ジュノ :「ただいま〜っとぉ」 アル :「おかえり、ジュノ。ドコ行ってたんだ?」 ジュノ :「あぁ、久々に狩りしてきたぜ。」 アル :「ほぅ、それはめずらしいな・・・ いつもなら”俺の狩りは矢を消費するから”とか言って行こうとしないお前が。」 ジュノ :「ま、そういう気分になる時もあるってコト。」 アル :「で、稼げたのか?」 ジュノ :「まぁ、ボチボチかな。 それより、面白いヤツに会ったぜ。」 アル :「面白いヤツ?」 ジュノ :「あぁ、俺がちょっと囲まれてて苦しいときに、ヒールかけてくれたパラディンなんだけどさ、 なんか俺らのコト知ってるみたいだったぜ。 この首飾り見て、”天使連盟の証ですよね・・・?”とか。」 アル :「・・・あまり広くは知られてないハズなんだがな・・・」 ジュノ :「だろ? だから俺も不思議に思ってさ〜・・・ ちょっと聞いてみたら、”マーメイリア王直属騎士団”とか言ってたからさ。」 アル :「マーメイリアか、ならば俺たちのことを知っていてもおかしくない。」 ジュノ :「へ〜? そりゃまた何で?」 アル :「ちょっと、ワケがあってな。」 ジュノ :「深くは突っ込むな・・・ってか。わぁったよ。」 アル :「しかし、マーメイリアの者が、なぜこんなところまで・・・」 それから数日後、めずらしくセラフィが街へ買い物に出ているときのこと。 ????:「失礼します。セラフィア様・・・ですね?」 セラフィ:「はい、確かに私がセラフィアですが・・・どちらさまでしょうか?」 その人物は、全身を赤黒い布で覆っており、その顔は隠され、声だけでは男女の判別すら難しかった。 ????:「諸事情あって、申し上げることはできません。 誠に勝手ではございますが、私と共に、”ある場所”へ行っていただきたいのです。」 セラフィ:「ある場所・・・?」 ????:「お教えできるのは、あなたにとっても、とても関わり深い場所・・・ということだけです。 何卒、ご協力ください。」 セラフィ:「場所も目的もわからないのに、一緒に行く人はいないと思いますが?」 ????:「やはり、そうですか・・・ならば!」 セラフィ:「・・・!? な、何を!?」 突然、セラフィに襲い掛かる謎の人物 だが、セラフィは咄嗟にテレポートしてその場を離れた。 ????:「・・・これだからアコライトというのは・・・ 仕方あるまい、とりあえず報告するか。 必ずお連れします・・・マーメイリア様・・・」 一方、難を逃れたセラフィは、ワープポータルで屋敷に戻り、事の顛末をアルに伝えた。 アル :「襲われた・・・か。」 セラフィ:「はい。無理やりにでも、私を連行したいようでした。 殺意はなかったようですし、一体どんな事情があるのか・・・」 アル :「それはわからない。だが、しばらく外出は控えたほうがいいだろうな。」 セラフィ:「はい、そのつもりです。 では、そろそろ私の部屋に戻りますね。」 アル :「あぁ。」 アルの部屋を後にするセラフィ。 アル :「・・・少し、調べる必要がありそうだな。」 アルは、おもむろに街へ出向いた。
????:「はい。 セラフィア様を発見し、拘束しようとしたのですが・・・はい。 ・・・しかし、テレポートではどうすることも・・・ やはり、核心は伏せて事情を説明せねば・・・ いえ、そのようなことは微塵も・・・!」 街の中で誰かと話している謎の人物。 その視界の隅を、ある男の影が横切った。 ????:「あ・・・あれは! 今、アルツァーと思われる人影を発見しました。 一度通信を遮断いたします。」 会話を途中で切り上げ、アルに接近する謎の人物。 ????:「突然、失礼します。 アルツァー=メイアード様とお見受けしますが・・・」 アル :「お前がセラフィを連れ去ろうとした奴か・・・?」 ????:「お察しの通りです。 ですが、アルツァー様と交戦する意思はございません。 どうか、私の話をお聞きください。 ここでは人目が多すぎますので、場所を移して・・・」 アル :「本当に交戦の意思はないんだな?」 ????:「はい。