『おねだり』

「あ」
秘所の輪郭をなぞられる。
あくまでそっと。あくまで静かに。あくまでゆっくり。
それでもキースがみじろぎしないでいると、こんどは胸のあたりが熱くなる。
なめまわす、という言葉がふさわしい、ねっとりとした愛撫。
それでもキースはじっとしている。
なぜなら、直接触れられていないからだ。

近頃ウォンは、時々ぼんやりしている。
なにを考えているんだろう、と彼の心をこじあけるまでもない。
思考の浅い場所に投げ出されている、そのイメージは――裸の恋人。
愛撫を受けて頬を染め、口づけを求めて腕を伸ばし、とろとろにとろけるキースの姿を思い描いているのだ。
それに気付いた時、キースは本当に赤くなった。
ウォンの想像は、意図的なものではないようだった。
つまり、実際にねだって欲しいのではなく。
「貴方の最初の吐息がききたい」
キースがどうしてもこらえきれなくなった時の、掠れた喘ぎ。
それを反芻して、楽しんでいるのだ。
「……ばかだな」
キースは赤い頬を押さえた。
そう、たしかに。
全身に口づけを降らされている時より、我を忘れてウォンにからみついている時より、甘い声をもらす瞬間の方が、はずかしいのだ。
それをウォンは、知っているから。
だが。
だとしたら、なおいっそう、自分からねだれないじゃないか!

そんなわけで、最近のキースは、ウォンの妄想を感じると、それに身をまかせている。
ウォンは、こんな風に僕にいたずらしてみたいんだな、とか。
僕をむさぼって、こんなに感じるんだな、とか。
そんなところを読みながら、むしろ楽しんでいる。
意図的に読み取っているわけではないのだから、構うまい。
実際に触れられている時より喜びは淡いが、それは長く続く。
キスして、と口走ってしまいそうな時もあるが、なんとかぎりぎり我慢できるし。
「キース」
「なんだ?」
「面白いワインが手に入ったので、夕食の時にあけましょうか」
優しく微笑みかけるウォンが想像しているのは、発泡するワインを含んだ口唇で、恋人の肌に痕をつけていく行為だ。その赤い液体は、二人の喜びにアクセントをつけるだろう。
そういうプレイがおのぞみ、ということか。
キースはうなずいた。
「わかった。楽しみにしている」

その夜のウォンは、キースを焦らしに焦らした。
しかしキースは「達かせて」とは決していわず、ウォンの指に、口唇に震えながら、こらえていた。全身を濡らされて、感じきっているはずなのに。
「たまりませんね……貴方は……本当に……」
ウォンの方もこらえきれなくなって、最後は二人で、続けて何度も達した。
キースは完全にとけきって、ゆるやかにひいていく波に身を委ねていたが、ウォンはどうしても名残りおしいらしく、抱きしめる腕をほどかない。そしてほとんど呻くように、
「キース」
「ん」
「どうして貴方は、あんなに焦らしても平気なんですか」
キースは微笑した。
「君を、信じてるから」
「なにをです」
「君が裏切るはずはない。君はちゃんと、僕を深い喜びに導いてくれる。だからどんな愛撫のさなかでも、安心して続きを待っていられる」
ウォンはため息をついた。
「信用、しすぎです」
キースは含み笑いをもらした。
「それが不満なのは、わかってはいるんだが」
「はい?」
「だが、いいかげんつきあいも長いのに、今でも“はじらう貴方がいちばん可愛い”なんて甘いことを考えている君を、どう疑ったらいいんだ?」
ウォンはもう一度ため息をついた。
「やはり、のぞいてらしたんですね」
「それは、君があんまり無防備だから……」
キースはウォンの寛い背中に腕を回しながら、
「本当は君も、読まれてもいい、と思っていたんだろう?」
「貴方を、信用してますから」
「やっぱり、君もそうなんじゃないか」
ウォンの口唇をついばんで。
「僕だって、君がねだってくれるのを待ってるんだから……たまらない、って喜んでくれたら、素直に嬉しいんだから」
「でも、貴方は妄想しないでしょう?」
「うん」
だが、そこでキースは、あのはじらいの表情を、ふと見せて――。

(2007.6脱稿)

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Written by Narihara Akira
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