。
亀の言った通り、うらしま太郎、は、海中に入って、呼吸が出来なくなっても、苦しくならず、平気でした。
うらしま太郎、は、子供の頃に、憧れて続けていた、夢が、本当に、かなって、言葉に言い表せない、最高の喜びを感じていました。
海の中では、様々な魚が、泳いでいます。
やがて、きれいな、お城が見えてきました。
「うらしま太郎さま。あれが、竜宮城です」
亀が言いました。
「乙姫さまー。ただいま、帰りました」
竜宮城に着くと、亀は、大きな声で叫びました。
すると。
「はーい」
という、声が聞こえました。
そして、竜宮城の戸が、開きました。
そして、美しい女性が顔を現しました。
乙姫は、それは、それは、きれいで、その奇麗さ、といったら、言葉では、言い表せないほどで、深田恭子、や、小川彩佳、も、乙姫の美しさと、比べると、見劣りしてしまう、ほどでした。
うらしま太郎、は、
(乙姫の体は、人魚なのだろうか、それとも、人間と同じなのだろうか?)
という、疑問を持っていましたが、乙姫の体は、人間と全く同じで、二本の、美しい足を持っていました。
そのことに、うらしま太郎、は、ほっと、安心しました。
「お帰り。亀蔵」
と、美しい女性は、亀に言いました。
「乙姫さま。ただいま、帰りました」
亀が、言いました。
「あら。こちらの方は誰?」
乙姫が亀の横に立っている男を見て、亀に聞きました。
「乙姫さま。この方は、うらしま太郎さま、といいます。この方は、私が、浜辺で、子供たちに、いじめられている所を、救ってくださったんです」
亀は、乙姫に、そう説明しました。
「そうだったのですか。うらしま太郎、さま。それは。それは。どうも、ありがとうございました。この亀は、亀蔵と言って、私の大切な家来です。ぜひとも、お礼をしたく思います。さあ、どうぞ、お上がり下さい」
そう言って、乙姫は、うらしま太郎に、恭しく、頭を下げました。
その晩、乙姫は、うらしま太郎、を、最恵国待遇で、もてなしました。
乙姫は、うらしま太郎、に、豪華なご馳走を出しました。
しかし、それは、全部、魚料理でした。
食後に、乙姫は、
「うらしま太郎、さま。どうぞ、魚たちの、躍りを、ご覧になって下さい」
と言って、パンパンと、手を叩きました。
すると、鯛、や、ヒラメ、が、現れて、音楽に合わせて、躍り出しました。
うらしま太郎、は、食後、タバコを吸って、鯛、や、ヒラメ、の舞い踊りを見ていましたが、
「つまらんな」
と、不機嫌そうに、つぶやきました。
「えっ。うらしま太郎、さま。何が、ご不愉快なのでしょうか?」
と、乙姫は、何がなんだか、わからない、といった顔つきで、驚いて、うらしま太郎、に、聞きました。
「魚の躍り、なんて、つまらないぜ」
と、うらしま太郎、は、不満そうに、言いました。
「で、では。どうすれば、ご満足いただけるのでしょうか?」
乙姫が、おそるおそる、うらしま太郎、に、聞きました。
「魚の躍り、なんて、つまらないぜ。それよりも、オレは、あんたの、ストリップショーが、見たいな」
と、ふてぶてしく言いました。
乙姫は、しばし、困惑した表情で、唇を噛みしめていましたが、
「わ、わかりました。私が、ストリップショーを致します」
と、言いました。
そして、立ち上がりました。
「おい。音楽を、ストリップショーに、ふさわしい、Sam Taylor - Harlem Nocturne、にでも、変えろ」
と、うらしま太郎、は、乙姫に、命じました。
「はい。わかりました」
乙姫が、そう言うと、音楽は、妖艶な、Sam Taylor - Harlem Nocturne、の、怪しいムードミュージックに変わりました。
乙姫は、その、Sam Taylor - Harlem Nocturne、の、音楽に、合わせて、体をくねらせながら、十二単の、衣装を、一枚一枚、脱いでいきました。
そして、ついに、ブラジャー、と、パンティー、だけに、なりました。
乙姫は、(これ以上は、もう許して下さい)、とでも、訴えるかのような、悲しそうな目を、うらしま太郎、に、向けました。
しかし、うらしま太郎、は、許しません。
乙姫は、うらしま太郎、の、命令には、逆らえませんでした。
亀を助けてもらった恩がありますから。
「おい。ブラジャー、と、パンティー、も、脱ぐんだ」
うらしま太郎、は、怒鳴りつけました。
乙姫は、シクシク泣きながら、ブラジャー、を、外し、パンティー、も、脱いで、全裸になると、手で、胸と、恥部を、隠しながら、体を、くねらせて、踊りました。
しばし、うらしま太郎、は、乙姫の、体をくねらせた、ヌードダンスを、見ていましたが、だんだん、その色気に興奮してきて、我慢できなくなってきました。
うらしま太郎、の、マラ、は、激しく、勃起し出しました。
うらしま太郎、の、息は、ハアハアと、荒くなっていきました。
そして、勃起した、マラを、さかんに、さすりました。
「も、もう。我慢できん」
そう言うと、うらしま太郎、は、立ち上がって、ズボンを脱ぎ、乙姫に、襲いかかりました。
「や、やめて下さい、うらしま太郎、さま」
乙姫は、泣きながら、うらしま太郎、に、哀願しましたが、うらしま太郎、は、乙姫の言うことなど、聞く耳を持たず、荒々しく、乙姫の胸を揉み、そして、怒張した、マラを、乙姫の、股間の穴に、挿入しました。
うらしま太郎、は、ハアハア、と、息を荒くしながら、腰を激しく動かしました。
ついに、うらしま太郎、は、射精の予感を感じました。
「ああー。出るー」
そう、叫んで、うらしま太郎、は、乙姫の、体内に、ザーメンを、放出しました。
乙姫は、シクシク泣いています。
うらしま太郎、は、
「はあ。気持ちよかった。長年の夢、かなったり、だ」
と言って、ズボンを履きました。
「おい。乙姫。宝物の入った、玉手箱が、あるんだろう。出せ」
と、命じました。
乙姫は、シクシク泣きながら、玉手箱を持ってきました。
うらしま太郎、は、玉手箱を開けました。
中には、真珠、や、サンゴ、が入っていました。
しかし、玉手箱は、小さく、うらしま太郎、は、もっと、他にも、海の財宝があると、思いました。
それで。
「おい。乙姫。これが、全部じゃないだろう。財宝を全部、出せ」
と、言いました。
乙姫は、泣く泣く、竜宮城にある、大きな行李を、持ってきました。
「これが、全てです。うらしま太郎、さま」
乙姫は、泣きながら、言いました。
うらしま太郎、は、行李を、開けてみました。
中には、真珠、や、サンゴ、などか、ぎっしり、詰まっていました。
「よし。もう、お前に、用はない」
うらしま太郎、は、大きな行李、を持って、亀に乗って、竜宮城を出て、元の、村の浜辺へと、もどりました。
うらしま太郎、は、莫大な、真珠、や、サンゴ、を、全部、売りました。
それによって、うらしま太郎、は、大金持ちになり、その後は、働かず、優雅に暮らしました。
一方、海の中の、乙姫は、三日三晩、泣いて悲しみました。
乙姫は、海の中で、ひとりぼっちで、人間と、友達になれたことが、嬉しかったのです。
しかし、うらしま太郎、によって、人間不信に陥ってしまいました。
「もう、人間なんて、生き物は、信じないわ」
と、乙姫は固く誓いました。
(もう人間が来ないようにするには、どうしたら、いいかしら?)
