ギャンブラー姫。
その昔、誰からかは覚えてないが、
聞いた話があった。
―――昔々、ある事情があって、
地球に飛び立った美しい姫が居たそうな。
その姫は、地球の男達から沢山の求婚を受け、
そして沢山の貢ぎ物を貰ったという。
そして、皆に惜しまれて月に帰っていった―――
その話を急に思い出したのが、現在月に住む少女、花鈴姫。
突然思いだし、そして何故か突然その話が羨ましくなって。
花鈴姫の行動は早かった。
「私!地球に行く!
そして精一杯男を捕まえて、そして儲けて帰ってくる!」
花鈴姫は、まわりの制止も聞かず、
たった1人で地球へ向かったのだった。
花鈴姫は、その伝説に憧れ、
なるべくその伝説の通りに事を進めたいと思い、
まず、竹藪に隠れることにした。
「よし!まずは縮小!!」
花鈴姫は、月の住人だけが持つらしい不思議な力で、自分の体を小さくした。
丁度、竹筒に入る大きさに。
そして、どうやったかは不明だが、竹筒の中に入り、
術で灯りを付けて、
そのままじっと竹取の翁が来るのを待った。
数時間後。
竹藪の中に誰かが入ってきた。
花鈴姫はそれを音で察知した。
竹取の翁・・・ではなく、
竹取少年、九条和音。
竹の中の花鈴姫は祈った。
(ど、どんな人でもでも良いから・・・私を見つけて!
そうしないと物語が始まらないの!)
そして、竹取少年は、ついに根元が光っている竹を見つけた。
「ん・・・何だ・・・?」
不思議に思って、寄ってみると。
どうやら、筒の中が光っているらしい。
「何で・・・だ?」
和音は思った。
この中に、何かが居る。
そう確信した和音は。
あっさり逃げた。
筒の中に入っているのが良い物だとしても悪い物だとしても。
めんどくせぇ事には絶対関わりたくない!!
そう、和音は思った。
明らかに、人がその場から去っていく音。
その音に、花鈴姫も気づいた。
まずい!このままでは・・・!
花鈴姫の物語は、誰かに拾って貰わなければ始まらないのよ!
花鈴は焦った。
どうにかして、あの人間に拾って貰わなければ。
そこで、花鈴は。
「そーこの人―――!!拾ってけ―――!!」
と怒鳴ったところで
花鈴姫、気絶。
大声を出したことで、竹筒の中にでっかい反響音が発生したらしい。
立ち去ろうとした竹取少年はびっくりして立ち止まった。
ま、まさか・・・?
あの竹の中からか・・・?
もしそうだったら怖い。非常に怖い。
もし正体を見たら・・・自分に何が起こるか分からない。
どんなめんどくさいことになるか分からない。
でも、このまま素通りしたらそれはそれでまたどうなるか分からない。
相反する思いが少年の中を駆けめぐる。
それで、結局少年はどうしたかというと。
ついに、斧を取り出して。
竹をすぱっと切った。
その斧は、花鈴の頭のぎりぎり上を通って竹を倒した。
だけど花鈴姫は気絶しているので、
自分に死が迫っていたとはつゆ知らず。
ホントに幸せな奴だ。
「・・・なんだこいつ・・・・・・生きてんのか?」
只今花鈴気絶中。
(何・・・!?どうすれば良いんだ!?)
不運な竹取少年・和音。
気絶した花鈴姫を前に困惑。
さて、これをどうするべきか!?
