クシュトがアル達の屋敷に招かれてから1週間・・・
アルとセラフィは今、マーメイリア王宮の中を、クシュトの案内で歩いている。

 アル :「あの頃と変わってないな・・・とはいえ、鮮明には覚えていないが。」
クシュト:「セラフィア様を連れ出したときの、アルツァー様の話は聞き及んでおります
      なんでも、当時王宮にいた、いかなる兵士も、アルツァー様の気迫に萎縮して、戦うことができなかったとか。」
 アル :「・・・怪我人や死人を出したくなくて、威嚇しただけだ。
      力を、少しだけ借りてな。」
クシュト:「アサシンなのに、不殺の誓いでも立てているのですか?」
 アル :「ギルドの依頼でもない限り、人殺しはしない。
      無益な戦いは好きなほうじゃないんだ。」
クシュト:「そうでしたか・・・アサシンの中にも、あなたのような方がいるのですね。」
セラフィ:「あの、クシュトさん?」
クシュト:「なんでしょうか。」
セラフィ:「その・・・大会議室は、まだなんでしょうか?」
クシュト:「今、着きましたよ。 この扉の中が、そうです。」

クシュトが指した扉は、見るからに重厚で、この中での会議がどれほど重要なのかを物語っていた。

クシュト:「さぁ、お二人とも中へどうぞ。
      すでに大臣たちも待っておりますので。」
セラフィ:「では、失礼します。」

クシュトの案内で部屋に入ると、中で待っていた大臣たちは一様に声を上げた。

 大臣1 :「あれが・・・セラフィア様・・・」
 大臣2 :「あんなに大きくなられて・・・」

幼い頃のセラフィを知っている大臣もいるようで、感慨深げな声も漏れる。

 アル :「みんな、懐かしんでいるようだな。」
クシュト:「そうでしょうね。当時の大臣たちの中で、今は大議会の議員として務めている者もいます。」

それにひきかえ、大臣たちがアルを見る目は、非常に冷ややかだった。

 アル :「俺は、あまり歓迎されていないようだな。」
クシュト:「すみません・・・セラフィ様が、ご自分の意思であなたに付いて行かれたことは理解しているのですが、
      そもそも、あなたが来なければ・・・という思いの方が強いようで・・・」
 アル :「・・・仕方のないことだな、それは。」
クシュト:「お二人とも、席についてください。
      先日伺ったときのセラフィア様の話は、すでに皆に伝わっております。」
セラフィ:「では、今日はあらためて私の説得に・・・?」
クシュト:「そうなります。」
セラフィ:「・・・わかりました。始めてください。」
クシュト:「それでは、此度の議会は、この私、クシュト=サンクタムが務めさせていただきます。
      発言のある方は、挙手をお願いします。」
 大臣3 :「はい。」
クシュト:「どうぞ。」
 大臣3 :「単刀直入にお聞きします。セラフィア様は、どのような条件があれば、我が国にお戻りいただけるのでしょうか。」
クシュト:「セラフィア様、お答え願えますか?」
セラフィ:「その質問は回答に困りますね・・・そもそも、私は国に戻る気はありませんので・・・
      どのような条件を出されても、それは揺るがないと思います。
      たとえ、今私がお世話になっている皆を、王宮住まいにしてもらえたとしても。」
 大臣3 :「そう、ですか・・・わかりました。」
クシュト:「他に発言のある方はいらっしゃいますか?」
 アル :「・・・尋ねたいことがある。」
クシュト:「はい、アルツァー様、どうぞ。」
 アル :「ここにいる皆は、セラフィの復縁に執着しているようだが・・・セラフィでなくてはいけないのか?
      確かに、血筋は重要だと思うが・・・直系でなくとも、一番近い親族を王に立てるというのは・・・」

