アルが仕事でアルベルタに行くという。
仕事・・・というからには暗殺の依頼なのだろう。
兄弟たちに見せたくないのか一人で行きたがっていたが、結局観光&羽伸ばしに兄弟全員で行く事にした。
ジュノ :「ここ・・・ホントにアルベルタか・・・?」
アル :「あぁ、間違いない。」
メイアード兄弟・・・最近一人増えた5人組は、一人を除いてみな目が点になっていた。
いつもなら人通りも少なく、静かなはずの街中・・・
それがどうしたことか今日はどこもかしこもお祭り騒ぎ。
パンフレットなどを見ても、それらしきものは載っていない。
ルーシィ:「あぅっ!」
風に飛ばされて何かがルーシィの顔に張り付く。
ルーシィ:「ぅ〜・・・」
不機嫌な顔をしてそれを顔からはがし、ふと目を通す。
ルーシィ:「ますた〜・・・?」
アル :「ん?どうした?ルーシィ。」
ルーシィの差し出した紙切れを受け取ったアル
そこにはさながら24時間耐久サバイバルPVPとも読み取れる内容が書かれていた。
アルは号令を発する。
アル :「皆、ルーシィを中心に、囲うように展開。 直後、警戒態勢へ移行!」
3人はルーシィを囲い、守るように身構えた。
アル :「・・・お前たちは以後4人でまとまって行動する事。 戦闘となった場合、目標の撃破よりメンバーの安全を優先。」
身構えてはいるものの、3人はキョトンとしている。
アル :「俺は別行動で様子を伺う。 何かあったら逐一報告する事。 いいな?」
三人 :『・・・了解。』
暗殺者仕込みの戦闘警戒態勢。 アルに教育された3人は慣れたものであったが、状況が把握できない。
アル :「指示は以上。 みんな、死ぬなよ。 散開!!」
と言ったとたんに、アルは走り出し、あっという間に人ごみに紛れてしまった
セラフィは近接でなかなかの戦力になり、唯一治癒能力を持っている。
ファルのカートレボリューションは囲まれた時にその威力を遺憾なく発揮するだろう。
ジュノの弓攻撃の威力は目を見張るものがある。
この3人が一緒になれば、ある程度どんな状況でも対応できるはずだった。
しかし、ヘタに身動きが取れないような人ごみの中、
人に流されてファル&ジュノ・セラフィ&ルーシィの2組に分かれてしまった。
ジュノ :「くっ、これじゃマトモに動けない・・・」
ファル :「マズイかもな・・・セラフィ達は離れていくし・・・近づこうにも俺たちも流されてる・・・」
ジュノ :「あの2人じゃ戦闘はキツイだろ・・・」
セラフィ:「にいさ〜ん!! はぁ、あんなに遠くなっちゃった・・・ 大丈夫ですか? ルーシィ」
ルーシィ:「ん・・・だいじょぶ。 でも、私たちだけじゃ戦闘は・・・」
セラフィ:「そうですね・・・ !?」
セラフィの表情が、困惑から一瞬驚きへと変わる。
ルーシィ:「どうしたの? おね〜ちゃん・・・」
セラフィ:「い・・・いえ・・ちょっと・・・」
ルーシィ:「?」
(痴漢!?・・・この人ごみに紛れて・・・なんてことを・・・)
セラフィ:「ルーシィ」
ルーシィ:「ぅ?」
セラフィ:「ちょっと・・・ムチャしますから。 ついてきてください。」
ルーシィ:「え? あぅ!?」
セラフィは自分とルーシィに速度増加をかけ、はぐれないように手を引き、強引に人ごみをかきわけて歩き出した。
一本裏にはいると、一気に人気がなくなり、あたりが開ける。
すると、背後からセラフィ達に向けて声が放たれる。
男 :「よぉ、そこの金髪のアコさん。 さっきはど〜も♪」
見知らぬ男だった。 その男に何かをした覚えもない。
セラフィ:「どちらさまですか? さっき・・・あなたに何かをした覚えはないのですが・・・」
セラフィの言葉を遮るように男が喋る。
男 :「キミ・・・なかなかいい身体してるね・・・」
セラフィ:「あなた・・・だったんですか? 私に痴漢を働くとは、なかなかいい度胸をしていらっしゃいますね。」
セラフィの言葉に、明らかに怒気が含まれていた。
目線と手振りで、ルーシィに「少し下がって」と伝える。
わかってくれたようで、ルーシィはセラフィから離れた。
男 :「そんな怖い顔しないでさ・・・ 俺と楽しいことしようぜ?」
セラフィ:「お断りします!」
男 :「そんなこと言わずに・・・さっ!!」