乙姫は、それを、考え抜きました。
乙姫は、しばししてから、竜宮城から、出て、海の中を、泳いで、陸に上がりました。
そして、村の子供たちに、紙芝居を、作って、見せました。
その紙芝居の題は、(浦島太郎)、と言って、その内容は、こういうものでした。
・・・・・
ある青年、(名前は、うらしま太郎、と言います)、が、浜辺を歩いていました。
すると、一匹の亀が、子供たち、に、いじめられていました。
青年は、子供たちに、「こらこら。亀をいじめてはいけないよ」、と、注意しました。
すると、子供たちは、逃げていきました。
すると、残された亀が、人語を話し出しました。
「うらしま太郎、さん。助けてくれて、有難うございました。お礼に、竜宮城にお連れしたい、と思います。きれいな乙姫さま、も、いますよ」
と、言いました。
うらしま太郎、は、亀の背に乗って、海の中の竜宮城に、行きました。
そこには、綺麗な、乙姫さまがいて、乙姫さまは、亀を助けてくれたお礼に、うらしま太郎、に、ご馳走を出したり、魚の踊り、を見せたりして、最恵国待遇で、もてなしました。
うらしま太郎、は、長い期間、乙姫と、竜宮城で、楽しく暮らしました。
しかし、うらしま太郎、は、故郷が恋しくなって、乙姫に、家に帰りたい、と言うようになりました。
乙姫は、了解し、「これは、おみやげですが、開けないで下さいね」、と言って、玉手箱を、うらしま太郎、に、渡しました。
うらしま太郎、は、亀の背中に乗って、元の浜辺の村に帰りました。
しかし、村は、変わり果ててしまっていて、村の人は、見知らぬ人ばかりです。
自分の家もなくなっていました。
うらしま太郎、は、心細くなって、乙姫に、渡された、玉手箱を、開けてみました。
すると、白い煙が出てきて、うらしま太郎、は、一気に、老人になって、老衰で死んでしまいました。
なぜなら、竜宮城の1時間は、人間の世界では、1年間にも、相当するものだからです。
・・・・・
というものです。
乙姫は、何度も、陸に上がっては、村の子供たちに、(浦島太郎)、の話をしました。
その甲斐あってか、その話が、(浦島太郎)、という、お伽話として、定着しました。
人間たちは、竜宮城へ行くと、一時は楽しくても、竜宮城の1時間は、人間の世界の、1年間にも、相当するものだと思い、竜宮城、や、乙姫を、おそれるようになりました。
大人たちは、「亀に竜宮城、に、来るよう誘われても、決して行ってはなりません」、と、子供たちに、忠告するようになりました。
幕府も、そういう、おふれ、を出しました。
これで、人間は、竜宮城、へ、行くことは、なくなりました。
一方、海の中の、乙姫は、人間が、来なくなったので、
「ああ。これで、安心して、暮らせるわ」、
と、ほっとしました。
しかし、ひとりぼっちになってしまったので、さびしくなってしまいました。
しかし。
ある時、乙姫が、海の中を、泳いでいると、素敵な、王子に会いました。
彼は、人間ではなく、乙姫と、同類の、海の中で、暮らしている、海の王子でした。
海の王子の存在は、乙姫も、以前から知っていましたが、どこにいるのか、わからず、かなり、遠方まで、探しましたが、見つけることが、出来ませんでした。
しかし、その日、乙姫は、やっと、海の王子に、出会うことが出来ました。
「会いたかったわ。王子さま」
乙姫が言いました。
「僕も会いたかったよ。乙姫さま。僕も、竜宮城、の乙姫さま、と、会いたくて、海の中を、泳ぎまわって、竜宮城、を探していたのですけれど、竜宮城、を見つけることが出来なかったのです」
と、王子が言いました。
こうして、乙姫と王子は、結婚して、竜宮城、で、幸せに、寄り添って、暮らしました。
人間は、歳をとり、やがて、老いて、死んでしまいますが、乙姫と王子は、歳をとることがなく、永遠に若いまま、海の中で、生き続けることが出来るのです。
一方、地上の人間は、大国、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国、インド、パキスタン、イスラエル、イラン、シリア、ミャンマー、北朝鮮、など、世界の国々が、核ミサイルの軍備増強に走り、また、原子力発電所の事故によって、放射能が撒き散らされ、そして、各国は、自分の国だけよければ、それでいい、という保守主義に走り、とうとう、核戦争を起こして、滅んでしまいました。
一方、乙姫と、王子、には、可愛い、男の子、と、可愛い、女の子、が、生まれました。
そして、男の子と、女の子は、すくすくと育ち、二人の間から、乙姫と、王子の孫が、たくさん生まれ、それは、どんどん増えて、海の中の世界は、人間世界と違って、豊かに、そして、平和に、いついつまでも、永遠に、栄えつづけました。


うらしま太郎4

ある高校、A、です。
うらしま太郎は、一年の時から、エースでした。
そして、1年生、2年生、3年生、と、三度とも、A高校は、甲子園に出て、決勝戦まで、勝ち抜きました。
そのため、それまで、地区予選一回戦で敗退していた、A高校は、3年、連続、甲子園優勝の偉業を成し遂げました。
これは、すべて、うらしま太郎の、180km/h の、ストレートと、打率10割り、のバッティングのおかげでした。
うらしま太郎は、当然、セ・パ、両リーグ、の全12球団から、ドラフト1位指名されました。
野球部のマネージャーは、海野乙姫という、可愛い女子生徒、一人でした。
乙姫は、相手チームの研究、スコアつけ、交流試合の取り決め、部員のユニフォームの洗濯、など、一生懸命、一人で、野球部のために、尽くしました。
なので、A高校が、三年連続、甲子園、優勝できたのは、乙姫の協力が、大きかったのです。
しかし、乙姫は、3年の、二学期になると、休学して、学校に、来なくなりました。
理由は、詳しくは、わかりませんが、何か、体調が悪くなって休養するため、ということだそうです。
夏の甲子園大会の終わった、ある日のことです。
学校が終わって、うらしま太郎が、家に、帰る帰途のことです。
5人の生徒、が、一人の、弱々しそうな男子生徒、を、取り囲んで、いじめていました。
どうやら、中学生らしいようです。
「おい。亀蔵。金、貸せよ。そうしないと、ヤキ入れるぞ」
と、チンピラ風の、生徒が、一人の、弱々しそうな、少年の胸ぐらを、つかんでいました。
「友達だろ。金、貸せよ。ゲーセン行くんだから」
と、別の生徒が、少年に、膝蹴りを入れていました。
「ごめんなさい。もう、家から、お金を盗んでくることは、出来ません」
と、少年は、泣きながら、訴えていました。
うらしま太郎、は、すぐに、彼らの所に行きました。
「おい。君たち。弱い者いじめは、よくないな。やめなよ」
と、不良生徒たちに、注意しました。
体格のいい、高校生に、注意されて、不良生徒たちは、
「やべえ。逃げろ」
と、言って、一目散に、逃げていきました。
「どうも、有難うございました」
助けられた少年は、うらしま太郎、に、お礼を言いました。
「いじめられているの?」
うらしま太郎、が聞きました。
「ええ」
少年が、答えました。
「あ、あの。お名前は?」
少年が聞きました。
「僕は、うらしま太郎、と言います」
うらしま太郎、は、答えました。
「僕は、亀蔵と言います。ぜひ助けて下さった、お礼をしたいです。家は、近くです。どうか、家へ、来て頂けないでしょうか?」
少年が言いました。
「わかったよ。それじゃあ、君の家に、行こう」
うらしま太郎、は、そう言って、亀蔵と、歩き出しました。
家は、A高校の、すぐ、近くでした。
「ここです」
そう言って、亀蔵は、立派な、家の前で、足を止めました。
太平洋市竜宮城町1―1―1、と、住所が、書いてありました。
「どうぞ、お入り下さい」
と、少年に、言われて、うらしま太郎、は、少年と、家に入りました。
うらしま太郎、は、居間に通されました。
「ちょっと、待ってて下さい」
と言って、少年は、パタパタと、二階に上がって行った。
うらしま太郎、は、居間の、ソファーに、座って、少年を待ちました。
少年は、すぐに、もどってきました。
「うらしま太郎、さん。姉に、うらしま太郎、さまに、不良たちから、助けてもらったことを、話したら、姉は、ぜひ、お礼を言いたい、と、言っています。どうか、姉に会って頂けないでしょうか?」
少年は、言いました。
うらしま太郎、は、恩着せがましいのが、嫌いでしたが、一応、姉に、会ってみることにしました。
(少年のお姉さん、は、どんな人だろう?)
