「柱の間」・・・人数の少ない天使連盟メンバーの中で、さらに一部の者しか知らない場所。

俺は狩りに行く前などに時々ここに訪れ、無事を祈ったりする。

そして今も、この場所に居る。



中央にそびえる巨大な柱・・・そしてそれを取り囲むように何本かの柱が立っている。

俺は、そのうちの数本に目をやる。

あるものは上半分が折れて床に横たわっている。

またあるものは根元のあたりから折れ、大きな破片が残っている

立っていたあとはあるものの、原型を全くとどめていない柱もあった。



セラフィ:「兄さん・・・?」



不意に後ろ、入り口のほうから声がかかる。



 アル :「セラフィか。」



口調でもわかるが、この場所を知っているのは俺とセラフィだけだ。



セラフィ:「やはりここにいたんですね。」

 アル :「・・・あぁ。」

セラフィ:「また、狩りの無事を祈っていたんですか?」

 アル :「いや、今回は・・・何となく足が向いたんだ。」

セラフィ:「隠し部屋に足が向くというのは、いつもここに来ている証拠ですねw」



それに反応するでもなく、俺はセラフィに問う。



 アル :「セラフィ」

セラフィ:「はい?」

 アル :「お前もこの部屋の意味は知っていたな・・・ ここの柱が何を意味するか。」

セラフィ:「はい。 聖天使のマスターに任命され、ここに案内された時に聞きました。」

 アル :「今・・・俺に説明できるか?」



別に俺が忘れたわけじゃない。 セラフィが憶えているか確認するためでもない。



セラフィ:「・・・中央の主柱は連盟自体を象徴し、周囲の柱はそのメンバーを象徴する・・・」



ただ・・・今一度・・・



セラフィ:「周囲の柱はみな同じ。 マスターも、他のメンバーも区別はない。」



自分に言い聞かせたかったんだ。



セラフィ:「マスターといえど他のメンバーの上に立つ者ではない・・・でしたっけ?」

 アル :「あぁ、そうだ。 だが・・・マスターである以上は管理しなくてはならない・・・」

セラフィ:「そうですね・・・それによってどうしても『特別』となってしまう・・・」

 アル :「セラフィはよくここに来るのか?」

セラフィ:「えぇ、兄さんが見当たらない時に探しに来たり・・・」

 アル :「この柱達に・・・気付いていたか?」



そう言って、先程の折れた柱を指差す。



セラフィ:「・・・気付いていました。」

 アル :「そうか・・・」



それを聞いて、俺はセラフィに真実を伝える事を決めた。



 アル :「セラフィ・・・」

セラフィ:「はい」

 アル :「この部屋なんだが・・・実は・・・」

セラフィ:「?」

 アル :「『天使連盟』を表したものじゃないんだ。」

セラフィ:「え!? どういうことですか?」



これは俺しか知らないこと。 驚くのも無理はないか・・・



 アル :「考えた事はないか? この柱の数と、天使連盟のメンバー数の不一致。」

セラフィ:「確かに・・・柱のほうが多いですよね・・・」

 アル :「コレは・・・俺たちと同じ者達を表す柱なんだ。」

セラフィ:「私たちと同じ・・・?」

 アル :「そう、つまり・・・」



 二人 :『天の遺伝子・・・』



セラフィと声が揃ってしまった。



 アル :「主柱はほとんどただの支えに過ぎない。 周囲の柱は、天の遺伝子を持つ者の数だけ立っている。」

セラフィ:「じゃぁ、折れた柱は・・・?」

 アル :「なんらかの理由で命を落としたか・・・天の遺伝子を失った者だ。」

セラフィ:「まだ・・・この世界にこんなに・・・」

 アル :「・・・集めてどうしようというわけじゃない。 普通に暮らしていてくれればそれに越した事はないんだが・・・」

セラフィ:「ルーシィみたいな場合・・・ですか。」

 アル :「そう・・・だな。」



ルーシィを保護したときはセラフィと一緒だった。

セラフィもそのときのことを思い出しているだろう。



 アル :「皆が皆、力を制御できるとも限らない。 制御できても悪用する事もあるだろう。」

セラフィ:「そうですね。」

 アル :「力を封じる術も、俺が偶然見つけ出したに過ぎない。」



そう話している間に柱の一つにヒビが入った。



 アル :「・・・探しに行ってもそうそう見つかるものじゃない。 ルーシィの場合はわかりやすかったけどな。」

セラフィ:「周囲一帯がその話で持ちきりでしたからね。」

 アル :「うまく制御すれば奇特眼オッドアイも出ないからな。」

セラフィ:「私たちのように・・・ですね。」

 アル :「ルーシィは封印したし・・・」



俺は、あえてジュノとファルについては話さなかった。



 アル :「さて・・・そろそろ戻らないと皆が心配するな。」

セラフィ:「そうですね。 貴重な話が聞けてよかったです。」



セラフィは疑問に思わなかったようだ。

なぜ俺が「柱の間」の真実を知っているかということを・・・