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 フクロウめがね〜決戦  

「おーい、クーロン。いるかあ」
 ホウホウじいが二人を伴って降り立ったのは、ホウホウじいの森の北にある篠山城の本
丸跡でした。
「こんな真っ昼間に来るなんて変なフクロウだと思ったが、じいさんだったのか。何か急
ぎの用でもあるのかい」
 建物の床下から現れたのは、真っ黒な猫でした。その鋭い目つきからも、隙の無い身の
こなし方からも、ただ者の猫とは思えません。
「実はお前さんに頼みがあってな」
「そっちのチビ助に関係あるのかい」
 クーロンはパンタのキンタをじろりとにらみました。パンタはその鋭い目つきに体が硬
直し、動けなくなってしまいました。キンタはと見れば、やはりキンタも緊張して人形の
ようになっていました。
「ああ、まあそう言うことになるな」
 ホウホウじいはクーロンに今までの経過を話しました。
「話は分かった。俺が福知山まで行って、そのカンペイとかいうカラスにじいさんの作戦
を伝えればいいんだな」
「そうなんだ。遠くて大変だろうが、やってくれるかい」
「なあに、世話になっているじいさんの頼みだ。断る訳にはいかねえよ。しかしカンザブ
ローと戦うのは、そちらのおチビさんかい」
 クーロンは二人の方を見て言いました。パンタはまだ動けませんでしたが、キンタはク
ーロンに向かって言い返しました。
「子供だと思って馬鹿にするんじゃないぞ」
「はっはっは、元気のいい小僧だ。では俺と力比べをやってみるかね」
「ようし、ぼくの力を見せてやる」
 キンタは意気込んでクーロンにかかっていきましたが、歴戦のつわものであるクーロン
にかなうはずもありません。
 クーロンは篠山の城跡を支配している野良猫です。篠山を根拠地にしたかったカンザブ
ローは、大勢の手下を連れて乗り込んできました。クーロンはカラス同士の争いには無関
心だったのですが、町のゴミ捨て場を荒らし回ったり、集団で小鳥を襲うカンザブローの
行為に腹を立て、一人でカンザブローに戦いを挑んだのです。
 クーロンは他の野良猫はもちろん、自分よりはるかに大きな野良犬も相手に戦ってきま
した。カンザブローがいくら強くても、クーロンに勝てるはずはありません。根拠地にし
ようとした篠山をあきらめ、やむを得ずカンクローのいる福知山に移ったのです。
「こら、キンタ。お前に勝てるはずないだろう」
「まあまあ、怒るなよじいさん。なかなかの力持ちだよ」
 クーロンは笑いながら力を緩めました。
「すぐに福知山に向かっても、行ってからカンペイというカラスを探さなければならない
し、明日中に帰ってくるのは無理だな」
「ああ、それは承知しているよ。ともかくカンザブローに悟られないように、こちらの作
戦をカンペイに伝えることが大切なんだ」
「分かった。明後日の夕方、またここに来てくれ」
「遠くてすまないが、よろしく頼むよ。何しろこんなことを頼めるのは、お前さんの他に
はいないのでな」
「なあに、久しぶりの遠出だ。丁度いい運動になるさ」
 クーロンは笑いながら福知山に向かって出発しました。篠山から福知山までは、直線距
離でも二十六キロほどあります。フクロウなら真っ直ぐ飛んでいけますが、クーロンの場
合は道沿いに進まなければならないので、片道四十キロ近くになってしまいます。
「クーロンさん大丈夫かなあ」
 パンタは心配になってホウホウじいにたずねました。
「なあに、心配することはないさ。もちろんクーロンにとって楽な仕事ではないが、絶対
にやり遂げてくれるよ」
 ホウホウじいはクーロンに絶大な信頼を置いていたのです。
「ねえ、ホウホウじいとクーロンさんは、どこで知り合ったの」
「はっはっは、そのことは後でゆっくりと話してやるよ。それよりキンタ、フクロウめが
ねをかけての訓練を始めるぞ」
 ホウホウじいは厳しい口調で言いました。視野が狭くなるフクロウめがねをかけても普
段と同じように行動できなければ、カンザブローと対等に戦うことは出来ません。
「ようし、ホウホウじい、相手になってよ」
