『チョコレート・キス』


「あと五分か」
キース・エヴァンズは壁の時計を眺めながら呟いた。
また一年、生き延びることができたようだ。
来年も、誕生日を迎えることができるのだろうか。
「どうだろうな」
キースは苦笑した。
今日も人殺しの算段をしている自分に、そう願う資格があるのかどうか。
だが、この命が今もあるのは、犠牲になった同志たちがいたからで、彼らの無念をはらすためにも、この世の流れを少しでも変えねばならない。
誕生日など楽しみにして、指折り数えているヒマがあったら――
「いえいえ、若い頃の一年というのは、なかなか大きなものですよ。はやく大人になりたいと思うような人間にとっては、なおさらです」
キースはハッとした。
いつのまにか日付が変わっている。
一瞬記憶がとんでいたことに気づいて、
「なにをした。時間をいじったな」
「いえ、こちらを用意しただけですよ」
小さなテーブルの上に、チョコレートケーキがのっている。キャンドルが脇に立ててある。
「ささやかですが、お祝いです。誕生日おめでとう、キース」
キースは小皿にそっと手をのばした。艶やかなコーティングを見つめながら、
「こんな夜中に、甘いものか」
「夜中だからこそですよ」
ウォンはキースの頬に掌を触れながら、
「貴方のくちびるが、この世でいちばん甘いのですからねえ……」

(2012.2脱稿)

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Written by Narihara Akira
http://www5f.biglobe.ne.jp/~Narisama/