本 その7

 読み物 

ヴェネツィアの宿
須賀敦子
(文春文庫)
ヴェネツィアの宿
筆者はイタリア文学の訳者として活躍された故・須賀敦子さんです。フランス・イタリア留学の回顧録、それからご両親との関わりなど、須賀さんのバックボーンが描かれています。イタリアに関するエッセイは概して軽妙なものが多いですが、この本は美しい日本語を堪能できる随筆。自分の家族を客観的に捉える目や、構成力の素晴らしさには脱帽です。作家としての活動期間は短いものの、須賀さんは『文学界』(2004年12月号)で「言語表現を極める文章、この十人」にも選ばれています。

コルシア書店の仲間たち
須賀敦子
(文春文庫)
コルシア書店の仲間たち
ミラノのコルシア・デイ・セルヴィ書店は須賀さんのご主人が切り盛りしていたお店です。本書はそこを取り巻く人々を描いたエッセイで、30年という歳月を経て書かれた、あとがきまで楽しめる1冊です。1960年代のカトリック左派の様子や、ミラノの街の風景、そして、叙情たっぷりの人物描写など、短編小説のような趣きです。作品のトーンとしては重苦しいですが、須賀さんの文章にはぐいぐい引き込まれる不思議な魅力があります。

トリエステの坂道
須賀敦子
(文春文庫)
トリエステの坂道
筆者のご主人・ペッピーノさんの家族を中心とした回顧録です。ペッピーノさんの好きだった詩人サバの出身地(トリエステ)を須賀さんが訪ねる場面から物語は展開していきます。貧しい鉄道員の家庭に生まれたペッピーノさんは相次ぐ家族の死に見まわれ、そして…。良家の子女として育った筆者が結婚後に知ったイタリアの無産階級の暮らし。その薄幸な現実を記憶の断片を手繰るように淡々と綴っています。

地図のない道
須賀敦子
(新潮文庫)
地図のない道
「須賀さんにとってのヴェネツィア」を味わう一冊。ヴェネツィアの迷宮を歩きながら須賀さんの思考は60年代のミラノ、おばあさまが育った大阪など時間と空間を越えて彷徨います。エッセイと物語の狭間を行き交う独特の世界、これが須賀作品の真骨頂です。
ヴェネツィアにその起源があるというゲットー、ザッテレの河岸にある「治癒のあてのない」という名の小径…この本には観光都市ヴェネツィアのもう1つの顔が詰まっています。

ミラノ霧の風景
須賀敦子
(白水Uブックス)
ミラノ霧の風景
講談社エッセイ賞、女流文学賞受賞作品。須賀さんのイタリアでの生活や人々を追想しています。20年前の記憶とは思えない程、本の中の風景は確かな色を持ち、人々の静かな息づかいが聞こえてくるようです。タイトルの「霧」には、もう1つの意味が込められている…あとがきの須賀さんの言葉が胸に迫りました。

イタリア旅行の王様
快楽の国で遊びつくす裏技集
河野比呂
(光文社)
イタリア旅行の王様
個人旅行の計画から現地で楽しむ方法を丁寧に解説。この手のノウハウ本は他にも出回っていますが、この本はイタリアに的を絞っているので交通・ホテル・食事などの現状、また日本との違いを鮮明に感じ取ることができます。所々にイタリア語の記述があるのも有り難いです。初めてのイタリア個人旅行者にはシュミレーションを兼ねて心強いバイブルになると思います。おすすめ!

パーネ・アモーレ
イタリア語通訳奮闘記
田丸公美子
(文芸春秋)
パーネ・アモーレ
同時通訳・翻訳家としてご活躍中の著者。通訳という仕事は、相手の言葉を伝えるだけでなく、双方の社会・国民性の違いを考え、誤解のないよう、橋渡しをしなくてはなりません。この本は、約30年にわたり、数々の修羅場(?)を乗り切ってきた田丸さんの爆笑エッセイ、それから通訳になるまでの道のりが書かれています。通訳業の舞台裏はコチラでも読むことができます。ユニークな田丸さんのお人柄が伺えます。

イタリア的考え方
−日本人のためのイタリア入門
ファッビオ・ランベッリ
(ちくま新書)
イタリア的考え方
異文化を理解するには、彼らの常識や考え方を知るのが近道。本書では日本に造詣の深いイタリア人著者が、イタリアのイメージを作るメカニズムを分析していきます。イタリアの考え方を浮き彫りにすることで、この本を読む人は、自分の日本人的考えを再確認するのではないでしょうか。日伊の文化比較論としては面白いのですが、具体的な事例とイタリア人的考えとの因果関係にもっと焦点を当てて欲しかったです。

