間違い電話


 日曜日、朝7時。電話のベルが鳴った。半分寝ぼけたまま受話器を取ると
 「もしもし。おうどん屋さん?」
 と、年配の女性らしき声。
 「違いますよ。」
と答えたら、何も言わずガチャリと切られた。
 「朝からおうどんの注文かな?すごいなぁ。何でもいいけど間違いならごめんなさいくらい言えばいいのに。」
 独り言を言う私
。  それにしても我が家は間違い電話が多い。留守電に入っていることもあるのだけれど、中には、かけてきた相手の人生を左右するような内容のものもあるから気の毒だ。本人は間違いだなんて思っていないから、たいていは電話番号も、名前さえも残していないので、「間違えてますよ」とかけなおしてあげることもできない。
 そのような間違い電話の数々をご紹介してみよう。

 1泊旅行から戻り留守電をチェックすると、ひどくうちしおれた男の子の声が流れた。
 「もしもし、俺やけど…まだ怒ってる?今日一晩中起きとくから、電話ちょうだい。話がしたいからさぁ…」
 何かのことで彼女と喧嘩してしまった彼氏が、仲直りをしたがっているに違いない。が、そのメッセージを、見ず知らずの私の留守電に入れてしまったのだから、彼女に届くはずもなく、可愛そうな彼氏である。
 続いては、OLらしき女性の欠勤願いだ。
 「すみません。Iですけれど、今朝早く祖母が亡くなりまして。三日間お休みをください。」
 おばあちゃんを亡くしたうえに、きっと無断欠勤で上司から叱られることだろう。これまた可愛そうな彼女である。

 携帯電話の伝言にも面白いメッセージが残っていた。これは前の二つに比べたら、相手の人生に関わるほどのものではなかったので、純粋に笑えた。
 「あ、お父さん?お母さん今日遅くなるんだって。二人で食事しといてって言ってたけど、うちには鮭の冷凍したのしかないよ。どうする?」
 父と子は果たしてあの夜、無事食事にありつけたのだろうか?

 まだまだある。
 「T病院ですが、お薬の注文をお願いします。」
 「トラックの修理をしていただけないでしょうか?」
 「昨日購入したきゅうすを土瓶に交換していただきたいのですが。」
 「奥さん、公民館行くでしょ?一緒に行きましょうよ。」
などなど。
 電話に出たとたん、知らないおばあちゃんから、
 「あんた何ちゅうことしてくれたとね!ばあちゃんはもう惨めで死んでしまいたいわ。」
と一方的に泣かれたのには、本当におろおろしてしまった。
 このおばあちゃんも、自分がまったく知らない相手にかけてしまったのを知ると、
 「なんね、間違いかえ?何ちゅうこっちゃろかねぇ。」
とか言いながらガッチャンと電話を切ってしまった。

 大切なこと、どうしても伝えたいことがあるときに、人はこんなにも間違い電話をかけるものだなのだろうか?どちらかというと電話をかけるのが苦手で、いつも何度も何度も番号を確かめ、切り出す文句を頭の中で繰り返してからでないと電話ができないような私には、まったく理解しがたい感覚である。

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