アルがそう言った途端、周囲がざわめいた。

クシュト:「・・・アルツァー様の言うことも、御尤もです。
      私たちとて、セラフィア様に復縁を無理強いしたくはありません。
      しかし・・・」

クシュトは少し口をつぐみ、大臣たちの顔を伺った。
話してもいいと判断したクシュトは、言葉を続ける。

クシュト:「実は・・・いないのです。」
 アル :「・・・いない?」
クシュト:「はい。不思議なことに、メイアードの家系は、代々子供が一人しかおらず、
      二人目以降が、どうしても生まれてこないのです。
      その第一子が男でも、女でも・・・また、どこの誰と子を生そうとも・・・」
 アル :「そんな・・・ことが・・・?」
クシュト:「はい。ですから、セラフィア様が特殊な体質だと知れたときの王宮は、さぞ混乱したでしょう。
      その体質に関して、私どもも詳しいことはわかりません。
      ただ、世に広まってはいけない・・・ということだけは認識できました。」
 アル :「そうか・・・それで、セラフィが即位しなければ、王家としてのメイアードは名を残せない・・・」
クシュト:「ご理解いただけましたか?」
 アル :「あぁ、わかった。」
 大臣1 :「クシュト殿。」
クシュト:「はい、発言を。」
 大臣1 :「セラフィア様が王国に戻りたがらない理由を、お聞かせ願いたい。」
セラフィ:「・・・わからないんですか・・・?」

セラフィの声は、あきらかに怒気を含んでいた。

セラフィ:「あれだけのことをしておいて・・・戻りたがらない理由が・・・わからないんですかっ!」
 アル :「セラフィ! 落ち着け!!」
セラフィ:「・・・すみません・・・」
 大臣1 :「申し訳ありませんでした、セラフィア様・・・
      私は、セラフィア様が離縁なさった後で仕官した者でして・・・
      それ以前に、セラフィア様が、どのような処遇を受けていたのか、想像に及ばず・・・」
セラフィ:「・・・物心ついた時には、すでに広い部屋に中から、一歩も外には出してもらえませんでした。
      不定期に交代する付き添いの女性・・・部屋に運ばれてくる食事・・・まともに顔を合わせられない親・・・
      私が原因で、父と母は別れたという話も聞きました。
      でも、部屋から出れないこと以外は、不自由しませんでした。
      お付の方が、身の回りの世話はしてくれましたし、話し相手にもなってくれました。
      礼儀も、文字も、いろいろなことを教わりました。
      床に赤い液体が広がるたびに、お付の人が代わっていったのも覚えています。
      ・・・そのときは知りませんでした。その元凶が私だったなんて。
      それでも私は、とても大事にされていたのでしょう。
      アル兄さんが来たときも、父は食い下がりました。
      でも、私は耐えられなかった・・・!
      私の手で、何人の使用人を殺したかわからない・・・!
      あの環境は・・・私には苦しすぎました。」
 大臣1 :「しかし、セラフィア様は、すでに力を抑える術を身に付けたと伺いました。」
セラフィ:「・・・あの頃の嫌な思い出と共に、この先の一生を過ごせ・・・と言うのですか?」
 大臣1 :「・・・申し訳ありませんでした・・・」