NEW!
イタリア式
 おしゃれで輝いて生きる!
タカコ・半沢・メロジー
(知恵の森文庫)
イタリア式 おしゃれで輝いて生きる
ブランド指向と美白メイクの日本人、対してイタリア人は個性重視で小麦色の肌が自慢…と両者は対称的。
上手なショッピングの仕方、メイク、ボディケア、そして下着に至るまで、イタリア人のオシャレ観は「こだわり」の一語に尽きるようです。それは見ず知らずの人にも向けられており、店員が「その洋服はあなたに似合わない」そんなアドバイスするとか。日本では考えられない話だけど、面白い本でした。

イタリア 謎だらけ
名言で読み解いてはみたけれど
タカコ・半沢・メロジー
(中央公論新社)
イタリア 謎だらけ
現代イタリアの謎(政治経済、社会システム、恋模様など)を古代からのことわざ・格言で読み解くという趣旨です。日伊で同じ意味を持つことわざが結構あるようですが、イタリアのそれには食べ物を用いたものが多いですね。これぞ「マンジャーレの国」の面目躍如。
一例を挙げると、「聞く耳を持たず」が「パセリを耳に突っ込む」。では
問題。「火に油を注ぐ」のイタリア版は何でしょう? 「喉の渇きを○○で取り除く」

答えは、このページの一番下に書いておきましたヨ。

イタリア人の働き方
国民全員が社長の国
内田洋子 シルヴィオ・ピエールサンティ
(光文社新書)
イタリア人の働き方
人工5700万人のイタリアで法人登録は2000万社。労働人口で考えれば、国民全員が社長…という状態に近いそうです。その中から、15人の起業家に成功の秘訣をインタビュー。仕事へのこだわり、家族中心の零細経営、ユニークな着眼点…いろんな社長が出てきますが、とどのつまり彼らは、人生を謳歌するために働いているのです。
「全体を平均すると負けるのに、異様な力を湧き出す個人を輩出する国」という言葉が印象に残りました。

ポンペイ・グラフィティ
落書きに刻むローマ人の素顔
木村凌二

(中公新書)
ポンペイ・グラフィティ
ヴェスビオ火山の噴火で火山灰に埋もれた街ポンペイ。街中に残された落書きには、選挙ポスターの推薦文、売春婦の値段(!)、見せ物の告知などわかりやすいものもありますが、落書きという性質上、意味不明の文言も多いようです。それらを解読し、当時の社会を考察します。

愛って、なに?
RISPONDIMI
スザンナ・タマーロ 泉典子・訳
(草思社)
愛って、なに?
イタリア語の原題は「答えて」 
中編小説を3編所収。いずれの作品にも、家庭や家族の愛に恵まれない主人公が登場し、重苦しい世界です。物語が淡々と進んでいくのが救いでしょうか。家族とは、そして神とは…というテーマも共通しています。表題「愛って、なに?」は娼婦を母親に持った少女が幸せを追い求める話です。

フィレンツェの職人(マエストロ)たち
朽見行雄
(JTB)
フィレンツェの職人(マエストロ)たち
モノ作りに拘る職人気質と、イタリアの産業構造が伝わってきます。イタリアには零細企業が多いのですが、日本のように下請けというわけではありません。家具修復職人、帽子木型職人、香料調合師など、など日本ではあまり見かけない職人もいます。途絶えかけたチェンバロ(ピアノに似た楽器)作りを復活させたマエストロの話が印象に残りました。
人びとのかたち
塩野七生
(新潮社)
人びとのかたち
イタリアに関する本を数多く出版されている塩野さんの映画評とエッセイです。アメリカの作品が多いですが、画面に現れる人々の形の題材にして、様々なテーマを論じています。「甘い生活」「フェリーニのローマ」「夏の嵐」など、イタリア映画の話もちらほら。

ローマ人の物語 I −
ローマは一日にしてならず
塩野七生
(新潮社)
ローマ人の物語 T
ローマ建国から、イタリア半島統一(紀元前270年)までの約500年を取り上げています。ギリシャなど、近隣諸国の様子にも触れながら、ローマ帝国の成長する様子を描きます。知力・技術力などが他民族より抜き出ているとはいえないローマ人が、広大な帝国を興せたのは、その柔軟な発想力でした。