 キンタは張り切ってめがねをかけようとしましたが、外す時と同じように、どうしても
うまくいきません。
「いくらがんばっても、お前一人では無理なようだな。これもこのめがねの欠点といえる
かもしれないな。パンタ、手伝ってやってくれないか」
「いいよ。キンタさん、頭を出して」
 パンタはフクロウめがねをキンタに被せ、サングラスが正面に来て見やすいように、レ
ジ袋を回して調整しました。
「キンタさん、これでどうかな」
「うん、ばっちりだ。よく見えるよ」
キンタとホウホウじいは空中に舞い上がって戦闘訓練を始めました。しかしどういう訳か、
ホウホウじいが一方的に攻められています。
「待て待てキンタ。まぶしくてしょうがない」
 フクロウめがねをかけたキンタは太陽が出ていても平気ですが、ホウホウじいはそうも
いきません。一旦訓練を中止して、夕方になってから再開することにしました。
 次の日も、朝夕キンタの猛訓練は続きました。その特訓のおかげで、キンタはフクロウ
めがねを気にすることなく、戦うことができるようになりました。そして翌日の夕方、ホ
ウホウじいと一緒に城跡へ行くと、既にクーロンは任務を終えて帰っていました。
「ご苦労さん、うまくいったかい」
「ああ、抜かりはないさ。ところで、それが例のやつですかい」
 クーロンは不思議そうな顔つきでキンタを見つめました。やはり初めてフクロウめがね
を見た者は奇妙に感じるに違いありません。経験豊富なクーロンでさえ、話を聞かなけれ
ばそれが何であるか分らなかったでしょう。
 その日の夜、パンタとキンタはクーロンから最新の情報を聞き、ホウホウじいからはカ
ンザブロー打倒作戦の確認と細かい注意事項を聞き、二人に見送られて篠山城を後にしま
した。夜のうちにカンザブローの根拠地に近付いておき、休養十分な状態で戦いに望むた
めです。
 キンタも今度は慎重で、いきなり福知山の城跡には近付かず、線路の手前で様子を見る
ことにしました。クーロンからは、カンペイはおでこに三日月型の傷跡がある、と聞かさ
れていました。カンザブローとの戦いで受けた怪我の跡なのですが、この距離からでは見
つけることは出来ません。クーロンから教えてもらったその場所は身を隠すのに最適で、
安心して朝まで休むことが出来ます。
 準備は整いました。朝になればいよいよカンザブローとの決戦です。

「パンタ、フクロウめがねを被せてくれないか」
「うん。ぼくもサングラスをかけていくよ」
 朝になるのを待って、二人は城跡に向かいました。
「わわわっ、何だ何だ」
「変な奴らがやってきたぞ」
 見張りのカラスはたちまち二人を発見しましたが、その姿を見てパニックに陥りました。
サングラスをかけただけのパンタはともかく、フクロウめがねをかけたキンタの姿は、あ
たかも妖怪のように見えたのに違いありません。
「何だ何だ、何を騒いでいる」
 大騒ぎしているカラスを押しのけ、カンザブローが現れました。カンザブローも一瞬キ
ンタの姿に驚いたようですが、すぐに落ち着きを取り戻しました。
「馬鹿者共、騒ぐんじゃない。あれはただのフクロウだ」
 カンザブローの一声でカラスの騒ぎは治まりました。一瞬にして手下の動揺を静めた実
力は、やはり侮りがたいものです。
「出てきたなカンザブロー。ぼくと勝負しろ」
「おや、その声は聞いたことがあるぞ・・・思い出した、この前とり逃したフクロウのガ
キじゃあないか」
 さすがにカンザブローです。その奇妙なフクロウがキンタであることを、声だけで見抜
いてしまいました。
「野郎共、かかれ!今度は逃がすんじゃないぞ」
 カンザブローには余裕がありました。戦う場所は自分の本拠地だし、太陽が昇ってから
のフクロウとの戦いです。しかも一度勝っているキンタとの戦いですから、負けるはずは
ありません。カンザブローは簡単に勝負がつくと思っていましたが、そんなカンザブロー
の行動はホウホウじいの作戦通りであり、キンタにとっては好都合でした。決着をつける
時が来たのです。
「パンタはここを動かないで」
 キンタはパンタをその場に残し、前回の戦いと同じように急上昇しました。パンタはキ
