「ラーゼフォン〜蒼穹幻想曲〜」ゲームレビュー


●「ラーゼフォン」PS2版(2003年8月発売)私的レビュー。

* はじめに。

「ラーゼフォン」は2002年に発表された、出渕裕の初監督TVアニメです。映画化、ノベライズ化(TV版と神林長平版あり)、ゲーム化と各種メディアで展開しました。

話の概要:古代遺跡から発掘された、巨大人型ロボット「ラーゼフォン」。これを操る人間は、世界を「調律」することができる。
だが、いったいその「調律」とはなんなのか。誰がこのラーゼフォンシステムをつくりあげたのか。動力も由来も未知のこの兵器を、つくりあげた人間の思惑は。
東京は突然MUに襲われた後、ジュピター現象で封印されて、時の流れをねじまげられている。謎の女、紫東遙の手によって東京から連れ出された高校生・神名綾人は、ラーゼフォンに奏者として選ばれてしまう。綾人は優れたバランス感覚の持ち主(八方美人!)で、新しい環境でも上手に人間関係を構築していき、家族の味なども徐々に知るようになる。しかしわけもわからず対MU戦略司令部TERRAの一員とされながら、青き血のムーリアンであろうと警戒され、自分を大事に育ててくれた母と戦わねばならない事態はやはり耐え難いもので、彼の己の存在意義は、少しずつ揺らぎ、弱っていき……。様々な謎と寓意で織りなされた、繊細で清潔なSFですが、わかりやすく一言で説明するなら「失われた愛を取り戻す(もっとひらたく言えば、遙が綾人を取り戻す)」物語かと。
全体を出渕裕テイストが支配していますが、特に敵となるムーリアンの設定に強く感じます。その中でNariharaの一押しキャラは、主人公の母親である神名麻弥。橋本一子のクールな声、その独自の存在感、そして真実の母の愛。「これぞ理想の母!」と夢中になってみていたものです。

* PS2用ゲーム【蒼穹幻想曲】について。

主人公神名綾人が、他のキャラクターと会話をすることによってイベントが発生するゲームです。その時発生させたイベントの種類とその総数によって、シナリオが分岐していきます。内容はアニメ版を知っていることを大前提にしていますが、見た人間にとってはかなり面白いものになっています。大きくわけて5種類のエンディング(「TV準拠編」「TV準拠編2」「バーベム編」「ムーリアン編」「18歳の肖像編」)があり、一定の好感度をクリアした場合、個別キャラのエンディングもみられるようになっています。女性キャラを落とした場合は、個別にムービーもみられます。好感度でキャラの台詞が変わるのが興味深く、何度もプレイすることになるので、ムービーがとばせるのは有り難いです(ただし最初のうちは飛ばさないが吉)。「ラーゼフォン」の世界を愛する人が、より深く、もしくは別の側面から遊べるといったところでしょうか。
シナリオクリアには、最低でも何度かラーゼフォンで戦闘しなければなりません。戦闘自体は既存ゲームの延長上というか、難易度もそう高いとはいえません(ある程度の練習でクリア可能。私のようなヘボプレイヤーでも、戦闘によってはSランクが取得できます。戦闘成績や取得武器次第では発生しないイベントもあるので、それだけ注意しておけばいいかと)が、システム的にはちょっとクセのある感じがします。慣れるまで時間がかかるかもしれません。戦闘を極めたい人にはそれ向けのモードもあるので、気に入った方はそちらも遊んでみては如何でしょうか。上手にプレイするとイシュトリ(坂本真綾)に誉められますので、ボイスを聞きたい方は是非やりこんでください。

* プレイ後のシナリオ感想(ネタバレです)。

以下は、PS2版「ラーゼフォン〜蒼穹幻想曲〜」のエンディングを一通りクリアした後のレビューです。
好感度イベントや武器はコンプリートできてませんが(浩子とヘレナの好感度イベントを発生させそこねました)、40通りのキャラエンディングも、ムービーも埋め尽くしました。やー、本気で面白かった。ブチファンは是非、攻略本を片手にでもプレイしていただきたいと思います。ifシナリオは特に。