大臣は、それ以上口を開くことはなかった。

 アル :「もういいだろう・・・セラフィは国に戻る気はないんだ。
      これ以上、セラフィを苦しめないでくれ。」
セラフィ:「兄さん・・・」
クシュト:「そうですね・・・マーメイリアの血筋の者も、今となってはセラフィア様ただお一人。
      セラフィア様のお言葉すべてが、マーメイリア家当主の言葉であり、王家の意思・・・
      セラフィア様が即位を拒まれるならば、私たちとて無理強いはできません。
      王宮側としての体裁を保ちたいだけなのですから。」
セラフィ:「私は、すでにマーメイリアとしての姓を失っています。
      ですから、父が亡くなった時点で、マーメイリア家の者は、一人もいなくなったんです。」
クシュト:「・・・フォルナーダ王は、セラフィア様の離縁手続きを行っておりません・・・」
 アル :「手続きを・・・していない?」
クシュト:「王も、なんらかの形で、セラフィア様との繋がりを残しておきたかったのでしょう。
      ですから、たとえ別の名前を名乗られていても、戸籍の上では、
      セラフィア様はマーメイリア家のお方なのです。」
セラフィ:「そうだったんですか・・・」
クシュト:「私たちは、セラフィア様が直接即位なされないといのことも議論しておりました。
      この方法ならば、セラフィア様が直接即位なさらずとも、マーメイリア王家を存続できる・・・」
 アル :「その方法とは?」
クシュト:「事実上、セラフィア様がまだ完全には離縁なさっていないことを利用する形になりますが・・・
      セラフィア様に、形式だけでもご結婚、もしくは養子縁組をなさっていただき、
      その後に、セラフィア様の離縁手続きを正式に行えば・・・」
 アル :「血は繋がらなくとも、王家の名を残せる、と。」
クシュト:「はい。かく言うフォルナーダ王も、マーメイリアの血は引いておりません。
      離婚なさるときも、マーメイリアの血統を持つ奥様のほうが追い出されたと聞いております。
      当時は男性政権にこだわっていたようですし、まるで、王がいれば用は無いとでも言うかのように・・・」
セラフィ:「・・・ひどい・・・」
クシュト:「ですが、我々は、そのようなことをしたくはありません。
      たとえ、先ほどの方法でセラフィア様が離縁なされても・・・
      セラフィア様は唯一、マーメイリアの血を引くお方なのですから。」
セラフィ:「そんな、形式だけの結婚や養子縁組なんて・・・」
クシュト:「もし、セラフィア様に意中の方がおられるのでしたら、是非その方と・・・」
 アル :「どのみち、セラフィに完全な自由はない・・・ってことだな、それは。」
クシュト:「幸か不幸か、王家のお生まれなのです・・・これも運命と思っていただければ・・・」
セラフィ:「そんな軽い言葉で・・・」
クシュト:「セラフィア様、無理を承知でお願い致します!
      王国を救うつもりで、どうか・・・!」
セラフィ:「どちらにせよ、マーメイリアの血と王家は離れるんです・・・
      名前だけの王家に、意味はあるのでしょうか?」
クシュト:「マーメイリア家は、建国当初からの家柄です。
      それが変わったとあっては、国交にも問題が生じます。
      建国より現代まで続いた政権が変わるということは、内乱・紛争などによる、
      政権の強制交代を囁かれるでしょう。」
セラフィ:「そうですか・・・そこまでの考えには至りませんでした。
      しかし、私は・・・」
 アル :「あまり気の乗る方法ではないが・・・こういうのはどうだろうか。」
クシュト:「アルツァー様、なにか名案が?」
 アル :「名案というほどのものではないが・・・まぁ、言ってしまえば勝負だ。」
クシュト:「勝負・・・ですか?」
 アル :「あぁ。セラフィをかけて、天使連盟側と、王国側で。」
クシュト:「それこそ、セラフィア様のお気持ちを考えていないのでは・・・」
 アル :「話し合って、どちらも引き下がらないんだ。このままでは埒が明かないと思わないか?」
クシュト:「それはそうですが・・・セラフィア様はよろしいのですか?」
セラフィ:「実は、私も同じようなことを考えていたところなんです。
      当事者同士で話し合っても、解決口が見えませんし・・・」
クシュト:「・・・わかりました。では、アルツァー様の案を採用しましょう。」
 アル :「お互いに代表者1名の闘技形式。不殺は大原則で、気絶もしくは降参での勝敗・・・どうだ?」
クシュト:「いいでしょう。王国側からは、私が出ます。異議のある方は?」

大臣たちは、一様に沈黙を保っている。

クシュト:「いないようですね。」
 アル :「こっちは、俺が出る。」
クシュト:「そうですか。では、準備もあるでしょうし、また後日・・・」
 アル :「いや、また出直すのも面倒だ。
      模擬戦用の武器くらいあるんだろう?」
クシュト:「我々がいつも使っているものでしたら・・・」
 アル :「構わない。緊急時の対応力も求められるのがアサシンだ。
      それなりに訓練は積んでるさ。」
クシュト:「そこまでおっしゃるなら・・・」
 アル :「じゃぁ、さっそく訓練場にでも案内してもらおうか。」
クシュト:「わかりました。大臣たちも立会いをお願いします。」

会議室にいた全員が、王宮内の訓練場に集まる。
訓練場には、短剣・長剣・斧・弓など、一通りの模造武器はあったが、
アルがいつも使うカタールのようなものはなかった。

 アル :「やはり、カタールに近いものはないか・・・」
クシュト:「はい。あの武器は特に扱いが難しく、実用には不向きでして・・・」
 アル :「確かに。正しい訓練を受けなければ力を発揮できないな。」
クシュト:「アルツァー様、最後に確認させていただきます。
      本当に、出直さなくていいんですね?」
 アル :「あぁ、大丈夫だ。ここにあるもので何とかするさ。」
クシュト:「スキルの制限は、どうなさいますか?」
 アル :「殺さない程度に、何でもあり。
      そのほうが、スッキリするだろ?」
クシュト:「わかりました。では、全力で行かせていただきます。」
 アル :「セラフィ、号令を頼む。」
セラフィ:「わかりました・・・では、始めてください!」

