焼けた砂の匂いが鼻腔を突く
俺は斜めに傾いた視界の中で悠然と去っていく「赤砂のサソリ」の後姿を眺める事しかできなかった
…ちくしょう…
自分の無力さに腹が立つ
いくら相手があの「赤砂のサソリ」とはいえ俺は一矢報いる事もできなかったのだから
…我愛羅…
薄れ往く意識の中で我愛羅の姿が脳裏を掠める
やっと兄弟らしい関係を築けるようになってきた
思い返せば俺たちは血の繋がった兄弟だというのにそれらしい思い出はほぼ皆無だった
我愛羅を恐れ疎ましく思った事は数え切れない
生霊が憑いているからとはいえ強すぎるアイツを妬んだ事だってある
しかし本当に辛かったのはいつだってアイツなんだ
俺たちはアイツの苦悩から目を背けて逃げていただけ
理由はアイツが怖かっただけかもしれないし
守鶴を憑依させられたのはもしかしたら自分だったかも知れないという後ろめたさかも知れない
木ノ葉での一件依頼、俺たちは歪ながらも少しずつ歩み寄っていった
形なんて歪だろうが不恰好だろうが構わない
俺たちはそれまで無駄に過ごしてきた時間を拾い集めるようにお互いを理解し合ったんだ
以前、我愛羅の風影就任が決定した時に俺たち三人とバキの四人でささやかなものだったけれど祝いの席を設けた
その時我愛羅が消え入りそうな声で小さく呟いた「すまない」という言葉に
テマリが微笑みながら「我愛羅、そういう時は‘ありがとう’と言うんだよ」と声を掛けた
そしてますます小さな、蚊の鳴くような声で「ありがとう」と言った我愛羅の顔が忘れられない
俯いてよく見えなかったもののその時の我愛羅の顔は紛れもなく暖かい体温を持った人間で
そして俺たちがお互いを認め合った事を示していた
…やっと認め合えた、それなのに…
…我愛羅…すまない…
「…………」
「……」
誰かの話し声が聞こえる
どうやら俺の周りには複数の人間がいるようだ
痺れで言う事を聞かない身体を奮起させ周りを見渡す
…木ノ葉の連中か…
俺は我愛羅を攫ったヤツの特徴などを簡潔に述べると一人の男を目に留めた
…うずまきナルト…か
「よし!急ぐってばよ!」
声を張り今にも飛び出していこうとするうずまきナルト
しかし俺は何をしている?
自分の手に力を込めて握る事すらできない
自分の不甲斐なさに苛立ち奥歯を噛み締めると痺れで力加減のできない俺は
ガリ、と歯の砕ける嫌な音と共に僅かに感覚の戻った舌に血の苦さを感じた
「うずまきナルト…弟を頼む」
「我愛羅」でもなく「アイツ」でもないたった一人の自分の弟
やっと築き始めた俺たちの関係をここで終わりになどできるわけがない
他国の人間に頼むという行為が俺の自尊心に訴えたがそれでも弟が無事で帰ってくることができるなら
俺は痺れの引ききらない口で弟の身を委ねた
あれ程大きな戦闘があったにも関わらず砂隠れの里は平穏を取り戻していた
薄く掛かる砂煙の向こうで悠々と鳶が飛んでいく
俺は顔に染料を塗り隈取を施していく
その色が紫色であるという事には理由がある
紫とは朱と蒼が複雑に絡み合った色
朱は自分を高揚させ燃え上がらせる色
蒼は自分を冷徹な戦闘機に変える色
俺は隈取を終えると不適に嗤ってみせた
俺は石段に座り込み自分の真下に映る影を見ていた
その黒をじっと見ていると我愛羅の姿が浮かんでくる
俺はそれまで力なく垂れ下がっていた手に無意識に力を込めた
「…待たせたな」
地面を擦る音と共にテマリの声がする
ああ、本当に待ちくたびれたぜ
蹴った地面がぐんぐんと遠ざかっていく
その移動速度は尋常ではない
当然だ、俺たちは一度の休憩さえ許されない
俺たちの先にはたった一人の弟が待っているのだから
俺たちは目指す
組織「暁」を、そして掛け替えのない弟を
不意に背後から吹いてきた追い風が俺たちの背中を押した
「急げ」
まるでそう告げるかのように
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暁カタルシス
小説は イソラ様より頂きました
このTOPに変えてから WEB拍手に
「ドリーマーなクセに 思わずカン兄視点のお話を妄想してしまいました」
とメッセージを頂きました。
そう、イソラさんは 我愛羅ドリームを書かれてる方なので
自信なさげなメッセージが添えられていたんです
‘ここは一つ 新しいジャンルを開拓してみたらどうでしょう?’と けし掛ける私(笑)
でもって
密かに楽しみにしていたら…
ギャ〜〜ッ!素敵です!!
しかも
戴けるとは思ってもみませんでした
メールを開いてビックリ!
そりゃもう 得意のナル子視線で「飾ってもいい?」と甘えてみましたところ
サイト掲載も快諾して下さったので UPさせて頂きました♪
執筆される時に モニターに この絵を表示して書いて下さったそうです。
メチャメチャ嬉しいです。有難いです。
小動物のような 我愛羅の小声に萌えてみたり
カンクーの 隈取の色についての語りも素敵
拝読していて ドキドキしてしまいました。
毎度書いてる事ですが
自分の描いた1枚の絵に こんな形で お話を書いて戴けるなんて 有難いと同時に凄く幸せに思います。
これからも 心に何かを感じていただけるような絵を描けるよう
より一層頑張らないとですね!!
イソラさん! 有難うございました!!
閉じてお戻り下さい