わしが初めて買ったパソコン、それがMZ−1500じゃ。いわゆる8ビット機で、
メインメモリーが64KBと、今から見ればおもちゃのようなパソコンかも知れん。
だがわしにとっては思い出深いパソコンであり、当然今でも持っている。
製造メーカーであるシャープの謳い文句は「トライアングル設計」で、
MZ‐1500は小なりと言えども優れた設計思想を持ったパソコンであった。
トライアングルの第1はQD(クイックディスク)の標準装備で、
当時はまだ外部メモリーはカセットテープが主流の時代であった。
5吋のFDDを搭載したパソコンも出現してはいたが、
それだけで価格は大幅な上昇となっていた。QDはFDと比べれば使い勝手は劣るが、
手頃な価格でカセットテープよりは遥かに便利なものだった。
QDはカセットテープをディスク状にしたようなもので、
ファミコンのソフト供給にも用いられていた。FDのようにランダムアクセスとせず、
シーケンシャルアクセスで我慢することによって、安価に製造できたものと思われる。
QDの容量は片面64KB、裏返して使って両面で128KBである。
QDはシーケンシャルなので、FDのように自由にデータの書き換えが出来ない。
その欠点を補っているのが第2の特徴であるRAMファイルの搭載である。
RAMファイルはRAMディスクとも呼ばれているが、
名前の通りRAMを外部メモリーとして使用するものである。
RAMなのでFDより処理速度は速いが、電源を落とせばデータは消えてしまうので、
その前にQDに書き込んでおく必要がある。容量はQDと同じ64KBなので、
両者を併用することにより、互いの欠点を補い合うことになる。
RAMファイルはプリンタバッファとしても使用できたが、
このような思想は当時のパソコンにおいては驚異的なものであったと言って良いだろう。
ただ一つの難点は、標準装備ではないので更なる出費となることであった。
市販ソフトを使うだけなら必要ないが、プログラム自作派には必需品であった。
トライアングルの最後はクリーンコンピュータで、
この思想はそのまま現在のパソコンに受け継がれている。当時のパソコンの殆どは、
パソコンの標準言語とも言うべきBASICをROM化して搭載していた。
しかし本機の場合にはBASICもQDから読み込むようになっており、
市販のアプリケーションソフトを使う場合には、
64KBのメインメモリーをフルに活用することが出来た。
BASICをROM化した理由は、テープから読み込んでいたのでは時間がかかるためかと思われる。
そしてFDが使えるようになっても、従来のユーザーを考慮してROM化したまま変えなかったのだろう。
しかしMZの場合は前機種のMZ‐700でもテープで供給しているので、
この辺りはメーカーの方針かも知れん。
MZを購入するきっかけは趣味からではなく、仕事を進める上で買うことになってしまったのだ。
統計処理をしなければならないのだが、手作業でやっていたのではとても人手が足りない。
そこでパソコンを使うことになったのだが、自衛隊ではパソコンなんて置いていなかった。
しかも予算は皆無で研究を進めろと言うのだから、
役所仕事にしてもお粗末な計画であると言わざるを得ない。
幸いわし自身もパソコンに興味を持っていたので、個人用として購入し、
それを仕事でも使うことにしたのだ。
機種としてはFDD搭載機が欲しいのは当然であるが、
当時はディスプレイも含めて店頭価格が30万以上していたと思う。
そんな時に目にしたのがMZで、RAMファイルを含めても総額15万程度で入手できたと記憶している。
FDD搭載機に比べて多少使い勝手が劣るにしても、やはり半額で購入できたのはありがたかった。
MZ‐1500は本体とキーボードが一体化しており、重量も5s程度なので持ち運びは容易である。
ビデオ端子に繋げば一般のテレビでもモニターとして使用できるので、
購入したディスプレイは職場に置き、本体だけ家に持ち帰ってプログラムの作成を進めることが多かった。
右図はイメージキャラだった倉沢淳美嬢だが、肖像権の問題についてはご容赦願いたい・・・
RAMは64KBの容量があったが、
BASICを読み込むとユーザーエリアは23KB程度になってしまう。
しかしこんな時もクリーンコンピュータの強みで、BASICの一部の機能を削除することにより、
数KBユーザーエリアを増やすことが出来た。
それでもまともにプログラムを組んだのでは、全く容量が足りなかったのだが。
分析内容を簡単に説明すれば、100個の中から任意の2個を取る組み合わせ、
と言うことになるのだが、変数の数は5千個にも及ぶ。数値変数には実数型しか使えなかったので、
それだけで25KBのメモリーが必要になってしまう。
で、この辺りがプログラミングの面白いところで、出現頻度等を推測しながら、
限られたメモリーの範囲内で完成させることが出来た。
プログラム容量を如何に小さくするかも職人芸みたいなもので、苦労と言えば相当な苦労であったが、
プログラミングはどんなゲームよりも面白いと言うことも出来るのである。
MZにはオプションでボイスボードを装着することも出来た。
ゲーム用として使うのが主体であったかもしれないが、
実用ソフトでも使い方次第で大きな効果を発揮することが出来た。
統計処理では数値を単調に入力して行くので、得てして入力ミスを犯しやすい。
そんな場合にも入力データを読み上げ、かつ入力の確認を知らせてくれるので、
非常に使い易いプログラムに仕上がったのではないかと思っている。
最終的には出力データも数値だけでなく、簡易グラフィックで表現できるようにした。
結局手作業では到底不可能な業務をパソコンのおかげで達成したのであるが、
残念ながら当時の自衛隊ではこのような内容の仕事を評価できる人間はいなかったようだ。
予算「0円」で出発した仕事であったから、費用対効果は抜群であったと言えるのだが。
まあ他人がどう評価しようと、そんなことはどうでも良い。
わし自身としても、パソコンの勉強が出来たことを喜んでいるのだから。
P.S. 大事なことを忘れておったわい。MZはクリーンコンピュータだと紹介したが、
その特長を生かしてBASIC以外の言語を使うことも出来た。
雑誌に載っていた Prolog のプログラム(殆どがマシン語)を打ち込み、実際に作動した時には感激したぞ。
勿論漢字は使えないし、機能は限られていたが、こんな小さなマシンで使えるとは・・・