Dear San.
フォルテは一枚の古い本を渡された。
「それで、ケーキを作りなさい。」
そう言ったのは、サンとフォルテの祖父だった。
12/24。
サンはこの日、歳末バーゲンだとかに行ってるらしく、
祖父に呼び出されたにもかかわらずキャンセルした。
それで、フォルテ単独で行ったのだが。
用とは、その本を渡すことだけだったらしい。
「こ、これは・・・?」
「サリアの残した本だ。サリアがよく料理の作り方をそれに書き込んでおった」
「そ、そんな大切な遺品を・・・何故・・・?」
フォルテは手渡された本を見ながら言った。
「・・・再現して、欲しいのだ」
少し間をおいて、祖父は言った。
「さ、再現?」
フォルテの頭には疑問符しか浮かばず。
「そう、再現だ。
今、サンに一番近しい者で料理が上手い者と言えばお前しか居らぬ。
サリアは特別料理が上手かったからな・・・」
「ぼ、僕ですか?僕なんかが・・・そんな役を・・・?」
「そんなに対したことはない。それをサンに食べさせられれば良いのだからな」
「サンに?それだけで良いんですか・・・?」
「あぁ、それだけで良い・・・」
結局、そのままフォルテは家に帰ることになった。
フォルテの心に残ったのは、最後の祖父の言葉。
「それが、わしに出来る最後の罪滅ぼし、となれば良いのだが」
フォーは思った。
絶対、祖父はサンに「申し訳ない」と思っている、と。
もしも、このケーキを作ることが、その手伝いとなるのなら。
そう思い、フォーはキッチンへ向かった。
今日はクリスマス。
外では雪がちらつき始めていた。
そう言えば、今日は自分の誕生日だったか。
と言うことはコレは自分の誕生日ケーキにもなる訳か。
・・・良いのか?と思いつつも、フォルテは本を開いた。
彼女らしい、丁寧な字で綴ってあった。
1つ1つ、忘れないように、そして誰かに書き残すように。
フォルテは、そのレシピのまま料理を始めた。
ケーキの作り方くらい、フォルテでも知ってるのだが。
このレシピで無ければいけない理由が、それを見て分かった。
サリアさんは料理が好きだったと、誰かから聞いたことがある。
きっと、サンのために作っていたとフォルテは推測する。
サリアさんは病弱だったため、
そんなに多くはキッチンに立てなかったと思うが。
それでも、サリアさんは思いを込めていた。
それはフォルテの想像ではなかった。
レシピの最後に、こう綴ってあった。
(愛すべき、サンへ)
「なる、ほど・・・」
レシピは、一般によく知られているものとは少し違っていた。
おそらく、サンの好みに合うように変えたのだろう。
色々、実験を重ねたことが、何回も書き換えられた後から伺えた。
ガタッ。
いきなり、フォルテの手が止まった。
手が震えた。
フォルテは、あることに気が付いてしまった。
何故、わざわざレシピに書き残したのだろうか。
自分で作るだけなら、こんな丁寧に、誰かに伝えるように書かなくても良いのに。
サリアさんは、もう自分の命が短いことを悟っていた。
最初から、もう自分がそのうち料理でサンを喜ばせることが出来ない、と感じていた。
だから、誰かに伝えるために書き残した。
―――サンをよろしく、と言っているように。
―――まるで、自分のために残されたように。
そう思うと、フォルテは器具を置いて、しゃがみ込んでしまった。
「・・・っ・・・サン・・・」
もう、言葉も出なかった。
どうすれば良いのか、分からなかった。
このケーキを作ることは、祖父の罪滅ぼしのため。
サリアさんの思いを、サンに伝えるため。
そして、何より自分の気持ちを、サンに伝えるためだと強く感じた。
そして、夕方、日がもう暮れかかった時、サンは帰ってきた。
「フォーちゃーん♪ ただいマンゴー♪」
「あ、お帰り・・・って、何それ・・・マンゴー?」
予想通り、サンは沢山の大きな袋を抱えてやってきた。
「・・・思ったより早かったね」
「なんかねー、ニナちゃんが早く帰っちゃってー。
つまんなくなったから早く帰って来ちゃった。」
「あ、そうなんだ。」
「あ、そうそう、おじいちゃまの所へ行ってきたの?フォーちゃん」
「あぁ、行ってきたよ。コレを預かってきたよ」
そう言ってフォルテは本を手渡した。
「・・・あ!コレは・・・!?」
サンは荷物を置いてその本の所に駆け寄った。
「コレを預かってきたんだ・・・それで、作ってみたんだ・・・」
フォルテは、作ったケーキを差し出した。
「・・・・・・ぁっ・・・」
サンは、じっとそのケーキを見つめたまま動かなかった。
「さ、サン・・・?どうしたの・・・?」
見た目は、普通の物とは大して変わらないのに。
サンには、どうしても懐かしくて仕方がなかったようだ。
「・・・ううん、ちょっと・・・懐かしかっただけ・・・」
サンは片手で目をこすって言った。
「・・・食べる?」
フォルテが横から言った。
サンは黙って頷いた。
フォルテがケーキと一緒に作った料理を2人で食べてから、
フォルテはそのケーキを切り分けた。
普通の6号くらいの大きさのケーキだったため、
2人で切り分けるには随分大きくなってしまったが。
サンはそれを口に運んだ。
ガシャ、とサンはスプーンをテーブルの上に落としてしまった。
「さ、サン・・・!?」
「・・・だ、大丈夫だよ・・・ちょっと・・・ね・・・」
似て居るんだけれども、違う。
懐かしいんだけれども、新鮮で。
「・・・そのレシピに書いてあったのを少しアレンジしてみたんだ、僕なりに・・・
どうだろう・・・?美味しい?」
「うん・・・美味しいよ・・・フォーちゃん・・・」
そう言って、サンは残りのケーキを一気に平らげた。
そして。
「・・・ありがと」
「え・・・?サン・・・?」
「フォーちゃん、手出して」
「え・・・?」
フォルテはサンの方に片手を差し出した。
「ううん、両手。」
フォルテはもう片方の手も差し出した。
何か、貰えるのか・・・?
すると、サンは自分の両手を差し出して、フォルテの両手に置いた。
それだけだった。
「え・・・?何・・・?」
「・・・フォーちゃんって、暖かいんだねー。」
「・・・それだけ・・・?」
それだけだった。
でも、少し冷たいサンの手は、だんだん温かくなってきて。
体温を共有しているような気分になってきて。
不思議な気持ちになってきた。
突然、意識が戻ってきた。
「わっ、な、何やってんだろ」
フォルテはぱっと手を離した。
そして、フォルテも残ったケーキを一気に平らげた。
サンは、その様子をじっと見つめていた。
食事の片づけが終わった頃。
サンが言い出した。
「ねーさ、ニナちゃんの家今行ったらクリスマスパーティーやってるかな?」
「え・・・?何?何で?」
フォルテが振り向くと、サンはすでに出かける用意をしていた。
「さ、サン!?こんな時間に何処行くの!?」
「ニナちゃんちー♪ ケーキ食べに♪」
「えぇ――――――っ!?」
サンはフクロウを召還して、飛んでいこうとしたのをフォルテが急いで引き留め、
コートを被って急いでフクロウに飛び乗った。
***
これはあんまり加筆修正無しです。
あ、1行だけ削ったけど
ラストは「白い物恐怖症。」に繋がってるので
よろしかったらそちらもどうぞ。