と思いながら。
うらしま太郎、は、少年に、ついて、二階に上がりました。
そして、ある部屋の前で、少年は、立ち止まり、
「お姉さん。うらしま太郎、さま、を、お連れいたしました」
と、言いました。
「はーい。どうぞ、お入り下さい」
と、部屋の中で、声がしました。
「失礼します」
と言って、うらしま太郎、は、ドアノブを回し、戸を開けました。
うらしま太郎、は、びっくりしました。
何と、少年の姉は、休学中の、乙姫だったからです。
さらに、乙姫は、車椅子に、乗って、下半身に毛布をかけていました。
(一体、どういうことなんだろう?)
と、うらしま太郎、は、疑問に思いました。
しかし、とりあえず。
「やあ。乙姫。久しぶり」
と、挨拶しました。
「お久しぶりです。うらしま太郎、さん」
と、乙姫も、お辞儀しました。
「ところで。君は。車椅子に、乗っているけれど、どうしたの?」
うらしま太郎、が、聞きました。
すると、乙姫が語り出しました。
「実を言うと、今年の夏の甲子園大会の後、右足に違和感を感じるようになり、病院の検査を受けました。すると、右足に、骨肉腫、があることが、わかったのです。かなり進行していて、足を切るしか、ありませんでした。肺にも、転移していて、学校へ通うことは、出来なくなり、家で、療養しながら、病院で、放射線治療を、定期的に、受けているのです」
乙姫が言った。
「そうだったんですか。そんなこととは、知らなかった。君がいなくなって、野球部は、さびしくなったよ」
うらしま太郎、が、言いました。
「うらしま太郎、さん。ごめんなさい。私は、謝らなければ、ならないことがあります」
と、乙姫が言いました。
「はい。何でしょうか?」
うらしま太郎、は、聞き返しました。
「実は、弟がいじめられていたのは、あれは、お芝居です。弟の友達に、頼んで、弟を、うらしま太郎、さん、が、帰宅する道で、いじめて欲しい、と、言っておいたのです。うらしま太郎、さん、は、優しいから、きっと、弟を助けてくれる、と思っていました」
乙姫は言いました。
「そうだったのですか。それは、別に構いません。でも、闘病生活しているのなら、どうして、それを野球部のみなに、話してくれなかったのですか?みなは、あなたのことを、心配していたのですよ」
うらしま太郎、が、聞きました。
「ごめんなさい。皆に気を使わせて、心配させたくなかったのです」
乙姫が言いました。
「では、どうして、今日、私に会おうと思ったのですか?」
うらしま太郎、が、聞きました。
「実は、昨日、受けた病院の検査で、肺、や、肝臓、など、全身への、転移が、大きく、治療をしても、せいぜい、余命1年と言われたのです。それで、死ぬ前に、どうしても、うらしま太郎、さんに会っておきたくて・・・」
そう言って、乙姫は、涙を流しました。
「そうだったのですか。そんなことだとは、知りませんでした。私には、何と、言っていいか、言葉が見つかりません」
そう、うらしま太郎、は、言いました。
「うらしま太郎、さん。野球部のマネージャーをしていた時には、言えませんでしたが。もう、私は、死んでいく身です。なので、私の本心を打ち明けます。うらしま太郎、さん。私は、あなたを、愛していました。今も、愛しています」
乙姫は、告白しました。
「有難う。実は、僕も君を、愛していました。いずれは、告白して、結婚したいと思っていました」
うらしま太郎、も、告白しました。
「嬉しいわ。うらしま太郎、さん、が、私を愛してくれていたなんて・・・」
乙姫の目に、涙が、キラリと光りました。
「でも。乙姫さん。どうして、早く言ってくれなかったんですか?」
うらしま太郎、が、聞きました。
「うらしま太郎、さん。だって、私は、死んでいく身ですもの。あなたは、プロ野球選手になるでしょう。だけど、私では、あなたに、食事を作ってあげることも、出来ないし、掃除や、身の回りの世話をすることも、出来ませんもの。あなたには、きれいな女子アナと、結婚して、幸せになって欲しかったのです。でも、私は、死んでいく身です。最後に告白だけは、しておきたくて、勇気を出して、あなたを、ここへ呼び寄せたのです」
乙姫は、言いました。
「そうだったのですか。あなたは、思いやりのある人だ」
うらしま太郎、は、感動しました。
「私は、あなたが、私を愛してくれていたことを知れて、嬉しいです。私は、幸福に死んでいけます」
そう言って、乙姫は、涙を流しました。
「乙姫さん。勇気を出して、告白してくれて、有難う。間に合ってよかった」
うらしま太郎、が、言いました。
「えっ。それは、どういう意味ですか?」
乙姫は、眉を寄せて、うらしま太郎、に、聞き返しました。
「乙姫さん。実は。僕は、高校を卒業して、プロ野球選手となって、一軍のレギュラーになってから、あなたに、プロポーズするつもりでした。プロ野球は、高校野球より、ずっと厳しく、はたして、僕の実力がプロ野球でも、通用するか、どうか、が、不安でした。そのため、告白できなかったのです」
「そうだったのですか。そうとは知りませんでした」
「でも、間に合ってよかった。乙姫さん。すぐに、結婚しましょう」
と、うらしま太郎、は、言いました。
「えっ。でも、私は、死んでいく身ですよ」
「そんなこと、関係ありません。結婚って、世界中で、一番、好きな人とするものでしょう」
うらしま太郎、は、力強く言いました。
「有難うございます」
乙姫は泣いていました。
こうして、二日後に、うらしま太郎、と、乙姫は、町の小さな教会で、結婚式を挙げました。
うらしま太郎、は、乙姫を、自分の家に住まわせて、毎日、まめまめしく乙姫を介抱しました。
もう、高校の卒業も、数カ月です。
うらしま太郎、は、ドラフト会議で、横浜DeNAベイスターズに、1位、指名されました。
「あなた。よかったわね」
「うん」
「あなた。私が、死んだら、私のことは、忘れて、別の好きな人と結婚して下さい。お願いです」
乙姫は、訴えるように言いました。
「・・・・」
うらしま太郎、は、それには、答えませんでした。
そして、うらしま太郎、は、高校を卒業して、横浜DeNAベイスターズに入団しました。
うらしま太郎、の野球の実力は、プロ野球でも、即戦力として、通用して、うらしま太郎、は、1年目から、先発ピッチャーとして活躍しました。
その年、横浜DeNAベイスターズは、うらしま太郎、の、おかげて、リーグ優勝し、日本シリーズでも、優勝しました。
そして、乙姫は、シーズンオフに、病身の身でありながら、女の子を産みました。
名前は、由香里と名づけました。
オギャー、オギャー、と、赤ん坊は、泣いています。
「ほら。見てごらん。僕と君の、かわいい子供だよ」
そう言って、うらしま太郎、は、赤ん坊を抱いて、産後の、乙姫に、赤ん坊を見せました。
「ふふ。嬉しいわ。私と、あなたの、愛の結晶ね」
と、乙姫も、ニコッ、と、笑顔を見せました。
しかし。
女の子を、産んで、三日後に、乙姫は、ガンの進行に、産褥熱、加わって、死にました。
うらしま太郎、は、泣いて、悲しみました。
うらしま太郎、は、乙姫の骨壺と、乙姫の写真を、部屋の仏壇に置いて、毎日、拝みました。
そして、試合に行く時は、乙姫の写真に向かって、
「行ってくるよ」
と言い、試合が終わって、帰ってくると、
「ただいま」
と、まるで、乙姫に語りかけるように、仏壇の乙姫の写真に向かって、語りかけました。
うらしま太郎、は、その後も、横浜DeNAベイスターズで活躍し、次の年も、リーグ優勝し、そして、日本シリーズも、優勝しました。
うらしま太郎、と、乙姫の、子の由香里は、1歳になりましたが、顔が、乙姫そっくりでした。
育っていくにつれ、子の由香里は、ますます、乙姫に似た、美しい女の子になっていきました。
うらしま太郎、は、バツイチだという、ことが、世間に知られて、多くの女子アナが、うらしま太郎、に、プロポーズしました。
しかし、うらしま太郎、は、それを全部、断りました。
なぜ、と言って。
うらしま太郎、の心には、乙姫が生きているからです。


うらしま太郎5

海の底には、美しい竜宮城がありました。
乙姫は、一人ぼっちで、話し相手といえば、鯛や、平目の魚たちだけです。
当然、魚なんかと、話していても、面白くありません。
ある時、乙姫は、そっと、人間という生き物の住む、陸に近づいてみました。
陸に住む人間とは、一体、どういう、生き物なのかしら?
