ゴキブリとオゾン層



 病棟の看護婦休憩室で看護婦さんがゴキブリの話をしていた。もちろんゴキブリ が可愛いという話題ではなく、天下の嫌われ者ゴキブリの悪口や、その退治の騒 動記等であった。明るい太陽のもと、花から花へ飛び交う蝶々を見て奇麗だと か、収集して見たいと思う人はいても、夜な夜な、暗い台所の奥でごそごそ動き 回るゴキブリを可愛らしいと思う人はほとんど居ない。
 ゴキブリは、色が黒く、 油ぎった甲羅のような羽を持ち、太陽の光を避けるようにして夜活動をし、しか もすばしっこく、なんとも不気味な存在である。彼等も好きでそんな格好をして いる訳ではなく、できれば皆に好かれる蝶々のようになりたいと思っているかも しれない。べつに僕はゴキブリが好きな訳ではないのだが、彼等にも自分たちの 風体や行動に対して言い分があるので、少々代弁させて頂こうと思う。

 話はざっと10億年近く昔の地球になるのだが、其の頃地球はやっと海ができ、 空気中にはまだ酸素はほとんど無くそのかわり二酸化炭素が大部分を占めていた らしい。太陽はぎらぎらと輝きながら動植物に有害な紫外線をばらまいていたの で、直射日光をまともに受ける地上に動植物は生息することができなかった。そ こで水が紫外線を遮断してくれる水中に生息する藻などの海草類がまず現われて 繁殖することになった。
 これらの水中植物は水中で紫外線のとりのぞかれた太陽の光と二酸炭素をもとに 光合成を行い酸素をつくり、気の遠くなる年月をかけて空中に酸素を備蓄したわ けである。
 やがて、空中の酸素濃度が約1%となった4億年前に、酸素原子が3個連なり地 上約20Kmにオゾン層を形成し地球を取り巻くようになった。オゾン層が地球の 生物に対して行った最大の役割は紫外線の遮断である。オゾン層は有害光線であ る紫外線を取り除くために地球全体を被っている保護バリアーなのである。そし てオゾン層ができたことによって4億年前生物はようやく海中から地上に上がっ てくることが可能となった訳である。
 しかし、その頃は今より紫外線の量は何百倍も多かったので、紫外線の恐怖にお ののきながら、こわごわ上陸して来たのだろう。まず最初に上陸した生物は、昼 間はなるべく穴の中などに身を潜め、太陽が沈んだ後の夜活動をする習性を身に つけ、直射日光に当たっても紫外線から身を守るため甲羅や固い羽などで体全体 を遮光した。そんな動物の典型がゴキブリなのであり、現在地上に降り注ぐ紫外 線の数百倍を受けても生きていけるようになっている。

 太陽の光はオゾン層があって紫外線が遮断されれば、我々陸上生物にエネルギー の光となるが、もしもオゾン層がなければ我々人類にとっては紫外線を含んだ殺 人光線となる。つまりオゾン層の有無により太陽光線は薬にも毒にもなるわけで ある。ところが人間はフロンガスなど多くの化学物質で大切なオゾン層を破壊し ている。ゴキブリを見ると気持ち悪い奴だと思うと同時に、オゾン層をはじめと する地球の環境破壊を進行させている人類の愚かさを感じるしだいである。

     ....地球に優しく、オゾン層を大切に!.....