『俺のもの』

「う……ん」
ゆっくり引き抜いてやると、達ったばかりの刹那は甘いうめきを洩らしてうつぶせた。
男のものとは思えないようなまろやかな曲線を描く尻。その谷間が俺の放ったものでたっぷり濡れている。煽情的な眺めだ。軍のおしきせのベッドも、自分の愛撫に満足した恋人の寝姿が加われば、ゴージャスな景色に変わる。
「刹那」
俺はその腰を捕まえ、自分が濡らした部分に口唇を押しあて、舌先でくすぐった。
「ひゃうっ」
刹那はびっくりして逃れようとした。だが、俺は放さない。舌を中へ押し込み、中に残るものを吸い出すようにクチュクチュと動かす。
「や、ガデス!」
刹那の身体が震えた。
と同時にほとばしるものがある。今の刺激で、もう一度達してしまったらしい。シーツの広い範囲に、白くトロリとしたものがとんでいる。
俺が手を放してやると、刹那は俺からとびのくようにした。
「何するんだ」
俺は思わず笑い出した。
「後始末をしただけだぜ。俺が出したもんを俺が飲んで何が悪いってんだ? それにおまえ、結構感じたろ」
「不意うちくらって驚いただけだ。だからやめろ、そういうこと」
「馬鹿だな。いつもだって俺が拭いてやってんじゃねえか。今更だろ」
刹那は頬をふくらませた。
「だっていつもはタオルとか使ってるから……汚いだろ、しかも舌で、そんなとこ」
「別に汚かねえよ。それにな」
俺は刹那の肩を抱き寄せた。
「知ってんだぜ。俺に抱かれる前に、中まで綺麗に洗ってるだろ、おまえ」
刹那が全身真っ赤になる。図星だ。
していて不快になることがないので、もしや、としかけたハッタリなのだが。
俺は耳元でさらに囁く。
「身だしなみのいい奴は多いが、それが下半身まで行き届いて、毎回自分で中まで洗ってから抱かれにくる奴はそうそういねえぜ。俺が欲しくてそこまで準備してると思えば、抱く方も自然に力が入るってもんだ。なあ?」
実際、淡い金いろの茂みはいつもきちんと刈り込まれているし、秘所も何か塗りこんでいるのか、ハリと艶があって、手入れの良さを感じさせる。
「別に」
刹那は頬を背けた。
「おまえのために綺麗にしてる訳じゃない」
「ほう? じゃあなんだ」
刹那は吐き捨てるように、
「軍のために決まってるだろ。俺の身体は軍のものなんだから」
「軍のものだと」
「俺は実験体なんだぞ。それに、綺麗にしとかないと嫌な思いをするのは自分なんだ。実験のためにいきなり脱がされるし、身体の隅々まで調べられるし。中だって、刺激の少ない、洗浄専用の器具をもらってるんだ。それで時々洗ってるだけで、別に、おまえのために、娼婦みたいな真似をわざわざしてる訳じゃない」
こちらを見ないで言い切る。語尾が震えている。抱き寄せた肩も硬い。
その言葉の裏にあるもの――俺は軍の娼婦なんだ、俺の身体は俺自身のものでさえない、それを思い出させるな、という暗い想い。
「刹那、よ」
「なんだよ」
俺はポンポンと肩を叩いてやりながら、
「忘れるな。誰でも自分は自分のものだって事をな。おまえの身体もおまえの心も、いつだっておまえのものだ。誰にも縛られる必要はねえ。誰がどう思おうとな」
「ガデス」
刹那の瞳のいろが動いた。
「おまえがどうしてもイヤだってんなら、もうああいうことはしねえ。おまえの身体なんだ、イヤなことをイヤだと断わっていいんだからな」
菫いろの瞳がわずかに潤んでくる。
しばらく黙って、刹那は俺を見つめていた。
「……ガデス」
「ん?」
「ごめん。嘘ついた」
「嘘?」
刹那はすうっと目を伏せた。
「うん。……軍のために綺麗にしてる、訳じゃない」
その先を聞く必要はなかった。
口唇を奪い、もう一度ベッドの上に刹那を押し伏せた。

一段落がついても離れがたかった。
俺は刹那の胸に掌を滑らせながら、
「キスマークは、連中になんて言い訳してるんだ?」
「馬鹿。こんなにつけるなよ」
「恥ずかしいか?」
「別に。あの連中に見られたからって、どうってことない」
「それならいいが」
刹那は穏やかな笑みで俺を見つめた。
「ガデスが言ったんだろ。俺の身体は俺のものだって。だから、言い訳する必要なんて、ないだろう?」
「ああ。そうだな」
「このまま泊めてくれないか。朝までここで眠っていたい」
「ああ。構わねえぜ」
刹那は俺の腕の中でそっと目を閉じる。
「ガデス」
「どうした?」
小さく呟くように、
「じゃあ、ガデスは、誰の……?」
「お」
思わず言葉を失った瞬間、刹那の身体から力が抜けた。
「刹那?」
小さな寝息。
あっと言う間に、刹那は眠りに落ちていた。俺の胸に甘えて、安心しきった顔で。
ちきしょう。
思わせぶりを言いやがって。
しかもそのまま寝ちまうなんて。
言ってやらねえぞ。
身も心もおまえのものだなんて。
おまえは俺のものだ、誰にも渡さねえ、なんて言わねえぞ。
俺はおまえに言わせたいんだ。おまえの口から聞きたいんだ。
それに、もう、わかってるんだろう?
俺の心は。
「刹那」
答はない。
俺は首筋にゆっくり口づけ、もう一つ新しいキスマークをつけた。
すぐに消えてしまう、恋の印。
それでも少し満足して、俺もそのまま目を閉じた。

俺の――刹那。

(2000.4脱稿)

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Written by Narihara Akira
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