「・・・ただいまー」
「あ、おかえりなさいー」
帰宅した和音少年を出迎えたのは、同居人の姫香。
「今日は何か収穫あったー?」
「・・・あー・・・これは収穫といえるのだろうか・・・」
「え?」
「コレ」
和音は、手に持っていた袋からある物を取り出した。
手のひらサイズの花鈴姫。
「・・・どうする?コレ。」
「・・・可愛いねこれ――♪」
姫香、ミニサイズ花鈴姫に一目惚れ。
「・・・え!?」
ってことは、もしかして。もしかしなくても。
花鈴姫は、九条家で暮らす(飼われる?)ことになったのだった。
「和音ちゃーん♪飼育(?)手伝ってねー♪」
「・・・・・・」
ほら、やっぱりめんどくさいことになった。
それから2〜3年が経過した。
花鈴姫は、九条家で暮らし、
(主に姫香の)愛を存分に注がれて暮らしていた。
そして、すくすくと成長していった。
ように見えた。
周りの人から見れば、の話。
実際は、花鈴姫が自分にかけた術を、
少ーしずつ解いていっただけだったのだが。
まぁとにかく、周りの人にとっては脅威のスピードで成長しているように見えた。
これもすべて花鈴姫の計画通り。
(きっと・・・これからこの美しい姫の噂を聞きつけて、
どこかの貴族の御曹司が婚約を申し込みに来るのよ!)
しかし。
花鈴姫は1つ重大なミスを犯していた。
「あぁ―――――っ!!」
女の子向け週刊誌「HEIAN」を読んでいた花鈴姫。
その雑誌が衝撃で手から滑り落ちる。
「・・・五月蠅いぞ、花鈴」
同じ部屋にいた和音が冷たく言った。
「わっ・・・悪かったわねっ・・・」
花鈴姫は、月にて姫として育てられたため、
「花鈴」と呼び捨てにされることに非常に抵抗感を感じていた。
それはさておき、先ほどの話に戻して。
花鈴姫は忘れていた。
「九条家を裕福にする」と言うことを!
伝説では、姫を拾った日から翁は黄金の詰まった竹を幾度も見つけたため、
家は次第に裕福になっていったという。
それ故、たくさんの貴族の御曹司が求婚にやってきたのだ。
そう、伝説では竹取の翁の家が裕福になったからこそ、
貴族の御曹司の元に花鈴姫の噂が届き、
次々と求婚にやってきたのだ。
花鈴姫は黄金が詰まった竹を作るのを忘れていた・・・!
家が裕福でなければ意味がないのに。
これでは求婚どころか、ただの田舎娘で終わってしまう!
花鈴姫は考えた。
今から頑張って九条家を裕福にするため頑張るか・・・?
いや、今からでは遅い。
女の盛りを過ぎてしまう・・・!
【いったいあなた何歳ですか花鈴姫さん】
花鈴姫は悩んだ。
そして後悔した。
どうしよう・・・!?
と、その時。
「ごめんくださいませ、花鈴様はいらっしゃいますかな?」
来客。
しかも花鈴に用があるらしい。
その客は言った。
「うちの家の者が是非結婚をもうしこみたいと言い出しまして・・・」
はい!?
今何と!?
「あー、すみませんが」
応答に出た和音。
「人違いじゃないですかね?うちの花鈴はそんな求婚されるようなやつじゃないんで」
その瞬間、花鈴は読んでいた雑誌を放り投げていた。
すぱこーんっとね。
「何いってんのよ!?そんなこといわれる筋合いなんて無いよ!!
少なくとも和音くんにはね!」
「なっ・・・、てめ、らっ・・・客の前だろ!
ちょっとくらいおしとやかに・・・」
「あぁ、君が花園さんかな?」
一瞬にして2人のケンカは収束。
いきなり、1人の少年が現れて、花鈴に話しかけたのだ。
「え・・・?あ、はぁ・・・そうですけど」
「そうなんだ!初めまして!」
彼の名は、錦織みちる。
この街の有名貴族の跡継ぎとして期待されている。
数日前、道端で花鈴姫を見かけて、
それで一目惚れしたそうな。
「どう?受け入れてくれるかい?」
彼は言ったが。
当然、伝説に憧れてる花鈴が言うセリフとは。
「お言葉は嬉しいのですが・・・
しかし、私と結婚するには条件が御座いまして・・・
その条件を満たせば、明日にでも結婚致しましょう」
(急に態度変えやがったな花鈴・・・)
和音はそう感じていた。
まぁ・・・確かにそうなのだが。
「条件・・・とは?何でしょうか?