ンタに言われた通り、小枝の茂った木に止まって見守っています。カンザブローも手強い
のはキンタだけだと見抜いているので、パンタには目もくれずに全軍でキンタを取り囲み
ました。
「それ、あいつをやっつけた者は幹部にしてやるぞ」
 カンザブローは手柄をたてた者にはほうびを約束して、キンタを攻め立てようとしまし
た。中には功名心に駆られてかかってくるカラスもいますが、キンタに接近してもフクロ
ウめがねでにらまれると、たちまち及び腰になってしまいます。キンタのフクロウめがね
は、カラスを威嚇する効果も持っていたのです。
「あれは単なるこけおどしだ。ひるまずに攻撃しろ」
 カンザブローは大声で叱咤しています。
「あっしが仕留めます」
 カンザブローの期待に応えるように、一羽のカラスがキンタに突進していきました。キ
ンタは思い切り反撃しようとしましたが、そのカラスの顔を見て思い止まりました。おで
こに傷のある、カンペイだったのです。
「キンタ君、カンザブローが上空に上がったら、ホウホウじいの作戦を実行するよ」
「カンペイさんですね。よろしくお願いします」
 キンタとカンペイはカンザブローに気づかれないように、戦いながら作戦の実行方針を
打ち立てました。
「ええい、しつこいカラスめ」
 キンタは思い切りカンペイを突き飛ばしました。
「くそ、一対一では駄目だ。みんな集まれ」
 カンペイは仲間のカラスを集めると、一団となってキンタに襲い掛かりました。キンタ
は打ち合わせ通り、かろうじて攻撃を避けているように見せかけました。
「そろそろ俺様の出番だな」
 太陽は高くなってきたし、キンタも疲れているように見えたので、カンザブローは自分
自身で攻撃しようと上空に上がりました。
「カンザブロー、逃がさないぞ」
 キンタがカンザブローを追いかけようとすると、カンペイの一団がカンザブローを守る
ように移動しました。そしてキンタが突っ込んでいくと、カンペイの一団は太陽とカンザ
ブローを背にしてキンタを迎え撃ちました。
「カンペイの野郎、俺様の得意戦法を使うつもりだな」
 カンザブローはフクロウ相手の自分の戦法に自信を持っており、カンペイの一団がその
戦法通りに突っ込んで行くのを見て、これで勝負は決まったと思いました。
「キンタ、覚悟しろ」
 カンペイの一団は全速力でキンタに突進し、キンタもカンペイを迎え撃って突っ込んで
いきます。しかし両者がぶつかると思われた瞬間、カンペイの一団は一斉に四方に散って
いきました。
「わわっ、何だ、どうしたことだ」
 目の前にいたカンペイの一団が突然消え、いきなりキンタの姿が目の前に現れたので、
さすがのカンザブローもあわてふためいています。これこそホウホウじいが練り上げた、
必殺のカンザブロー打倒作戦だったのです。
 カンザブローは一瞬焦りましたが、それでも太陽を背にしているので自分が有利だと思
っていました。なおも突っ込んで来るキンタに対し、まぶしい太陽の光がキンタに当たる
ように体を開きました。しかしそれでもキンタは突進していきます。
「カンザブロー、これでもくらえ」
 キンタは得意の頭突き攻撃です。カンザブローは、フクロウめがねは単に格好をつける
だけの道具だと思っており、その本当の性能を知りませんでした。だからまぶしい太陽の
光を浴びたキンタは、逃げ出すに違いないと思っていたのです。
「ぐわあ」
 予想外の攻撃を受けたカンザブローは避けることが出来ず、キンタの頭突きをまともに
受けてしまいました。強烈な頭突きをくらったカンザブローは、大声でわめきながら墜落
していきました。
「カンザブローをやっつけたぞ」
 カンザブローを打ち破ったキンタは、大声で勝ち名乗りを上げました。誰も予想しなか
った結果に、カラスの集団は収拾のつかない状態となりました。
 カンクローは自分たちが負けたことを悟り、数羽のカラスを集めると、カンザブローを
見捨てて逃げ出しました。ふらふら状態のカンザブローも、数羽のカラスに守られて別の
方向に逃げ去りました。他にもばらばらに逃げていくカラスが沢山います。
「さあ、残りのカラスはどこだあ」