セラフィが開始の号令をかけるも、二人ともその場を動かない。

クシュト:「打ち込んでこないのですか? アサシンたるもの、先手必勝では?」
 アル :「そうとも限らんさ。特に、実力の知れない相手ならな。」
クシュト:「懸命な判断です。でも・・・今回は不正解のようですよ!」

重装備のパラディンとは思えぬ速さで、一気にアルに詰め寄るクシュト。

クシュト:「はぁっ!」

手に持っていた剣で、横一文字に薙ぐ。

 アル :「当たると思うか?」

アルはすかさずバックステップで距離をとり、クシュトの剣先がかすめることもなかった。

クシュト:「なるほど・・・」
 アル :「何が”なるほど”なんだ?」
クシュト:「今のでわかりました。あなたは、この王国にいる誰よりも、手ごわい。」
 アル :「褒め言葉としておこうか。」

その言葉と同時に、アルの姿が消えた。

クシュト:「ハイディングか! ならば・・・グランドクロス!!」

クシュトを中心として十文字に、床から光の柱が立ち上る。
しかし、その光の中にアルの姿はなかった。

 アル :「まだまだ判断が甘いようだな。」
クシュト:「っく・・・どこに行った・・・」

姿を消したまま移動できる技”クローキング”
隠密行動を大原則とするアサシンの必須スキルだが、そのスキルの存在は、あまり外部には知られていない。

 アル :「こっちだ。」

不意に、クシュトの背後に姿を現したアル。
クシュトも咄嗟に振り向いて、手に持った剣で薙ぐが、アルはまたしても姿を消す。

クシュト:「さっきから逃げ回ってばかりで・・・攻撃してこないとはどういうことだ!」

クシュトは、明らかに苛立っているようだった。

 アル :「そこまで言うなら攻撃してやろう。」

クシュトの後ろから飛んできたナイフが、その頬を掠める。

クシュト:「後ろ?」

クシュトが振り向くと、今度はその肩にナイフが当たる。

クシュト:「右か!」

いくら振り向けども、アルの姿は見つからない。

 アル :「まどろっこしいことはやめようか。」

ようやく姿を見せたアル。

クシュト:「そこにいたか! ホーリークロス!」

聖なる力をこめて、十字に二連激を繰り出すスキル。
しかし、アルは難なく回避する。

クシュト:「おのれ、ちょこまかと・・・」
 アル :「素早さはアサシンにとって命なんでな。」

そう言って、クシュトの周囲を跳ね回りながら、先ほどのクローキング中に回収した短剣を投げつけていく。

 アル :「これは俺のオリジナルだ。 サウザンド・ジャック」

間を置かずに、あらゆる方向から投げつけられるナイフは、クシュトを包囲する形で襲い掛かる。

クシュト:「こんなもの・・・!」

数本の短剣がクシュトによって叩き落され、そうでない短剣も、ほとんどがその重厚な鎧にはじかれた。
結果、鎧に覆われていない指先や間接部分などに、掠り傷を与えるだけとなった。

クシュト:「そんな攻撃では、私は倒せない!」
 アル :「・・・外的な損傷を与えることが目的なら、この技は失敗だろう。
      だが、そうではないとしたら・・・?」
クシュト:「何?それは、どういう・・・」

クシュトは突然眩暈に襲われ、その場に膝をつく。

クシュト:「これは・・・毒、か?」
 アル :「そうだ。だが、安心しろ。致死毒ではない。」
クシュト:「この程度・・・!」
 アル :「・・・たいした気力だ。」
クシュト:「プレッシャー!!」
 アル :「っぐ・・・!?」

その気迫を持って、相手に損傷すら与えるほどの強い重圧をかける技。
実体も指向性もないため、回避することは不可能。
クシュトは、自分の技が有効だったことに、少しだけ表情を緩めたが、またすぐに気を入れなおす。

 アル :「・・・これがあったか。」

アルが、わずかに苦しい表情を見せる。

 アル :「しかし、そう何度も撃てるものでもあるまい。
      もう小細工はなしだ。」

クシュトに詰め寄り、接近戦を仕掛けるアル。
次々と繰り出される攻撃をクシュトも何とか受け流していく。

クシュト:「さすがに手数が多い。だが、重さに欠ける!