セラフィ:「きゃぁ!?」
ドンッとセラフィは男に突き飛ばされ、建物の壁に背中がつく。
前からは男が迫ってくる・・・
ファル :「セラフィ達・・・無事かなぁ・・・」
完全に姿を見失い、困った表情のファル。
ジュノ :「まぁ、大丈夫だろ。 セラ姉ぇだしな。」
何の根拠があってか、心配などカケラもしていそうにないジュノ。
ファル :「ジュノは心配じゃないのかよ・・・ アコと駆け出しシーフのコンビだぜ? それに・・・」
何かを言いかけたファルの言葉はジュノの言葉によって止められた。
ジュノ :「まぁ、とりあえず裏道に入らないか? そろそろうっとうしくなって来た。」
ファル :「あぁ・・・そうだな・・・ 一本裏に入ろう。」
ファルとジュノが裏道に入ったとたんに、かすかに悲鳴が聞こえる。
ファル :「今の・・・」
ジュノ :「こっちだ!」
ジュノが指差した方向に2人で走る。
遠くに、男に絡まれている金髪アコを見つけた。 顔は判別できない。
ファル :「ジュノ・・・あれがセラフィだったらどうする・・・?」
ジュノ :「セラ姉ぇだったら・・・?」
ジュノはその後の展開を想像して思わず吹き出す。
ファル :「笑える状況じゃないだろ!! とにかく、急ぐぞ!!」
ジュノ :「ハイハイ・・・」
ファルは、セラフィが殴りアコであることを知らなかったのだ。
セラフィ:「やめてください!」
迫ってくる男に向け、セラフィが言い放つ。
男 :「いいじゃんかよ・・・あそこのシフも混ぜてヤるからさ・・・ 楽しもうぜ?」
そう言われ、ふとルーシィの方を見ると、すっかり怯えていた。
その間に男はすでにセラフィの眼前に迫り、その手が伸びてくる。
セラフィ:「いやっ!」
男 :「そんな嫌がるなよ・・・キモチいいぜ? 多分・・な。」
男の手がセラフィの腰に触れたそのとき。
ファル :「ちょっと待てやおらぁぁぁ!!」
すごい勢いでファルとジュノが走ってきた。
こちらの顔が判別できたらしく、ファルはもうすっかり戦闘態勢だ。
それに比べてジュノは、全力で走ってはいるものの、心配するどころかクスクス笑っている。
ファル :「ジュノ! なんで笑ってるんだよ!! やっぱアレ セラフィじゃんか!!」
ジュノ :「あの男・・・よりによってセラ姉ぇにねぇ・・・クスクスw」
男 :「ちっ」
男はセラフィの手を引き、連れて逃げようとする。
が、いくら引いてもセラフィはその場から動かなかった。
驚いて男はさらに力をこめて引くが、それでも動かない。
パキン・・・
セラフィは、自分の中で何かが壊れるのを感じた。
男 :「え?」
男は握っていた手を思い切り引かれ、バランスを崩してよろめく。
セラフィ:「いやだ・・・って・・・・言ってるだろうがぁぁぁ!!!」
トゴッ バカァン・・・ガラガラ・・・
セラフィの渾身のパンチが顔にめり込み、フッ飛ばされて後ろの木箱の山に突っ込む。
意外とモロい木箱だったようで、壊れてショックを吸収したおかげで、男への衝撃も思ったほどではなかったようだ。
セラフィ:「まだ・・・やりますか・・・?」
ニッコリ笑ったセラフィの表情がよけいに恐怖心を駆り立てたらしく、男は一目散に逃げだした。
セラフィ:「ふぅ・・・ ルーシィ? もう大丈夫ですよ。」
ルーシィを呼び、抱き寄せ、なだめるセラフィの姿は、まるで母のような優しさを湛えていた。
ファル :「セラ・・・フィ?」
セラフィ:「あ、兄さん達、いつからそこに?」
ファル達の存在に気づいていなかったらしく、きょとんとしている。
ジュノ :「ファル兄、俺があまり心配しなかった理由がわかったか? セラ姉ぇは殴りアコなんだよ。」
ファル :「・・・あぁ、よくわかったよ・・・」
セラフィ:「私はなんのことかイマイチよくわかりませんが・・・とりあえず合流できてよかったです。」
ファル :「そ、そうだな・・・」
セラフィにはあまりちょっかいは出すまい・・・と、ファルは心に決めた。
しばらく後にアルから連絡が入り、兄弟たちはアルベルタを後にする。
アルの表情はひどく沈み、戦闘態勢でもないのに殺気立っていた。
兄弟たちはその殺気に圧されて、何があったのか尋ねる事すらできなかった。