私が一番面白かったシナリオは、TERRA戦略司令部がMUとバーベム財団にあっさり占拠されて無条件降伏、それに納得のいかない八雲総一副司令が、上層部に反旗を翻す展開の「バーベム編」でした。
全編熱い青春ストーリーなのです。若者たちが自らの意思で、力をあわせて未来を切り開きます。
特筆すべきは、綾人の元同級生である朝比奈浩子が死なないこと(アニメ版では、本人の意思に反してMUのドーレムの奏者にされてしまい、それを知らない綾人にラーゼフォンで殺されてしまいます)。やはり元同級生の鳥飼守との友情も、三角関係ながらキレイにまとまっていい話なのです(浩子が死ぬと、彼女を好きだった守と弔い合戦になってしまうので、守と「一緒に」戦えるのはこの話だけ)。これはポイント高いです。
そして何より素敵なのは、内心では深く苦悩し、功刀司令との心中を望みながら、反乱軍司令として立つ総一のけなげさでしょう。綾人とすっかり仲良しになってしまう総一の、友情エンディングも好ましいのです。40あるうちのあれがベストではないでしょうか。TERRAの制服を着た神名「大尉」(←昇進して総一の右腕になっている)が、清潔感があって良いのです。
また、ムービー「親父達の最期」で、うっすら微笑みつつ、ジュピター現象起動用のシリンダーを押し込む功刀さんが美しい。自爆の美学といわばいえ。MUとバーベムを一掃するための行為なのですが、まあ娘の仇もうてたことだし、あれはあれでいいんじゃないかなと(ヲイ)。目の前で六道のおじさんに死なれてしまう(←博士は功刀、亘理と一緒に自爆の道を選ぶ)恵ちゃんは、とっても可哀相なんですが……。
原作の設定に真っ向から挑戦(世界の「調律」を否定)しながら、とにかく面白い。「ifシナリオ」の破壊力を見せつけられたエンディングでした。

次点は、戦闘で死にかけた浩子を救出、その治療のためにMUに頼るしかなく、綾人がムーリアンになる道を選択する「ムーリアン編」と、それに準拠する「18歳の肖像編」です。特に前者は、神名麻弥の見事な司令官っぷりを見たい人にはたまりません(副官の九鬼が余計なことをいうと、「殺しますよ」と黙らせてしまう麻弥様は素晴らしいです。TVとはまた違う場面で言います。アニメ版神名母は最高でしたが、これはこれでよろしいんではないかと。皆さんも新たな橋本一子節を堪能しましょう)。また、総一が功刀仁について語る台詞で、一番ドキッとしたのもコレのプレイ中。「僕には友だちなんか一人もいないよ。もし功刀さんがいなかったら、僕は……」等と物凄い思わせぶりを言うので、思わず総一×功刀を書いちゃったぐらいで(笑)。
「18歳の肖像編」は、綾人がラーゼフォンに乗らず、奏者として覚醒することなしに18歳になることで発生するエピソードです。一種のバッドエンディングなのですが、これもまた感動的。ラーゼフォンの力に頼ることなく、残された者で必死に戦い抜きましょう、と宣言する遙の決意が凛々しい。彼女が一番カッコイイのはこの結末なのでは。

次は「TV準拠編2」。TVであまり描かれなかった、アルファ小隊と綾人の交流をメインにしています。陰惨なエピソードが幾つかカットされているので、これはこれで楽しい。細部にも工夫があるので、一色真に罷免された功刀さんが、屋敷で謹慎中の時のムービーを挿入してくれてたら、もっともっと高得点をあげられるのにな、と思います(たぶん話の展開上、これにしか入れられないと思われるので。ジュピター現象で破壊される功刀邸のムービーはあるので、凄く欲しかったです)。