もちろん、乙姫は、足がなく、下半身は、魚で、人魚のような、姿です。
浜辺では、子供たちが、遊んでいました。
下半身が、二本の、太い腕のようになっていて、自由に、陸の上を走り回っていました。
乙姫は、しばらく、子供たちの、遊びを、じっと、見ていました。
乙姫が、見ていると、一人の、イケメン男が、歩いて、きました。
男は、子供達と、楽しそうに、遊びました。
乙姫は、さびしく、竜宮城へ帰りました。
あの、「人間」、という生き物は、どういう、動物なのだろう?
鮫のような、怖い、生き物なのだろうか?
イルカのような、優しい、生き物なのだろうか?
乙姫は、好奇心が、募っていきました。
ある時。
乙姫は、カメに言いました。
「カメや。私は、人間というものを知りたいわ。お前は、這って歩けるのだから、ちょっと、人間の所に行ってくれない?私も一緒に行くから」
カメは、
「はい。わかりました。乙姫さま」
と言いました。
乙姫と、カメは、竜宮城から、出て、海の中を泳いで、陸に、上がって行きました。
すると。この前、見た、人間の、子供達が、ノロノロ歩く、カメを取り囲みました。
「おーい。カメがいるよ」
「めずらしいな。こんな、大きなカメ」
「しかし、歩くのが、のろいな」
そう言って、子供たちは、棒を持って、カメを叩き出しました。
「やーい。ばーカメ」
「ここまで、来てみな」
カメは、首を甲羅の中に引っ込めてしまいました。
乙姫は、それを、岩陰から、そっと見ていました。
「やっぱり、陸の人間、というのは、サメのように、残忍な性格の動物なのだわ。関わらないようにしましょう」
乙姫は、そう言って、溜め息を、つきました。
その時です。
前回の、イケメン男が、歩いて、やってきました。
「あっ。浦島さん。ここに、大きな、カメがいるよ」
と言いました。
イケメン男は、子供たちに、
「こらこら。歩みの遅い、カメをいじめては、かわいそうじゃないか。やめなさい」
と、注意しました。
子供達は、叱られて、
「ごめんなさい」
と言って、散り散りに、去って行きました。
男は、カメを、持ち上げて、海へ、
「ほーら。お帰り」
と言って、海へ放してやりました。
乙姫は、驚きました。
「人間は、全てが、悪い生物ではないのだ。彼のような、優しい心を持った、人間も、いるのだわ」
乙姫は、いたく感激しました。
乙姫は、カメと一緒に、竜宮城へもどりました。
「ごめんね。カメ。お前を、実験台に、使ってしまって」
「いえ。いいんです。乙姫さまは、僕の女神さまです」
と言いました。
その日から、乙姫は、不思議な感情に襲われ出しました。
それは、今まで、一度も、経験したことのない感情でした。
「ああ。あの、浦島という、優しい、男の人と、話してみたいわ」
乙姫は、何度も、そう呟きました。
カメは、乙姫の、さびしさ、を、見るに見かねました。
そして、乙姫の気持ちを、忖度しました。
「竜宮城に、浦島さんを連れてこよう」
そう、カメは、決意しました。
カメは、ある日、こっそりと、あの、浜辺へ行きました。
すると、ちょうど、あのイケメン男が、漁のため、船を出す所でした。
カメは、陸に這い上がって行きました。
そして、男に話しかけました。
「浦島さん。この前は、助けてくださって、有難うございました。おかげで命びろいしました」
と、丁寧に、お辞儀しました。
「はは。いいんだよ」
と、浦島は、言いました。
「あ、あの。浦島さん」
「なんだね?」
「実は、この前、助けてもらった、ことを、竜宮城の乙姫さまに、話しましたら、ぜひ、お礼がしたい、と言うのです。よろしかったら、一緒に、竜宮城へ来ていただけませんか?」
カメは、そう言いました。
「竜宮城か。どんな所なんだ?」
「とても、いい所ですよ。気に食わなかったら、帰ってもいいです。私が送ります」
「そうか。どんな、所か、一度、見てみよう」
と、浦島は、言いました。
「では、私の背中に乗って下さい」
「よし。わかった」
そう言って、浦島は、カメの背中に乗りました。
カメは、水中深く、潜って行きました。
「う。息が苦しい」
「もうちょっと、我慢して下さい。もうすぐ、竜宮城です」
やっとのことで、浦島を乗せたカメは、竜宮城へ、着きました。
「乙姫さま。浦島さんを、お連れ致しました」
そう、カメは、大きな声で言いました。
乙姫が、そっと、おそるおそる、顔を、のぞかせました。
「あなたが、乙姫さま、ですか。何と、美しい方だ」
浦島は、乙姫を見ると、そう言いました。
乙姫は、顔が、真っ赤になりました。
乙姫は、カメを見ました。
「乙姫さま。勝手に、浦島さんを、竜宮城へ、連れてきてしまって、すみません」
と、カメは、謝りました。
「い、いいの」
と、乙姫は、カメを、なだめました。
「あ、あの。私の、家来のカメを、助けて下さって有難うごさいました。どうぞ、ごゆるりと、くつろいで下さい」
と、乙姫は、言いました。
「それでは、お言葉にあまえて」
と言って、浦島は、竜宮城へ入っていきました。
乙姫は、横座りになって、家来の、魚たちに、酒や、海鮮料理を、たくさん、もって来させました。
浦島は、
「うわー。美味しそうだー。それじゃあ、失礼して、頂きます」
と言って、酒を飲み、豪華な料理を食べました。
乙姫も、一緒に、酒を飲み、料理を食べました。
「うわー。美味しい。美味しい」
と言いながら、浦島は、パクパクと、食べました。
乙姫は、嬉しくなって、浦島の体に、ピッタリと、くっつけて、寄り添いました。
食べ終わると、浦島は、乙姫に向かって、
「ありがとう」
と言いました。
そして、乙姫の肩に手をかけて、乙姫の髪を、優しく撫でました。
そして、歌を歌ってやりました。
乙姫は、今までに経験したことのない最高に幸せな気分になりました。
「乙姫さま」
「はい。何でしょうか?」
「ここは、隠された方が、いいのでは、ないでしょうか?」
そう言って、浦島は、乙姫の、豊満な胸を指しました。
「そうね。何だか、恥ずかしいわ」 
乙姫は、裸を見られることに、恥ずかしさが、起こって、思わず、胸を手で覆いました。
浦島は、近くにある、大きな貝を開き、それを、乙姫の、胸の二つの、膨らみに、かぶせてやりました。そして、その上から、昆布で、巻いて、貝が、落ちないように、してやりました。
「優しい方」
乙姫は、ポッと顔を赤くしましまた。
乙姫にとって、こんな、素晴らしい、気持ちになったのは、はじめてでした。
「あ、あの。浦島さま。あなたさま、さえ、よろしければ、いつまでも、ここに、いて、くださって、構いませんのよ」
と、乙姫は、顔を赤くして言いました。
「そうですか。それは、うれしいです」
そう言って、浦島は、竜宮城で、乙姫と、楽しく過ごしました。
しかし、竜宮城には、時計がありません。
浦島が、竜宮城に来て、かなりの日にちが、経ちました。
「一体、何日、経ったのだろう?」
という疑問が浦島に起こってきました。
ある日。
「乙姫さま。あなたとの生活は、楽しい。しかし、私の家には、老いた母がいます。漁もしなければなりません。私は、母を看護し、働かなくてはなりません」
と言い、
「それと。私には、将来を誓い合った、婚約者が、います。なので、あなたと、別れるのは、つらいですが、私は、家に戻らなくては、なりません」
と浦島は、言いました。
「あ、あの。婚約者って、一体、何なのでしょうか?」
乙姫が、聞きました。
「つまりですね。今の、私と、あなたの、関係のように、いつも、仲良く、一緒に生活する女性のことです」
と、浦島は、言いました。
乙姫は、ガッカリしました。
一生、優しい、浦島と、楽しく過ごせると思っていたのですから、無理もありません。
この時、乙姫に、今までに、経験したことのない、ある感情が起こってきました。
