それはファルがプロンテラを歩いているときのことだった。
いつものように、威勢よく飛び交う商人たちの客引き文句。
その中でも一際大きな声で客引きをする商人がいた。

 商人 :「さ〜、いらはいいらはい! 見るだけならタダや〜!!
      花びらに草の葉、幻想もありまっせ〜!!」

少し離れたところを歩いていたファルの耳にも、
街の雑踏に埋もれることなくハッキリ聞こえてくる。

 ファル :「花びら・草の葉・幻想、か・・・ たしかアレは・・・」

何かを思いついた様子で、その商人に近づくファル。

 ファル :「威勢いいね〜」
 商人 :「あたりまえや! こないなトコでボソボソしゃべっとって、
      そこら歩いとるモンに聞こえるワケあるかいな。」
 ファル :「ま、それもそ〜だw」
 商人 :「ところであんちゃん、ウチの声聞いて来たんか?
      それとも・・・ひやかしか?」
 ファル :「いや、ちょっとイイ稼ぎがあったんで、何か買おうかとね。」
 商人 :「ほんまか!! なになに? 何を買うてくれるん?」
 ファル :「コイツをひとつ、貰おうかな。」
 商人 :「はいよ。あんちゃん、見た目どおり変わった趣味しとるなぁ・・・
      それとも、ひょっとして、コレか?」

そう言って、小指を立てて見せる商人。

 ファル :「残念ながら。あいにく、俺にはそういう相手はいないよ。
      まぁ、ちょっと思うトコロがあってね。
      それから・・・一言多いぞっと。」
 商人 :「ハハハw まぁ、ええやないのw ホイ、コレな。」
 ファル :「サンキュ。」
 商人 :「ほな、また何かあった時は、よろしゅうなw」
 ファル :「あぁ、こちらこそw」

露店を後にし、購入したものをを見ながら歩くアル。
しばらくすると・・・

 商人 :「あんちゃん、がんばりや〜!!」

さっきの商人がファルに向かって叫んでいた。

 ファル :「ったく・・・そんなんじゃないって言ってんのに・・・」

後ろを振り向きもせずにそうつぶやき、困ったように笑顔を浮かべる。

 ファル :「まぁ、アイツには似合う・・・かな。」

買った物を丁寧にカートに入れ、ゲフェンに戻る。

 アル :「いいものでも見つかったか?」
 ファル :「まぁ、ちょっとな。」

一家のサイフとなっているファル。
しかし、生活備品や食材の調達はセラフィに一任されているので、
ファルがプロンテラに行く時というのは、いわゆる"レアモノ"を見に行く時だ。

 ファル :「また少し、出かけてくる。」
 アル :「あぁ、わかった。気をつけるんだぞ。」
 ファル :「狩りに行くわけじゃないし、大丈夫さ。」
 アル :「そうか。」

会話もそこそこに、イソイソと家を出るファル。
向かった先は・・・

アルゼン:「やぁ、よく来たね。何か作るかい?」
 ファル :「あぁ。コレをお願いするよ。」

ファルは、さっき露店で買ったモノと、その他の材料を渡した。

アルゼン:「わかった。ちょっと待ってておくれ。」

シャク・シャク・・・

アルゼン:「お待たせ。これでよかったかい?」
 ファル :「ん、間違いない。」
アルゼン:「それから、これは作るときに余ったものだ。君に返すよ。」
 ファル :「あ、あぁ・・・ありがとう。」
アルゼン:「僕の作れるものが欲しくなったら、またおいで。」
 ファル :「そうさせてもらうよw じゃ、また。」

アルゼンに作ってもらったものを、今度はカートには入れず、手元のアイテムポーチに入れた。

 ファル :「あとは、あそこで・・・」

再びプロンテラに向かうファル。
そして、いつも露店を出す位置にしゃがみこむ。
ファルがこの位置に座ると、必ず・狙ったかのように現れる人物が一人。

????:「あ・・・」
 ファル :「お」

女商人"あぷり=こっとん"であった。
しかし、いつもと違ってファルの姿を見るやいなや、そそくさと姿を隠してしまう。

 ファル :「あぷり、隠れてないで出てきなよ。」
 あぷり :「・・・・・・いや、です。」
 ファル :「そっか・・・じゃぁ、"あの時の路地裏"に行ってくれ。俺もすぐに行く。」
 あぷり :「わかりました・・・」