残念ながら、一番印象が悪いのは「TV準拠編」。一番最後にプレイしたのでちょっと飽きてきていて、というのもあるのですが、ストーリー重視で追ってるぶん、細部の描写が足りない感じがします。鳥飼守と紫東恵の心の交流は他で見られないので貴重ですが、例えば展開をしってても浩子を殺めるのが厭。小夜子を攻撃するのが厭。ぐすん。どのキャラも原作よりひどい死に方はせず、うまく処理されているといえますが、「綾人が世界を調律すれば全部チャラって、本当にそれでいいのか?」という疑問をプレイヤーに突きつけてくる「バーベム編」をやった後だと、「うーむ、ちょっとなー」と思ってしまうのです(アニメはアニメなりのフォローや見どころがあったので見られる訳で)。あと、TV準拠編のバーベム卿エンディング、超ショタコンな絵面で怖いよー!

どのキャラも原作よりぐっと美味しくなってます。良いです。
特に連合監察官・一色真。ゲームの方が生き生きしてます。関俊彦ファンは要チェックでしょう。特務航空母艦リーリャ・リトヴァクを指揮してる時なんか、近年みない感じでカッコイイ。バーで酔っぱらった時の七変化とか、迷い猫にこっそりミルクをやる姿とか、実に表情豊かで、この人の芸幅の広さを改めて感じます。
功刀仁や八雲総一も、説明台詞メインではありますが、アニメより奥行きのあるキャラになっています。特に、TV版では淡い印象だった総ちゃんに、ここまで感情移入してしまうとは思いませんでした。チラチラと出される情報が想像力をかきたてるようです。功刀さんも原作の憂鬱さより、弱者への優しさや生き物への慈しみが強調されていて、中田譲治の渋い声も活かされていたのではないかと。
残念なのは、如月樹がTV同様、今一つ精彩に欠けていたことでしょうか。眼鏡、白衣、黒髪長髪、主人公の弟でシスコンでしかもそれが母親ってな、ありとあらゆる萌え要素が揃ってるのにな!(おまけDVDで久遠を「お母さん」って呼んでるのも、反射的に「気味が悪い」と思ってしまいました)。仇役である九鬼一佐も、「世界は私のもの!」系クレイジーキャラのくせに、綾人のいうようにただ「気持ち悪い」だけ。どうやら二人に足りないのは「面白さ」のようです。反対に、亘理長官や六道博士のように、最初から面白キャラの人は、会話が楽しくてたまらない。特に最初の頃は、六道のおじさんに家の前のバス停まで送ってもらうだけでトキメキました。ブチも親父キャラ大好きだからなあ(←そう、私が好きなんだよ)。

茫大な量のシナリオを書いたスタッフ、茫大な台詞をしゃべりつづけた声優の皆さん、本当にお疲れ様でした。おかげで「ラーゼフォン」を見た人にとって、ファンアイテムとして押さえておくべき一本に仕上がっているといえましょう。
発売から一年近くたってからクリアした人間が言うのもなんですが、入手できそうな方、入手したけどやりかけで放置しちゃってる方、攻略本を持ってるとか攻略サイトを知ってる方、そういう方は是非プレイ(再開)してみて下さい。
皆さんにも感じてもらいたいのです。
ニライカナイの風を、司令センターを流れる水の音を、迎賓室の水盤を漂う金魚の姿を。
沖縄なのにあんなやわそうな木造家屋で台風は大丈夫なのかとか、長ズボンのままで腰まで海に漬かるなよ綾人とか、ツッコミどころも満載なんですけどね(笑)。

戻る

* もっとラーゼフォンについて知りたい方へ:
個人のファンサイトですが、以下は考察等かなり充実していますので是非↓↓
【XEPHON_SHRINE】 http://www5b.biglobe.ne.jp/~kakekomi/xephon/frame.html


copyright 2004
Narihara Akira
http://www5f.biglobe.ne.jp/~Narisama/rahxep.HTM