クシュトは防御姿勢を解き、ダメージ覚悟でアルに一撃を加えようとする。
だが、それはアルの思う壺だったようで・・・

 アル :「その鎧の重さが、命取りになる!」

アルは、クシュトの腕をつかみ、攻撃してくる勢いを利用し、身を翻して、クシュトの体を床に投げ伏せた。

クシュト:「かは・・・っ」
 アル :「その防御力と、あの攻撃力・・・たいしたものだが、相手が悪かったな。」
クシュト:「まだ終わっていない!! 聖なる天使よ、我にご加護を!!」
 アル :「・・・この力は・・・?まさか、お前も?」
クシュト:「・・・そうです。私も、あなた方と同じ・・・
      魔物討伐の実力を買われ、他の兵士の前では力を使わないという約束のもとで、
      近衛兵に入隊しました。」
 アル :「そうか・・・ならばこちらも!」

アルも負けじと力を解放する。

 アル :「しかし、いいのか? 大臣たちの前で、そんな力を使って。」
クシュト:「構いません。どうせ、私はこの一件が終わったら除隊されるのですから。
      全力を尽くさなければ、後悔します。」
 アル :「まぁいい・・・これで、本当にどちらが上なのか量れると言うものだ。」
クシュト:「こうなった以上、勝負は一瞬でしょう。」
 アル :「そうだな。大臣たちにはご退場願おうか。
      セラフィは・・大丈夫だな?」
セラフィ:「はい。私は最後まで見届けます。」

大臣たちが訓練場から出て行ったのを確認し、あらためて向き直る二人。

 アル :「先手・後手ができないように、同時に行こうか。」
クシュト:「いいでしょう。私も同じことを考えていたところです。」
 二人 :「せ〜の!」

アル・クシュトともに、同時に床を蹴り、目にも留まらぬ速さで相手に向かう。
二人がすれ違う瞬間、強烈な閃光と凄まじい爆音、立っていられないほどの振動が起こり、
光が収まると、土煙が立ち込め、そこに、立っている人影は見えなかった。

セラフィ:「兄さん!! クシュトさん!!」

土煙が晴れると、そこには床に倒れ付すクシュト。
その傍らには、苦悶の表情で膝をついているアルが見えた。

 アル :「さすが・・・とでも言うべきか・・・一歩間違えば、こちらがやられていた・・・」
セラフィ:「兄さん!」
 アル :「セラフィ、なんとか勝ったようだ。早く、クシュトに手当てを・・・」
セラフィ:「は、はい!」

セラフィはクシュトに駆け寄り、懸命にヒールをかける。
クシュトはすぐに目を開いた。

クシュト:「負けて・・・しまいましたね。」
 アル :「だが、ギリギリだった。」
クシュト:「・・・悔しいです。あなたのほうが、実戦慣れしているなんて・・・」
 アル :「俺は誰の指示でもなく、日々戦闘している。
      仕事ではなく、皆を養うため、自らの意思で。」
クシュト:「うらやましい・・・ですね。私も、除隊したら・・・」

そこまで言って、クシュトは再び目を閉じた。

 アル :「力を使い慣れていないのでは、無理もない。
      今は、ゆっくり休め。」
セラフィ:「クシュトさん、また機会があれば、お会いしましょう。」

アルとセラフィは、クシュトに背を向けた。
訓練場の外に出ようとすると、外で待っていた大臣たちが一斉になだれ込んできた。

 大臣1 :「あ、アルツァー様!? すると、クシュト殿は・・・」
 アル :「そこで眠っている。休憩所か、寝室にでも運んでやってくれ。」
 大臣3 :「クシュト殿が負けるなど・・・」
セラフィ:「仕方ありませんよ。兄さんとは、経験が違ったようですし。」
 大臣2 :「セラフィア様は、これからどうなさるおつもりで?」
セラフィ:「今までどおり、兄さんたちと過ごします。
      結婚も、養子縁組もしません。」
 大臣2 :「そうですか・・・仕方ありませんな。」

大臣たちも、ようやく諦めがついたようで、鎧を着たままのクシュトを3人ががりで抱え上げ、運んでいった。

 アル :「さ、帰るか。」
セラフィ:「はい、兄さん♪」

二人は家族以上に強い絆で結ばれているように見えた。
マーメイリア王国の跡取り騒動も一件落着し、天使連盟にも、一時の平穏が訪れたかに見えた。
しかし、その翌日、事件は起こった・・・