将棋トップへ
 めんこ

 『めんこ』は戦後間もない頃の子供の遊びの中で、 『ビー玉』と共に双璧をなしていたと言ってよいでしょう。 当時の田舎の農家の子供は現在のように定期的に小遣いをもらえる状況ではありませんでしたが、 手伝い等で得た僅かな小遣いを割いてめんこやビー玉を購入し、 至る所で遊んでいたものです。
 めんこもビー玉も基本的には勝負事であり、 勝てば相手の所有品を自分のものにすることが出来ました。 子供の遊びではあっても技量の差ははっきりと現れ、 強い者はいつも勝ちまくり、下手な者は巻き上げられるのが常でした。 こう言うと弱い者はたちまち小遣いが底を突いてしまうような気もしますが、 そうならなかったのは勝ったからと言って一方的に取り上げるようなことが無かったためでしょう。 相手が手ぶらになってしまえば遊び相手がいなくなってしまいますから、 大勝ちした時には一部を相手に返したと記憶しています。 勿論、めんこで言えばお気に入りの絵柄の物は手元に残し、 興味の無い絵柄のめんこを返すことになりますが。 孫子で言うならば「勝を八分」に収めたことになり、 大人の資本主義社会のように相手を壊滅させるようなことは無かったのです。 遊びの共存を図ると言うことで考えれば、 当時の子供の方が賢明であったのかもしれません。
 
 子供の頃からある仏壇の引き出しを整理していたら、 右のような『めんこ』が1枚だけ出てきました。 恐らく50年近く経っているかと思いますが、 日に当たっていないせいか印刷は綺麗なままで残っていました。 綺麗とは言っても当時の子供向けのめんこですから、 印刷の技術は現在とは比べ物になりません。 多重刷りの印刷は色がずれているし、 切り抜きも大きくずれて隣の絵柄が入り込んでいます。 現在ならば不良品ということになるのでしょうけれど、 当時の子供たちはそんな細かいことは気にしませんでした。 収集品として見るならば欠陥品ということになるかもしれませんが、 実用品として遊ぶ上では何ら問題にならなかったからです。 切手等では印刷ミスの製品が高値を呼ぶことも多いようですが、 めんこではこの程度の印刷のずれはむしろ当然とも言えるものでしたから、 収集品として価値が上がるようなことも無いでしょう。
 
 めんこの遊び方には何種類かあるようですが、 私達が主に行なっていたのは地面に置かれた相手のめんこに対し、 自分のめんこを近くに叩き付けてひっくり返せば勝というものでした。 風圧によってめんこをひっくり返すことになるので、 地面とめんことの隙間が大きいほど成功する可能性が高まります。 殆どの場合任意の方向からの攻撃が可能なので、 めんこの全周を調べて隙間の大きい箇所を探し当てるのも技量の一つでした。
 この遊び方は3人以上の多人数でも遊ぶことが出来、 攻撃に成功すれば何度でも続けて攻撃することが出来ます。 一見先に攻撃する方が有利にも思えますが、 最初にめんこを置く時には地面の状態を良く観察し、 地面との間に隙間が出来ないよう凸凹や小石等が無い場所を選びます。 これに対して攻撃のために地面に打ち付けためんこの場合には、 手を離れれば制御は出来ないのでどのような状態で残るか分かりません。 簡単にひっくり返ってしまうような状態になることは滅多にありませんが、 やはりある程度は抵抗力が小さくなる欠点は避けられません。
 めんこの打ち付け方は自由ですが、 私たちは右の図のような方法を多用していました。 右利きならば右足の直ぐ内側に目標とするめんこが来るように位置し、 右手に持っためんこを左肩の上の方から斜めに振り下ろし、 目標の少し内側に打ち付けます。 めんこと靴との相対位置、めんこを打ち下ろす角度等は試行錯誤を繰り返し、 自分の体で覚えるしかありません。
 この方法でめんこが返りやすくなる理由は、 打ち付けためんこによって発生した風圧が、 足に当たってより強くなるためではないかと思います。 勿論競技をしている子供たちにとっては理由まで知る必要は無く、 実用的な効果があるかどうかが重要でした。 それ程高度な技とは思っていませんでしたが、 中には高学年になっても出来ない人もいました。
 めんこの大きさは様々でしたが、 余りにも大きなものはどうやっても返せないので、 裏にコールタールを塗っためんこと共に使用禁止となる場合が多かったと思います。 コールタールを塗ると重くなるので、 余程運が良くない限り返すことは出来ませんでした。
 最後にこの競技での反則技を二つほど紹介致しますが、 相手に分からないように用いるには熟練した技術が必要です。 その一つはめんこを打ち付けた時に指で目標のめんこに触れ、 指で返してしまうと言うものです。 この場合には前述したような攻撃ではなく、 右手を右側から振り下ろす攻撃方法となります。 もう一つは上記の方法で足(靴)を極端にめんこに近付け、 めんこの端を少し踏んで反対側に隙間を作るという方法です。 何れの方法も相手に気付かれないように実施する必要がありますが、 私は二つとも会得することが出来ませんでした。
 
 前記の競技の他に良く遊んだのは、『丸出し』と言う競技でした。 これは地面に書かれた円の中にめんこを置き、 自分のめんこを当てて円の外に出せばそのめんこを貰えると言う競技方法です。 地面に書く形は円でなくても良いのですが、あるいは土俵に見立てていたのかもしれません。 めんこには丸い物の他に長方形で厚紙を使ったものもありますが、 『丸出し』の場合にはこのめんこが良く使われていました。 攻撃に失敗して自ら円の外に飛び出してしまった場合には、 攻撃者のめんこは狙った相手のものになってしまいます。 薄いボール紙で出来た丸めんこは当てにくいので、 確実に当てられる長方形めんこが好まれたのです。
 丸出しの大きな欠点はめんこが円の外に出たかどうかの判定で、 どちらとも取れるような状況は珍しくもありませんでした。 この欠点をなくすために机の上面を使ったり、 ベーゴマのようにバケツに何かをかぶせて競技場とすることもありました。 この場合には落ちれば外に出たことになるので、 客観的に判定を出せる利点がありました。

 将棋トップへ