塔-THE TOWER-
残酷ナ童話タチヨ ナニヲ想ウノカ
塔
始まりと終わりの場
数々の姫君を捕らえ 幸福を導く
苦しみをあたえ悲しみをあたえ より多くの幸せを贈った場
塔ノ地下ニ『静かの姫』アリ
亜麻ノ豊カナ髪 瑠璃ノ澄ンダ瞳
口ノ聞ケヌ乙女
水面ニ映ラヌカゲ
波紋ヲタテズ 待ツデモナク
タダ在ルダケノ者
不動ヲ誓ッタケガレナキ聖女
(捕らわれの)
不恋ヲ誓ッタケガレナキ聖女
(がんじがらめの)
ヒラカヌ瞳ヒラカヌ心 何ヲ聞クデモナク
強要 自ラニ
――泣くこともできない
外界ヲ知ラヌ
風ヲ知ラヌ 息吹ヲ知ラヌ 人ヲ知ラヌ 心ヲ知ラヌ
涙トハ何カ?
私ハ何?
此処は何?
不動トハ何?
風ハ?息吹ハ?外界トハ?
――私は、己さえも知らない
誓イ?私ハ何ヲ……?
「姫よ、貴方は貴方だ。塔の礎として封じられ、不動を誓わされた。
俺がわかるか?」
――知らない。だって私は……
「記憶が混乱しているのだ。――大丈夫、すぐにここから……」
イキマセン ダッテ私ハ……
「姫、安心してください」
『私は私を
この塔に封じ込めた
魔女ですもの』
かたん
ぱら
ぱら……ぱらぱら
塔は崩れる
乙女が乙女でなくなったために
たった一人の男のせいで
塔
始まりと終わりの場
数々の姫君を捕らえ 幸福を導く
苦しみをあたえ 悲しみをあたえ より多くの幸せを贈った場
孤独な魔女を糧として けして崩れなかった塔
……いままでは
塔は崩れる
残片-FRAGMENT-
か・け・ら……
トウメイなのに光を放てないモノ
ダレカの残していった 捨ててはならなかったモノ
こぼれるナミダははじきだされ
ひろう その手 ぷつり……
血の珠みるみる拡散して
もう 見えない
無の中に ひとつ残片
ココロだった 思いのザンシ
ひかり 影のない光
手放せない……後悔……?
イイエ
かけらはただのカケラ な・の・に
なつかしいカオリ 海の潮の満ちるオト
はばたくトリ 純白で漆黒の翼
――なぜ
涙があふれて とまらない
彼の者の心臓の残片 モウココニハイナイ
燃え上がる紙片 チョウの舞
落ちて 堕ちる前に唐突に
消失――ただひとつ
真実は――そう ただそれだけ
沈んだ水面にうかぶ映像
波紋だけ むなしく拡がって
薔薇の花弁
深紅がとける 水
果てしなくどこまでも どこまでも
上辺だけの色彩 誰も知らない本当
イロのない花弁は ソラを語った
『天は天であってそらではない』
それなら何だというのだろうか
色のない花弁を手に取ると
風が彼女をさらっていった
コタエはもう もらえない
ぱらぱらとふりそそぐアオ
空の青 海の蒼 くずれてゆく
くずれてゆくのは赤い時間
水の赤 赤の水
それは真実 人間の奥の
血
赤い血
流れる血
血の赤 赤 あか
紅い薔薇
薔薇はさらわれ こたえはない
残片
母星のかけら
歳月-TIMES-
時が満ちる やがて覚め得る幻想をつれて
待ち 待たれて過ぎる歳月
――貴方だけ それはとても哀しいもの
それはとても嬉しいもの
待ち 恋焦がれているあいだだけ
裏切られることはなく
それはとても安心するもの
貴方の姿をいつも思い描いていられる
幾年月過ぎようと
わたしは『私』であるためには
――……すること
十月十日 赤児が世界を手にとるまで
母の中で何を想い 何を待っているのか
一度はそこにいたはずの誰もがみな――覚えてはいまい
歳月は大切なものを 時としてくらいつくす
誰が覚えている?
守られ大切にされ あたたかいそこで暮らした日々
与えられたたくさんのもの
――知らずに受けていたのだろうか?
忘れ去られたものは……?
巡る時 巡り来るならば いずれ巡る
巡らなければ 時はいらないから
過ぎるもの 来るもの 手にできぬもの
取るべきもの 手放せぬもの 知らない
別れのかなしさは年月に流れる
それは 温かいものなのかもしれない
ただ かなしさを知ってしまったら
出逢いは嬉しいものではなくなり
そして 想いを引き裂かれてしまったら
出逢いは輝く 光を放つものとなる
待つのも歳月なら 待たれるのも歳月
幾年月過ぎようとも
貴方が『あなた』であるためには
――……待つだけでは
動かなければ何も過ぎず
出逢いは待っていてはやってこない
歳月のみが過ぎ行く
歳月
動き出す
終末-THE END-
全ての終わり そして再びの始まり
終わりの末 もうすぐ始まる合図
今までを捨てて生まれ変わる 予感
明日はなく 昨日もない
約束の日
始まりと終わりの一時のみ出逢うココロ
別れの運命を背負う者達
出逢いの約束を持つ者達
――出逢わなければ 別れはない
蒼い羽根
血塗られた天の御印――天へと翔ける者の
あざやかに染め上げられた
ひとすじの
切りつけられた刃の煌めき
舞いちる純白の羽根 真実
今まではなく 己としてのこれからもなく
始まりの終わりでない 終わりの始まり
最終楽章が奏でられ始め 物語りは扉を閉ざし
新たな物語りが幕を開ける
新しい生
――否
自分ではないものの物語り
物語りの中で息を殺していた『惑星』
『青き惑星』は殺意を抱いた
自らを内から 蝕もうとしていた『触手』
『黒き触手』に殺意を抱いた
あふれる異物――みすてられた
『触手』によってつくりだされ そして手放されたものたち
『青き惑星』は彼らを愛しはしない
いつくしんだものたちを傷つける彼ら
『青き惑星』から青と緑と赤と白
――たくさんの色を奪い 黒を押しつけた者
『青き惑星』は彼らを追うことはできず
優しさゆえに追い出せず
ともに滅びることがはなむけと
『赤い巨星』に捕らわれた
『赤い巨星』がさらなる変化を遂げ『青き惑星』と『黒き触手』を飲み込み
『無の暗黒』となることを知っていた
そして……
――………暗転
終末がやってくる
短剣-THE DAGGER-
ただひとつだけ身につけた凶器
鋭い瞳 地にはいつくばった
振り払う 気まぐれにさしのべられた手
投げ捨てられた肉塊に歯をたてる
綺羅の服を身につけず 一つの宝玉も持たず
ボロ布を巻きつけただけの少年
その瞳は王者のそれ
とぎすまされた
英雄ではなく王である者の
瞳
民を持ち 王の呼び名を与えられた者
ただ一人 自らを王と呼ぶ者
――どちらも王なれば
砂漠の緋に向かい立ち
影も足跡も 痕跡はいっさい残さぬように
ひっそりと
吹きすさぶ風
巻き上がる砂に腕を上げ
ひとり立ち向かう……強き者
(少年はやがて大人になる……)
その瞳はくもることなく
とぎすまされた刃のごとく
復讐せんがため生きた
生きることを選んだ
武器と呼べるものなど持たぬ
戦うものは何も けれど
勝つ
そして生きる
暁の少年は歩きつづける
ただひとつするどくとぎすまされた剣をおびて