『ゆっくり』
いい季節だ。
翌朝、ウォンは目覚めて、赤面した。 キースは満足げな顔で眠っている。 それはそうだろう、年長の恋人を完全に支配し、とろかしてしまったのだから。 冷たいシーツの感触が心地よく感じられるほど、ウォンの身体は熱くなっていた。 キースは優しい口づけから始めた。 彼がウォンの髪をほどくのは、自分が主導権を握るという宣言なので、いつもどおりされるままになっていたが、キースの愛撫はとてもゆっくりしたもので、ウォンは自然に焦らされる形になった。足の間に顔を埋められ、口唇で触れられて、「ああ、もう」と思ったのもつかの間、ふたたび上半身へ愛撫をうつしてゆく。 はやく、とか、ほしい、とか、はずかしい台詞を口走らないように口元を押さえていると、その掌をはずされ、口唇を奪われる。それこそ、ウォンのすべてを味わいつくそうとしているかのような、深い口づけで。 たまらない。 顔が離れると、ウォンはかすれた声で尋ねた。 「どうして、こんなに今日は、ゆっくり……」 「君がいったんじゃないか。年をとってくると、何回もするより、じっくり一回の方がいいって」 「それは」 される時の話でなくて、する時のことです、といいかけて、ウォンは口をつぐんだ。 キースは若い。何度も、とせがむ時もある。よほど疲れていなければウォンもそれに応じるが、彼もそろそろ、相手の身体をじっくり賞味したい年齢になってきている。激しく腰を動かすよりも、抱擁のゆるやかな快感から初めて、深い一度きりの絶頂を迎える方が、自然で楽なのだ。 それをうっかり、夢ととうつつのあわいに、キースの前で呟いてしまったことがあった。 つまり、キースとしては。 「たまにはサービスされてもいいだろう? 誕生祝いだと思っていればいい」 アイスブルーの瞳がキラキラと輝いている。これはすっかり善意なのだ。 「でも、あの」 「いやか?」 ウォンは顔を覆ってしまった。 「意地悪をいわないでください」 「いやじゃ、ないんだな?」 「あ」 恥ずかしい、と思いながらも抵抗もできず、ほんとうに、ゆっくり、とかされて……。
ウォンは、薄闇の中で身体を起こした。
(2008.10脱稿)
Written by Narihara Akira |