 勝ち誇ったキンタは、逃げ遅れて木に止まっているカラスに目を向けました。どのカラ
スもしょんぼりとして、首を深くうなだれています。
「待ってくれ、キンタ君。全部のカラスが悪いんじゃないんだ。彼らはカンザブローの仲
間とは違う。許してやってくれないか」
 カンペイがキンタのそばに来て頼みました。キンタはカンザブローをやっつけることだ
けを考えていたので、どうしたらよいのか分りません。
「パンタ、どうしよう」
キンタは残ったカラスの処置を、パンタに相談しました。
「どうしたらよいのか、ぼくにも分らないよ。帰ってホウホウじいに相談するのが一番良
いと思うけど・・・」
 パンタにだって、どうしたらよいか分りません。
「そうだね、それがいいね。カンペイさん、ぼくたちと一緒にホウホウじいの所まで来て
もらえませんか」
「キンタ君、ありがとう。さあみんな、一緒に行くぞ」
 キンタはパンタの意見に同意し、カンペイの仲間やその他のカラスを引き連れて、ホウ
ホウじいのいる篠山に向かいました。

 一行が篠山城の近くまで来ると、ホウホウじいが空に上がって出迎えてくれました。
「ほう、これはまた随分と大勢でやってきたものだ。どうやら今回の作戦は大成功だった
ようだな」
 キンタは一行より一足先に、ホウホウじいの所へ急ぎました。
「ホウホウじい、カンザブローは追い払ったよ」
「ほう、そいつはご苦労だったな。強敵との戦いで疲れただろうから、下に降りて休みな
がら話を聞くことにしよう」
 キンタがホウホウじいと一緒に降りていくと、城跡ではクーロンが待っていました。
「力自慢のキンタさん。カラス退治は終わったかな」
 クーロンはおどけた口調で出迎えました。
「簡単だったよ。カンザブローだって一発でやっつけたんだ」
「フクロウめがねは役に立ったかね」
「もちろんだよ。フクロウめがねの威力を馬鹿にしたのが、カンザブローの最大の敗因だ
よ。これさえあれば、ぼくは無敵さ」
 キンタは英雄気取りで言いました。クーロンはそんなキンタを見て、ちょっとからかっ
てやろうと思いました。
「無敵のキンタさん。これではどうかな」
 クーロンはキンタの頭越しに大きくジャンプして後ろに降り立つと、キンタのフクロウ
めがねをレジ袋ごと回してしまいました。
「わあ、何も見えないぞ」
 キンタは大騒ぎです。クーロンがレジ袋を回したのでサングラスの位置がずれてしまい、
キンタは何も見えなくなってしまったのです。
「はっはっは。どうした無敵のキンタさん」
 クーロンは悠然として言いました。強敵のカンザブローを倒したキンタも、クーロンか
ら見ればまだまだ子供だったのです。
「こら、キンタ。自分の力を過信するんじゃない。お前は馬鹿力だけが取り柄で、まだま
だ修行が足りないようだ。これからもみっちりと教育してやるからな」
 ホウホウじいは目が見えないでもがいているキンタのそばへ来て、フクロウめがねを直
しながら言いました。
「ごめんよ・・・ホウホウじい」
 意気揚々としていたキンタですが、クーロンには手玉に取られ、ホウホウじいには自分
の欠点を指摘され、少しは反省しているようです。
「やあ、みんな元気かい」
 クーロンがカンペイの姿を見つけて話しかけました。
「お陰様で助かりました。あの方がホウホウじいですか」
「ああそうだよ。何か話があるのかい」
 カンペイはクーロンに礼を言うと、ホウホウじいの所へ行って話しかけました。自分と
仲間のカラスがどう行動したら良いのか、ホウホウじいに相談するためです。
「ホウホウじいですね」
「ああ、お前さんがカンペイだね。キンタへの協力、感謝するよ」
「いえ、お礼を言うのは私の方です。クーロンさんにこの計画を聞いた時は半信半疑でし
たが、信じて良かったですよ。これでもうカンザブローの支配からおさらば出来ます。本
当にありがとうございました」
 カンペイは仲間を代表して、ホウホウじいに礼を言いました。仲間のカラスたちは後ろ
で見守っています。
「これからの身の振り方を教えていただきたいのですが、その前に皆さんに何かお礼をし
