逃げる少女、追う二人・・・
少女の逃げ足は意外に早く、素早さがウリのアルでも簡単に追いつけるものではなかった。
いつまで続くのかと思われたこの追いかけっこだが、少女の逃げ込んだ路地は行き止まりになっていた。
ゆっくりと近づく二人に、怯える少女。

  アル  :「おいおい、そんなに怯えないでくれよ・・・」

少女は肩をすくめて目をつぶり、うずくまってしまった。

 セラフィ :「大丈夫ですから・・・安心して。」

セラフィはそっと手を伸ばし、少女を優しく抱きしめた。
すると、大丈夫だと判断したのか、少女もセラフィの背中に手を回してきた。

  アル  :「保護完了・・・か。」
 セラフィ :「ひとまず・・・安心してくれたようですしね。」
  少女  :「ぅ、あ・・・」
  アル  :「ん? どうした?」
  少女  :「あぅ・・・」
 セラフィ :「もしかしてこの子、うまく喋れないんじゃないですか?」

少女は泣きそうな顔になりながら、必死に首を縦に振っている。

  アル  :「うまく喋れない・・・か。恐らく、皆に突き放されてきた影響だろう。」 
 セラフィ :「その可能性が高そうですね・・・」
  少女  :「ぅ〜・・・」

困ったような表情で首をかしげる少女。

  アル  :「喋る事はできなくても、表現するのは得意みたいだな。」
 セラフィ :「表情がコロコロ変わってかわいいですw」
  少女  :「はぅ・・・」
 セラフィ :「あ、照れたw」
  アル  :「・・・困ってるようにも見えるが・・・」
 セラフィ :「ところで、兄さん・・・?」
  アル  :「あぁ、あいにく今は持ってなくてな・・・連れて帰ろう。」
 セラフィ :「・・・って言ってるけど、私たちと一緒に来てくれる?」

少女はゆっくり頷いた。 どうやら、承諾してくれたようだ。

  アル  :「よし、じゃぁ行くか。」
 セラフィ :「町の人の視線が気になりますが・・・」

周りを見ると、みんなドアや窓から顔を覗かせ、恐る恐ると言った感じでこちらを見ている。

  アル  :「・・・大丈夫だ、嫌な視線じゃない。ただの怖いもの見たさだろう。
        だいいち、今まで疎ましく思っていたものを、今更惜しむわけが無い。」
 セラフィ :「それも、そうですよね・・・」
  少女  :「・・・・・・」

少女は黙ってうつむき、セラフィに手を引かれるままについてきた。
そして辿り着いた、アル達の『居場所』
とりあえず少女を椅子に座らせる。

  アル  :「さて・・・これからだが・・・」
 セラフィ :「いつもどおり、一人で行うのですね?」
  アル  :「あぁ、そうする。俺自身、なぜこんな方法を知っているのかわからんが・・・
             これは他の人に見せたりしてはいけないことのような気がするんだ・・・」
 セラフィ :「そうですか・・・ 深く詮索しないでおきますね。」
  アル  :「そうしてくれるとありがたい。さぁ、そろそろ始めるぞ。」
 セラフィ :「はい。あ、そういえば・・・まだ名前を聞いてませんでしたね。」
  アル  :「そうだったな・・・とはいえ、コイツは喋れないし・・・」
 セラフィ :「ペンとメモ、ありますよ?」
  アル  :「そうか、書いてもらえばいいんだ。」

少女にペンとメモを渡す。しかし少女は不思議そうに首を傾げるだけだった。

 セラフィ :「あなたの名前、教えて欲しいんです。 そこに書いてくれませんか?」

セラフィがそう言うと、少女はそっとペンとメモを膝の上に置いた。
そして・・・

  少女  :「るー・・・しあす・・・」
  アル  :「ルーシアス・・・? それが名前か?」

こくこく、と、少女は肯定を表す。

 セラフィ :「名前だけは喋れるんですね・・・なんにせよ、名前がわかってよかったです。
        ではまた後ほど・・・ルーシアスさん。」

セラフィは部屋を後にする。

  アル  :「さて・・・始めるぞ。怖がらなくてもいい。痛みは無いし、少し眠るだけだ。」
ルーシアス:「ん・・・」

ルーシアスはそっと目を閉じ、覚悟を決めたようだ。
アルはルーシアスに首飾りをかけ、手をかざして不可思議な言語を発し始める。
すると首飾りが光り始め、ルーシアスは気を失ったようにガクンとうなだれた。
アルが言葉を続けると、首飾りの光はいっそう強くなり、ルーシアスの体もぼんやり光りはじめた。
言葉を止め、ただそれを見守るアル。
首飾りとルーシアスが発していた光は次第に薄れ、消えた。
そのことを確認したアルは、再び言葉を発する。
それを合図にルーシアスは目を覚まし、あたりをキョロキョロと見回している。
ルーシアスの瞳は、両方とも透き通るような綺麗な水色になっていた。

  アル  :「お疲れ様。といっても、なにがあったかは覚えてないだろうけどな。」
ルーシアス:「ぁ・・・ぅ・・・」
  アル  :「喋れないのは変わらないか・・・キミが何を記憶しているかわからないが、いちおう教えておこう。」
ルーシアス:「ん・・・」
  アル  :「キミは『ルーシアス=フィル=メイアード』。俺の妹だ。」

にわかには信じがたい顔をしながらも、ゆっくりと頷き、受け入れるルーシアス。

 セラフィ :「兄さん! 終ったんですか?」
   アル   :「あぁ、今終った所だ。」

突然の事に驚き、怯えるルーシアス

   アル   :「臆病な所も変わらないか。コイツはセラフィア。
       ルーシアスと同じく俺の妹で、ルーシアスの姉に当たる。」
 セラフィ :「そういうコトになりますので、よろしくお願いします。」
ルーシアス:「ぅ、ん・・・」
   アル   :「さて、それじゃぁ他の兄弟と、ここの構造を教えようか。ついてきて。」

3人は部屋を後にした。


 アル :「・・・とまぁ、こんなカンジでルーシィを保護したわけだ。」 定例の家族会議で、ルーシィを保護したいきさつを語るアル ジュノ :「ふぅん・・・ルーシィも大変だったんだな・・・」 ルーシィ:「えっと、実はね・・・」 セラフィ:「何?」 ルーシィ:「私、全部覚えてた。自分の名前も、どうしてココにいるのかも・・・」  アル :「覚えて・・・た?」 ルーシィ:「うん・・・だけどあの時はうまく喋れなかったし、何よりも私がココに居たいと思ったから・・・」  アル :「そうか・・・刷り込みじゃなく、自分の意志で俺たちのトコロに・・・」 ルーシィ:「うん。この人のところなら安心できるって思ったから。 実際、優しくしてくれたし・・・」 セラフィ:「私たちの目的は『保護』ですからね・・・普通に生活していてくれれば、何も問題はないのですが・・・」 ルーシィ:「私、ここに来てよかった。みんな優しいし、毎日が楽しくて・・・」  アル :「それはなによりだ。こっちも、保護してよかったと思う。」 ルーシィ:「うん・・・本当に、ありがとう。」