柵で囲まれた「特別管理地域」。
その柵の中に一つの建物。 見た限りでは、結構な広さがありそうだった。
アルを先頭に、中に入っていく。

 アル :「で、さっきのことだが・・・」
ケルビナ:「はい?」
 アル :「俺がセラフィに惑わされてるから、セラフィを倒して俺を元に戻す・・・と?」
ケルビナ:「そうです! アル様はそれが『地』だとおっしゃいましたが、
      それこそ惑わされてるということなのです!」

(相当思い込みが強いな・・・コイツは・・・)

ケルビナ:「あんなヘッポコアコよりも、戦闘経験豊富な私のほうが役に立てます!」
セラフィ:「ヘッポコ・・・?」
 アル :「イヤ、そーいう理由で一緒にいるんじゃなくて・・・」
ケルビナ:「そういう理由じゃない? まさか・・・夫婦だとでも言うんですか!?」
 アル :「ちっが〜う!! セラフィは俺の妹だ!」
ケルビナ:「妹って言っても、実際役に立つんですか?」
 アル :「セラフィは道具じゃない。 役に立つかどうかなんて関係ないだろう?
      それに、家事全般こなしてくれる、よくできた妹だよ。」
 ジュノ :「俺もできるけどな。」
 ファル :「ジュノ、余計な口は挟まないほうがいいと思うぞ・・・」
ケルビナ:「家事くらいなら私にもできます!」
 アル :「いや・・・だから・・・」

−アル兄さん・・・ちょっと・・・−

セラフィが耳打ちしてくる。

−あの人、兄さんのことが好きなんじゃ・・・−
−はぁ? 俺のことが?−
−それで、他の女性と仲良くしてるんでヤキモチ焼いてるとか・・・−
−まさか・・・−

ケルビナ:「アル様! どうしてそこまであの貧乳アコにこだわるんですか!
      私のほうが・・・」
セラフィ:「貧・・・乳・・・?」

そのとき、ケルビナとセラフィ以外のここに居る者たちが固まった。

(・・・言っちまった・・・)

セラフィ:「今・・・貧乳って言いましたか・・・?」

明らかに空気が変わったが、興奮しているケルビナは気づかなかったようだ。

ケルビナ:「えぇ、何度でも言ってあげるわ! このヘッポコ貧乳アコ!!」

(・・・ヤバイ・・・もう止めれねぇ・・・)

セラフィ:「ア・ル・兄・さ・ん?」

その言葉だけで、アルはセラフィが何を言いたいのか察したようだ。

 アル :「・・・仕方ないな・・・ケルビナ、ちょっと奥の部屋まで来てくれ。 防具はしっかり装備するんだぞ。
      それと、ジュノ達は家に戻ってろ。 ・・・ジゴクを見るぞ・・・」
 ジュノ :「・・・わ、わかった。」

ルーシィを連れて、ファルとジュノが家に戻る。
残された3人は、奥の部屋へ・・・

 アル :「・・・ケルビナ・・・今からセラフィと戦ってもらう。」
ケルビナ:「望むところです。」
 アル :「一応、安全のために武器はなし。 それ以外は自由で。」
ケルビナ:「はい。」
セラフィ:「じゃないとホントに危険ですしね・・・」
 アル :「あ、それとセラフィ・・・」
セラフィ:「はい?」
 アル :「片目まで・・・にしておくんだぞ。 とはいえ、その首飾りがある限りそれ以上はムリだけどな。」

と言って、アルは自分の右目を指差す。

セラフィ:「わかりました。」
ケルビナ:「よくわからないけど・・・アコごときには負けない!」
セラフィ:「わからせてあげますよ、け・ん・し・さん。」
 アル :「では・・・はじめ!」

そう言うや否や、セラフィの右目が真紅に染まる。
途端、衝撃が走り床にヒビが入る。

 アル :「イキナリかよ・・・」
ケルビナ:「な、何? 何!?」

ケルビナは衝撃に耐えるのがやっとと言った雰囲気だ。

 アル :「この時点で・・・勝負あったな。」
ケルビナ:「まだ負けてない!」

と体制を立て直して構えるが、直後・セラフィの拳が繰り出される。

セラフィ:「遅い・・・ですよ!」

ゴガァッ!

ケルビナ:「うあぁ!?」

受けることも避ける事もできず、見事にフッ飛ばされるケルビナ。
だが、セラフィは止まらない。
地面に叩きつけられたケルビナに、さらに追い討ちを繰り出す。

セラフィ:「三段掌! 連打掌!! 猛竜拳!!!」

(いや、それモンクの技・・・)

などとツッコんでる間にも、周囲は砕けた床板の破片と、その粉塵で覆われていく。
響く音は・・・セラフィの掛け声、技のヒット音・・・と、石の砕ける音だけだった。
ケルビナの声は、悲鳴すら聞こえない。

セラフィ:「トドメです! 阿修羅覇王・・・!」
 アル :「待て! セラフィ!!」

さすがにマズイと思い、制止する。
呼びかけに手を止め、その場から飛びのいて我に返るセラフィ。
瞳の色はきれいなエメラルドグリーンに戻っていた。

セラフィ:「あ・・・私・・・?」
 アル :「セラフィ・・・ちょっとやりすぎだ・・・ケルビナの悲鳴すら聞こえなかったぞ・・・」
セラフィ;「え・・・それって・・・まさか・・・!?」

空気が重苦しくなる。
しばらくすると粉塵も晴れてきて、ガレキの山が浮かび上がった。

 二人 :「・・・・・・」

この静寂を消すかのように、ガレキが崩れる。

セラフィ:「!?」
 アル :「ぉぃぉぃ・・・マジかよ・・・」

そこには・・・

ケルビナ:「いったぁ〜・・・」

ケルビナが立っていた。

 アル :「アレ食らって『いったぁ〜』で済むのかアイツは・・・
      普通なら死んでるぞ・・・」

ケルビナがゆっくりとこちらに向かってくる。

ケルビナ:「セラ〜〜!!」
セラフィ:「は、はいぃ!?」

自分の事を呼ばれ驚くセラフィ。
ケルビナはこれでもかというほど睨んでいた。

ケルビナ:「・・・・・・」
セラフィ:「・・・・・・」
ケルビナ:「・・・お・・・」
セラフィ:「お・・・?」
ケルビナ:「お姉様と呼ばせてください!!」
セラフィ:「ええぇぇぇぇぇぇえぇ!?」
 アル :「なにぃぃぃいぃぃ!?」
セラフィ:「お姉・・・様?」
ケルビナ:「はいw 怒りで瞳が真紅に染まり、私に向かってくる時のあのキリッとした表情・・・ステキでしたぁ〜〜☆」

−ぉぃ、セラフィ・・・どーすんだよ・・・−
−どーする・・・と言われましても・・・−
−お前がやりすぎたせいでおかしくなったんじゃないのか・・・?−
−そんなぁ・・・−

ケルビナ:「お姉様♪」
セラフィ:「はいぃ!?」
ケルビナ:「先程の事は、どうかお許しください・・・不束者ですが、お二人のお側に置かせていただきます!」

−コレって強制イベント? 拒否権は?−
−ない・・・んじゃないでしょうか。−

ケルビナ:「でも・・・」
 アル :「?」
ケルビナ:「アル兄様の事に関してはライバルですわよ!」
 アル :「さりげに兄様呼ばれるし・・・」

ビシィッと、セラフィを指差して豪語する。

 アル :「な〜んか、ヘンなヤツ拾っちまったな・・・」
セラフィ:「まぁ・・・楽しそうでいいじゃありませんか・・・」

俺たちは苦笑するしかなかった・・・