武器も所持しておりませんし、いかなる検査をなさっても構いません。」 アル :「じゃぁ、まずはその布を取ってもらおうか。 そうすれば、誰の目にもつかない場所に案内しよう。」 ????:「・・・わかりました。」 そう言って、謎の人物は、身に纏っていた赤黒い布を取り去る。 そこに現れたのは、女性と見まごうばかりの美しい顔立ちをした男だった。 アル :「これは・・・見事な顔立ちだな。」 ????:「恐れ入ります。ですが、そのことには、あまり触れないでただきたいのです・・・」 アル :「・・・それに関わる苦労もあったんだな・・・ とにかく、例の場所へ案内する。」 アルは人気のない路地裏に連れ込むと、首のペンダントを、そっと手に取った。 すると、何もなかった空間が歪み、あるはずのない道ができた。 アル :「絶対に俺から離れるな。 もし離れた場合、安全は保証できない。」 そこは本来、証を持つものしか通れない空間。 証を持つものと共に行動しない限り、その他の者は入ることも出ることも不可能。 もし空間の中で離れた場合は、その者は中に取り残され、二度と外に出ることはできない。 ????:「不思議な・・・空間ですね。」 アル :「もう着くぞ。」 急に目の前が開け、広大な土地と立派な屋敷、それになんらかの施設が目に入った。 ????:「ここは・・・?」 アル :「俺が管理する土地だ。 察するに、お前は俺たちのことを少なからず知っているんだろう? そのことも含めて、中でゆっくり話し合おう。」 ????:「アルツァー様は、人が良すぎるようですね。 いずれ、付け込まれますよ・・・?」 アル :「それを退けるだけの力量はあると思うがな。 たとえば、今ここでお前が襲い掛かってこようとも・・・」 ????:「すごい自信・・・ですね。」 アル :「そんなことはどうでもいい。 屋敷の応接に案内する。」 ????:「はい。」 男を連れて、屋敷の応接に入るアル。 アルは、そこにセラフィも呼んだ。 セラフィ:「兄さん、こちらの方は・・・?」 アル :「セラフィを連れて行こうとした奴だ。 状況が変わったようで、事情を話す気になったらしい。」 ????:「先ほどは大変失礼いたしました、セラフィア様。 いえ・・・姫様。」 セラフィ:「・・・もしや、あなたは・・・マーメイリアの・・・?」 ????:「はい、近衛兵・第一師団・団長のクシュトと申します。」 セラフィ:「第一師団・・・団長・・・!? そのような方が、如何様で・・・?」 クシュト:「それをお話しようと思い、こちらまで足を運ばせていただきました。」 アル :「じゃぁ、さっそく話してもらおうか。」 クシュト:「はい・・・ 数日前、国王がお亡くなりになられました。」 セラフィ:「お父様が・・・??」 クシュト:「はい。フォルナーダ=マーメイリア国王が病に倒れ、そのまま・・・」 セラフィ:「そう・・・だったんですか・・・」 クシュト:「本来ならば、国王の第一王子が跡を継がれるのですが・・・ フォルナーダ国王にはご子息がおらず、唯一のご息女であるセラフィア様も、すでに離縁・・・ 大議会で、どうしたものかと協議した結果、セラフィア様を復縁させる話が持ち上がったのです。」 セラフィ:「私を・・・?」 クシュト:「はい。代々国王は男性が務めてきておりましたが、女性政権もめずらしくはない時世ゆえ・・・」 セラフィ:「ですが、私は・・・」 クシュト:「もちろん、色々と議論されました。 セラフィア様が特殊な体質であること、自らの意思で離縁されたこと、復縁のお考えはないこと・・・ しかし、やはり唯一の直系であるセラフィア様がふさわしいだろうという結論に至りました。 王宮内では、すでにセラフィア様の体質を知らぬものはおりません。 もともと民衆に触れることの少ない政治体制でしたから、問題はないであろうと・・・」 セラフィ:「クシュトさん・・・とおっしゃいましたね。 あなたや、その大議会の皆さんは、その政治体制の継続を望んでいますか?」 クシュト:「セラフィア様の体質を思案し、そのほうがよいと言う判断を致しました。」 