乙姫は、非常に激しい、苦悩に悩まされました。
この気持ちを、どう処理していいか、乙姫には、わかりませんでした。
そして、考え抜いた、あげく、乙姫は、浦島に、ある箱を渡しました。
「浦島さま。わかりました。それでは、陸へおかえり下さい。長い間、引き止めてしまって、もうしわけありませんでした」
乙姫は、そう言いました。
そして、浦島に、きれいな漆塗りの箱を差し出しました。
「浦島さま。これは・・・おみやげです。受けとって、いただけないでしようか?」
乙姫が、そういうと、浦島は、嬉しそうに、
「どうも、ありがとう。こんな、お礼まで、頂けるなんて」
と言いました。
浦島は、陸に帰るために、カメの背中に乗りました。
カメが、泳ぎ出そうとした時、乙姫は、
「あ、あの。浦島さま。その箱は、やっぱり、開けないで下さい」
と言いました。
しかし、浦島を乗せたカメは、竜宮城から、かなり、離れていて、その声は、浦島に届きませんでした。
「まって。まって」
と乙姫は、必死で、浦島を引き止めようとしました。
微かな声が、浦島に届いたのでしょう。
浦島は、後ろを振り向きました。
竜宮城では、乙姫が、激しく手を振っています。
浦島は、それを、別れの、あいさつ、だと、とらえました。
そして、浦島も、笑顔で、目一杯、力強く、乙姫に向かって、手を振りました。
やがて、竜宮城との距離が、離れていき、乙姫の姿も、見えなくなりました。
陸に上がった、浦島は、はて、自分の、家の、方向は、どちらだろうと、迷いました。
カメが、辿り着いて、浦島を降ろした場所は、元の場所ではなかったからです。
それは、乙姫が、カメに、「浦島さまを、ちょっと、離れた場所に返して」、と言ったからです。
カメが、それは、どうして、ですか?と聞くと、乙姫は、黙ってしまいました。
陸に上がった、浦島は、はて、自分の、家の、方向は、どちらだろうと、迷いました。
見知らぬ土地、見知らぬ人ばかりです。
「まあ、しかし、人に聞けば、ここは、どこで、どの方角に行ったら、家に戻れるかは、わかるだろう」
と、そんなに、あせりませんでした。
浦島は、とりあえず、浜辺に座りました。
乙姫が、くれた、きれいな箱が目にとまりました。
「一体、何が入っているんだろう。優しい、乙姫のことだから、きっと、素晴らしい、お土産に違いない」
そう思って、浦島は、玉手箱を開けてみました。
すると、どうでしょう。
箱の中から、煙が、モクモクと出てきました。
「うわっ」
と、浦島は、びっくりしました。
箱の中には、カガミ、がありました。
竜宮城には、カガミはありませんでしたから、自分の顔を見るのは久しぶりのことです。
浦島は、カガミを見てみました。
そして、驚きました。
なぜなら、浦島の顔は、老人の顔になっていた、からです。
蛇足。言うまでもないが、聡明な読者諸兄には、おわかりのことだと思うが、玉手箱の煙とは、「嫉妬」、の感情、なのです。


うらしま太郎6

1994年(平成6年)、の、5月1日のことです。
この年、松本サリン事件が、起こりました。
1994年の、6月27日、から翌日、6月28日、の早朝にかけて、長野県松本市北深志の住宅街で、化学兵器として使用される神経ガスのサリンの散布により7人が死亡、約600人が負傷したのです。
戦争状態にない国において、サリンのような化学兵器クラスの毒物が一般市民に対して無差別に使用されたのは、世界初の事例でした。
当然、警察は、総力を挙げて、犯人をつきとめようとしました。
ある浜辺の村に、うらしま太郎、という青年がいました。
1994年(平成6年)、の、5月1日のことです。
うらしま太郎、は、漁師で、その日も、漁港に向かいました。
(さあ。今日も、うんと魚をとるぞ)
と、元気を出して。
うらしま太郎、は、漁港に向かう、いつもの浜辺を歩いていました。
すると、どうでしょう。
うらしま太郎、は、びっくりしました。
なぜなら、村の子供たちが、寄ってたかって、大きな亀を、いじめていたからです。
「やーい。やーい。ドン亀」
と、子供たちは、囃し立てて、棒で、巨大な亀を、叩いていました。
うらしま太郎、は、当然、子供たちを、注意しました。
「こらこら。君たち。そんな、可哀想なことを、するものじゃないよ」
と、うらしま太郎、は、子供たちを諌めました。
すると。
「うわー。逃げろー」
と、子供たちは、うらしま太郎、に、叱られて、蜘蛛の子を散らすように、逃げていきました。
「ああ。ありがとうございました。もう少しで、いじめ殺される所でした」
亀は、助けてもらった、お礼を言いました。
「あ、あの。お名前は?」
亀が聞きました。
「私は、うらしま太郎、と言います」
うらしま太郎、は、答えました。
「うらしま太郎さま。ぜひ、助けて下さった、お礼をしたいと思います。ぜひとも、私と一緒に、竜宮城へ、行ってもらえないでしょうか?私は、亀蔵と言って、竜宮城にいる、乙姫さまに、仕えている、乙姫さまの、家来なのです」
亀は、そう言いました。
「わかりました。有難うございます。私も、ぜひ、竜宮城に行って、乙姫さまに、会いたいです」
と、うらしま太郎、は、言いました。
「それでは、私の背中に、お乗りください」
亀に、促されて、うらしま太郎、は、大きな、亀の甲羅の背中に乗りました。
亀は、海の中に、入ると、スーイ、スーイ、と、泳ぎ出しました。
亀の背中に乗って、海上を走るのは、なかなか、快適でした。
水上バイクに、乗っているような気分です。
「うらしま太郎さま。竜宮城は、海の底にあります。これから、海の中に、潜ります。しかし、ご安心ください。龍神、(海の神)、の、神通力によって、うらしま太郎さまは、海中に入って呼吸しなくても、大丈夫です」
亀は、そう言いました。
うらしま太郎、は、ホントかな、と思いましたが、亀を信じることにしました。
そして、亀は、海の中に、潜水していきました。
亀の言った通り、うらしま太郎、は、海中に入って、呼吸が出来なくなっても、苦しくならず、平気でした。
海の中では、様々な魚が、泳いでいます。
やがて、きれいな、お城が見えてきました。
「うらしま太郎さま。あれが、竜宮城です」
亀が言いました。
「乙姫さまー。ただいま、帰りました」
竜宮城に着くと、亀は、大きな声で叫びました。
すると。
「はーい」
という、声が聞こえました。
そして、竜宮城の戸が、開きました。
そして、美しい女性が顔を現しました。
「お帰り。亀蔵」
と、美しい女性は、亀に言いました。
「乙姫さま。ただいま、帰りました」
亀が、言いました。
「あら。こちらの方は誰?」
乙姫が、うらしま太郎、の方を見て、亀に聞きました。
「乙姫さま。この方は、うらしま太郎さま、といいます。この方は、私が、浜辺で、子供たちに、いじめられている所を、救ってくださったんです」
亀は、乙姫に、そう説明しました。
「そうだったのですか。うらしま太郎、さま。それは。それは。どうも、ありがとうございました。この亀は、亀蔵と言って、私の大切な家来です。ぜひとも、お礼をしたく思います。さあ、どうぞ、お上がり下さい」
そう言って、乙姫は、うらしま太郎に、恭しく、頭を下げました。
うらしま太郎、は、乙姫を見て、驚きました。
あまりにも、美しかったからです。
「これは、これは、乙姫さま。お目にかかれて光栄です」
と、うらしま太郎、は、恭しく、深くお辞儀しました。
「さあ。どうぞ、お上がり下さい」
乙姫は、うらしま太郎、の、礼儀正しさ、に、喜んだのでしょう。
ニコッと、微笑んで、言いました。
「それでは、お邪魔いたします」
そう言って、うらしま太郎、は、竜宮城の中に、入りました。
竜宮城の中は、地上と同じように、海水ではなく、空気で満たされていました。