あぷりの後ろ姿を確認し、ファルも路地裏に入る。
少し気まずい雰囲気の中、先に口を開いたのはあぷりの方だった。

 あぷり :「本日は、露店は開かれていないようでしたけれど・・・」
 ファル :「あぁ。今日は露店が目的じゃないんだ。」
 あぷり :「では・・・」
 ファル :「ここに来れば・・・」
 あぷり :「・・・?」
 ファル :「ここに来て座り込めば、俺の待ってる人が来ると思ってね。」
 あぷり :「ファルスト様・・・それは・・・?」
 ファル :「もちろんキミのことだよ、あぷり。
      キミに話があって来たんだから。」
 あぷり :「あの日から毎日・・・待っておりました。この場所で、ずっと。
      ファルスト様に会えると信じて。
      ファルスト様が走り去ってから1週間、ずっと待っておりました。」
 ファル :「そっか・・・」
 あぷり :「いろいろなことを考えておりました。
      ファルスト様との出会いから、わたくしが思いを告げるまでのこと・・・
      ファルスト様が走り去ってしまってから、本日までこちらに来なかったこと・・・」
 ファル :「それは・・・ごめん。」
 あぷり :「お話というのは・・・お返事ですよね。
      ファルスト様のお返事、聞かなくてもわかります・・・
      やはり私など・・・」
 ファル :「はい、そこまで。」
 あぷり :「?」
 ファル :「俺はまだ、何も返事はしてないよ?」
 あぷり :「しかし・・・」
 ファル :「とりあえず・・・あぷりにコレを・・・」

すっ・・・とあぷりの頭に手を伸ばし、そっと引っ込めるファル。

 あぷり :「え?」
 ファル :「ちょっと・・・待っててくれ。」

ごそごそと手元を漁り、鏡を取り出してあぷりに向ける。

 あぷり :「これは・・・"花のかんざし"・・・?」
 ファル :「キミに・・・似合うと思って。」
 あぷり :「ファルスト・・・様・・・?」
 ファル :「思ったとおりだ、よく似合ってる。」
 あぷり :「あ、あの・・・なぜ、わたくしにこのような物を・・・?」
 ファル :「まぁ、ちょっと他意が込められててね・・・」
 あぷり :「他意・・・とは?」
 ファル :「例の、返事。OKだよ・・・って。」
 あぷり :「!?」
 ファル :「キミみたいなドジっ娘、放っておいたら危なっかしいしな。」
 あぷり :「ファルスト様ぁっ!!」

突然ファルに飛び掛り、そのまま抱きつくあぷり。

 あぷり :「ありがとうございます! 本当に・・・ありがとうございます!!」
 ファル :「実を言うとさ・・・俺もキミのこと、ちょっとイイなって思ってたんだよ。
      キミに告白されたとき、ホントはすごく嬉しかった。
      だけど、あの時はまだ問題があった・・・ いや、あるはずだった。
      でも、始めから問題なんてなかったことがわかったんだ。
      ちょっと、複雑な心境だけど・・・」
 あぷり :「ふえぇぇぇ・・・ファルスト様ぁ〜」
 ファル :「おいおい・・・泣くようなコトじゃないと思うけど・・・?」
 あぷり :「は、はいっ・・ぐすっ。」

ファルのシャツで涙を拭い、顔を上げるあぷり。

 あぷり :「ファルスト様っw」
 ファル :「ん?」
 あぷり :「これからは・・・今まで以上に、よろしくお願いいたしますっ!」

間近でファルを見上げる満面の笑み。
改めて見たファルは、その"かわいさ"と"状況"にたじろぎかける。

 あぷり :「もっと"イロイロと"お教えくださいねw」
 ファル :「ぁ・・・まぁ・・・お手柔らかにw」
 あぷり :「では・・・参りましょうか。」
 ファル :「参りましょうかって・・・ドコに?」
 あぷり :「決まっているではありませんか。 ファルスト様のお住まいに・・・です///」

照れながらうつむいてしまうあぷり。
その行動を見て、あぷりのことをいっそう愛おしく思うファルであった。