セラフィ:「でしたら・・・なおのこと、お断りします。」 クシュト:「なぜ・・・ですか?」 セラフィ:「私は、父の政策を良く思ってはいませんでした。 民衆の意見が国王に届きにくく、王宮の内外で差を広げるやり方など・・・」 私が戻るなら、私は広く民衆の意見を聞きたいのです。 多くの民と触れ合い、共に国を繁栄させていきたいのです。 幸い、アル兄さんに力が暴発しない封印を施してもらいました。 この力は、すでに制御できるのです。 あなた方が、父の政策を強要するというなら、私はここに残ります。」 クシュト:「そう・・・ですか・・」 クシュトは、とても残念そうな表情を浮かべた。 クシュト:「・・・一旦、出直して参ります。 今のセラフィア様のお言葉、大議会に余すことなく伝え、そのうえで、またご連絡を差し上げます。 この度は、誠に申し訳ありませんでした。」 セラフィ:「クシュトさんも、お勤めご苦労様でした。 女性に突然手をあげるのは、関心できませんが・・・」 クシュト:「肝に銘じておきます。 では。」 アル :「クシュトさん、ちょっと待った。」 クシュト:「アルツァー様・・・?」 アル :「気になっていたんだが・・・その大議会というのは、セラフィに復縁の意思がないことを理解したうえで、 それでもセラフィを連れ戻そうと、君を差し向けたのか・・・?」 クシュト:「結論から言いますと、そうなります。 ただ、大議会のほうも、セラフィア様にここまで強く拒まれるとは思っておりませんでしたので・・・ きちんと事情さえ説明すれば、戻ってきてくれるであろうと・・・」 アル :「少し・・・考えが甘かったみたいだな。 セラフィの意思は思いのほか強い。」 クシュト:「残念ですが、そのようですね。 今後に関しましては、私の一存では決めかねます。 今しばらく、お待ちください。」 アル :「今度話し合うときは、そっちの王宮で・・・と伝えておいて欲しい。 この場所も、そう何度も入れるわけにはいかないんでな。」 クシュト:「わかりました。それでは、また後日・・・」 アル :「外まで送ろう。”証”がないと出入りできない仕組みなんでな・・・ 不便ですまないが、察して欲しい。」 クシュト:「いえ、あなた方が身を潜めねばならない理由も理解しているつもりです。 そのような体質・・・もとい、力を持っていては、一般社会に馴染むのも困難でしょう。」 アル :「話がわかるようで、助かる。」 アルは、クシュトを元の街まで送り出した。 クシュト:「お手数をおかけしました。」 アル :「いや、このくらいは。」 クシュト:「それでは、お体にお気をつけて・・・」 アル :「そっちも、戦闘でケガとかしないようにな。」 クシュト:「お心遣い、感謝いたします。」 クシュトは、最後まで礼儀正しく振る舞い、セラフィに突然襲い掛かるとは到底思えない人物だった。 アルは、そのことだけを不思議に思いながらも、屋敷に戻った。 アル :「礼儀正しいのはわかるが・・・本心が見えないな・・・」 セラフィ:「クシュトさんが・・・ですか?」 アル :「あぁ。 なぜいきなりセラフィに襲い掛かるようなことをしたのか・・・ 今の会話では、とてもそんなことをする奴には・・・」 セラフィ:「思えませんねぇ・・・」 アル :「セラフィは何か知らないのか?」 セラフィ:「いえ、私は・・・」 アル :「そうだな、俺が連れ出すまで閉じ込められていたようなもんだ。 王宮内に誰がいて、何をしていたかなんて知るはずもないか・・・」 セラフィ:「はい・・・」 アル :「すまない、嫌なことを思い出させてしまったようだな。」 セラフィ:「いえ、そんなことはありません。 あ、もうこんな時間! 食事の準備をしないと!」 アル :「あ、あぁ・・・よろしく頼む。」 ぱたぱたと走り去るセラフィを見て、アルも複雑な心境だった。 アルがセラフィを王国から連れ出したのは、紛れもない事実。 今のセラフィの心情を察することはできないが、セラフィの意思に口出しはしないでおこうと、心に決めた。