「浦島さま。家来の、亀蔵を助けて下さってありがとうございました」
乙姫は、あらためて、うらしま太郎、に、礼を言いました。
「いえ。人間として当然のことをしたまでです」
うらしま太郎、は、謙虚に言いました。
「優しい方なんですね」
乙姫は、また、ニコッと、微笑みました。
その晩は、乙姫は、手によりをかけて、うらしま太郎、のために、豪勢な料理を作りました。
豪勢、と言っても、その料理は、全部、魚料理でした。
乙姫は、海の中で、暮らしているので、それも、無理はありません。
それでも、うらしま太郎、は、「美味しい。美味しい」、と言って、乙姫の作った魚料理を食べました。
「お味はいかが?」
という、乙姫の少し自慢げな質問に対し、うらしま太郎、は、
「最高の美味です」
と、答えました。
うらしま太郎、は、「最高の美味です」、とは、言ったものの、本心では、「温かい、ご飯や、肉、や、野菜も、欲しいものだな」、と思っていました。
しかし、乙姫を失望させたくないので、それは、言わず、「美味しい。美味しい」、と、だけ言いながら、食べました。
食後。
乙姫は、鯛、や、ヒラメ、を、大勢、呼びました。
「さあ。あなた達。うらしま太郎、さま、の、おもてなし、です。踊りなさい」
乙姫は、鯛、や、ヒラメ、に命じました。
乙姫は、魚と話が出来るのです。
「はい。乙姫さま。わかりました」
そう言って、鯛、や、ヒラメ、は、優美な踊りを、うらしま太郎、に披露しました。
その夜は、うらしま太郎、は、乙姫と、巨大な、真珠貝の、中の、フカフカの、ベットで、手をつないで寝ました。
もちろん、乙姫とセックスすることは、出来ません。
なにせ、乙姫は、下半身が、魚なのですから。
しかし、そういう物理的な理由も、ありますが、うらしま太郎、は、ジェントルマンシップを持っていたので、というか、ストイックなので、いきなり、抱きつく、という趣のないことは、したくなかったのです。
こうして、うらしま太郎、は、竜宮城、で、乙姫と、一緒に、楽しく暮らしました。
どのくらい、の日が、経ったのかは、竜宮城、には、時計がないので、わかりません。
しかし、竜宮城、には、テレビも、パソコンも、何もなく、だんだん、うらしま太郎、は、退屈になってきました。
その上、料理は、毎日、魚料理ばかりです。
それに、家族のことも、漁の仕事のことも、自分がいなくて、大丈夫かな、と心配になってきました。
それで、ある時、うらしま太郎、は、乙姫に、
「乙姫さま。長い間、有難うございました。私は、出来ることなら、もっと、ここに、いたいのですが、家族や仕事のことが、ずっと気にかかっていました。そろそろ、村に帰りたいと思います」
と、申し出ました。
乙姫は、
「そうですか。それは、とても残念です。私も、楽しかったです。しかし、うらしま太郎、さまも、家族や仕事のことが、心配でしょう。別れは、惜しいですが、どうぞ、亀に乗って、村へお帰り下さい」
と、親切に言いました。
「どうも有難うございます」
うらしま太郎、は、乙姫に、感謝して、握手しました。
うらしま太郎、が、亀の背中に、乗ろうとすると、乙姫は、
「ちょっと、待って下さい」
と、うらしま太郎、を、引き留めました。
そして、きれいな玉手箱を、差し出しました。
「うらしま太郎、さま。楽しい日々を送らせてもらった、お礼です。たいした物では、ありませんが、受けとって、下さい」
と言いました。
「中には、何が、入っているのですか?」
うらしま太郎、が、聞きました。
「うらしま太郎、さま。まことに、申し上げにくいことなのですが、そして、おわびしなければ、ならないのですが、竜宮城、での、1日は、地上での、50日、に、当たるのです。なので、玉手箱を、開けると、うらしま太郎、さま、は、一気に、50歳、歳をとって、老人になってしまいます」
と、乙姫は、言いました。
うらしま太郎、は、首を傾げました。
「それなら、玉手箱を、開けなければ、いいじゃないですか?」
と、うらしま太郎、は、乙姫に、言い返しました。
「それは、そうですが。何かの役に立つかもしれないと思います。どうぞ、持ち帰って下さい」
と、乙姫は、言いました。
うらしま太郎、は、玉手箱を、開けなければ、歳をとることもないのに、どうして、玉手箱を、乙姫は、渡したのだろうと、疑問に思いながらも、親切な、乙姫の、忠告なので、玉手箱を、持って帰ることに、しました。
そして、うらしま太郎、は、玉手箱を、持って、亀の背に乗って、海の中を、陸に向かって進み、そして、元の、村に、もどりました。
村は、少し、様子が、変わっていましたが、それほど、変わっては、いませんでした。
近くに、いる村人に、今は、平成、何年の何月何日、なのか、聞きました。
すると、村人は、訝しそうな目で、うらしま太郎、を、見て。
「今は、1995年(平成7年5月1日)、ですよ」
と、朴訥に答えました。
うらしま太郎、は。
(そうか。それなら、オレは、一年間、竜宮城、で過ごした、ことになるな)
と、感慨深そうに、つぶやきました。
しかし、村人の様子が、変です。
村民は、うらしま太郎、に、おびえているような、様子で、急いで、近くの警察署に駆け込みました。
すると、すぐに、警察官が、出てきて、うらしま太郎、の、所に来ました。
そして、うらしま太郎、を、にらみつけました。
「ちょっと、任意で、聞きたいことがある。警察署まで、同行してもらえないか?」
と、警察官は、言いました。
うらしま太郎、は、
「はい」
と言って、警察署に、生きました。
警察官は、しばし、うらしま太郎、の顔を、じっと、見つめていましたが、
「警視庁に、行ってもらえないかね?」
と、言いました。
うらしま太郎、には、何のことだか、さっぱり、わかりませんでした。
しかし、ともかく、うらしま太郎、は、
「はい。行きます」
と、答えました。
すぐに、うらしま太郎、は、パトカーで、警視庁に、輸送されました。
(オレは、何かの事件で、疑われているのだろう)
と、うらしま太郎、は、漠然と、感じました。
しかし、一体、何の事件かは、全くわかりません。
パトカーは、警視庁につきました。
うらしま太郎、は、取調室に、入れられました。
取調室は、薄暗く、裸電球と、机一つがあるだけで、うらしま太郎、は、机の前の椅子に、座らされました。
やがて、二人の検事が来て、机を挟んで、うらしま太郎、と、向き合うように、座りました。
「私は、主任検事のAという。あなたに聞きたいことがある」
と言いました。
「はい。何でも、正直に、答えます」
と、うらしま太郎、は、言いました。
取り調べが始まりました。
「あなたの名前は?」
「うらしま太郎、です」
「歳は?」
「25歳です」
「職業は?」
「漁師です」
「ところで、あなたは、去年の、5月1日から、今日の、5月1日まで、どこに、いましたか?」
うらしま太郎、は、言いためらいました。
竜宮城、に、いました、と言っても、信じてもらえない、ような気がしたからです。
しかし、検事は、
「さあ。答えて下さい」
と、威圧的に、うらしま太郎、に、詰め寄りました。
なので、うらしま太郎、は、仕方なく、
「竜宮城、に、いました」
と、答えました。
「竜宮城、だと?それは、どこにある?」
「海の中です」
「何をねぼけたことを言っている」
検事は、うらしま太郎、を、にらみつけました。
うらしま太郎、は、一体、自分は、何の容疑で疑われているのか、知りたくなりました。
それで、
「検事さん。一体、私は、何の犯罪で、疑われているのですか?」
うらしま太郎、は、聞きました。
「あんたは、去年の、6月27日の、松本サリン事件と、今年の、3月20日の、地下鉄サリン事件を、知っているだろう?」
検事は、言いました。
「はっ。何ですか。それは?」
うらしま太郎、は、首を傾げました。
