諸行無常



 贅沢とか、無駄とか言われるのだが僕は勤務している病院から徒歩10分のとこ ろに住んでいるにもかかわらず車で通勤している。冬の朝が寒いのが当り前なの だが、駐車場に行くと、我が愛車のミニクーパーのフロントグラスに霜と言おう かほとんど氷がはっている。エンジンをかけてDEFにして氷が溶けるのを待って いると10分以上も必要となる。寒ければ寒いほど、フロントグラスの氷を溶か すのに時間がかかる。朝急いでいる時に、駐車場で時間を無駄にするわけにもい かないので、寒い朝は車で出勤することを諦めて歩いて出勤することになる。
 家から病院までは田んぼの中の畔道を歩けば近道となる。そこを白い息を吐きな がら歩くと右手に少し昇った太陽があり、左手にはマバラに雪をかぶった大山と その後ろには富士山の頂上がわずかに顔を出している。畔道の真ん中で足を止 め、朝日に照らし出された冬の大山を眺めるのはまた格別なものである。
 ふと足元に視線を落とすと、そこには秋に刈り取られた稲の残りが散らばってい る田んぼが一面に見える。冬の日の昼間に見る田んぼは、決して奇麗なものでは なく、ただ無味乾燥としているだけのものである。しかし、今日のような寒い朝 は、その田んぼにも薄霜が降りていて、朝日をはね返しキラキラ輝いていた。
 「奇麗だな!」と僕は思わずため息をついた。そして、たまたま持ち合わせてい たカメラで薄霜の降りた田んぼの写真をとった。こんなに冬の無味乾燥とした田 んぼが奇麗に見えるのは、もうほんの少しの間だけである。なぜなら太陽がもう ちょっと高く昇れば気温も上昇し、霜はあっという間に溶けてしまうからであ る。

 この世の中に存在する全ての物質や出来事は、常に「今のまま」ということがな い。田んぼだっていつまでも霜が消えずに今のままであれば、いつまでも奇麗で あるのに..。
 朝日を背中に浴びて畔道でしゃがみこみながら、これが「諸行無常」ということ なのかと、妙に納得している自分がおかしく思えた。
そして駄作を一つ
   「冬の田は ひと時ながら薄化粧 朝日に霜の消えぬ間は」
さあ今日も一日頑張って仕事をしましょうか!