是非喜んでお受け致しましょう」
みちるはそう言った。
(ふっ・・・言ったわね・・・!)
花鈴はにやり、と笑ってからこう言った。
「宝物を持ってきて欲しいのです」
「宝物・・・とは?」
「それはズバリ、かみちゃまの指輪です!」
花鈴姫は、これだけにはもの凄い自信を持っていた。
これなら、誰も手にすることは出来ないだろう!
「あ、それなら持ってますよ、今」
みちるはあっさり言った。
「・・・え?今何と・・・?」
「え、だから、今指輪持ってます僕。ほら」
みちるは自分の指を花鈴姫に見せた。
確かに、かみちゃまの指輪が。
「そ、そんなはずは・・・」
常人が持ってるはずは無いのに。
花鈴姫は焦った。
元々結婚する気など無かったのに。
このままでは、本当に結婚しなければいけないかもしれない・・・!
「どうされました?姫?結婚の話は・・・」
「御免なさい!」
花鈴はそう言い放ち、
逃走。
「お、おい花鈴!何処行くんだよ!」
みちるをおもいっきり無視して、
和音は花鈴姫を追いかけた。
「ひ・・・姫・・・?
僕・・・なんか悪いことしたかなぁ・・・?」
・・・多分、みちるは何もしていない。
それなのに、理由も分からずあっさり逃げられ。
哀れなみちるである。
花鈴は、近くの山まで走っていた。
「・・・こ、こんなはずじゃ・・・なかったのに・・・
なかなか・・・結婚に応じないそぶりを・・・見せて・・・
その間にいっぱい貢がせるのが目的だったのに・・・」
「そういうことだったか」
後ろから声が聞こえた。
花鈴は思わず振り返った。
和音だった。
「か、かず・・・」
「おめー何もんだよ?結局。
成長は早いし、変なことは言い出すし(指輪のこととか)。」
「・・・そうね・・・話しても良いかもね・・・」
「え・・・?今なんて・・・」
「そう・・・私は元々月の住人なのよ!」
「あぁそうですか」
あっさり言われた。
「そんな子供だましなんて効かねーよ」
「子供だましなんじゃないよ!中学生だましだよ!」
「知るか!!」
例え中学生だましだったとしてもどうせ効いてないから意味がないと思うのですが花鈴姫さん。
「いいわ!信じさせてあげるわ!
今からあんたに『不老不死の薬』をあげる!
それを飲んで確かめるがいい・・・」
「そんな薬いらねぇよ」
和音はあっさりそういった。
「え・・・?本当にいらないの・・・?本物だよ!?」
「こんな虫だらけの世の中に何時までもいるなんて嫌だからな」
こんな理由でした。
「あ、どうせ何かの薬貰えるなら超強力な殺虫剤が良いからな」
「・・・そんなもの無いから。」
「じゃぁ信じねぇ」
「・・・まぁ良いわよ!どうせ私は今から月へ帰るんだから!
帰ってから後悔するんじゃないわよ!」
「ま、待て花鈴!行って貰っちゃ困る!」
突然、制止しようとする和音。
「おめー朝食の分の食器洗ってから帰れ!」
九条家では自分の使った食器を洗わないと自動的に次の食事は抜きになります。
ということはどうでもいいとして。
「いいよもう別に!
もうあんたの家でご飯食べることなんて無いんだから!」
「なっ!てめー人に無駄な労働させる気か!」
「そうだよ!今までお世話になりました!」
そういって花鈴姫はどこからか携帯を取りだして、
月のタクシー会社に電話した。
「もっかい言うわ!帰ってから後悔するんじゃないわよ!」
そう言い残して、花鈴姫は月に帰っていった。
「花鈴・・・お前・・・
金あるのかよ? 手ぶらだけど・・・」
***
ミッチーに「花鈴姫」と呼ばせるにはかなり抵抗があったので、
「花園さん」または「姫」と呼ばせてみたでごじゃる。
加筆修正一切無し。