『マフラー』


二月も半ばにさしかかると、冬のバーゲンも終盤戦で、どの売り場にもあまりいいものが残っていない。
「これはどうかな」
キース・エヴァンズは、衣料品の山から、鮮やかな大判のマフラーをひっぱりだした。
「これをぐるぐる巻きにすれば、大丈夫か」
十四歳のキースは、すでに自分の超能力が隠しきれない状態になっていた。ふとした瞬間に、身体から冷気がこぼれる。冬は寒いものだし、しっかり着込んでいてもおかしくはないので、比較的目立たなくてすんでいるのだが、それでも首のあたりから、涼しい空気が逃げだしてしまう。
いくら彼でも、身体を冷やしきっていいことはないのだが、己の属性にあわせて生きるしかないのだから仕方がない、と思う。
キースはマフラーを手に、会計へ並んだ。
「あ、こんなとこにいたのか、キース」
「バーン?」
朗らかな笑顔が突然、キースの目の前にあらわれた。
「そのマフラー、気に入ったのか?」
「ああ」
「俺が買う」
「どうして」
「おまえ、それ、欲しいんだろ?」
「そうだよ。だから君に買われたら困るよ」
バーンは苦笑した。
「そうじゃない。キース、もうすぐ誕生日だろ?」
キースは目を丸くした。
「そんなこと、よく憶えてたな、君が」
「なんだよ、その言い方。俺はいつだってキースのこと、考えてんだぜ」
「えっ」
「とにかく、俺、買うからさ。一緒に並ぶよ」
ところが順番がきて、財布をのぞきこんだバーンは、眉を寄せた。
「なんだ、金が足りないぞ」
「いいんだよ、バーン。気持ちだけで」
「わかった。半分出す。それならいいだろ?」
キースは苦笑した。
「いやだっていっても、出すんだろう」
「まあな」
二人が店を出ると、チラチラと雪がふりはじめていた。
「寒いね、今日は」
「この時期はな。キース、せっかく買ったんだから、おまえ、それして帰れよ」
「バーンは?」
「俺は別に」
「君の方が、寒さに弱そうにみえるけど?」
「俺は平気さ、あ……っ」
バーンが小さくクシャミして、キースは思わず笑い出した。
「途中まで一緒に帰ろうよ、バーン」
「え?」
キースはバーンにマフラーを差し出した。
「長いんだから、今日は二人でまいたらいい。お金だって、半分だしたんだし」
「でも、それはキースのために買ったんだ」
バーンにかけ、それからキースは自分にかけて、微笑した。
「いいじゃないか。君となら、きっと、あたたかい」



……Happy Birthday, Keith Evans !


(2011.1脱稿)

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Written by Narihara Akira
http://www5f.biglobe.ne.jp/~Narisama/
illustration: 波砂(はずな)