『悪 戯』

「あ、駄目……」
相手が失神した瞬間、声を出してしまったのはウォンの方だった。
思わずキースの腰を強くゆすぶったが、彼はぐったりと力無いままだ。
あと少しのところでウォンも終わるはずだった。仕方なくキースが更に狭くなるよう角度を変え、二、三度こすりあげてから外で放った。しかし興奮はおさまった訳でなく、むしろまだ腰のあたりでくすぶっている。
まだ、欲しい。
そのためにはキースに活を入れなければいけない。
が、しどけなく身体を投げ出している恋人を見ているうち、ふっとウォンに悪戯心がわいた。ちょっとだけ意のままにしてみたい。こっそりと、いけないことをしてみたい。自然に目覚めてくれたら、それが一番いいのだし。
ウォンはキースの掌をとると、自分の中心に導いた。熱く脈打っているものを柔らかく握らせ、その上から己の掌を重ねる。
「貴方のせいで、まだこんななんです……責任をとって、くださいね」
囁きながら、ウォンは緩急をつけて掌を動かしていく。
今日はまずキースが先に燃えあがった。それにつられてウォンも夢中になってしまった。年末ゆえか最近なにかと忙しくて、ゆっくり愛しあう余裕がなかったせいもあったろう。お互いのリズムがぴったり一致し、共に昂まってゆくのはたまらないことだった。だからこそ、最後まで二人で味わい尽くしたかったのに。
ウォンの腰は焦れていた。己の掌にあわせて動いてしまう。次の絶頂はもうすぐだ。どうする。このまま終わるか、それとももう一度キースを押し開くか。それとももっと淫らなことを――?
「……入れて、いいよ」
掠れた声にウォンはハッとした。キースが息をふきかえしていたのだ。
「僕の中で、達って、ウォン」
キースの身体は物憂く動いて、相手を受け入れる姿勢をとろうとした。
「また、気を失ったりしない?」
そう囁く声もうわずってしまい、ウォンは赤面した。キースの方は、再び失神したからといってどうということはないのだ。そんな喜びの絶頂が二度三度と訪れるのなら、彼はむしろ嬉しいだろう。行為の中断で困るのはこちらだけだ。
キースは微笑んだ。
「今度は我慢してみる。良すぎたら、駄目かもしれないけど」
ウォンは思わず目をつむった。なんとか呼吸を整えながら、
「我慢しなくていいです。……うんと、良くしますね」

短いが、満ち足りた眠りからウォンが醒めると、キースもそのかたわらで蒼い瞳を開いた。
壁のデジタル時計を眺め、ウォンをちらりと見上げる。
「おはよう、にはまだ早いな」
「そうですね」
「新年おめでとう、というのもおかしいな」
「そういわれれば、さっきしている間に、年が明けてしまいましたね」
「正確に言うと、君が悪戯している間に、かな」
ウォンは頬を引き締めた。
「軽蔑しました?」
「いや。僕の掌でしたいほど欲情してるのなら、遠慮なくむさぼっていいのに、と思っただけだ。相手の反応がないと、つまらないか?」
ウォンは相手の薄い胸板に掌を置いて、低く囁く。
「私は“貴方と”したいんです。“貴方で”したいんじゃありません」
自分だけ気持ちよくなればいいのなら、相手の心どころか身体も必要ない。相手がキースならなおのこと、身体だけでは嫌だ。
しかしキースはその掌をとると、真顔で応えた。
「ウォン。僕は君としていたよ」
相手の瞳をのぞきこむようにして、
「忘れたのか。僕たちはサイキッカーだ。僕が気を失っている間にも、君が触れているところから、大量の感情が流れ込んできた。貴方が欲しい、貴方が愛しい、早く息を吹きかえしてって。そんなに欲しいのなら、もっとあげるよって返事がしたくて、目がさめたんだ。そんな僕の心の声は、君には伝わらなかったか。自分の気持ちに目がくらんで、そんな余裕もなかったか」
ウォンの瞳は昏さを増した。
「それこそ私は、貴方でしていたんですね」
キースはウォンの頭を抱くようにした。
「いいんだよ、そんなことは」
「どうして?」
「いつも僕を先に達かせることばかり考えてる君が、こんなに我を忘れるなんて……僕が欲しくてたまらない、何よりの証拠じゃないか」
「嬉しい?」
上目遣いで尋ねるウォンを、キースは楽しそうに見下ろして、
「想像できないか? 君が先に終えてしまって、僕がそれにイヤイヤをして、続きをねだるところを」
ウォンは視線をそらした。
「お願いです、誘惑しないで。また、ひどくしてしまいそうです」
「嫌なら嫌って、ちゃんというから。心配しなくていい」
「もう」
ウォンはきゅっとキースを抱きしめた。薄い胸に顔を埋めて、
「悪戯したいなんて気持ち、知られたくないんです……だって……恥ずかしくて……」
「可愛いことを」
キースはウォンの背に腕を回すと、その髪に指を絡ませながら、
「でも、僕からそう囁くのは構わないよな?」
ウォンは小さく首を振った。
「興ざめする、か?」
キースはウォンの髪から手を離した。
しかしウォンは、こんどは首を動かさず、じっとしている。
「なんだ、それも恥ずかしいのか。でも、ききたいんだな?」
ウォンは答えず、ただ抱きしめる腕に力をこめるだけだ。 キースは嬉しそうに恋人の耳元に口を寄せると、甘い息をはきかけた。
「……ウォン。いたずら、して」

(2004.11脱稿)

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Written by Narihara Akira
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