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 将棋順位戦

 3月4日、A級順位戦の最終局が終了した。 一部の対局はNHKの放送時間外に決着が付いてしまったが、 最後に残った佐藤−藤井戦は目の離せない一局であった。 毎年悲喜こもごもの順位戦であるが、 今回はこの順位戦に関する私見を紹介したい。
 
 順位戦は将棋界独特のものであり、 一部には順位戦制度に対する批判もあるようだが、 私は勝負の厳しさを持続する上で有意義な制度であると思っている。
 A級順位戦は他棋戦で言うならば名人挑戦者を決めるための最終選考であり、 B級1組以下の各級はその予選と見なすことが出来るだろう。 順位戦では上の級に進むことによって昇段出来るわけだが、 定められた勝数によって昇段出来るよう規定が改正された現在においても、 順位戦昇級による昇段はまた格別なものではないかと思われる。
 かつては名人戦だけだったタイトル棋戦も少しずつ増えてきて、 現在では賞金総額の影響で竜王戦のタイトルが最高位とされているようである。 しかし私にとっては最高のタイトルはやはり名人であり、 その理由は単に歴史が古いと言うだけのものではない。
 竜王戦のような対局形式では、 一時的にでも調子の良い者が挑戦者となり、 タイトルを獲得することも不可能ではない。 悪い言い方をすれば『まぐれ』でタイトルを獲得することも有り得る訳で、 確実に実績を積み重ねていかなければならない名人戦とは大きく異なる。 一時的な好調だけでは獲得することの出来ない名人戦の重みと言うものは、 賞金総額では多いと言われる竜王戦を上回るものであると思うのである。
 ただし順位戦及び名人位を重要視するとは言っても、 決して竜王戦を軽んじている訳ではない。 竜王戦の対局形式は独特の工夫を凝らしており、 将棋と言うゲームが色々な駒から成り立っているように、 棋戦も色々な形式があった方が望ましいと思っている。 王将戦の三番手直りの指し込み制も、 是非復活して欲しいと思っているのだが・・・
 
 さて、A級順位戦は名人と言うタイトルへの挑戦者決定リーグでもある訳だが、 他の棋戦同様成績の悪い者はリーグを去らなければならない。 この点に関しては他の棋戦と同様なはずであるが、 A級リーグを去る場合と他の棋戦の決勝リーグを去る場合とでは、 どの棋士も精神的に大きく異なっているようである。 在籍する順位戦の級によって給料や対局料が異なるとも聞いているが、 誰しもがそれ以上にA級リーグの重みと言うものを意識しているためかと思われる。
 A級リーグを去る者、即ち降級者は成績の悪い者2名であり、 絶対的な成績によるものではなく、相対的な成績によって決定される。 勝率が同じ場合にはリーグ内での順位で決定されるが、 このシステムはB級1組以下の各級でも同じであり、 昇級者に関しても同じ理論によって決定されている。
 相対的な成績であるが故に降級者の勝率は年によって異なり、 今期のA級では4勝5敗の深浦八段が降級となっているが、 運が良ければ2勝7敗の成績で降級しない場合もあり得る。 これは同じシステムで決定される昇級者の場合も同様であり、 8勝2敗で上がれる場合もあれば、9勝1敗で上がれないこともある。 一見不合理な感じがするかもしれないが、 重要なことは成績が上の者が下の者を飛び越えて落ちることは無く、 下の者が上の者を飛び越えて上がることは絶対に無いと言うことである。
 凡そ人間の組織と言うものを見回してみても、 これほどまでに昇級(=昇進)規定が明確にされている組織が存在するだろうか。 最近では 実力主義とか 実績重視とか言われるようになってきたが、 勝負事の成績ほど数値化して明確に評価することは不可能であろう。 例えばセールスマンの場合には売上実績で評価することも可能ではあろうが、 それだけで評価していると負の副作用が蓄積されることになる。 公害の殆どは企業利益や経済成長と言った正の部分だけを重視し、 廃棄物の処理と言った負の部分を無視し続けた結果の産物であると言えよう。 企業における優秀な成績とは何かと考えた場合、 その結論は将棋の勝敗ほど明確に出るものではないだろう。
 更にあらゆる組織内において、コネや閥が完全に排除されることも無いであろう。 多くの場合コネや閥の影響は勤務実績を上回るものであり、 成績の劣る者が優っている者を飛び越えて昇進するのは珍しいことではない。 勿論企業がそのようなことを公表することはないし、 質問されても否定するだろう。 コネや閥の有無についてどのように判断するかは個人の自由であるが、 将棋の成績に存在しないことは明らかであろう。
 4勝5敗でA級から陥落してしまうのも、 9割の勝率を上げながら昇級出来ないのも不運なことではあろう。 しかしながら将棋界では下位の成績の者が上位の者を追い越すことは無いのだから、 他の世界よりはずっと公平であると言うことが出来よう。
 
 厳しいと言われる将棋順位戦も、 他の世界に比べれば公平さで大きく優っていると言うのが私の意見であるが、 改善すべき余地が無いと言う訳ではない。
 その方法の一つは、進学指導等では余り評判の良くない偏差値の利用である。 現在のような相対的な成績評価によって昇降級者を決めるのではなく、 定められた偏差値を越えた者を昇級又は降級させるというシステムである。 この場合には昇降級者及び各級の在籍人数にある程度の幅を持たせる必要が生じるが、 具体的な人数に関しては十分に検討してから決定すれば良いことである。 それでも多少の運不運は付きまとうことであろうが、 現在の制度よりは運の要素は減るものと思われる。
 A級やB級1組は総当りなので、人数が変れば対局数も変ることになってしまうが、 それが大きな問題になるとは思われない。 それよりもB級2組以下は抽選によって対戦相手が決まることになっているので、 対局数を増やすなどして運の要素を減らすようにすべきであろう。 今期のC級2組の在籍者は47名であるから、 僅か10局しか指さないで昇級者を決めると言う現在の方式では、 対戦相手によって結果が左右される可能性も存在し、 現行制度では納得出来ない者も多いのではないかと思われる。
 人数が増えたのなら新たにC級3組、あるいはD級を新設することも考えられるが、 この場合には四段昇段からA級へ進むまでの最短期間が、 どうしても一年延びると言う新たな欠点が発生する。 しかし特に秀でた偏差値の者は1級飛び越して直接C級1組へ進み、 それに続く成績優秀者は1つ上のC級2組に進むと言う形式も考えられ、 この場合には名人への最短期間は現状と同じことになる。
 
 順位戦の制度は将棋連盟に所属する棋士、 あるいは主催新聞社である毎日新聞の関係者が決めれば良いことであるが、 このような方法もありますよ、と言うことで紹介した次第である。

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