コチ、コチ、コチ。
柱時計の音ばかりが響く。
クラシカルな繻子張りの赤い椅子に腰掛けて約束の時間が来るのをまつテマリ。
ちょっと早く来すぎたかもしれない。
応接室に誰かが来る気配はまだない。

ピンクのミニにごつめのブーツ、同じくピンクの幾何学模様が散った黒いシャツを
黒のキャミソールに羽織ったテマリは一見ごく普通のティーンエージャーだ。
甘いアイテムとわざと外したような小物を組み合わせるのは、思春期の彼女の心そのもの。
テマリはこの8月25日で15歳、花も恥じらうお年頃。
と同時に父親がうざったくなる反抗期真っ盛りだ。
父親と言っても里長でもある彼女の父は超多忙でめったに顔をあわせすこともないほど。
うっとおしくなくていい、と思う反面、もっと娘の自分にも関心を持ってほしい というのが正直なところ。
だから、彼女はミニを着る。
普段も、戦闘時も。
父親がムッとするのがわかっているから。
顔を合わせる度絶対一声掛けずにはおられなくなるのを知っているから。
忍び装束にミニスカを選ぶなんて普通では考えられない。
が、彼女の実力を知る上司達は敢えて何も言わない。
また、父親譲りの頑固さも持ち合わせているテマリに何を言おうと聞き入れはしないだろうと、わかってもいるのだ。
そんななかで、父親だけは娘を心配して素通りはできない。
「ちょっと、短かすぎやしないか」
「ケガをしたらどうするんだ」
「年頃の娘が、はしたない」
「忍びってのはもっと、目立たないようにするもんだ」
あげくのはては
「冷えたらどうするんだ、女の子に冷えは大敵だぞ!」
とまで言い出す始末。
その度に彼女は冷笑を返したり、憎まれ口をたたいたり。
「これだからオヤジはいやなんだ」
「アタシはそんなにどんくさくない!」
「こんなの、地味な方さ」
決めの一言は
「ほっといてよ!父さんには関係ないだろ!」

年頃の娘にこれを言われて落ち込まない父親はいないだろう。
テマリだって、父親が外面はともかく、本当は凹んでいるのはお見通しだ。
でも、口をついて出るのは憎たらしい言葉ばかり。
優しい言葉をかけなくては、と思っていてもなかなか態度にはあらわせない。
でも、今日は頑張って優しくするようにしよう、と決めていた。
いつも小言か任務のことしか話さない父親から、珍しく
「テマリ、もうじき誕生日だな。
いっしょに食事にでもでかけないか」
と、声がかかったのだ。
「ま、いいけど」
と努めてクールな声でいかにもつまらなそうに返事する。
誕生日と言う節目を覚えていてくれたことへの嬉しさと、2人ででかけるという照れくささと、そんな心のうちを悟られまいとして。
本心はで自分の父親とはいえ、けっこうイケてると思っている。
父さんは優しい色が好きなんだ、とピンクのスカートを選んだ。
でも、丈はあいかわらずミニ。
パンプスなんてとんでもない、当然のようにアーミーブーツ。
自己主張と父親への愛情の綱引き。

ほんの30分ほどしか待っていないのに時間が経つのがやけに遅く感じられる。
誰かがくる、けれどこの足音は、父さんじゃないな。
がちゃりと戸が開いて、バキの顔が覗く。
「あ、風影様と待ち合わせか、悪かったな」
「別に」
バキには父親ほどつっかかることはないテマリ。
くすっと強面が笑う。
「まったく、だんだん母君に似て来て、風影様がおろおろするのもわかるよ」
何?
「風影様がおまえの母君とであったのは今のお前ぐらいの年らしいからな。
へんな虫がつきやしないかと内心ハラハラしてるんじゃないのか。‥‥自分みたいな、な」
母親と似ていると言われるのは別にこれが初めてじゃないからどうとも思わなかったが‥‥
父が母親と出会った頃。
今の父親然とした、もしくは里長然としたいかめしい顔と違う少年の頃の、いや、青年と言うべき頃の彼。
父親にもあった、自分と同じような年頃。
気がつかないうちにバキは部屋を出て行っていて、また自分一人取り残されている。

この肘掛け椅子はテマリが生まれるずっと前からこの館にあるという。
代々風影の応接室に鎮座して来たのだと。
コチ、コチ、と時を刻む時計の音だけがあいかわらず響いている。
きっと、むかしから、父が思春期の頃も同じように彼らはここにいたに違いない。
そして、父が風影になった時も変わらず客人をもてなしたのだろう。
母も父を待ったのだろうか。
この椅子に腰掛けて、若い風影が執務を終えるのを。

聞き覚えのあるせかせかした足音が聞こえて来た。
さあ、笑顔で迎えなきゃ。
扉が開く。

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circle K9
小説は keiko様より頂きました

テマリ祭りで 何気なく描いた私の絵を見て下さって
その日の夜に送られてきたお話…
何を隠そう 先代好きのこの私
あまりに素敵な親子のお話に またしてもアイコ うっかり泣いてしまいました。
何となく描いたこの‘椅子’に こんな風に歴史を刻んで頂き 感無量です。

「物言わぬ椅子よ お前はこの里の何を知っているのだ!? お願いだから私に教えてくれっ!!」

自分で描いたくせに 砂の里の全てを知っているだろうこの椅子に嫉妬すら覚えます(苦笑)

歴代風影の事 我愛羅に守鶴を憑依させた時の事 我愛羅が風影になった時の事…
私の知りたい事を全て知ってるんだろうなぁ…
そう思うと 真顔で椅子に聞いてみたくなります…

Keikoさん!本当に有難う御座いました!!
絵を描いていて良かったと思える瞬間を有難う!

そして お誕生日オメデトウ!テマリ!これからも弟達をよろしく!


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