「とぼけるな。去年の、6月27日の、松本サリン事件と、今年の、3月20日の、地下鉄サリン事件、は、テレビでも、新聞でも、大々的に、報道されて、日本人は、みな、知っているはずだぞ」
検事は、怒鳴りつけました。
「何ですか。その、松本サリン事件と、今年の、3月20日の、地下鉄サリン事件、というのは?」
うらしま太郎、は、聞き返しました。
うらしま太郎、は、去年の、5月1日に、竜宮城に行きましたから、松本サリン事件、も、地下鉄サリン事件も、知りません。
「とぼけるな。二つの事件とも、オウム真理教が、無差別テロとして、サリンを撒いた事件だ」
検事は、怒鳴りつけました。
「あっ。あの、変な、オウム真理教ですか。麻原とかいう人が教祖の。あの宗教集団が、サリンを撒いたんですか?」
うらしま太郎、は、始めて、知って、驚きました。
「そうだ」
と、検事は、うらしま太郎、を、にらみつけました。
「これを見ろ」
検事は、そう言って、写真を、うらしま太郎、に、見せました。
それは、地下鉄サリン事件に、関わった、オウム真理教の、幹部の一人でした。
うらしま太郎、は、1990年(平成2年)に、第39回衆議院議員総選挙に、立候補した、その、オウム真理教の幹部S氏を知っていました。
なぜなら、うらしま太郎、は、その幹部に、顔が、とても、似ているので、「お前。オウム真理教の、S氏に、似ているなー。そっくりだぜ」、と、漁師仲間から、からかわれていましたから。
「これで、もう、わかっただろう。お前は、S氏に、そっくりだ。お前は、去年の、松本サリン事件と、今年の、地下鉄サリン事件、に、関わっておきながら、その後、韓国か、どこかへ、逃亡して、おおかた、プチ整形でも、したんだろう。しかし、プチ整形しても、地顔が、完全に、他人の顔になることなど、出来ないからな。顔の雰囲気は、はっきり、残っているぞ」
と、検事は、言いました。
「え、冤罪だ。私は、S氏ではない」
うらしま太郎、は、叫びました。
「そう言うんなら、去年の5月1日から、今日まで、1年間、どこに、いたか、アリバイを示せ。お前は、一年間、どこにいたんだ?」
検事が、聞きました。
「竜宮城、に、いました」
うらしま太郎、は、正直に答えました。
「そうか。では。その、竜宮城の住所を言え」
「竜宮城、は、海の中です。どこの海域なのかは、私には、わかりません。それに、海の中には、住所など、ありません」
「なにを、寝ぼけたことを言っている」
検事は、鬼面で、うらしま太郎、を、にらみつけました。
「検事。もしかすると、この男は、頭がおかしいのかも、しれませんよ?」
もう一人、主任検事の隣に座っていた副検事が、主任検事に、言いました。
「ふーむ。そうだな。ここまで、支離滅裂なことなど、まともな、人間なら、言うはずがないからな」
と、主任検事は眉を顰めました。
「いや。もしかすると、こいつは、支離滅裂なことを、言って、精神障害者を装っているのかもしれんぞ」
と、主任検事が言いました。
「そうですね。その可能性は、否定できませんね」
副検事が言いました。
(ああっ。このままでは、オレは、犯罪者にされてしまう)
うらしま太郎、は、心の中で、焦り、嘆きました。
と、その時。
うらしま太郎、は、自分の、無実を、証明できる、物を思いつきました。
玉手箱です。
玉手箱を、開けると、自分は、老人になってしまいますが、冤罪で、死刑になるよりは、マシだ、と、うらしま太郎、は、咄嗟に、判断しました。
「検事さん。私が、持っていた、玉手箱、を、持ってきて下さい。あれが、私の無実を証明してくれます」
うらしま太郎、は、強い語調で、訴えました。
「ああ。あれか。あの箱か。あれは、押収品として、預かっている」
「あれを、持ってきて下さい。そうすれば、私の無実が証明できます」
「どうして、あの箱で、お前の無実が、証明できるのだ?」
「それは、開けてみれば、わかります」
うらしま太郎、は、執拗に、食らいつきました。
「そうか。お前が、そんなに、言うなら、持ってきてやろう」
そう言って、主任検事は、副検事に、目を向けました。
「おい。あの、箱を持ってこい」
「はい」
そう言って、副検事は、取り調べ室を出ていきました。
しばしして、副検事は、玉手箱を、持って、取調室に帰ってきました。
「さあ。持ってきたぞ。お前の、無実を証明してみろ」
主任検事が言いました。
「はい。わかりました」
そう言って、うらしま太郎、は、玉手箱を、開けました。
すると、モクモクと白い煙が、玉手箱から、出てきました。
「うわっ。何だ。こりゃ」
二人の検事は、驚きました。
しかし、それ以上に、二人の検事には、驚いたことがあります。
それは、今まで、目の前にいた、若者が、いなくなり、かわりに、白髪の老人が、いたからです。
二人の検事は、動揺しました。
「一体、これは、どういうことだ?」
主任検事が言いました。
「わかりません。全く、わかりません」
副検事が言いました。
「と、ともかく、このことは、決して、マスコミに発表しては、ならない。テレビのニュースにも発表してはならない。こんな、白髪の老人が、25歳の、S氏だ、などと言ったら、検察は、完全に、国民の、笑いものにされる」
主任検事が言いました。
「そうですね。村木厚子事件。鈴木宗男事件。三井環事件。小沢一郎の、陸山会事件、以来、国民は検察を信用しなくなってきていますからね。これ以上、検察の、威信が、失墜するのは、何としても、食い止めねばならないですね」
副検事が言いました。
「あんた。何がなんだか、わからないが、とにかく、あんたは、無罪放免だ。疑ってすまなかった」
主任検事が言いました。
こうして、うらしま太郎、は、釈放されました。
うらしま太郎、は、心の中で、乙姫に、「ありがとうございました。乙姫さま」、と、言って、晴れ晴れとした心もちで、家に帰りました。
家に帰る途中の浜辺で、うらしま太郎、は、1年前に、竜宮城、に、連れていった、亀が、いるのを見つけました。
亀は、うらしま太郎、を、見ると、こう言いました。
「うらしま太郎、さま。実は、乙姫さま、は、うらしま、さま、が、竜宮城、に来られた後に、松本サリン事件が起こったのを知りました。そして、地下鉄サリン事件が、起こったのも。そして、乙姫さまは、人間社会の、検察の横暴さも、知っていました。乙姫さまは、このままでは、うらしま太郎、さまは、死刑にされてしまう、と、焦りました。なので、うらしま太郎、さまを、守るには、玉手箱を、渡すしかない、と、苦渋の決断をなされました。死刑にされるよりは、竜宮城、で、楽しんで、そして、老いてしまっても、死刑にされるよりは、老いた方が、まだ、救われると、判断なされました。乙姫さまも、悩まれたのです。どうか、乙姫さまを、許してやって下さい」
と、亀は言いました。
「そうだったのか。そんなこととは、知らなかったな。乙姫さまに、(どうも、有難う)、と、伝えて下さい」
と、うらしま太郎、は、言いました。
「有難うごさいます。うらしま太郎、さま」
と、亀は、一礼して、海の中へ潜っていきました。




平成30年11月1日(木)擱筆



うらしま太郎7

ある街に、うらしま太郎、という若者がいました。
彼は、真面目な、サラリーマンでした。
ある日、うらしま太郎、が、会社の仕事が、終わって、アパートに向かっている時です。
路上で、数人の男が、一人の女に、からんでいるのを、うらしま太郎、は、見つけました。
男たちは、ガラの悪い、人相でした。
行き交う人々は、やっかいな、いざこざ、に、巻き込まれたくなのでしょう。
見て見ぬふりをして、通り過ぎて行きます。
しかし、うらしま太郎、は、正義感が強いので、近くの、ビルの陰から、その様子を、見てみました。