塩野七生『ローマ人の物語』の旅
コンプリート・ガイドブック
新潮45編集部・編
(新潮社)
『ローマ人の物語』の旅 新潮445編集部・編
塩野七生さんの歴史小説「ローマ人の物語」の1〜7巻までをカバーした解説書です。本編を引用した古代ローマ遺跡の案内、塩野さんおすすめのローマ市内観光もあります。「古代ローマ人名録」、「ローマ人としての生き方」などのトピックスは、古代ローマの入門書として役立ちそうです。

イタリア ウンブリアで田舎暮らし
ピーター・ホブデー
(三田出版会)
イタリア ウンブリアで田舎暮らし
セミリタイアを意識してイギリス人ジャーナリストの選んだ道は、ロンドンとイタリア中部での二重生活です。ウンブリア地方の古い農家を改造し、井戸を掘り…田舎での生活を克明に綴っています。

路地裏のルネサンス
花の都のしたたかな庶民たち
高橋友子

(中公新書)
路地裏のルネッサンス
衣食住や犯罪(同性愛、売春など)、14〜15世紀のフィレンツェ庶民の暮らしぶりはどのようなものだったのでしょうか。また、社会の秩序を維持するために設けられた法令とは…。ルネッサンス時代のイタリアが少し身近になるかもしれません。

フィレンツェ職人通り
中嶋浩郎
(NTT出版)
フィレンツェ職人通り
アルノ川の南側は「オルトラルノ」と呼ばれており、その中に職人街があります。この本では、マーブル紙や金細工、靴・鞄など、10人の職人の仕事ぶりにスポットをあてながら、それぞれの歴史を解説してゆきます。職人の街・フィレンツェの新たな魅力を発見できるので、おすすめ。

ヴェネツィア
ラグーナの風
小川光生
(河出書房新社)
ヴェネツィア ラグーナの風
ヴェネツィア在住の小川さんが取材した人やモノなど50編のエッセイ集です。ヴェネツィアの消防士、双子のゴンドリエーレ、日本でも活躍したサッカー選手・スキラッチさん、映画「ニューシネマ・パラダイス」の少年トト役を演じた男性etc…続々登場します。

前世イタリア人が見てきて、書いた
イタリアの歴史と音楽おもしろ見聞録
江本弘志
(芸術現代社)
イタリアの歴史と音楽おもしろ見聞録
筆者を5人のイタリア人(カエサル、ロッシーニなど)になぞらえ、音楽を中心としたイタリアの歴史を振り返ります。話題は豊富ですが、時代やテーマが広い分、中途半端な印象を受けました。

カルチャーショック 8
イタリア人
アレッサンドロ・ファラーシーほか著
(河出出版研究所)
カルチャーショック 8 イタリア人
個性豊かなイタリアの歴史から現代社会、旅、暮らしなどを幅広く知ることができます。各地の名物料理や旅行のコツなど楽しめる内容がたくさん。

ヨーロッパ・カルチャーガイド
イタリア
快楽主義者のこだわりライフ
(トラベルジャーナル)
ヨーロッパ・カルチャーガイド イタリア
「いちげんさんお断りのコネ社会」「エコロジー後進国」「バカンスにかける情熱はハンパじゃない」など、イタリアの社会やイタリア人の考え方がわかる本です。イタリアに関する本の紹介も載っています。

旅ネタのホームページ 205
イタリア編
(オデッセウス)
旅ネタのホームページ イタリア編
素敵な旅行記や現地情報が紹介されており、インターネットで旅行気分を味わうことができます。旅行の下調べに使えます。ただし、2001年発行の本なので、サイトによっては体裁の変わっているものがあります。また、英語やイタリア語サイトの紹介も多いです。

メディチ家
森田義之
(講談社現代新書)
メディチ家
メディチ家の起源から没落までをフィレンツェの歴史背景とともに描いています。功績などを時系列に書き連ねているだけなので、ちょっと退屈な気も…。

ウソも芸術イタリアン
高岸弘
(講談社)
ウソも芸術イタリアン
10年間のミラノ生活で筆者が見たイタリア式のウソやだましのテクニックなど、エピソードがたくさん。サルディニア島への旅行記もあります。

イタリア・ルネッサンス
澤井繁男
講談社現代新書
イタリア・ルネッサンス
ルネッサンスの文化だけでなく、当時の歴史的背景や社会、政治、経済まで幅広い視点で書かれています。

* * * 答え * * *
イタリア版「火に油を注ぐ」→「喉の渇きを
プロシュート(生ハム)で取り除く」
このページで紹介しているイタリア謎だらけ(79ページより)
 [ Levarsi la sete col prosciutto. ]


前ページへ