たいと思っています。私たちに出来ることがあったら何でも言って下さい」
「お礼なんていらないよ。なあパンタ」
 キンタは照れながらパンタに同意を求めました。
「う、うん。ぼくは何もしなかったもの。キンタさんがいらないと言うのなら、ぼくだっ
ていらないよ」
 パンタもキンタの意見に賛成でしたが、なぜかホウホウじいは目をつむったままじっと
考え込んでいます。
「実は、以前からお前さん方に頼みたいと思っていたことがあるんだが・・・」
 目を明けたホウホウじいは、静かに言いました。
「何でもやりますよ。ぜひ言って下さい」
 カンペイは真剣なまなざしでホウホウじいを見つめています。パンタとキンタも、そし
てクーロンも、ホウホウじいの次の言葉に注目しました。こんなにも深刻な顔をしたホウ
ホウじいを見るのは、クーロンでさえ初めてだったのです。
「皆知っていると思うが、今は人間が暮らしている町中だけでなく、森も川も野原も山の
中でさえも、人間の捨てたゴミがあふれている。釣り糸に絡まって動けなくなったり、間
違ってプラスチック製品等を飲み込んだりして、死んでしまう鳥も多い」
 ホウホウじいは静かに、しかし力強い声で言いました。
「それは私も知っています」
 カンペイは悲しそうに答えました。パンタも冠島に寄った時に、水鳥が海に漂っている
ビニール袋を飲み込んで死んだ話を、ドンベじいさんから聞かされました。
「そこで相談なんだが、お前さん方でそう言った危険なゴミを処理してもらえないだろう
か。人間社会に密着して生活しているお前さん方なら、有害なゴミかどうかを判別できる
のではないかと思ってな」
「ええ、そんなに難しいことではないと思いますよ。危険なゴミを無くすことは我々のた
めにもなることですから、喜んでやらせていただきますよ。なあ、みんな」
「オーッ」
 カンペイの呼びかけに、カラスたちは一斉に賛成しました。
「そうかそうか、引き受けてもらえるかね。そうしてもらえればこの辺りも住みやすい土
地になるから、ありがたいことだ」
 ホウホウじいはうれしそうに言いました。
「しかしなあ、じいさん。カンザブローも悪い奴だったが、人間ってえ奴はカンザブロー
よりももっと悪い生き物だとは思わないかい」
 クーロンが不機嫌な顔をして言いました。
「確かにお前さんの言う通りだ。山や森を大切にしてくれる人間も一部にはいるが、無神
経な人間によって自然は破壊される一方だ。わしはここで生まれたのでそのまま住み着い
てしまったが、わしらが住みたいと思うような場所は年々減っている。わしのような年寄
りはともかく、パンタやキンタのような子供たちの将来が心配だ」
 ホウホウじいは再び深刻な顔に戻って言いました。パンタとキンタは不安そうにホウホ
ウじいを見つめています。そんな二人の様子を見たホウホウじいは、『余計なことを聞か
せてしまったかな』と思い、二人の不安を追い払うかのように言いました。
「なあに、カンペイやその仲間がゴミ掃除をしてくれるから、今よりも住みよい世界にな
るさ。それよりパンタ、これからどうするんだい。予定がなければ来年の春までここで暮
らさないかね」
「だめだよ、ホウホウじい。パンタはぼくと一緒に暮らすんだ」
 キンタがむっとしたように言いました。
「そうかそうか、先客がいたのか。なあに、キンタの森ならここから近い。たまには遊び
に来いよ、パンタ」
「うん、ホウホウじい。約束するよ」
「しっかりと無敵のキンタさんの面倒を見てくれよ」
 クーロンが笑いながら言いました。キンタはちょっと不機嫌そうでしたが、ホウホウじ
いも笑いながら言いました。
「はっはっは、キンタも良い友達が出来てよかったな」
「カンザブローをやっつけたのもうれしいけど、パンタと友達になれたことの方がうれし
いよ。じゃあパンタ、そろそろぼくの森へ行こうか」
「うん、そうだね」
 サングラスとフクロウめがねをかけた奇妙なコンビは、ホウホウじいやクーロン、カン
ペイと仲間のカラスたちに見送られて、篠山城を後にしました。

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