『凍える雲に燃える太陽』


いきなり下をぜんぶ脱がされてしまい、キースは思わず身をよじった。
「せっかちだな、君は」
「なんだよ、おまえだってしたいんだろ?」
「意地悪、いうなあ……あっ」
硬く反り返ったものが、いきなりキースの奥まで犯す。
「どうだ?」
「あん……熱い……」
「いいんだろ? キュウキュウしめつけてきてるもんな」
「しめつけて、なんか……な……」
「ずっと、こうされたかったんじゃないのか? おまえも硬くしてるじゃないか」
「そんな、こと、ないよ」
「身体は正直っていうぜ。なあ、もっと欲しいって、ねだってみせろよ」
「君は? 僕としたかった?」
「きまってるだろ。めちゃくちゃイイぜ。あいかわらずイイ具合だ」
キースは身を震わせ、相手の腰を挟み込み、深く受け入れる。
「……僕ももっと、気持ちよく、して、欲しい……あっ……!」
キースは相手の動きにあわせて腰をゆらし、息を乱して自分も喜びをむさぼる。
そして、心の一番深いところで、自分の口唇に禁じている名前を呼ぶ。
バーン……と。

超能力研究所とは名ばかりの、強制収容所。
実験と称して、精神的・肉体的苦痛を加えられる毎日。
己の力にまかせて、施設ごとすべて破壊してしまいたいのだが、いっきに全員逃げ出せるわけではない。集められたサイキッカーは年齢も国籍もバラバラで統率のとれないありさま、その強さもバラバラで、お互いの存在が人質のようなものだった。
軍人たちは下半身でも、男女かまわずサイキッカーを蹂躙していた。それは性的な衝動というよりも、自分より下の存在と見くだすための行為、うっぷんばらしで、見目のいいものが泣き叫べば満足する、というわけだ。
キースのように白く滑らかな肌をもつ少年など、真っ先に目をつけられた。何人がかりかで乱暴されることもあった。
キースは声をこらえた。心を閉じ、痛みにも泣き叫ぶことはなかった。
いたぶって面白くなければ、すぐに飽きられるだろうと考えていたからだ。
しかしそれは、別の人間が新たな生け贄になる可能性が増えるということでもあった。
ある夜、キースは苦しみの中で考えた。
連中を楽しませたくはないが、抵抗を続けて犯り殺されてしまうわけにはいかない。
だが、もし。
彼と思って、抱かれたならどうだ?

「なんだ、感じてんのか、おまえ」
嘲笑されても、キースは微笑み返すことができた。
「楽しまなくて、いいのかい」
バーンはまだまだ、性的なことにうとい感じがする。
そうでなくとも、男を抱いたことなんかないはずだ。
だから、上手じゃないだろうし。
夢中になったら、つい乱暴になってしまうこともあるだろうし。
後始末する余裕なんかも、ないだろうし。
どんなにひどくされたって、ほんとうに求められてるなら我慢できる。
その方がゾクゾクすることだって、あるかもしれない。
「泣いてみせる方が、可愛いってもんだ」
「……それなら、泣かせたら、いい……」
「すぐに、そうなるさ」
ああバーン、嬉しくて、ほんとうに泣いてしまいそうだよ。
いいよ、はやく……はやく抱いて……。

心を切り分けることを身につけ、抱かれ続けているうち、キースは収容所内の情報を少しずつ手に入れることができるようになっていた。
北欧系の、涼しげな容貌の清潔な美少年が、実は意外に淫乱で、夜は容易に身を開くというその落差が、魅力となって軍人たちを魅きつけていた。キースの身体をめぐって、争いをする者すらでてきた。サイキッカーたちは反対に、けなげに生け贄として耐えるキースに同情し、協力して脱出の計画を練っていた。
当人はだが、身体の喜びを感じるたび、罪悪感をおぼえた。
《ごめんよ、バーン。君を汚すようなこと考えて。僕がこんな妄想をしてるなんて、君は想像すらしないだろうね……僕のことなんて、もう憶えてないかもしれないけど、君は僕の、唯一の太陽だった。大好きなんだ、君のことが。だから、君以外の人間には、こんな理不尽はゆるさない……そう、君だから、抱かれて感じてしまうんだ。だって、そうでも思わないと、僕は……》
むりやり口にねじこまれても、握らされても、いきなり犯されても、何人がかりでも、君だったら。
君にだったら、されてもいい。
むしろ、もっとして欲しい。
もっと君に、愛されたい。
犯り殺されたって本望だ。
バーン……!
その罪悪感すらキースを燃えたたせるようになり、そのうち、誰にも抱かれていない時すら、親友の顔を思い浮かべる時もあった。
そして、心の壁をしっかりたてると、ひとりでこっそり、情動を鎮め――。
「ん?」
キースは浅いまどろみの中で、誰かのすすり泣く声をきいた気がした。
《おとなの……男か? バーンの声に、すこし似てる……サイキッカー、だな……誰だろう、僕の名を呼ぶなんて……どうしてそんなに、悲しそうなんだ……》
キースさま、という呼びかけが、繰り返しきこえる。
しかし、キースの身体は動かなかった。はっきりとした覚醒までいたらない。
だが。
《もし、私の助けが必要なら……あなたのところへ、いこう……》
微弱なテレパシーでキースが応えると、その声はさらに悲しげに、しぼりだすようなものに変わった。
「キース・エヴァンズ。貴方という人は、どうしてそうまで気高いのです……汚れることなく、貴方を傷つけた友人を、まだ、そんなにも……」
《いや、バーンは僕を、すこしも傷つけたりしていない……むしろ、僕が……あなたは、誰なんだ……》
「私はもう、貴方の心の、どこにもいないのですか」
《聞き覚えが、あるような、気が、するんだ、が……》
闇の底にひびく男の慟哭をききながら、キースはふたたび、深い眠りにおちてゆく。
《すまない、今日はもう休みたい……思い出すまで、待っていて、く、れ……》

★     ★     ★

リチャード・ウォンはキースが眠る冷凍カプセルに額を押しつけ、低く呻いた。
「永遠に目覚めないことが、貴方の幸せですか……そうまでして、バーン・グリフィスにすがりつきたいのですか……そんな悲惨な過去を反芻してまで……」
バーンがノアへやってきてからの不幸が、キースをどん底へ突き落としていた。
まったく理解されない苦しみ、再び目の前から去られた寂しさ。
あげく、二人で死闘を繰りひろげることとなり、身も心も更に傷ついたはずなのに、それでもなお、キースの心には、明るく輝く友の笑顔が息づいている。
自分の無力さに、ウォンは震える。
「私はあくまで、彼の身代わりに過ぎなかったのですか。貴方の孤独を、私はすこしも暖められなかったというのですか。貴方の心を取り戻すことは、もう、できないと?」
ふたたび、キースの顔に淡い微笑みが浮かぶ。
口唇が動く。
だが、ウォンの名を呼ぶことは、まだない――。


(2011.2脱稿) 原案:K様(ご了承をいただいて使っております)

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Written by Narihara Akira
http://www5f.biglobe.ne.jp/~Narisama/