君と僕と向日葵と・・・
今年もやってくる。
あの日が。
もう8回目なのか、とフォーは思う。
サンは、今年も出かける。例の場所に。
フォーはふと思い出す。あの時のサンの表情を。
それは、サリアの葬儀から数日後のことだった。
フォーは、ふとサンのことを思い出し、サンの家を訪れてみた。
―サンは、まだ笑っているのだろうか。
それとも、すっかり暗くなってしまっているのだろうか。
そんな思いを胸に、フォーはサンが居るはずの部屋へ向かった。
「サン。お前またやっただろう。」
聞き覚えのある声がフォーの耳に入る。
「え、何を?」
フォーはすぐにおじいさまとサンの会話だと分かった。
「とぼけるんじゃない。サリアの容体があんなに急に悪化するなんて・・・
サンが何かやった以外に考えられないだろう。」
影から聴きながらなんでそんな言葉がスラリと出てくるんだ、とフォーは思う。
「サン、何もしてないよ。
本当だよ、サンうそなんて付いてないよ。」
「ふざけるな!」
おじいさまの声が飛ぶ。
サンは思わず下を向く。
「だいたい・・・サン・・・お前サリアが嫌いなんじゃないか?」
「!?」
サンは驚いて顔を上げる。
フォーは思わず声を出しそうになり、なんとか押さえる。
「自分が近づけばサリアの具合は悪くなる―
それを分かって近づいたのだろう?
サリアを―」
「おじいさま、違・・・」
「お前の心の内なんて分かっている。
『どうせ近づけないのなら―」
「死んで しまえばいい―』」
その 言葉が どれだけ サンの 心に 突き刺さったか。
フォーはおじいさまに一言いってやりたくなった。
(何で そんなことが 言える?)
「まったく・・・何処の何奴だろうか・・・
この家を呪ったのは・・・」
フォーはついに押さえきれなくなる。
フォーは部屋に飛び込みかける。
その時。
「おじいさま。サンお母様のこと大好きだよ。
大好き。今すぐ会いたいよ。
いっぱいお話ししたかったよ。いっぱい遊びたかったよ。
でもね、おじいさまとかが会っちゃダメ。っていうから、サン、ガマンして1人で遊んでたんだよ。」
「でもね。もう遅いの・・・」
おじいさまは顔をしかめる。
フォーはもう、声も出なかった。
「・・・くっ、子供のくせに口答えしおって。」
そう吐き捨てて、おじいさまは去っていった。
フォーは見つからないようにさっと隠れた。
「・・・フォーちゃん。」
そう呼ばれて、フォーはぎくりとする。
「ばっ、ばれてた?」
「うん。さっきからあーだれかいるなぁ、って思ってて。
多分フォーちゃんだなってすぐ分かったよ。」
サンはあどけない笑顔を見せる。
その笑顔にますますフォーは心を痛める。
「そだ!フォーちゃんっ!お庭に出よう!
今ね、すっごい向日葵が咲いてるんだよ!サンくらいの背丈の!」
サンにせかされて、フォーは庭に出た。
眩しい日射し。
天まで届け、といわんばかりの向日葵。
こっちの気持ちを知ってか知らずか、とても生き生きして見える。
「サンのお母さんね、向日葵好きだったんだよ。
サンにもね、よく向日葵みたいな子になってね、ってよく言われたの。
だからね、サンちゃんも向日葵大好きだよー♪」
二人はいつしかその場に座り込んでいた。
―ずっと、空を見上げて。
「サン」
「フォーちゃん」
二人の声が同時に響いた。
「あ・・・」
「いいよ、フォーちゃん先に言って。」
「サン・・・悲しい?」
「何で?」
サンはきょとんとした顔でそう答えた。
フォーは言いにくそうにこう言う。
「ほら・・・サリアさん亡くなっちゃったし・・・
おじいさまにもあんなこと言われて・・・」
サンは一瞬ためらって
「・・・うん、悲しいよ。でも、なんでそんなこと聞くの?」
「いや、だってサン、今日一回も悲しい顔してないし・・・」
確かに、先刻、おじいさまに責められたときも、サンは悲しい顔1つしなかった。
フォーは心の中でこう思う。
無理して 笑わなくても良いのに。
「サンちゃんね、こう思うの。
サンちゃんが悲しい顔したら、ママも悲しむと思わない?」
フォーは思わず、言葉に詰まる。
「ほら、前言ったでしょ?
『いつも笑っていればいいことがあるのよ』ってママが教えてくれたって。
サンちゃんね、もうこれ以上悪いことは起きて欲しくないの。
だからね、いつも笑うようにしているの。ね?
サンちゃんはね、ママの言葉を信じるよ。」
「でも、サン・・・」
「だからこうして、フォーちゃんにも会えたしね。」
「えっ・・・」
サンは微笑んだ。
外は暑いのに、二人はそんなことなんて全然考えていなかった。
そんな中、向日葵は生き生きとその花を開いている。
サンの表情も向日葵に負けないくらい輝いている。
フォーは、眩しすぎてサンの顔を直視できなかった。
「そうだ。サンが言いたかった事って何?」
フォーがふと思い出して聞いた。
「・・・言っちゃおうかな。どうしようかな。」
「えっ、余計気になるよそんなこと言ったら・・・何?教えてよサン。」
「フォーちゃん・・・お願いがあるの・・・」
「もう一回・・・泣いていい・・・?」
ああ、もちろんさ、とフォーは優しく語りかけた。
たくさん泣いたら、また笑うがいい。
僕は、君が笑うまで気長に待っているから。
それから8年経った今。
僕とサンの関係は相変わらず「幼馴染み」のまま。
まあ、それに越したことはないんだけど、とフォーはしみじみ思った。
サンから遅れて家を出たフォーの手には、今年も人間界の花があった。
「あ、来たんだ、フォーちゃん。」
「うん。やっぱり来ておかなきゃと思って・・・って、サン!?」
サンの手には、大きな向日葵が。
「・・・折ったの!?」
「あはー。来る途中に咲いてたから。なるべく小さめのものをね。」
フォーはあきれて声も出なかった。
「きっとね、ママ喜ぶよ。ママの大好きな花だもん。」
「・・・献花台に乗る・・・?」
「ギリギリ乗るんじゃない?小さいから。」
「それじゃ僕の持ってきた花が乗らないじゃないか・・・高かったんだよこれ・・・」
「あははー♪」
―まったく、サンの大胆さにはいつも驚かされるよ。
サンに、向日葵の迷路があるんだよ、と持ちかけてみる。
サンは無邪気な笑顔で、一緒に行こうねと答えてくれた。
ああ、絶対行こう。二人で。
***
あ、向日葵の迷路は実在です。
私の住んでる県にあるのですよ。
私の人生初シリアス小説。
面白いから加筆修正無しで載せてみる。