『もえる』

暑さと疲れのせいか、遠い南の島のせいか、キースはいつもより敏感になっていた。
「はなれちゃ、やだ」
終わったあとも、子どものようにウォンにしがみついていた。
何度もするだけの体力が残っているわけでもないのに、快感が薄れてゆくのがいやで、身体の疼くままにねだっていた。
ウォンはもう一度口唇を重ね、そして入り込んできた。
熱い。
胸をまさぐられただけで、また達ってしまいそうになり、キースは呻いた。
「あんまり、動かないで」
するとウォンの腕は、キースを力強く抱き込んだ。
「あ、や、気持ち……い……」
最後はほんとうに、気を失うまで犯し尽くされて。
目覚めてキースは苦笑した。
なんという、だらしない甘え方をしたものか。
「目が覚めましたか」
バスの準備をしていたウォンが戻ってきた。涼しい香を身にまとっている。
キースはゆっくり身を起こした。
「ペパーミントの匂いがするな」
「新しい湯にハッカのオイルを湯船にたらしてきたんです。さっぱりしますよ」
「君はいいのか」
「私は暑さには慣れていますから。ああ、バスルームまで抱っこがいいですか?」
ウォンの言葉に揶揄の響きをきいた気がして、キースは首を振った。
「大丈夫だ。ひとりで入る」
ウォンはうなずいた。
「では、私は貴方の着替えを用意しておきましょう。ごゆっくり」

バスルームは、独特の香ですっかり満たされていた。
吸い込むと、喉までスーッとする。
キースがバスタブに身体をひたすと、思ったよりぬるかったが、それがまた心地よい。
もともと風呂は嫌いではないが、こんなに心地よいものなら、毎日ハッカ風呂でもいい。
たしか殺菌効果や、虫をとおざける効果もあるときいたことがある。
こういう土地にはぴったりだ。
肌の敏感な部分から、清涼感がしみてくる。
こんなに心地いいのは、僕のためにウォンが、涼しくなるよう考えてくれたからで。
キースはホウ、とため息をついた。
「……甘えすぎて、しまったな」
はずかしい。
可愛い甘え方ですね、なんて微笑んでもらえるのは、いったいいつまでのことだろう。
今日は身体を清めたら、早く寝てしまおう。
ロマンティックなベッドで、君とよりそいながら。

「いかがでした?」
バスローブを羽織ってキースはベッドへ戻った。
「よかった。さっぱりと身体が冷えて、今晩はよく眠れそうだ」
ウォンはにっこり微笑むと、キースの腰を抱き寄せた。
「寝かせない、と私はいいましたよ?」
「え?」
「ハッカ湯は、身体の脂肪を燃焼させるんです」
ウォンはキースの額に口づける。
「貴方がいま涼しさを感じているのは、ハッカが体温をさげる効果をもっているのでなく、身体が熱をもっているからです。ああ、肌もいい状態ですね」
「え、でも、あ……」
「今夜は、離しませんから」
抱きしめられながらキースは、低く呟く。
「そんなに熱くなったら、蒸発して、あとかたもなく消えてしまうぞ」
「その前に貴方を飲み干して、ぜんぶ私のものにしてしまいますから」
「そんなに、欲しいのか」
「貴方は?」
キースは顔を仰向かせ、薄く目を閉じた。
「……僕もだ」

(2008.8脱稿)

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Written by Narihara Akira
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