Introduzione(はじめに)








     僕は個人的に「白ワイン」を好んで味わいます。

 ここ"トスカーナ"に5年以上も居ながら可笑しく聞こえるかもしれませんが、ここ数十年の「イタリア・ワイン・ルネッサンス」の中、「フランス」あるいは「アメリカ」的な趣向に踊らされているブームにより生まれた数々の偉大なスーぺル・トスカンよりも、「簡易な食事との組合せ」、そして「気候とのマッチ感」などにもより、あまりに「エレガントなテイスト」よりも、「美味く」、尚且つ「心地よい」テイストを好んでいるからでしょう。  

  「ヴェルナッチャ・ディ・サン・ジミニャーノ」という、ここ赤ワイン天国のトスカーナにおいて唯一DOCG指定を受けている白ワインは、イタリア原産の最も古典的な品種のうちのひとつにより成り、イタリアで最初に「DOC指定」を受けたワインです。その独特のポテンシャルの高さと、苦味、つまりタンニンの利き具合から、"白ワインの中の赤ワイン"とも呼ばれ、中世に大変持て囃された偉大なワインでありながら、国際マーケットの移り変わり、そして"伝統"という高い壁に遮られるかたちで、ある意味では、その名に負けてしまう時代が続いてしまっていた"曰くつき"のワインでもあります。

  思えば十と数年前、日本における"ワイン・ブーム"の兆しの当初、あまりもの高価さに我々を驚愕させていた"フランス・ワイン"の替え玉として、その安価さを謳い文句に知られることとなった数々のイタリア・ワイン(ソアーヴェ、ガヴィ、ヴェルディッキオ、そしてフラスカーティ、エスト・エスト・エストなど)の古典品種と共に、この"ヴェルナッチャ・ディ・サン・ジミニャーノ"も輸入が開始されました。ですが、その多くは工場生産による、大衆ワインの枠をはみ出ない"がぶ飲みワイン"であった為に、"安い、そして悪くない"程度の印象しか残らぬ"下底のワイン"とのイメージが強く残ってしまい、現在においても尚且つ、その"悪いイメージ"から抜け切ることの出来ぬワインのうちのひとつでもあるのでしょう。

  ですがこれは、何も日本だけで起きていたことではありません、一般的にこちらでも"トスカーナ産白ワイン"というものは、「暑い日に冷やしきって飲む物」、若しくは、「水(ガッサータという炭酸性の)に薄められる事により「爽快さ」を持つもの」としてのイメージがあまりにも強く、それを売りにまでしてしまう"ガレストロ(Galestro)"というブランド・ワインが生まれさえもしました。しかしながらその方向性に関しても、"伝統による悪習や誤解"を改善または理解しきれたものではなく、"ワインの質を上げる"以前の議論により施された一時的な処置であったかもしれないことは、この近年の結果からも決して侮れない事実で、農政府を含む生産者側にも落ち度があったのでしょう。

  しかしながら、ここトスカーナにも近年、実に多くの素晴らしき白ワインが生まれているのも事実です。古典品種としては、リグーリアと隣接する「コッリ・ディ・ルーナ」や「ボルゲリ」で有名なヴェルメンティーノ種で、フレスコバルディ公爵のもと知られている「ポミーノ」なども大変素晴らしい品質を誇っており、外来品種を挙げれば、「バタール・シャルドネイ・クエルチャべッラ」や「シャルドネイ・イーゾラ・エ・オレ―ナ」などなど、中には"偉大"と呼べるものまで存在します。

  そんな中で、ヴェルナッチャ・ディ・サン・ジミニャーノの位置とはどんなものでしょうか。確かにその他多くの白ワイン同様に、魚介類料理との相性も仄めかされていますが、完全に熟すまで収穫されない"味重視"であることと、"白ワインの中の赤ワイン"とも呼ばれる"冷やしすぎるべきでない"奥深さがもたらす、ほろ苦さ、デリケートな香り、存在感の充実したボディなどはまさに"唯一"とさえも言えてしまうほどの"個性"に溢れ、そして食事全般に合わすことのできる、より幅豊か且つ"偉大"なワインです。

  2001年度版のガンベロ・ロッソ誌のワイン・ガイドにおいて、ヴェルナッチャ初の3ビッキエ―リを獲得したワイナリー・パ二ッツイのジョバンニ氏はこう語ってくれました。

  「"ヴェルナッチャ"は私にとって、時間と共に成長するワインである。薄過ぎる皮に包まれた、デリケートながらもこの地独特の日差しと大地が育て上げた果実が成し得る"奇跡"は、まさにこの美しき丘陵地帯の"賛美歌"であり、他地区の何たる者が辿り着けぬもの、つまり、"あたかも赤ワインのように育て、そして尚且つ"弾ける黴の香り"に覆われた地下室にのみ成長するもの。"シャルドネイ種"や"ヴェルメンティーノ種"を加えるなどとんでもない。"ヴェルナッチャ"は"主役"たる品種であり、そしていまだ尚且つ成長過程でもある。私にとっては永久に"イタリア原産"最高レベルの偉大な品種であり、そして"伝統"の良し悪しの境を彷徨いながらも、いつの日か、その本当の価値の"尊厳さ"を味で証明する品種である。」

  "シャルドネイ種"と比べる訳にはいきません。"ピノ・ビアンコ"種ほどの香り高さも永久に持たぬでしょうが、それでも"偉大な品種"です。 "熟成さすべき、それともフレッシュ感を生かすべき?"のテーマにての様々な異論が交わされ続けていることも事実とは言え、ここ数年の品質の向上ぶりにはまさに目を見張るべきものである、このイタリア原産古典品種白ワイン"ヴェルナッチャ・ディ・サン・ジミニャーノの"再生(ルネッサンス)"。 取材を通して更にその"核心"に近づき、ますます成長を遂げていくことへの"確信"を抱くにあたった今日、今一度、" イタリア原産古典品種白ワイン"が内外ともに見直されることを祈る次第であります。

                                                      2001年10月15日 土居 昇用