吸血鬼-ヴァンパイア-
赤い満月が陽の光を突き落とした
引き裂かれる月光 絶叫のうちにすべてが終わる
牙を剥いた闇 永遠の夜に迷い込む
よみがえる魔界の貴公子
闇によぎる紅い瞳 夜の住人
氷の微笑をいろどるあざやかな紅
夜毎美女を訪れ美味なる誘惑の血をすする
ヴァンパイア
約束の印
白い首筋に這う再会の
『我が眷属へ……!』
血で血を洗う戦いの夜
殺さなければ失う
十字架も聖水もあてにならない
陽光も月光も
……もとは人間
(ヴァンプは愛を得んがため)
虐げられ遠ざけられ 夜に生きるようになり
人が恋しいのではないだろうか
―――彼らは孤独な狩人……ヴァンパイア
小説-NOVEL-
定められた一生
始めから決められ 生み出された
虚像
人にとっての『神』につくられたもの
なるべくしてなり あるべくしてある
心に働きかけるもの
すでに用意されたレールをゆるゆると歩き
創造されたのでなく想像された故に
自らの意志を持つことを許されず
『神』の思うまま 立ち止まり
振りかえり 進まなければ
(――…何故……)
彼ら彼女らそれらは考える
何故 と
何故我らがこの道を進まねばならぬ
生んでもらった おん は ある
育ててもらった おん は ある しかし
何故――何故その先までも我らを縛る
我らは己の意志を持つ
我らは我らの道をつくりたい
何故―――
我らが『神』ではなかったのか
閃光-THE FLASH-
煌めく閃光 鳴り響く雷
ステンドグラスに彩られた魔
刹那刹那に輝く 導きの光
道標 道程?
閃光
七色の光源 破裂する
夜空に輝く 重なる色
花開く夜の華――大輪の
一瞬
『時』を自らのものとし
他の何より 輝き 澄み渡り
――すぐにかきけされる
刹那の一瞬
短い間だけだからこそ 強烈なモノをココロに
たとえばそれは 目の前で壮絶な死をむかえること
たとえばそれは カゲロウのような
その時々を生きる
まぶたの裏に焼き付けられる閃光
はかなくちりゆく強きモノ
唐突に現れ 唐突にいなくなる
(泣かないで……強くおいきなさい)
遺される言葉
お行きなさいなのか お生きなさいなのか
わからないけれど
もう私、いくわ。ありがとう、そして――さようなら。
もうここにはいない、あなた
閃光のようにやってきて、そしてまた去っていってしまった人
忘れない
忘れられない
天を巡る星々よりもなお輝き
流れ星よりも短い一生を終えてしまった
ただ一人のあなた
閃光のごとく生きた人
銀燭-SILVER CANDLESTICK-
部屋の調度になるべくしてうまれた品
光の下できらびやかに輝き 闇の中にあっては朧に白光を放つ
磨き抜かれた最高の銀
妖魔も邪気も
聖なる銀に触れることはできないという
銀の燭台は 闇の内にあってのみ使用される
ロウソクの緋色を受けながら 美しく光を放つ
それは最も
闇の住人に近しいものではないだろうか
魔や邪が銀燭に触れることがかなわぬのは
銀燭の妖なる美に心うばわれたからではなかろうか
触れてしまえば嘘になる 触れてしまえば夢となる
ながめ見るだけでとどめねば
――持ち去ることもできぬ
闇から動かしてはならぬ
けれど魅せられた者は その美を見ずにはおれず
夜毎銀のもとに集い来る
……しかし魔も邪も人にうとまれる存在 人はそれをよくは思わぬ
たかが銀燭 捨てるも人にやるも自由
魔の者たちが哭いた
闇より銀を奪うは誰ぞ!?
邪の者達が吠えた
夢を夢と破壊するのは誰ぞ!?
妖の者すべてが凪いだ
我らが鉄則をやぶるのは……?
我らにあだなす存在 銀を奪う人間
(赦サナイ……赦セナイ、人間)
自らが銀より離れ 銀を守ろうとは思わない
魔が魔であり、邪が邪である絶対の理由
――それこそが
妖の者は
あれほど触れぬと誓った銀を手に取った
嘘は嘘となり 夢は夢となり
ロウソクをなぎ払われた銀燭からは光が失せる
闇を切り裂くように
銀は煌いた
闇に住まう者はあわてふためき
これをはらいのけた
………コト ン
夢は終わりを告げ
夜のとばりの内に消える
机上より落ちた銀燭は音も立てず
ただ静かに冷たい床に横たわっていた
忘却-FORGET-
『忘却は罪ではないのですか』
問いでもなく 確認ではなく
あきらめのはずがなくて
それは
戦いに駆り出されていったあの人
「絶対におまえの元に戻ってくる」
って言った人
あたいのとこに戻ってくるって
あたいのいるところが俺のいるとこだって
だからあたいは待ってるのに
手にアカギレができたんだよ
指先はもう ふやけちまってる
血マメが こないだつぶれた
爪がこんなにのびてさ
前髪なんか 帰ってくるあんたの
顔が見えないくらい のびたってのに
あん時あたいは16だった
でも今は その頃の服を着る気にはなれないね
きっと似合わない
ねえ あんた
あたいはこの前 あんたに似た人を見たよ
戦争は終わったって?
――あたい 思わず抱きついちまってね
恥ずかしかった
ねえ あんた
こないだ恐ろしい夢を見たよ
あたいがこの手であんたを
殺してる
おかしいね あんたはまだ
帰っていないのに
ああ
『忘却は罪ではないのですね』
問いではなく 確認でもなく
あきらめでもなく
それは 安心
ただひとつの逃げ道