「おい。何で、三日も、休んでいたんだよ」
と、一人の、ガラの悪い男が、女の襟首をつかんで迫りました。
「オレは、あんたに、会いたくて、毎日、通ってるんだぜ」
と、別のガラの悪い男が、女に、詰め寄りました。
「申し訳ございません。風邪をひいてしまって、休んでいたのです」
と、女は、泣きそうな顔で、ペコペコ謝りました。
その後も、うらしま太郎、は、二人の男と、女の会話を聞いていました。
そして、大体の状況を把握しました。
女は、キャバクラに勤める、キャバクラ嬢で、男二人は、常連の客で、彼女が、三日、休んだのを、不快に思って、からんでいる様子です。
うらしま太郎、は、正義感が強いので、二人の男たちの前に、出ました。
「あんたたち。風邪をひいて、休んだのなら、仕方ないだろう」
と、うらしま太郎、は、二人の男に、強気の口調で、言いました。
「何だ。てめえは?」
男の一人が、うらしま太郎、に、聞きました。
「単なる、通りすがりの者だよ」
うらしま太郎、は、答えました。
「ただでさえ、不快なのに、正義感ぶりやがって。やっちまえ」
男二人は、うらしま太郎、に、襲いかかりました。
しかし、うらしま太郎、は、空手を身につけているので、チンピラ二人を、やっつけることは、わけもないことでした。
キエー。ウリャー。
うらしま太郎、は、空手の、パンチとキックで、二人を、倒しました。
二人のチンピラは、うらしま太郎、には、歯が立たないと、思ったのでしょう。
「おぼえてやがれ」
と、捨てセリフを吐いて、去って行きました。
あとには、キャバクラ嬢が、残されました。
彼女は、すぐに、うらしま太郎、の、所に駆け寄りました。
「どうも、有難うございました。私は、源氏名を、亀女と言います。あの客たちは、しつこくて、やたら、体を触ってくるので、私も困っていたのです」
と、彼女は、うらしま太郎、に、礼を言いました。
「いや。別に、当然のことを、しただけですよ」
と、うらしま太郎、は、言いました。
「あの。お名前は?」
女が聞きました。
「私は、うらしま太郎、と言います」
うらしま太郎、は、答えました。
「あ、あの。うらしま太郎、さま。助けて頂いた、お礼を、ぜひとも、したいです。どうか、キャバクラ竜宮城に、お越し頂けないでしょうか。料金も、半額、割り引きにさせて頂きます。指名度ナンバーワンの、きれいな、乙姫、という、女性もいます」
と、女は、言いました。
「そうですか。それなら、行きましょう」
そう言って、うらしま太郎、は、亀女と、一緒に、歩き出しました。
表通りから、路地裏に、ちょっと、入ると、キャバクラ竜宮城、と、書かれた店がありました。
うらしま太郎、は、亀女と、一緒に、店に入りました。
亀女は、奥の席に、うらしま太郎、を、連れて行きました。
うらしま太郎、は、その席に座りました。
「ちょっと、お待ち下さい」
と、亀女は、言って、店の奥に、行きました。
そして、すぐに、一人の、きれいな、ホステスを連れて来ました。
「うらしま太郎さま。亀女を助けて下さって有難うございました。私は、源氏名を、乙姫と、申します」
と、言って、恭しく、一礼しました。
「いやー。きれいな人だ」
と、うらしま太郎、は、乙姫を見て、思わず、言いました。
乙姫は、うらしま太郎、の、横に腰掛けて、酒、や、料理を出したり、歌を歌ったりして、うらしま太郎、を、もてなしました。
かなりの時間が経ちました。
「いやー。楽しかったです。有難うございました。乙姫さま」
と言って、うらしま太郎、は、立ち上ろうとしました。
すると。
「ちょっと待って下さい。うらしま太郎、さま」
と、乙姫が、うらしま太郎、に、耳打ちしました。
「どうしたのですか?」
うらしま太郎、が、聞きました。
乙姫は、回りを、チラッと、見てから、そっと、うらしま太郎、に、耳打ちしました。
「うらしま太郎さま。あなた様は、いじめられていた、亀女を、助けるほどですから、勇気のある方だと思います。実を言いますと、亀女が、いじめられていた、のは、あれは、客引きのための、お芝居です。この店は、指定暴力団、山口組、が経営している、違法な、悪質キャバクラなのです。「日給、最低3万円。住居保証。健全風俗店」、と言いながら、私たち、ホステスは、暴力団事務所の中の、6畳の、狭い一室に、押し込められているのです。そして、稼ぎの、9割は、暴力団に、ピンハネされているんです。そして、暴力団に見張られていて、辞めたくても、辞められないのです。親への仕送りも、しなければなりませんが、わずかな収入では、自分の生活費だけで、精一杯です。みな、困っています。そして、お客さんから、法外な料金を、ぼったくっています。どうか、私たちを助けて下さい」
と、乙姫は、泣いて、うらしま太郎、に、頼みました。
「そうだったのですか。それは、ひどい。わかりました。あなた達を助けましょう」
と、うらしま太郎、は、言いました。
「うらしま太郎さま。これを、お持ちになって下さい」
そう言って、乙姫は、うらしま太郎、に、玉手箱を、渡しました。
「何ですか。これは?」
うらしま太郎、が、聞きました。
「この中には、催涙ガスが、入っています。きっと、お役に立てると思います」
と、乙姫は、言いました。
「わかりました」
と言って、うらしま太郎、は、玉手箱を、受け取りました。
そして、店を出ようと、レジに行きました。
「料金は、10万円です」
レジの男が言いました。
「それは、ひどい。たかが、1時間、飲んだだけで。しかも、料金は、半額、割り引き、と聞きましたよ」
と、うらしま太郎、は、抗議しました。
「ええ。半額、割り引きですよ。しかし、この店は、高級キャバクラなので、料金は、1時間、20万円なのです。だから、半額、割り引き、で、10万円なのです」
と、男は、居丈高に言いました。
「そんな、お金は、ありません」
うらしま太郎、は、毅然とした、態度で言いました。
すると、さっきの、ガラの悪い男二人が、出てきました。
「おい。にいちゃん。遊んでおいて、金を払わないって法は、ねえだろ。金を払いな」
と、恫喝的に、うらしま太郎、に、迫りました。
「金が、無いなら、キャッシュカードで、現金をおろせ」
ガラの悪い男の、一人が言いました。
店の中には、ATMが、設置されています。
「さあ。これで、金をおろしな」
ガラの悪い男の、一人が言いました。
「オレは、そんな恫喝には、屈っしないぞ」
うらしま太郎、は、そう言って、乙姫から、渡された、玉手箱を、を、ガラの悪い男たち、に向かって、開けました。
すると、催涙ガスが、出て、ヤクザ三人は、
「うわっ。これは、何だ?」
「催涙ガスじゃねえか。目、や、咽喉、が痛くて、耐えられん」
と言って、ゴホゴホ、と、咳き込みました。
うらしま太郎、は、ハンカチで、口を塞ぎながら、キエー、ウリャー、と、男三人を、叩きのめしました。
そして、乙姫や、亀女、その他の、ホステス全員を連れて、急いで、店を出ました。
そして、タクシーを拾って、彼女たちを乗せ、自分も、乗り込んで、かなりの遠方の駅まで、行って、彼女たちを、降ろしました。
うらしま太郎、は、駅前のコンビニに入って、ATMで、かなりの額の金を、おろしました。
そして、その金を、ホステスたちに、渡しました。
「さあ。あなた達は、これで、逃げなさい」
うらしま太郎、は、言いました。
「有難うございます。うらしま太郎、さま」
そう言って、ホステス達は、は、電車に乗って、それぞれ、自分の実家にもどりました。
うらしま太郎、は、警察署に行って、暴力団の経営する、違法キャバクラ竜宮城、の、実態を話しました。
警察も、重い腰を上げて、マル暴が、動き出し、指定暴力団、山口組、の事務所に乗り込み、暴力団員、全員を逮捕しました。



平成30年11月4日(日)擱筆